どうすれば稀人とアメツチの人々が打ち解けられるのかを思案するイツルギ。
しかし、蔵人である
ミズチに、アンサージュと会っていたことや稀人への友好的な心情を話してしまったことで排除されそうになってしまう。
*9
稀人がどれほど辛い思いをしているのか、アメツチは苦しんでいる者を助けないのかと叫ぶが、ミズチは聞く耳を持たない。
すんでのところを助けたのは、偶然通りがかった
スーロンだった。
が、即座にスーロンの恐ろしさを身をもってわからされる散々な目
*10に遭うもなんとか逃亡。
これで一安心かと思われたが…
いたぞ、イツルギだ!アメツチの敵が、ここにいるぞぉぉぉぉっ!
人々に稀人のことや記憶のことを尋ねて回ったことや、禁忌とされていた封巣殿への侵入、稀人への強い関心。
イツルギの行動は悉く大蜘蛛の怒りを買ってしまっており、それによってアメツチ全土を揺るがすような地鳴りが鳴り響いた。
完全にアメツチの存在を脅かす敵となってしまったイツルギに、人々は溢れんばかりの敵意と憎悪を向ける。
優しいお饅頭屋さんにも、クニツアマチにも、一緒に宴を楽しんだ仲間たちにも、全員に一斉に責め立てられたイツルギは、半
狂乱になりながら走る。
そこに現れた災藤も、『過失であっても、罪は罪だ』とイツルギに告げる。
稀人への憎悪を剝き出しにした災藤の
極めて大人げない攻撃の前に為す術のないイツルギだったが―
わかったんです。アメツチの皆さんがぼくを憎むのはつまり。
ぼくが、くじを引いちゃったからなんですね。元の世界と同じ、神様に捧げて貰う一番の当たりくじを!
いきなりドギツイ過去をカミングアウト。そんな
トラウマ級の記憶をアメツチに来る際に奪われていなかったという事実は災藤を困惑させる。
その瞬間に、『兄貴分』としてこの一件の始末をつけに来たタケツミが乱入。
イツルギはタケツミに連れられて封巣殿の最奥にあるアメツチの心臓部である
飛泉門を訪れ、自分が犯した罪の重大さを知る。
タケツミのよくわかる飛泉門講座
- 飛泉門は穴である
- 飛泉門は触れた者をアメツチから追い出し、人が通るたびに周りを吸い込む力を増して広がっていく
- かつて大勢の人間が好奇心から飛泉門をくぐった結果、増大した飛泉門は人々を吸い込んで消し去る脅威と化した
- 穴をふさいでその騒動を収めたのが大蜘蛛である
- 大蜘蛛は飛泉門への道を巣とし、その番人として旅籠煤を作り出した
- 破壊された記憶の欠片は、また巡って新たな旅籠煤を生み出す
- 飛泉門は極めて不安定な状態のため、誰一人も飛泉門に触れることは防がなくてはならない
自分がアメツチを滅ぼしかねない罪を犯したと理解したイツルギに刃を向けるタケツミ。
言って、ください。本当はこんなこと、したくなかった、って。
――っか。それを言って、どうなるってんだよ。
イツルギのしあわせな過去
ぼくは、どうやら。買われるために、飼われていたらしいのです。
イツルギはとある小さな村に生まれた。
その村では人狼を忌み子として即間引くような追害が行われていたようだが、イツルギは運良く生かされることになる。
しかし、それは生きることを‟許された”というだけであり、イツルギの扱いは悲惨なものだった。
村人の言うことにはすべて従わなければならず、イツルギが自分自身で決められることは何一つとして無かった。
日々「正しく育つように」と様々な「教育」が行われ、
*11殴る蹴るの暴行
*12はもちろん、食事に毒を盛ってのたうち回るのを見世物にするなど、
人狼であるイツルギに人としての尊厳は存在しない。
*13
「生まれた時に、殺されなかっただけ、ありがたい。だから全部がしあわせなのだ」と村人が言うあまりにイカれた理論の前に、イツルギは日々の‟しあわせ”に笑って過ごすこととなった。
そして、村で数十年ぶりの祭りの日。
村の外からやって来た客人も見ている中、神様へと捧げる者を決めるくじ引きで、イツルギが「幸運にも」一番の当たりくじを引き当てる。
それを見ても村人たちは誰一人驚くことはなかった。
自分がこれまで生かされていた意味を理解したイツルギは、立派な席に座り、見たこともないようなご馳走を食べ、しあわせな気分で眠りについた。
―次に目を覚ました時、イツルギはアメツチにいた。
どれだけ駄目って言われても!お前にはいらないって決められても!誰かの言葉なんて、知るもんか!
