SSを書こう!
せっかくだからみんなでSSを一気に投稿することでSS未経験者なんかにもSS完成させる経験を積ませてシャドバの二次創作を盛り上げていこうぜ!みたいな企画です。
もちろん経験者を含むすべての筆者の投稿をお待ちしています。
スレで参加表明した人たちは逃がしません。
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スレで参加表明した人たちは逃がしません。
・SSを書いてここに置きます。
・期限は今夜(10/17)寝るまでです。どうしても仕上がらなかったら後から投稿しても可。
・R-18作品はその旨を明記してください。
・SSは[+]タイトル(改行)〜[END] 形式で格納してください
・期限は今夜(10/17)寝るまでです。どうしても仕上がらなかったら後から投稿しても可。
・R-18作品はその旨を明記してください。
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ウェルサは危険で溢れてる。
少し路地裏に入りゃあ、暗闇に吸い込まれて二度と出てこないことだってある。表だって、いつどんな種族の暴漢が襲ってくるか分かったもんじゃない。とはいえ、暗黒の王だなんだと言っていたころよりだいぶましなのだが。
そんなウェルサのちょっとした英雄が俺だ。肩書きをひけらかすのはいい気はしねえが、めんどくせえ輩を黙らせるにゃちょうどいい。んで、俺の友人―――戦友というべきか―――九尾の狐、刀の幽霊、永劫を生きる吸血鬼の三人はこのウェルサの見回りをやってるわけだ。
見回りを終えた俺は、仕事の締めくくりに酒場へ向かう。そこでは今日も種族の隔たりなく酒が酌み交わされている。
うるさいほどに賑やかなその中で、俺を呼ぶ声が耳に入った。
「よう」
「待ってたぜドラーク、さっそくだが今からちょっとした勝負をしようってことになってよ」
机の真ん中にはカードの束があった。人狼、ドラゴニュート、黄色いハゲ3人の酒飲みが四角い机を囲んでいたので、俺は開いたところに椅子を持ってきた。
「いいぜ、乗ってやるよ。何を賭ける?」
「話が早くて助かる。まあ賭けって言ってもそんなたいそうなものじゃなくていいんだ、負けたら軽い罰ゲームってだけよ」
正面の人狼族が黙々とカードをシャッフルし、また机に戻した。
「Even and oddつってな。まず、こっから1枚ずつカードをめくる。俺たちはそれぞれ奇数か偶数か予想するんだ。こんなふうにな――」
さっきから酒の匂いをぷんぷんさせてるドラゴニュートが「Even」と言って山札をめくる。カードに書かれた数字は8だった。
「これだけ。40枚の山が切れるまでやって、一番外した回数が多いやつが負けだ」
「う〜ん…奇数や!」
全身黄色いハゲ(俺はこいつを見たことがない。ウェルサは俺が思い描いた青空と同じように広いらしい)が宣言し、カードをめくる。数字は2だ。
「よし、これでゲームは終わりだ。さっそく結果を数えるぜ」
ドラゴニュートが点棒代わりの豆を指ではじき始める。
「…俺が8回、トウガが8回、ワイが7回、ドラークが5回!ドラークの負けだな」
結果は俺の大敗だった。というか終盤はほぼ消化試合という感じで、自分でも見るに堪えない試合だったと思う。
「あーあ負けた負けた!…それで?なんなんだ、罰ゲームってのは」
「若勝負運なさ過ぎて草 罰ゲームはこれから引くんやで」
黄色いハゲが箱を机に出した。中は見えないようになっているが、たぶんくじ引きだなこれは。
「っし、これだ!」
こういうのは迷っても仕方がない。勢いに任せて1枚の紙きれを引く。
「「「「こ、これは…」」」」
(あいつら、もう見回り終わってるかな…)
見回りを終えた私は、いつもどうりに酒場へ向かう。仕事が終わったら、4人でそこに集まることになってるんだ。
あそこはとてもうるさいけど、暖かくて、居心地がいい。酒は飲めないけど、つまみはおいしいし。
「マスター、あいつらもう来てるか?」
「ああ、ドラークならさっき来てたんだが…ちょっとねぇ」
そう話している最中も、なぜかマスターはずっとにやにやしていた。何がそんなにおかしいんだ?私の顔に何かついてるか?
まあ、一番仕事が雑なドラークが先に戻ってきてるだろうとは思ってたし。店もそんなに広くないから、探せばすぐ見つかるだろう。
……と、思っていたのだが。
酒場をぐるっと一周してみたが、見当たらない。
机の間を縫うようにして歩き回っても、見当たらない。
「おいマスター、ほんとにドラークは来てたのか?」
もう一度そう聞き、カウンター席に座る。
私は背が高い方ではないから、席に座るのも一苦労だ。その分、一度座ってしまえばいつもとは違った景色が見えるから面白い。例えば、下からでは見えなかったのんだくれの寝顔とか、遠くの席のカップルとか。
最初からこうしてれば、ドラークも見つかったかな…なんて考えながら、周りを見渡す。やはりその姿はない。漏れたため息が喧騒に飲まれ、私はマスターへ適当なジュースを要求し…
カウンターの裏に隠れていた"それ"に、目を疑った。
「ドラーク!?」
「いっいやいやいや!違うんだこれは!そうじゃねえ、とにかく落ち着け…!」
そこにいたのはドラークだった。しかしそれは私の知っているドラークじゃなかった。
「なんだ、その服」
「…」
しゃがみこんでいるドラークが着ていたのは、いわゆる”メイド服”とかいうやつだった。ふわっとしたシルエットに、腰の上あたりがきゅっとすぼまった白と黒の給仕服。どういう経緯でこんな状態になったのかはわからないが、紅潮した顔とうるんだ瞳からだいたいの察しはついた。
「似合ってるぞ、毎日それ着て…ふふっ」
「あいつらが来ても絶対バラすんじゃねえぞ、いいな?」
念を押すようにじっとにじり寄ってくる。立ち上がるとメイド服のかわいさが余計に強調されて面白い。涙目のドラークがこれからもっと恥ずかしいことになるんだと思うと笑いが収まらなかった。
「ふふっ、はは!私はバラさないぞ、私はな」
「俺の知らないうちに、メイドを雇ったのか?」
酒場の入り口のほうから、鋭い声が二人の耳に向けられた。視線を移すと、そこにいたのはこの状況を最も見られたくない二人だった。
「成程…これはなかなか、趣深い」
「おっ、お前らっ…」
アルザードとカゲロウだ。入口からニヤニヤとこっちを見てやがる。と同時に、俺はほとんど無意識にカウンターから体を乗り出していたことに気付いた。急いでしゃがむも、既にごまかせる段階は過ぎていた。
「おい店主、あいつをここにやってくれ。いい女と酒を飲むのもまた一興」
相変わらずニヤニヤしながらアルザードが呼びかける。もちろんカゲロウも後に続き、セッカの隣に座りやがる。
「おいアルザード、私だっていい女だろ!こんなゴツいやつよりずっと魅力的なんだぞ!」
「セッカさんはいい女、というよりかわいい女の子です。…しかし。ドラークさんの衣装もなかなか様になっていますね」
冗談を交わし合いながら、三つの視線は全て俺に集まっている。このままここでうずくまっているわけにもいかないが、ここで立ち上がったときの俺の顔は最高にマヌケだろう。
元はといえば、あんな賭けに挑戦したのが悪かった。
罰ゲームの内容も聞かず、ゲームの内容さえ知らずに挑めば負けるのは必然。そのうえあの黄色いやつなんて見たことも聞いたこともねえ不審者だ。自分の軽率な行動に腹が立つ。
今日の宴はまだ始まったばかりだ。つまり俺の"仕事"もまだ始まったばかりで、責務を全うしなくてはならない時も刻一刻と近づいている。
覚悟を決めるしかない。きっと顔は真っ赤だし、泣きそうな表情になっているに違いない。だが、やらなきゃいけないことってのは往々にしてあるもんだ。大丈夫、きっと俺ならできる。今日、たった一晩を乗りきればこの罰ゲームは終わるのだ。
そう考えると、だんだん勇ましい気持ちが湧いてきた。そうだ、一晩だけじゃねえか。罰ゲームだってことは誰だってわかってる。数分もしたらこいつらも飽きて普段通りになるだろう。明日はあの黄色いハゲに着せてやればいい。なにも恐れることはない。
軽くなった体に力を入れ、跳ねるように立ち上がり、笑顔を見せ―――
「い、いらっしゃいませ、アルザード様…」
声が出ねえ!
