56: ↓蘊蓄しないモノさん:20/07/15(水)12:58:35 ID:d8.wh.L15 ×
「やぁ、ユリアス・フォルモンド」
連日の雨で湿気り、少し肌寒い昼下がりに、モノは何時ものテラス席で手を挙げた。
気だるげなその表情で食べているそれは、数えて三段にもなる、分厚く、柔らかなホットケーキだ。彼女はこれでもかと蜜を掛け、決して甘いものを食べているとは思えない苦悶の表情で、黙々と口へ運んでいく。
そして半分ばかし食べ終えたあたりで、フォークとナイフを置き紅茶を啜った。
「全く、ホットケーキという物は困りものだよ。表面のクリスピーな食感、そして中のどこまでも沈み込みそうな柔らかさ。食べる前はこれ程素晴らしいものはないと、喜び勇んで飛びつくも、一口二口と食べ進めていくにつれ、こんなに辛いものは無いと痛感する。そして最後には口内の水分を全て吸われ、虚無感と異様な満腹感だけが私を苛む」
「では何故頼んだのかね、君は馬鹿では無いのか?」
チッチッ、そうキザに指を振り、モノはフォークを手に取る。
ホットケーキの欠片を弄びながら、彼女はため息をついた。
「だが困ったことにだね、また何日がすると食べたくなってしまうんだよ。何度打ちのめされてもこの、魅惑の炭水化物は私を無闇に誘うんだ。そしてまた頼み、後悔する。言わば私はホットケーキに、運命を支配された奴隷だね」
何をもってホットケーキ如きを熱く語っているのか。
それは彼女自身にも分からない。ただひとつ言えることは、この塊を一人で処理するには余りに時間が掛かるということだ。
呆れたようにこちらを見つめるユリアスへ、カトラリーケースからナイフとフォークを突き出すモノ。
そしてイタズラな笑みを浮かべると、彼にこう告げた。
「だがこういった日々こそが、幸せの一ページなのかもしれない。ユリアス・フォルモンド、君にも私の幸せを分けてあげよう」
素直に食べきれないから手伝えと言えばいいのに、それを言えないのは彼女の性か。
ユリアスはフォークを受け取ると、近くにいたウェイターへ、紅茶の追加を注文する。
日はまだ長い。友人との会話を楽しむのに、喉を潤すものも必要だろう。
このページへのコメント
すき
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ユリアスはモノのことを君とは呼ばないのでは?
お前か下手したら貴様呼びでも違和感はない
だがそんな細かいことは気にしないで幸せを噛み締めてる二人を見る幸せを噛み締めるのだ
そんなことよりモノが「ワタシ」呼びでない時点でこいつは自分をモノと思ってる一般機械だからな
現実世界に生まれ変わった2人のifかもしれへんやろがい!
闘争に飽きてアイアロン(ナテラ?)に帰り着いてから長い月日を共に過ごし酸いも甘いも噛み分けて熟年夫婦の境地に至った二人という脳内補完が働いたから特に違和感は覚えなかったゾ
いい…
特に食事らしい食事がいらなさそうな二人が、のんびり駄弁りながら食べてる感じがいいゾーコレ
エミヤママ感あるユリアス、なんか…あったかい……