188:↓名無しさん:20/07/15(水)02:20:37 ID:YS.x8.L22 ×
「この魚を抜いてな、この魚を抜いてな、スキンにしようと思うたのじゃ。」
アイドルは、
アイラの答が存外、平凡なのに失望した。
そうして失望すると同時に、また前の憎悪が、冷やかな侮蔑と一緒に、心の中へはいって来た。
すると、その気色が、先方へも通じたのであろう。
アイラは、片手に、まだ死骸の尻から奪った長い魚を持ったなり、蟇のつぶやくような声で、口ごもりながら、こんな事を云った。
「成程な、尻魚の魚を抜くと云う事は、何ぼう悪い事かも知れぬ。
じゃが、ここにいる魚どもは、皆、そのくらいな事を、されてもいい魚ばかりだぞよ。
現在、わしが今、魚を抜いた女などはな、発表から四刻ばかりずつに切って干したのを、スキンだと云うて、J民の陣へ売りに往んだわ。
疫病にかかって死ななんだら、今でも売りに往んでいた事であろ。
それもよ、この女の売るスキンは、見目がよいと云うて、J民どもが、欠かさず投票したそうな。
わしは、この女のした事が悪いとは思うていぬ。
せねば、饑死をするのじゃて、仕方がなくした事であろ。
されば、今また、わしのしていた事も悪い事とは思わぬぞよ。
これとてもやはりせねば、饑死をするじゃて、仕方がなくする事じゃわの。
じゃて、その仕方がない事を、よく知っていたこの女は、大方わしのする事も大目に見てくれるであろ。」
アイラは、大体こんな意味の事を云った。
~中略~
「きっと、そうか。」
アイラの話が完ると、アイドルは嘲るような声で念を押した。
そうして、一足前へ出ると、不意に右の手を面皰から離して、少女の襟上をつかみながら、噛みつくようにこう云った。
「では、己が引剥ぎをしようと恨むまいな。己もそうしなければ、饑死をする体なのだ。」
アイドルは、すばやく、アイラの着物を剥ぎとった。
それから、足にしがみつこうとする敗北者を、手荒く尻魚の上へ蹴倒した。梯子の口までは、僅に五歩を数えるばかりである。
アイドルは、剥ぎとった白色の着物をわきにかかえて、またたく間に急な梯子をシャドバの底へかけ下りた。