頭では分かってるのに、声にすると途端に恥ずかしくなってくる。ああ、さっきまでの自身はどこへ行った。顔が火照るのを感じる。
何より三人の視線が痛い。いつもは4人で並ぶからせいぜい2人としか目が合わないが、今日は俺に6つの眼が集まっている。それはまるで肌を刺す鋭利な棘のように、熱を帯びた肌を刺激するのだった。
「おい、お前スタッフだろ。私に酒を出すんだ、はやくしろぅ!」
「おま、お客様はダメだ」
「お前はダメだな」
「ダメですね」
お決まりの流れが終わったことで、少し心に余裕が生まれた。この平静をキープするんだ。大丈夫、俺ならなんとかなるさ。
そういえばアルザードに酒を頼まれていたな。ブラッドショットをたんまり入れてやろう。
「お客様〜、当店おすすめのブラッドショットです。グイっといっちまえや、ほらグイっと」
アルザードはその濃い紅色に目を丸くした。
「ああ、グイっと…な」
小さなグラスを掴んだアルザードは、言葉の通りグイっと、何のためらいもなくそれを飲み干した。
「ちょっ…おいおい、マジかよ」
「飲めるじゃないか。もう一杯…いや、二杯頼む。一緒に飲もうじゃないか」
アルコールの暴力を胃にも介さず、アルザードはこちらに顔を向けた。いつも吸血鬼としての威厳というか、オーラが漂っているその顔つきが、より恐ろしいものに見えてくる。
「…いえ、俺は仕事中なんで…お客様がたくさん飲んでくれたら、嬉しいな〜なんて」
「ああ、いくらでも飲もう。だが、まずはお前が一杯飲むといい。遠慮せず、飲むんだ」
有無を言わさぬその物言い。カゲロウはこういうとき悪乗りに加担するから、助けを求めるならセッカしかいない。
しかし、先ほどまで二人がいたところには影もない。店内を見渡すと、さっきの黄色いハゲと一緒に卓を囲んでつまみを食べている。いよいよ救いがなくなってきた。
「めんどくせぇな…一口だけ、ですよ」
俺はさっきと同じようにブラッドショットを注ぎ、本当に一口、ほんの少しだけ口に入れた。
「はい。残りはお客様が飲めや」
「ああ、それでいい」
アルザードは俺からグラスを受け取る。が、一向にそれに口をつけようとしない。酔ったような様子ではない。ただこちらを見つめているだけだ。
「なんだよ、俺が入れた酒が飲めねえってか?」
「いや…ただ、そろそろだと思ってな」
そろそろ、とは。その意味を理解することになるのは、それから十数秒後のことだった。
視界が歪んだ。
次いで、世界が回った。そうとしか形容できなかった。ただ、それは流れる水のように、落ちる物体のように、自然に起こった。
しかし、俺自身の体は奇妙な不快感を感じていた。寒いようで、体の奥から熱が湧いてくるような。頭がきゅっと締め付けられ、鼓動が、呼吸が乱れる。気付けば俺はカウンターに突っ伏していた。視界はまだ歪んでいる。
「マスター。ひとつ"テイクアウト"したいんだが、いいかな」
俺は誰かに抱きかかえられ、店の外へ連れ出された。それは、体に感じる重力と耳に入る音の大小からそうとわかったのだった。はっきりとしない意識のまま、周囲が静かに、暗くなっていく。
「こんな魅力的な女が酒場で寝ていたら、どんなことが起きるか分からない…ウェルサは危険に溢れているからな。例えば、幾度も同じ日を繰り返し、絶望に沈み、希望に救われた吸血鬼の生き残り…とか、な」
少し路地裏に入りゃあ、暗闇に吸い込まれて二度と出てこないことだってある。表だって、いつどんな種族の暴漢が襲ってくるか分かったもんじゃない。とはいえ、暗黒の王だなんだと言っていたころよりだいぶましなのだが。
そんなウェルサのちょっとした英雄が俺だ。肩書きをひけらかすのはいい気はしねえが、めんどくせえ輩を黙らせるにゃちょうどいい。んで、俺の友人―――戦友というべきか―――九尾の狐、刀の幽霊、永劫を生きる吸血鬼の三人はこのウェルサの見回りをやってるわけだ。
見回りを終えた俺は、仕事の締めくくりに酒場へ向かう。そこでは今日も種族の隔たりなく酒が酌み交わされている。
うるさいほどに賑やかなその中で、俺を呼ぶ声が耳に入った。
「よう」
「待ってたぜドラーク、さっそくだが今からちょっとした勝負をしようってことになってよ」
机の真ん中にはカードの束があった。人狼、ドラゴニュート、黄色いハゲ3人の酒飲みが四角い机を囲んでいたので、俺は開いたところに椅子を持ってきた。
「いいぜ、乗ってやるよ。何を賭ける?」
「話が早くて助かる。まあ賭けって言ってもそんなたいそうなものじゃなくていいんだ、負けたら軽い罰ゲームってだけよ」
正面の人狼族が黙々とカードをシャッフルし、また机に戻した。
「Even and oddつってな。まず、こっから1枚ずつカードをめくる。俺たちはそれぞれ奇数か偶数か予想するんだ。こんなふうにな――」
さっきから酒の匂いをぷんぷんさせてるドラゴニュートが「Even」と言って山札をめくる。カードに書かれた数字は8だった。
「これだけ。40枚の山が切れるまでやって、一番外した回数が多いやつが負けだ」
「う〜ん…奇数や!」
全身黄色いハゲ(俺はこいつを見たことがない。ウェルサは俺が思い描いた青空と同じように広いらしい)が宣言し、カードをめくる。数字は2だ。
「よし、これでゲームは終わりだ。さっそく結果を数えるぜ」
ドラゴニュートが点棒代わりの豆を指ではじき始める。
「…俺が8回、トウガが8回、ワイが7回、ドラークが5回!ドラークの負けだな」
結果は俺の大敗だった。というか終盤はほぼ消化試合という感じで、自分でも見るに堪えない試合だったと思う。
「あーあ負けた負けた!…それで?なんなんだ、罰ゲームってのは」
「若勝負運なさ過ぎて草 罰ゲームはこれから引くんやで」
黄色いハゲが箱を机に出した。中は見えないようになっているが、たぶんくじ引きだなこれは。
「っし、これだ!」
こういうのは迷っても仕方がない。勢いに任せて1枚の紙きれを引く。
「「「「こ、これは…」」」」
(あいつら、もう見回り終わってるかな…)
見回りを終えた私は、いつもどうりに酒場へ向かう。仕事が終わったら、4人でそこに集まることになってるんだ。
あそこはとてもうるさいけど、暖かくて、居心地がいい。酒は飲めないけど、つまみはおいしいし。
「マスター、あいつらもう来てるか?」
「ああ、ドラークならさっき来てたんだが…ちょっとねぇ」
そう話している最中も、なぜかマスターはずっとにやにやしていた。何がそんなにおかしいんだ?私の顔に何かついてるか?
まあ、一番仕事が雑なドラークが先に戻ってきてるだろうとは思ってたし。店もそんなに広くないから、探せばすぐ見つかるだろう。
……と、思っていたのだが。
酒場をぐるっと一周してみたが、見当たらない。
机の間を縫うようにして歩き回っても、見当たらない。
「おいマスター、ほんとにドラークは来てたのか?」
もう一度そう聞き、カウンター席に座る。
私は背が高い方ではないから、席に座るのも一苦労だ。その分、一度座ってしまえばいつもとは違った景色が見えるから面白い。例えば、下からでは見えなかったのんだくれの寝顔とか、遠くの席のカップルとか。
最初からこうしてれば、ドラークも見つかったかな…なんて考えながら、周りを見渡す。やはりその姿はない。漏れたため息が喧騒に飲まれ、私はマスターへ適当なジュースを要求し…
カウンターの裏に隠れていた"それ"に、目を疑った。
「ドラーク!?」
「いっいやいやいや!違うんだこれは!そうじゃねえ、とにかく落ち着け…!」
そこにいたのはドラークだった。しかしそれは私の知っているドラークじゃなかった。
「なんだ、その服」
「…」
しゃがみこんでいるドラークが着ていたのは、いわゆる”メイド服”とかいうやつだった。ふわっとしたシルエットに、腰の上あたりがきゅっとすぼまった白と黒の給仕服。どういう経緯でこんな状態になったのかはわからないが、紅潮した顔とうるんだ瞳からだいたいの察しはついた。
「似合ってるぞ、毎日それ着て…ふふっ」
「あいつらが来ても絶対バラすんじゃねえぞ、いいな?」
念を押すようにじっとにじり寄ってくる。立ち上がるとメイド服のかわいさが余計に強調されて面白い。涙目のドラークがこれからもっと恥ずかしいことになるんだと思うと笑いが収まらなかった。
「ふふっ、はは!私はバラさないぞ、私はな」
「俺の知らないうちに、メイドを雇ったのか?」
酒場の入り口のほうから、鋭い声が二人の耳に向けられた。視線を移すと、そこにいたのはこの状況を最も見られたくない二人だった。
「成程…これはなかなか、趣深い」
「おっ、お前らっ…」
アルザードとカゲロウだ。入口からニヤニヤとこっちを見てやがる。と同時に、俺はほとんど無意識にカウンターから体を乗り出していたことに気付いた。急いでしゃがむも、既にごまかせる段階は過ぎていた。
「おい店主、あいつをここにやってくれ。いい女と酒を飲むのもまた一興」
相変わらずニヤニヤしながらアルザードが呼びかける。もちろんカゲロウも後に続き、セッカの隣に座りやがる。
「おいアルザード、私だっていい女だろ!こんなゴツいやつよりずっと魅力的なんだぞ!」
「セッカさんはいい女、というよりかわいい女の子です。…しかし。ドラークさんの衣装もなかなか様になっていますね」
冗談を交わし合いながら、三つの視線は全て俺に集まっている。このままここでうずくまっているわけにもいかないが、ここで立ち上がったときの俺の顔は最高にマヌケだろう。
元はといえば、あんな賭けに挑戦したのが悪かった。
罰ゲームの内容も聞かず、ゲームの内容さえ知らずに挑めば負けるのは必然。そのうえあの黄色いやつなんて見たことも聞いたこともねえ不審者だ。自分の軽率な行動に腹が立つ。
今日の宴はまだ始まったばかりだ。つまり俺の"仕事"もまだ始まったばかりで、責務を全うしなくてはならない時も刻一刻と近づいている。
覚悟を決めるしかない。きっと顔は真っ赤だし、泣きそうな表情になっているに違いない。だが、やらなきゃいけないことってのは往々にしてあるもんだ。大丈夫、きっと俺ならできる。今日、たった一晩を乗りきればこの罰ゲームは終わるのだ。
そう考えると、だんだん勇ましい気持ちが湧いてきた。そうだ、一晩だけじゃねえか。罰ゲームだってことは誰だってわかってる。数分もしたらこいつらも飽きて普段通りになるだろう。明日はあの黄色いハゲに着せてやればいい。なにも恐れることはない。
軽くなった体に力を入れ、跳ねるように立ち上がり、笑顔を見せ―――
「い、いらっしゃいませ、アルザード様…」
声が出ねえ!
頭では分かってるのに、声にすると途端に恥ずかしくなってくる。ああ、さっきまでの自身はどこへ行った。顔が火照るのを感じる。
何より三人の視線が痛い。いつもは4人で並ぶからせいぜい2人としか目が合わないが、今日は俺に6つの眼が集まっている。それはまるで肌を刺す鋭利な棘のように、熱を帯びた肌を刺激するのだった。
「おい、お前スタッフだろ。私に酒を出すんだ、はやくしろぅ!」
「おま、お客様はダメだ」
「お前はダメだな」
「ダメですね」
お決まりの流れが終わったことで、少し心に余裕が生まれた。この平静をキープするんだ。大丈夫、俺ならなんとかなるさ。
そういえばアルザードに酒を頼まれていたな。ブラッドショットをたんまり入れてやろう。
「お客様〜、当店おすすめのブラッドショットです。グイっといっちまえや、ほらグイっと」
アルザードはその濃い紅色に目を丸くした。
「ああ、グイっと…な」
小さなグラスを掴んだアルザードは、言葉の通りグイっと、何のためらいもなくそれを飲み干した。
「ちょっ…おいおい、マジかよ」
「飲めるじゃないか。もう一杯…いや、二杯頼む。一緒に飲もうじゃないか」
アルコールの暴力を胃にも介さず、アルザードはこちらに顔を向けた。いつも吸血鬼としての威厳というか、オーラが漂っているその顔つきが、より恐ろしいものに見えてくる。
「…いえ、俺は仕事中なんで…お客様がたくさん飲んでくれたら、嬉しいな〜なんて」
「ああ、いくらでも飲もう。だが、まずはお前が一杯飲むといい。遠慮せず、飲むんだ」
有無を言わさぬその物言い。カゲロウはこういうとき悪乗りに加担するから、助けを求めるならセッカしかいない。
しかし、先ほどまで二人がいたところには影もない。店内を見渡すと、さっきの黄色いハゲと一緒に卓を囲んでつまみを食べている。いよいよ救いがなくなってきた。
「めんどくせぇな…一口だけ、ですよ」
俺はさっきと同じようにブラッドショットを注ぎ、本当に一口、ほんの少しだけ口に入れた。
「はい。残りはお客様が飲めや」
「ああ、それでいい」
アルザードは俺からグラスを受け取る。が、一向にそれに口をつけようとしない。酔ったような様子ではない。ただこちらを見つめているだけだ。
「なんだよ、俺が入れた酒が飲めねえってか?」
「いや…ただ、そろそろだと思ってな」
そろそろ、とは。その意味を理解することになるのは、それから十数秒後のことだった。
視界が歪んだ。
次いで、世界が回った。そうとしか形容できなかった。ただ、それは流れる水のように、落ちる物体のように、自然に起こった。
しかし、俺自身の体は奇妙な不快感を感じていた。寒いようで、体の奥から熱が湧いてくるような。頭がきゅっと締め付けられ、鼓動が、呼吸が乱れる。気付けば俺はカウンターに突っ伏していた。視界はまだ歪んでいる。
「マスター。ひとつ"テイクアウト"したいんだが、いいかな」
俺は誰かに抱きかかえられ、店の外へ連れ出された。それは、体に感じる重力と耳に入る音の大小からそうとわかったのだった。はっきりとしない意識のまま、周囲が静かに、暗くなっていく。
「こんな魅力的な女が酒場で寝ていたら、どんなことが起きるか分からない…ウェルサは危険に溢れているからな。例えば、幾度も同じ日を繰り返し、絶望に沈み、希望に救われた吸血鬼の生き残り…とか、な」
人生それなりに生きてりゃあ、珍妙な光景の一つや二つは見るもんだが。あたしはこれ程までに不思議な光景は見たことなんだ。
アズヴォルトから逃げおおせようと監獄中を巡り回ってたら、不思議な、黒い鼠のような印がついた扉を見つけたもんで。中に入ってみたんだが、こりゃまたおかしい。
鬱蒼とした森に居たはずが、急に夢のような国に来ちまったのさ。あまりにも唐突で、思わず根際と顔を見合わせて目をぱちくりさせたんだが、幻夢ではない塩梅で。
唖然と周囲を眺めてたんだが、人混みをかき分け、不思議な鼠の着ぐるみを着た芳気の看守が近寄ってきたもんで、警戒してたんだがね。
「愚かな咎人よ、貴様に相応しい新たなる誅罰を用意した。アトラクションに乗り、この八獄スタンプラリーを三つ埋めろ。そして己が罪を自覚するがいい。」
珍妙奇妙、正に狙いが掴めなんだ。これがまぁ、罠には違いなかったが、けれども、誘いに乗ってやるのもまた一興。舎弟頭の進言もあり、あたしらは夢の国を歩き回ることにしたとさ。
夢の国はその名に恥じぬ夢っぷり。目まぐるしく回り、何処を向いても遊具しかない。
若芽は大はしゃぎで跳ね回り、敵地のさなかにいることさえ忘れてたが、まあ悪くぁない。
看守に案内されながら、あたしらは初めのアトラクションとやらに着き、長ったらしい説明を受けることとなった。
「まずはメリーゴーランドからだ。尊重を忘れた不毛の種よ、命が惜しくなければ安全ベルトを付けることだな。」
まあまあなんともメルヘンな外観だが、あたしはもちろん分かっていたさ。
「姉さん!私、こういう遊園地で遊んでみたかったんで...んなぁぁちょっと!助けて速いです!姉さあぁぁん!!!」
若芽、寝際、舎弟頭、そしてあたしが乗馬した途端、摩天楼は狂った速度で回り始めて。遊具という名は裏腹に中身は殺人マシンだったのさ。
しかも、天井から羽虫が仰山降ってきやがる。若芽は泡吹いて倒れてたね、あたしは何とか無事だったが。まあ、この程度で参っちまうやわな身体はしてないさ。
羽虫を煙管で叩き落して、ボトボト地面に落ちてく様は快感だったねぇ、駆除の煙撒きはあたしの特技といっていいのかね。
何百匹も叩き落したころ、漸く摩天楼は鳴りを潜めた。若芽はぶっ倒れてたし、寝際もぐろっきーな顔付きで悶えてて。
可愛い部下が潰されて、看守のヤツを蹴り飛ばしてやろうとしたんだが。これがまぁ、失敗して。ハンコが押されたスタンプカードが帰って来たのさ。
むかつく野郎だが、まぁ、命が無事だっただけ幸運に思うべきなのだろうね、あたしらは。
散々な目にあっただろうに、若芽はすぐに元気を出した。あれはあれで楽しかったのかね、と推察しながら、あたしらは次の遊具へと向かっていた。
遠目からでも、その恐ろしさが伝わって来たね。こう、例えるなら、冒涜した場所。瘴気がぷすぷす屋敷から上がってやがる。
「尊重を欠如した愚かなる腐れ花よ、次はイステンデッドのホラーハウスだ。命の保証はない。死んであがなうのも良いだろうが、命が惜しければ駆け抜けることだな。」
心底嫌そうな目で、舎弟頭が看守の野郎を睨み付けて、次にあたしを助けを求めるような切実な目で見つめてきて。
「会長、本当に、本当に、入るのですか。その、私、お化けとか、苦手なのですが。」
「あたしは、まあ無理強いはしないさ、後ろの看守が黙ってないだろうけどね。お化けをぶっ飛ばすのと、看守をぶちのめすのはどちらが楽だろうねぇ。」
お化けと看守、どちらが怖いんだろうねえ、と他人事のように思っていたが。舎弟頭は腹を括って、無言で屋敷を指さした。
心が決まれば後は早い。満を持して、足並みを揃え、あたしらは幽霊屋敷に足を踏み込んだのさ。
屋敷に踏み入れた途端、足元に寒気と死の感触が纏わりついてきて、暗い視界と相まって舎弟頭はぶるぶる震え、若芽にしがみついてやがる。
さし脚、忍び足。いくつか部屋を抜けて、大広間までたどり着けば、そいつは隠れもせずに、堂々と居座って。
「うーん、笑えるね。咎人同士で争わせるなんてさ。」
大広間の階段上で、そいつは薄く笑っていた。一見して小奇麗な風貌だったが、直ぐにその印象は掻き消えたね。全身に纏わりつく死の気配が、こゆぅく漂ってる。
「キミらの命、結構良さそうだ。まあ、有り難く使わせてもらうよ。」
奴の瞳が淡く青く光れば、そこら中から地面からぽこじゃか亡者が湧きだしてきやがった。
そこからはもう滅茶苦茶だったさ。死骸を蹴り飛ばして、骨を砕き、煙管で叩き潰しても、亡者がやってくる。
始まってすぐ、分が悪いと分かったね。一同揃って、逃げ出すことにしたのさ。
ぱにっくほらーとはまさにこのことだろうねえ、背中から本物のゾンビに追いかけられる体験なんて、あたしも人生初めてだったさ。
「会長ぉぉ!無理です、やっぱり看守ぶっ飛ばしたほうが良かったですぅ!ぁあっもうホラーは勘弁をっーっ〜〜〜!」
普段は余裕を余らせてる舎弟頭がこんなにも青ざめたのは、これが最初で最後だった。
まあ、何とかなったさ。亡者たちをなぎ倒しながら屋敷中を駆け巡ったが、存外直ぐに出口は見つかり、あたしらは命辛々幽霊屋敷を抜け出したとさ。
イステンデッドのホラーハウスを飛び出せば、舎弟頭は過剰なストレスと余りに恐怖に耐えかねて泣き崩れ、さめざめ泣いている。
出口ではまた芳気の看守が待ち構えていやがりまして、緑傘会揃って、恨みつらみを吐き捨ててやったら、またスタンプカードが帰って来た。
これで二つ、されど二つ。もう一度、地獄のアトラクションが待ってると思えば、流石のあたしも、気が滅入ったね。
あたしたちを疲弊させることが、看守の狙いかと思ったが、それにしてはやり口が回りくどい。
いつでも寝首を搔いてやるつもりだったが、結局看守は最後まで隙を見せずに、あたしらを最後のアトラクションへと案内した。
「通らぬ侠気は単なる醜態よ、愚鈍なる腐れ花。最後はゼラエルのワクワクジェットコースターだ。ベルトは締めることだな。」
ふざけた名前とは裏腹に、ジェットコースターはゼラエルの悪趣味な銅像がついていること以外は普通の遊具のように見えて。まあ、死にはしないさと乗り込もうと思ったのだが、一つ問題がありやがりました。
「姉御、私は高所恐怖症なのですが。」
あたしは寝際の気持ちを尊重してやりたかったが、スタンプを二個集めておいて今さら引く訳にもいかない。
「目を瞑ってな、あたしが隣にいてやるから。」
寝際は再び看守とジェットコースターとの間で視線を泳がせ、無理やり気持ちを納得させたようだったが、何とかあたしたち全員が席に乗り込んで、座席に背を預けた。
徐々に徐々に、体が上へと持ち上がっていく感触に、若芽は興奮していたが、寝際はとてもげんなりしていて。
遂にコースターは頂点へと達したころ、寝際が一言。
「あ、姉御、やっぱり今から降りる事は。」
あたしは静かに首を横に振るしかなかった。
「ぁあねごっ〜〜〜!!」
人生は山あり谷ありというように、ワクワクコースターも落差がある。あたしの散り際は既に決めていた。故にどれ程落ちようとも、必ず登ることができる。
きっと、若芽も根際も、舎弟頭も、外に出してやれるんだと。そう信じている。
うつらつら、あたしはただ上下に揺らめく監獄を眺めていた。はしゃぐ若芽の笑顔と、寝際の少し青ざめた顔と、舎弟頭の困ったほほ笑みが、この鉄臭い監獄の中にも輝いていた。
あたしは、今を少し楽しんでいた。
夢の国中を巡る長い長いワクワクコースターも終わりをつげ、同時にあたしらの探索も終わった。
かび臭い牢獄の臭いではなく、古い森の、土の臭いと、暖かい太陽の光が、出口から差し込んでいた。
そして、礼儀を知らぬ蔦。香風の執行者が、道を閉ざしている。
「何故尊重出来ん。敬わん。慎むことを理解せん。尊敬の箍外されし時、あらゆる根が地の下で争い合う。貴様が切り拓いた先は、下剋上繰り返す末、不毛の終だ。」
どんな理由があろうとも、どんなにお前が正しくとも。あたしの首の持ち主と、あたしの道は決まっている。
今のあたしは、いや、今の緑傘会は、強いぜ。
「あたしらはもう三回アトラクションを楽しんだ。これで四度目だ。礼儀を知らぬ蔦にもわかるように教えてやるぜ。」
「つまり、任侠悖るは腐れ花ってな。」
アズヴォルトから逃げおおせようと監獄中を巡り回ってたら、不思議な、黒い鼠のような印がついた扉を見つけたもんで。中に入ってみたんだが、こりゃまたおかしい。
鬱蒼とした森に居たはずが、急に夢のような国に来ちまったのさ。あまりにも唐突で、思わず根際と顔を見合わせて目をぱちくりさせたんだが、幻夢ではない塩梅で。
唖然と周囲を眺めてたんだが、人混みをかき分け、不思議な鼠の着ぐるみを着た芳気の看守が近寄ってきたもんで、警戒してたんだがね。
「愚かな咎人よ、貴様に相応しい新たなる誅罰を用意した。アトラクションに乗り、この八獄スタンプラリーを三つ埋めろ。そして己が罪を自覚するがいい。」
珍妙奇妙、正に狙いが掴めなんだ。これがまぁ、罠には違いなかったが、けれども、誘いに乗ってやるのもまた一興。舎弟頭の進言もあり、あたしらは夢の国を歩き回ることにしたとさ。
夢の国はその名に恥じぬ夢っぷり。目まぐるしく回り、何処を向いても遊具しかない。
若芽は大はしゃぎで跳ね回り、敵地のさなかにいることさえ忘れてたが、まあ悪くぁない。
看守に案内されながら、あたしらは初めのアトラクションとやらに着き、長ったらしい説明を受けることとなった。
「まずはメリーゴーランドからだ。尊重を忘れた不毛の種よ、命が惜しくなければ安全ベルトを付けることだな。」
まあまあなんともメルヘンな外観だが、あたしはもちろん分かっていたさ。
「姉さん!私、こういう遊園地で遊んでみたかったんで...んなぁぁちょっと!助けて速いです!姉さあぁぁん!!!」
若芽、寝際、舎弟頭、そしてあたしが乗馬した途端、摩天楼は狂った速度で回り始めて。遊具という名は裏腹に中身は殺人マシンだったのさ。
しかも、天井から羽虫が仰山降ってきやがる。若芽は泡吹いて倒れてたね、あたしは何とか無事だったが。まあ、この程度で参っちまうやわな身体はしてないさ。
羽虫を煙管で叩き落して、ボトボト地面に落ちてく様は快感だったねぇ、駆除の煙撒きはあたしの特技といっていいのかね。
何百匹も叩き落したころ、漸く摩天楼は鳴りを潜めた。若芽はぶっ倒れてたし、寝際もぐろっきーな顔付きで悶えてて。
可愛い部下が潰されて、看守のヤツを蹴り飛ばしてやろうとしたんだが。これがまぁ、失敗して。ハンコが押されたスタンプカードが帰って来たのさ。
むかつく野郎だが、まぁ、命が無事だっただけ幸運に思うべきなのだろうね、あたしらは。
散々な目にあっただろうに、若芽はすぐに元気を出した。あれはあれで楽しかったのかね、と推察しながら、あたしらは次の遊具へと向かっていた。
遠目からでも、その恐ろしさが伝わって来たね。こう、例えるなら、冒涜した場所。瘴気がぷすぷす屋敷から上がってやがる。
「尊重を欠如した愚かなる腐れ花よ、次はイステンデッドのホラーハウスだ。命の保証はない。死んであがなうのも良いだろうが、命が惜しければ駆け抜けることだな。」
心底嫌そうな目で、舎弟頭が看守の野郎を睨み付けて、次にあたしを助けを求めるような切実な目で見つめてきて。
「会長、本当に、本当に、入るのですか。その、私、お化けとか、苦手なのですが。」
「あたしは、まあ無理強いはしないさ、後ろの看守が黙ってないだろうけどね。お化けをぶっ飛ばすのと、看守をぶちのめすのはどちらが楽だろうねぇ。」
お化けと看守、どちらが怖いんだろうねえ、と他人事のように思っていたが。舎弟頭は腹を括って、無言で屋敷を指さした。
心が決まれば後は早い。満を持して、足並みを揃え、あたしらは幽霊屋敷に足を踏み込んだのさ。
屋敷に踏み入れた途端、足元に寒気と死の感触が纏わりついてきて、暗い視界と相まって舎弟頭はぶるぶる震え、若芽にしがみついてやがる。
さし脚、忍び足。いくつか部屋を抜けて、大広間までたどり着けば、そいつは隠れもせずに、堂々と居座って。
「うーん、笑えるね。咎人同士で争わせるなんてさ。」
大広間の階段上で、そいつは薄く笑っていた。一見して小奇麗な風貌だったが、直ぐにその印象は掻き消えたね。全身に纏わりつく死の気配が、こゆぅく漂ってる。
「キミらの命、結構良さそうだ。まあ、有り難く使わせてもらうよ。」
奴の瞳が淡く青く光れば、そこら中から地面からぽこじゃか亡者が湧きだしてきやがった。
そこからはもう滅茶苦茶だったさ。死骸を蹴り飛ばして、骨を砕き、煙管で叩き潰しても、亡者がやってくる。
始まってすぐ、分が悪いと分かったね。一同揃って、逃げ出すことにしたのさ。
ぱにっくほらーとはまさにこのことだろうねえ、背中から本物のゾンビに追いかけられる体験なんて、あたしも人生初めてだったさ。
「会長ぉぉ!無理です、やっぱり看守ぶっ飛ばしたほうが良かったですぅ!ぁあっもうホラーは勘弁をっーっ〜〜〜!」
普段は余裕を余らせてる舎弟頭がこんなにも青ざめたのは、これが最初で最後だった。
まあ、何とかなったさ。亡者たちをなぎ倒しながら屋敷中を駆け巡ったが、存外直ぐに出口は見つかり、あたしらは命辛々幽霊屋敷を抜け出したとさ。
イステンデッドのホラーハウスを飛び出せば、舎弟頭は過剰なストレスと余りに恐怖に耐えかねて泣き崩れ、さめざめ泣いている。
出口ではまた芳気の看守が待ち構えていやがりまして、緑傘会揃って、恨みつらみを吐き捨ててやったら、またスタンプカードが帰って来た。
これで二つ、されど二つ。もう一度、地獄のアトラクションが待ってると思えば、流石のあたしも、気が滅入ったね。
あたしたちを疲弊させることが、看守の狙いかと思ったが、それにしてはやり口が回りくどい。
いつでも寝首を搔いてやるつもりだったが、結局看守は最後まで隙を見せずに、あたしらを最後のアトラクションへと案内した。
「通らぬ侠気は単なる醜態よ、愚鈍なる腐れ花。最後はゼラエルのワクワクジェットコースターだ。ベルトは締めることだな。」
ふざけた名前とは裏腹に、ジェットコースターはゼラエルの悪趣味な銅像がついていること以外は普通の遊具のように見えて。まあ、死にはしないさと乗り込もうと思ったのだが、一つ問題がありやがりました。
「姉御、私は高所恐怖症なのですが。」
あたしは寝際の気持ちを尊重してやりたかったが、スタンプを二個集めておいて今さら引く訳にもいかない。
「目を瞑ってな、あたしが隣にいてやるから。」
寝際は再び看守とジェットコースターとの間で視線を泳がせ、無理やり気持ちを納得させたようだったが、何とかあたしたち全員が席に乗り込んで、座席に背を預けた。
徐々に徐々に、体が上へと持ち上がっていく感触に、若芽は興奮していたが、寝際はとてもげんなりしていて。
遂にコースターは頂点へと達したころ、寝際が一言。
「あ、姉御、やっぱり今から降りる事は。」
あたしは静かに首を横に振るしかなかった。
「ぁあねごっ〜〜〜!!」
人生は山あり谷ありというように、ワクワクコースターも落差がある。あたしの散り際は既に決めていた。故にどれ程落ちようとも、必ず登ることができる。
きっと、若芽も根際も、舎弟頭も、外に出してやれるんだと。そう信じている。
うつらつら、あたしはただ上下に揺らめく監獄を眺めていた。はしゃぐ若芽の笑顔と、寝際の少し青ざめた顔と、舎弟頭の困ったほほ笑みが、この鉄臭い監獄の中にも輝いていた。
あたしは、今を少し楽しんでいた。
夢の国中を巡る長い長いワクワクコースターも終わりをつげ、同時にあたしらの探索も終わった。
かび臭い牢獄の臭いではなく、古い森の、土の臭いと、暖かい太陽の光が、出口から差し込んでいた。
そして、礼儀を知らぬ蔦。香風の執行者が、道を閉ざしている。
「何故尊重出来ん。敬わん。慎むことを理解せん。尊敬の箍外されし時、あらゆる根が地の下で争い合う。貴様が切り拓いた先は、下剋上繰り返す末、不毛の終だ。」
どんな理由があろうとも、どんなにお前が正しくとも。あたしの首の持ち主と、あたしの道は決まっている。
今のあたしは、いや、今の緑傘会は、強いぜ。
「あたしらはもう三回アトラクションを楽しんだ。これで四度目だ。礼儀を知らぬ蔦にもわかるように教えてやるぜ。」
「つまり、任侠悖るは腐れ花ってな。」
改めて見ても圧倒的な数だ。キメラと言う他ない異形の軍勢が押し寄せてきている。数は万を越しているんだろうか?もはや個体の境目もよくわからないが恐らく大型犬数十万に匹敵する質量の津波だ。ライオンやら蛇やら強そうな動物たちを合成したそれらは本来の動物が持っていた強さ、しなやかさ、美しさを失っていて見ていて気分が悪いが、自然界には存在しない破壊の奔流を作り出すことには成功している。
「いや、蝗害があるか。」
つぶやく。飛行し、繁殖し、地球の国をいくつも壊滅させた茶色の編隊に比べれば、大半が飛んでおらず、繁殖もできないであろうこのキメラ達は、ともすれば弱い生き物なんだと言っていいのかもしれない。少しだけ希望が湧いてきた。
私の犬たちでやれるだろうか?逡巡していると後ろからタクティカルドッグに吠えられる。その声は早く遊ばせろと言っているようで、その尻尾は喜びに揺れていた。覚悟は決まる。
「よしみんな、GO!」
伝わりやすい鼻濁音1文字とともに愛しの犬たちは走り出した。
キメラ達の真ん中で、タクティカルドッグが戯れている。象の何倍かあるその体はキメラの中にあっても良く目立つ。遠くから見れば普通の犬の戯れに見えるその腕の振りは、縮尺を考えると300km/h程度の速度が出ているはずで、特注した装甲に当たったキメラは一発で原型を留めていない。ゴロン!タクティカルドッグが寝転がると下敷きになったキメラが潰れる。あのはしゃぐ移動要塞を害せるキメラなどいないだろう。いくらグンタイアリでも、チワワが食われる心配など無いようなものだ。一応変な毒なんかで具合が悪くなるといけないので幽霊犬にもついて行ってもらっている。タクティカルドッグの戯れで私以外が死にかけるといけないので今までタクティカルドッグには犬の友達を作ってやれなかったが、この前幽霊犬を手懐けたおかげでやっとタクティカルドッグに触れてしまっても問題ない友達ができた。この組み合わせは戦っている時にも有効だ。今も幽霊犬は毒があるかもしれない蛇の口を止めてタクティカルドッグの手助けをしてくれているだろう。
タクティカルドッグの手の届かない上空へは、メカニカルドッグのビームが届いている。大量にやっているとはいえ、ただの有機物の餌のどこからエネルギーを取り出しているんだか未だに全然わからないビームが空を飛ぶキメラを焼いているのだ。X線領域手前の紫外線に同調した高エネルギーレーザーが大気を弾きながら対象表面を焼き、遅れて真空を走ってくる重粒子線が対象をズタズタにする、らしい。何それ怖い。都市城壁の上に置いているメカニカルドッグも、キメラに攻撃される様子は思い浮かばない。私は自分の役割に専念することにした。
犬たちの嗅覚により私たちは数十分で敵の親玉の下にたどり着いた。あの白衣にガスマスクの女が人々の言っていた狂人研究者だろう。脇には何体かのキメラが控えている。いかにも強そうな個体だ。タクティカルドッグ達の奮戦のおかげで結構簡単にここまでたどり着けたが、さすがにこの距離になると敵もこちらを認識したようだ。合図を受けたキメラ達がこちらに襲い掛かってくる。
最速で接近してきたチーター足のキメラにゾンビドッグが接敵する。ゾンビドッグは炎を出してキメラを焼こうとするがキメラの方が早い。体当たりされ、ドガっと音がしてゾンビドッグが倒れる。キメラも体当たりが上手く入った事を確信しただろう。だがそのライオン頭の左後ろから炎が襲い掛かった。ゾンビドッグは犬でありながらゾンビ、多少体当たりで変形したぐらいでは止まらない。肉食動物の視界の外から炎を食らったキメラは思わず左に首を振り返るが、その隙に右側から近づいていたウォードッグが首の縫合部に牙を捻じ込んだ。キメラが首を戻す間もなく鍛え上げられたウォードッグの顎の力はキメラの首縫合面の半分を寸断し、さすがのキメラも動かなくなった。もう一体近づいてきていたキメラの方に目をやると、すでにコープスドッグがゾンビ化させて無力化していた。直前にナテラを大量に与えておいてよかった。
などと考えていると私がしがみついているトライヘッドハウンドの首が全て吠える。慌てて確認すると白衣の女が何か呪文のようなものを唱えている。トライヘッドハウンドのこの反応は......死の匂いだ!慌てて私はウォードッグ呼んで天界の忠犬の後ろに隠れる。次の瞬間触れたものを死にいざなう奔流が女を中心に放たれた。状況を察知してくれた天界の忠犬は私とウォードッグを守るように聖なる守りの領域を展開してくれる。そして他の犬たちはそもそも死んでいたり冥界出身だったりで死の呪文の効かない犬たちばかりだ。さすがにここまで防がれるとは予想していなかったのか白衣の女の動きが一瞬止まる。今だ!私は天界の忠犬の陰から両手にはめた犬の手袋を女目掛けて飛ばした。ミミとココと名のついたこの手袋は自動追尾のロケットパンチで、貧弱な俺でも照準を合わせればあやまたず女の腹を殴打することができる。意識外からの一撃に女の思考が止まる。キメラ達の動きもそれと同時に一時停止。私が指示する前にウォードッグが動いていた。キメラ達が動き出すよりも早く女の所に駆ける。気づいた女が身を引こうとするがウォードッグの方が一瞬早い。喉笛に入った牙は何の抵抗もないかのようにそれをかっ裂き、咎人を罪から解放した。そしてキメラは呼吸するだけの肉塊となり、数日のうちに餓死していった。
都市を守れました!よかったね!
いつから戦っていたのだろう。いつまで戦うのであろう。
その少女は、幾度目とも知れぬ攻撃を、回避を繰り返していた。
投げつけるのは、彼女の背丈と並ぶような舵輪。
銘を逆行舵輪・アージュドール。
彼女が振るう得物であり、彼女自身の象徴とも言える。しかしそれには、数え切れぬほどの傷がつけられていた。
その理由などただひとつ、眼前の敵。
概形こそ人のようだが、その顔にあるのは眼でも鼻でもなく、ただ菱形がひとつ、その上両腕は巨大な刃となっている異形。
曰く、「武皇」の執行者。
いつの間にやら連れてこられたこの牢獄で、自分を、自分たちを処刑せんとする不埒者。
少女は罪人である、とそれは語った。
自由とは、善なる者のみの特権。故に剥奪、故に束縛。貴様に自由は不相応。
悪意を抱えしお前には過ぎた代物である、覚えがないとは言わせない、と。
ああ、覚えているとも。
親父の掟を疑った。教えに唾を吐いた。力で以て反意を示した。
――それの何が悪いと言うのか。
悪でも殺すな。殺さなかったから不意打ちを食らった。許す道理が無い。
民から奪うな。民は逆らわず、抗わない。最小限の手間で、最大限の効率があがる。
不要な苦労を強いる掟こそが、最大の悪だと言うのに。
「傅け、善という名の皇帝に。」
何度目かもわからぬ繰り返し、そして執行者が刃を振るう。
あれはまずい、と少女は知っていた。一度見切りを誤り頬を掠めた、その瞬間、がくりと引っ張られた。
身体が勝手に動く、武器を捨て、膝が折れ、地に伏さんとする。魂が隷属を誓わされる、あの感覚。
思い出しただけでも、彼女から舌打ちが漏れた。一度目はどうにか戻ってこられた、だが次は分からない。
しかし、恐れる事ではないのだ。
「お嬢!俺らはまだいけますぜ!」
何せ、自分は一人ではないのだから。
後ろを振り返れば、そこには三者三様の助力を行う影。
「泣き叫べー!」
優しいのはあなただけ、と身を寄せた少女が、好機を引き寄せんとする。
「この身が沈むまで!」
全てを捧げさせてくれ、と唱えた女が、叫びと共に砲撃を放つ。
「お嬢の為に全てを捨てる!」
俺はお嬢に賭ける、と吠えた髭男が、部下に突撃を指示する。
自分を信じる者がいる。己の掲げた自由を宿し、世界を沈める愛しき者が。
不自由な牢獄にあっても、共に戦わんとしてくれる仲間がいる。
故に笑う。不敵に口元を吊り上げ、眼前の敵を睥睨。
自由を奪う?ボクに鎖?――しゃらくさい。
善意は毒だ。それに縋りさえすれば安全だと囁き、心を縛り付ける甘き死毒。
善意を蹂躙、良識に風穴。我ら海賊、悪辣上等。
今一度、背に担ぎ上げた舵輪に力がこもる。飾り付けられた、髑髏の眼窩が輝いた。
三千大千世界に轟く、悪徳掲げし海賊団。
ボクらの前じゃ、白旗だって単なる布切れ。
その長たるバルバロス、この程度で止まるつもりは毛頭ない。
大海原を股にかけ、潮風を抜け、荒波と踊る。
「見せてやるよ、最っ高の悪徳 って奴を。」
今まさに放たんとするは、波濤も逆巻く舵輪の一撃。
「善にひれ伏せ、痴れ者が。」
「沈めてやるよ鈍ら刀。」
――そして、今。
「善なる刃の錆となれ!」
「紺碧を回れ、アージュドール!」
八獄の元、武皇と無法が対峙する。
その少女は、幾度目とも知れぬ攻撃を、回避を繰り返していた。
投げつけるのは、彼女の背丈と並ぶような舵輪。
銘を逆行舵輪・アージュドール。
彼女が振るう得物であり、彼女自身の象徴とも言える。しかしそれには、数え切れぬほどの傷がつけられていた。
その理由などただひとつ、眼前の敵。
概形こそ人のようだが、その顔にあるのは眼でも鼻でもなく、ただ菱形がひとつ、その上両腕は巨大な刃となっている異形。
曰く、「武皇」の執行者。
いつの間にやら連れてこられたこの牢獄で、自分を、自分たちを処刑せんとする不埒者。
少女は罪人である、とそれは語った。
自由とは、善なる者のみの特権。故に剥奪、故に束縛。貴様に自由は不相応。
悪意を抱えしお前には過ぎた代物である、覚えがないとは言わせない、と。
ああ、覚えているとも。
親父の掟を疑った。教えに唾を吐いた。力で以て反意を示した。
――それの何が悪いと言うのか。
悪でも殺すな。殺さなかったから不意打ちを食らった。許す道理が無い。
民から奪うな。民は逆らわず、抗わない。最小限の手間で、最大限の効率があがる。
不要な苦労を強いる掟こそが、最大の悪だと言うのに。
「傅け、善という名の皇帝に。」
何度目かもわからぬ繰り返し、そして執行者が刃を振るう。
あれはまずい、と少女は知っていた。一度見切りを誤り頬を掠めた、その瞬間、がくりと引っ張られた。
身体が勝手に動く、武器を捨て、膝が折れ、地に伏さんとする。魂が隷属を誓わされる、あの感覚。
思い出しただけでも、彼女から舌打ちが漏れた。一度目はどうにか戻ってこられた、だが次は分からない。
しかし、恐れる事ではないのだ。
「お嬢!俺らはまだいけますぜ!」
何せ、自分は一人ではないのだから。
後ろを振り返れば、そこには三者三様の助力を行う影。
「泣き叫べー!」
優しいのはあなただけ、と身を寄せた少女が、好機を引き寄せんとする。
「この身が沈むまで!」
全てを捧げさせてくれ、と唱えた女が、叫びと共に砲撃を放つ。
「お嬢の為に全てを捨てる!」
俺はお嬢に賭ける、と吠えた髭男が、部下に突撃を指示する。
自分を信じる者がいる。己の掲げた自由を宿し、世界を沈める愛しき者が。
不自由な牢獄にあっても、共に戦わんとしてくれる仲間がいる。
故に笑う。不敵に口元を吊り上げ、眼前の敵を睥睨。
自由を奪う?ボクに鎖?――しゃらくさい。
善意は毒だ。それに縋りさえすれば安全だと囁き、心を縛り付ける甘き死毒。
善意を蹂躙、良識に風穴。我ら海賊、悪辣上等。
今一度、背に担ぎ上げた舵輪に力がこもる。飾り付けられた、髑髏の眼窩が輝いた。
三千大千世界に轟く、悪徳掲げし海賊団。
ボクらの前じゃ、白旗だって単なる布切れ。
その長たるバルバロス、この程度で止まるつもりは毛頭ない。
大海原を股にかけ、潮風を抜け、荒波と踊る。
「見せてやるよ、最っ高の
今まさに放たんとするは、波濤も逆巻く舵輪の一撃。
「善にひれ伏せ、痴れ者が。」
「沈めてやるよ鈍ら刀。」
――そして、今。
「善なる刃の錆となれ!」
「紺碧を回れ、アージュドール!」
八獄の元、武皇と無法が対峙する。
(スレイドの能力はアニメ準拠です)
「スレイッスレーイ!」
夜の更けた暗い森に鳴き声を発する獣がいた
黄緑色で光に照らされると映える小さな体はしかし、月光すら届かない鬱蒼とした森とは無縁だった
ブロッサムウルフ・スレイド
本来、蜜田川イツキのデジフレとしてともに暮らしていたが、どういう訳か辺りに人の影はない。...蝙蝠の影はあるが
キシャァァと声をあげ蝙蝠が飛びかかる。蝙蝠の翼は2対になっており、その容貌とも相まってさながら『歪んで』いる
スレイドは視界の外から襲いかかってきた蝙蝠に気づくも、避けるほど素早い訳では無い。ただ声をあげるしかなかった
「スレーイ!」
「余の名を呼ぶのは貴様か」
瞬間、蝙蝠は後ろから縦に切り裂かれ、地に落ちた。即死した蝙蝠の死骸を意に介する事無く、スレイドに紅い剣をむけている、吸血鬼。
鋼鉄のヴァンパイア・スレイ
彼は機械を身に纏うことでヴァンパイアの、いわゆる弱点を克服することに到った。身にまとっている鋼鉄はしかし、この深い森では輝くことは無かった
スレイドとスレイ。即ち狼と吸血鬼の邂逅は、決して鼻で笑える様なものではなかった
「貴様、襲って来ないのか?いや、襲いかかって来て欲しいという訳ではないが」
スレイドに剣先を向け、疑いを向けるスレイ。
「スレイッスレイッ」
ただ鳴くことしか出来ないスレイドは自身の友好性を示しているのだろうか
「...貴様、本来このような場所に存在するモノではないな?」
そう言ってスレイドに向けていた剣を細い体のどこかにしまい、ただ見下ろす。
「いや何、ここの狼と云うのは大抵『狂って』いてな。見たところ貴様もその類いだと思い込んでしまった。非礼を詫びよう。...それで、行くあてはあるのか?」
──────
なぜか余の名を呼ぶ狼。この辺りには居ない姿の上、狂っているようには見えないため、一旦保護することにした。
美しきモノから一度聞いたことがあるが、どうやら世界はここの他にもいくつかあり、またその世界を行き来出来る者もいるらしい。こやつはその「転移」に、何かの間違いで巻き込まれたのだと考えたのだ。
つまり、もう一度「転移」が出来れば保護も終了である。
「これから診療所に貴様を連れていく。着いてこい」
向かったのは洞窟の中にある診療所。ここではヴァンパイアハンターに傷を受けたヴァンパイアが治療を受けている。
「あっ、スレイさん!お久しぶりです!って、どこかお体を痛めたんですか?」
「いや、この狼を保護してな。なにかウイルスを持っていないか確認して欲しいのだ」
「この子ですか!?かーわいいー!すぐに診てきますね!」
そう言って個室に狼を連れていった彼女は、看護師の服を着ている。無論患者の看護はするのだが、治療もする。吸血鬼として手に入れた無尽蔵に近い体力を患者に尽くしたいと考えた、なんとも殊勝な吸血鬼である。
「お待たせしましたースレイさん!この子は体に疾病などはありませんでした!いたって健康でしたよー!あと、首の毛に覆われてたんですけど、名前付きの首輪が着いてました!スレイドさんですって!」
鳴き声で余の名を呼ぶ上、名前すら余に似ているとは。妙な運命を感じるが、まあいい。
「行くぞ、スレイド。森の奥だ」
診療所の時計は4時をまわっていた。
──────
「余がこの森に訪れたのは偶然ではなくてな。これから大きな戦いが始まるのだ。しかし、その前に同胞を助けねばならない」
「スレイ?」
「この戦いの余波で、貴様も元いた世界に戻れる可能性がある。帰りたいだろう?主の元に」
主との日々を思い出しながら森の中を歩く。この頃の主は友達に恵まれ、学校も楽しそうだった。主との思い出に耽っていると突然、スレイが足を止めた。
「待て」
スレイの細い肩に乗り注意している方向に目を向けると、そこは妙に木が生えていない広場のようになっており、中央には一際大きな木が生えており、そこに糸に縛られ身動きが取れなくなっている生物がいた。主くらい細く見えるが、特に糸に雁字搦めにされた翼を見て、スレイの仲間のヴァンパイアなのだろうとスレイドは考えた
「さて、どうするか。『ブラッディスラッシュ』は使ってしまったが、『悪夢を始める』には遅すぎる。予定まであと数分といったところだが...」
「スレイ」
「貴様、なにか妙案があるのか?」
スレイも、主の切り札も、同じだ。
そう思った頃には既に、スレイドは広場に飛び出していた
「スレイッスレーイッ!」
「スレイド!何を...これは、潜伏か?」
ファンファーレ能力。潜伏を持たせる。何度もやってきたことだ。主の切り札じゃないと出来ないような力ではないことは自分が一番知っている。
「なるほどな。貴様の覚悟に余も応えなければ。
必ず、次に終わらせよう」
スレイは音もなく広場に進み、蒼く光る左目のあった部分を紅く光らせる
『血を滴らせ、美に溺れよ』
「しかし、足りない。これでは...」
縛られているヴァンパイアの翼が蒼く光る
「この高揚は...そうか、ノイン。既に完成していたのだな」
スレイドの鳴き声は、スレイが危惧していた生物に存在を気づかれるには十分に大きかった。
森の深奥から『狂気』が訪れる。
ルインウェブスパイダー
蜘蛛と形容するにはあまりにも強大な体躯。脚の関節には人の顔らしき模様がついており、口から糸とともに溢れ出るキョウキは、スレイドに少なからずキョウフを与えた。
大蜘蛛はスレイドに向け巨大な口を開け、糸を吐き出す。しかし大蜘蛛にスレイの存在を知られることは無かったため、スレイは糸に縛られることは無い。
大蜘蛛はゆっくりとスレイドへ近ずき口をあけ捕食しようとする。が。
森が騒がしい。風ひとつ吹いていないのに、ざわざわと機械混じりの音がする。
この駄犬は囮。そう考えた大蜘蛛はすぐに身を引き、来たるべき敵が現れたその瞬間、糸で捕縛せんと臨戦態勢に入る。
ざわざわとした森の音がますます大きくなる。それに混ざって聴こえるギュイイイインという音はドリルだろうか。方向を見定め、音の大きさからタイミングを測る。3...2...1...
バシュン!という音とともに、ドリルの音は止んだ。しかし、捕えたのは、『金属に覆われたミノムシ』ドリルなど持っていない。では...そのドリルの音は一体どこから来たのd
『今こそ回れ、螺旋のギア』『トップギアだ。貫く!』
機械ミノムシはただの囮であり布石。ただでさえ巨大な蜘蛛の頭上から、蜘蛛にドリルを向けたエルフが突進してくる。
大蜘蛛は一体くらいどうということは無いと考え、照準を定めエルフに放たんとする
『おお、甘美』
脚に鈍い痛みが走り、態勢を崩す。いつの間にか鋼鉄のヴァンパイアが足元にいた。その状況を処理しきれず、エルフの攻撃に対応出来ずもろに食らってしまう
ギシャアアアアアという鳴き声とともに、大蜘蛛は貫通された。
螺旋の鉄腕・ダミアン
スレイとともに捕らわれたヴァンパイアを救うべくして協力をしたエルフ。彼の通って来た場所に生えていた木は全てなぎ倒され、広場の周りに生えていた木すらなぎ倒された。
何も覆うものが無くなったスレイドたちに陽光が照らされる。
『百の夜越え、朝焼けに立つ』
夜明けの吸血鬼・ノイン
スレイ達が到着する前に機械フォロワーを10体破壊された状態だった彼は、潜伏状態のスレイをさらに強化することが出来た
スレイと糸から解放されたノインは陽光を一身に浴びている。スレイドも気持ちいい陽光を浴びていたが、体が光だしていることに気づいた
「どうやら、転移が始まったようだな、スレイド。そなたの最後の覚悟には驚かされた。一寸の虫にも五分の魂とは言うが「二人とも、ここからだぞ」
「スレイ?」
「ああ、言ってなかったのか?スレイ。いいかい?大蜘蛛は前座。これから、大地そのものと私たちは戦う」
大地が揺れる。ダミアンの来た方向を見ると、『大地が動いていた』
「スレイッスレーイッ!」
「案ずるな。また巡り会うだろう」
スレイドは光に包まれ、気づけば主の部屋にいた
「スレイッスレーイ!」
夜の更けた暗い森に鳴き声を発する獣がいた
黄緑色で光に照らされると映える小さな体はしかし、月光すら届かない鬱蒼とした森とは無縁だった
ブロッサムウルフ・スレイド
本来、蜜田川イツキのデジフレとしてともに暮らしていたが、どういう訳か辺りに人の影はない。...蝙蝠の影はあるが
キシャァァと声をあげ蝙蝠が飛びかかる。蝙蝠の翼は2対になっており、その容貌とも相まってさながら『歪んで』いる
スレイドは視界の外から襲いかかってきた蝙蝠に気づくも、避けるほど素早い訳では無い。ただ声をあげるしかなかった
「スレーイ!」
「余の名を呼ぶのは貴様か」
瞬間、蝙蝠は後ろから縦に切り裂かれ、地に落ちた。即死した蝙蝠の死骸を意に介する事無く、スレイドに紅い剣をむけている、吸血鬼。
鋼鉄のヴァンパイア・スレイ
彼は機械を身に纏うことでヴァンパイアの、いわゆる弱点を克服することに到った。身にまとっている鋼鉄はしかし、この深い森では輝くことは無かった
スレイドとスレイ。即ち狼と吸血鬼の邂逅は、決して鼻で笑える様なものではなかった
「貴様、襲って来ないのか?いや、襲いかかって来て欲しいという訳ではないが」
スレイドに剣先を向け、疑いを向けるスレイ。
「スレイッスレイッ」
ただ鳴くことしか出来ないスレイドは自身の友好性を示しているのだろうか
「...貴様、本来このような場所に存在するモノではないな?」
そう言ってスレイドに向けていた剣を細い体のどこかにしまい、ただ見下ろす。
「いや何、ここの狼と云うのは大抵『狂って』いてな。見たところ貴様もその類いだと思い込んでしまった。非礼を詫びよう。...それで、行くあてはあるのか?」
──────
なぜか余の名を呼ぶ狼。この辺りには居ない姿の上、狂っているようには見えないため、一旦保護することにした。
美しきモノから一度聞いたことがあるが、どうやら世界はここの他にもいくつかあり、またその世界を行き来出来る者もいるらしい。こやつはその「転移」に、何かの間違いで巻き込まれたのだと考えたのだ。
つまり、もう一度「転移」が出来れば保護も終了である。
「これから診療所に貴様を連れていく。着いてこい」
向かったのは洞窟の中にある診療所。ここではヴァンパイアハンターに傷を受けたヴァンパイアが治療を受けている。
「あっ、スレイさん!お久しぶりです!って、どこかお体を痛めたんですか?」
「いや、この狼を保護してな。なにかウイルスを持っていないか確認して欲しいのだ」
「この子ですか!?かーわいいー!すぐに診てきますね!」
そう言って個室に狼を連れていった彼女は、看護師の服を着ている。無論患者の看護はするのだが、治療もする。吸血鬼として手に入れた無尽蔵に近い体力を患者に尽くしたいと考えた、なんとも殊勝な吸血鬼である。
「お待たせしましたースレイさん!この子は体に疾病などはありませんでした!いたって健康でしたよー!あと、首の毛に覆われてたんですけど、名前付きの首輪が着いてました!スレイドさんですって!」
鳴き声で余の名を呼ぶ上、名前すら余に似ているとは。妙な運命を感じるが、まあいい。
「行くぞ、スレイド。森の奥だ」
診療所の時計は4時をまわっていた。
──────
「余がこの森に訪れたのは偶然ではなくてな。これから大きな戦いが始まるのだ。しかし、その前に同胞を助けねばならない」
「スレイ?」
「この戦いの余波で、貴様も元いた世界に戻れる可能性がある。帰りたいだろう?主の元に」
主との日々を思い出しながら森の中を歩く。この頃の主は友達に恵まれ、学校も楽しそうだった。主との思い出に耽っていると突然、スレイが足を止めた。
「待て」
スレイの細い肩に乗り注意している方向に目を向けると、そこは妙に木が生えていない広場のようになっており、中央には一際大きな木が生えており、そこに糸に縛られ身動きが取れなくなっている生物がいた。主くらい細く見えるが、特に糸に雁字搦めにされた翼を見て、スレイの仲間のヴァンパイアなのだろうとスレイドは考えた
「さて、どうするか。『ブラッディスラッシュ』は使ってしまったが、『悪夢を始める』には遅すぎる。予定まであと数分といったところだが...」
「スレイ」
「貴様、なにか妙案があるのか?」
スレイも、主の切り札も、同じだ。
そう思った頃には既に、スレイドは広場に飛び出していた
「スレイッスレーイッ!」
「スレイド!何を...これは、潜伏か?」
ファンファーレ能力。潜伏を持たせる。何度もやってきたことだ。主の切り札じゃないと出来ないような力ではないことは自分が一番知っている。
「なるほどな。貴様の覚悟に余も応えなければ。
必ず、次に終わらせよう」
スレイは音もなく広場に進み、蒼く光る左目のあった部分を紅く光らせる
『血を滴らせ、美に溺れよ』
「しかし、足りない。これでは...」
縛られているヴァンパイアの翼が蒼く光る
「この高揚は...そうか、ノイン。既に完成していたのだな」
スレイドの鳴き声は、スレイが危惧していた生物に存在を気づかれるには十分に大きかった。
森の深奥から『狂気』が訪れる。
ルインウェブスパイダー
蜘蛛と形容するにはあまりにも強大な体躯。脚の関節には人の顔らしき模様がついており、口から糸とともに溢れ出るキョウキは、スレイドに少なからずキョウフを与えた。
大蜘蛛はスレイドに向け巨大な口を開け、糸を吐き出す。しかし大蜘蛛にスレイの存在を知られることは無かったため、スレイは糸に縛られることは無い。
大蜘蛛はゆっくりとスレイドへ近ずき口をあけ捕食しようとする。が。
森が騒がしい。風ひとつ吹いていないのに、ざわざわと機械混じりの音がする。
この駄犬は囮。そう考えた大蜘蛛はすぐに身を引き、来たるべき敵が現れたその瞬間、糸で捕縛せんと臨戦態勢に入る。
ざわざわとした森の音がますます大きくなる。それに混ざって聴こえるギュイイイインという音はドリルだろうか。方向を見定め、音の大きさからタイミングを測る。3...2...1...
バシュン!という音とともに、ドリルの音は止んだ。しかし、捕えたのは、『金属に覆われたミノムシ』ドリルなど持っていない。では...そのドリルの音は一体どこから来たのd
『今こそ回れ、螺旋のギア』『トップギアだ。貫く!』
機械ミノムシはただの囮であり布石。ただでさえ巨大な蜘蛛の頭上から、蜘蛛にドリルを向けたエルフが突進してくる。
大蜘蛛は一体くらいどうということは無いと考え、照準を定めエルフに放たんとする
『おお、甘美』
脚に鈍い痛みが走り、態勢を崩す。いつの間にか鋼鉄のヴァンパイアが足元にいた。その状況を処理しきれず、エルフの攻撃に対応出来ずもろに食らってしまう
ギシャアアアアアという鳴き声とともに、大蜘蛛は貫通された。
螺旋の鉄腕・ダミアン
スレイとともに捕らわれたヴァンパイアを救うべくして協力をしたエルフ。彼の通って来た場所に生えていた木は全てなぎ倒され、広場の周りに生えていた木すらなぎ倒された。
何も覆うものが無くなったスレイドたちに陽光が照らされる。
『百の夜越え、朝焼けに立つ』
夜明けの吸血鬼・ノイン
スレイ達が到着する前に機械フォロワーを10体破壊された状態だった彼は、潜伏状態のスレイをさらに強化することが出来た
スレイと糸から解放されたノインは陽光を一身に浴びている。スレイドも気持ちいい陽光を浴びていたが、体が光だしていることに気づいた
「どうやら、転移が始まったようだな、スレイド。そなたの最後の覚悟には驚かされた。一寸の虫にも五分の魂とは言うが「二人とも、ここからだぞ」
「スレイ?」
「ああ、言ってなかったのか?スレイ。いいかい?大蜘蛛は前座。これから、大地そのものと私たちは戦う」
大地が揺れる。ダミアンの来た方向を見ると、『大地が動いていた』
「スレイッスレーイッ!」
「案ずるな。また巡り会うだろう」
スレイドは光に包まれ、気づけば主の部屋にいた
このページへのコメント
なんでワイのこと誰も呼んでくれなかったの😡
それはそれとして、初投稿で3時間程度で書いた文章です。見直しもしてないので誤字とか多そうですが直す気はないです。楽しかったから気が向いたらまたやろうかな
企画を知ったのが18日の1時過ぎだったのですが、ふと衝動が止められなくなってしまったため期限超過を承知で「八獄崩壊――悪辣の章」を投稿してしまいました。不都合がございましたら消去してくださって構いません。
くぅ疲
スレで調子に乗ってこんなもんを主催したばかりに書いたことも無いSSを書く羽目になりました。
設定過多めのなろうっぽいものを目指してプロット立てずに書いたらこうなりました。なろう書けるひとはすごいと思いました。セフィー雑に殺してごめんなさい。(小並感)
マガチヨの口調むずい、マガチヨっぽいなんか別のキャラが喋ってるように見えたりする!一日で書ききったので色々と至らぬ点や粗雑な点は許してください
アルザード×ドラークが書きたいという欲で保存していた下書きを再利用させていただきました。が
SSは一朝一夕にしてなるものではない!こんな突発で質の高いものかけるわけないだろ!ワイはもっと濃厚なえっちシーン書きたいけどとりあえずこれでターンエンドです