ぼくは――ぼくが知りたいものを!自由に行って、見てみたかった――!
タケツミと斬り結びながら、溢れ出した本能を叫ぶイツルギ。
イツルギの初めての我儘を聞いたタケツミは大笑いして刀を収めた。
最初からイツルギを救おうと必死だったタケツミは、兄貴分としてイツルギを殺さずに全てを解決するつもりだったのだ。
タケツミの言葉に安堵して泣き崩れるイツルギ。優しく呼びかけられるまま、イツルギは頭を差し出した。
そっと頭を撫でられて眠ってしまった弟分の寝顔を眺めながら、兄貴分は静かに覚悟を決める。
その後を語るのは野暮ってもんである。俺たちの華の大将がぜーんぶやってくれました。
イツルギは皆に許してもらい、またタケツミや災藤と楽しく暮らすこととなりました。
相も変わらず相談や呼びかけに応えまくるタケツミの相棒として、イツルギはたくましく成長。
タケツミに負けず劣らずの伊達男となったイツルギは、タケツミと並ぶ華としてアメツチで生きていくのでした。
アメツチは最高!ターケッツミ!ターケッツミ!
これが――本当だったってことにして、いいよな?
―そのとき。ぼくは、感じました。
直感しました。これが、アンサージュさんに言われていた感覚だって。
好奇心
タケツミに頭を差し出そうとしたその瞬間、イツルギを奇妙な感覚が襲う。
記憶を失っていないはずのイツルギには存在しない筈の、自らの記憶の欠片を宿した旅籠煤が現れたのである。
イツルギはタケツミの制止も聞かず、旅籠煤の方へと走り出す。
――これがぼくの、一番の、過ち。とりかえしのつかない、最後の衝動。
せっかく止めてくれていたのに。
まだ――どうにかなる、してくれるところ、だったのに。
目の前の餌に釣られて。どうしようもない、好奇心の匂いにそそられて。
世界一駄目な、しつけのなっていない、犬っころは。走り出した足を、止められませんでした。
一心不乱に走り、大量の旅籠煤の間をすり抜けながら駆け抜けていくイツルギ。
普段の天真爛漫な素振りは立ち消え、ひたすらに知りたいという好奇心に操られるように駆ける。
そして記憶の欠片に辿り着いたとき、イツルギは訳も分からず涙を流した。
記憶の欠片が旅籠煤に変化したのを見ると、イツルギの感情は完全に暴走。
*14
旅籠煤と共鳴するかのように高まっていく興奮と共に、記憶を取り戻そうと戦いを挑むのだった。
一人で旅籠煤を相手取るが、タケツミのように切り倒すには武器も腕前も足りずに苦戦するイツルギ。
だが、これまでの経験と知識を総動員して勝機を見出したイツルギは、自分の持ち味である目にもとまらぬスピードを活かし、旅籠煤を斬りまくって勝利。
とうとう記憶の欠片を前にして、タケツミがやってくる。
懇願するかのように制止するタケツミだが、イツルギの好奇心は止まらなかった。
楽しい先の話より。ぼく、もう――このにおいに、我慢できない。
今すぐ知りたい。ぼくの、失ってない筈の記憶の正体を。
……ば。
見てきます。また後で、タケツミさん!
……馬鹿野郎ぉぉぉぉぉっ!
別離、そして
これは!この記憶は!
何なんだ、何なんですか!!!タケツミさんッッッ!!!
眩い光に包まれて記憶を取り戻したイツルギだが、突如タケツミを拒絶し、飛泉門へと走り出す。
『全部を思い出した』と言うイツルギの言動は明らかに支離滅裂で狂っており、タケツミがイツルギを救うには、最早斬る他なかった。
手加減なしのタケツミには手も足も出ずに斬られてしまうイツルギ。
*15
そのままとどめの一撃を放たれ、イツルギは憧れだった兄貴分の手で討たれることになった。
記憶に縛られ、取り戻した記憶に完全に塗りつぶされて死んでいったイツルギ。
タケツミは相棒の死を悲しむ間もなく、怒りを収めない大蜘蛛を鎮めに向かう。
――――。
――――そぅ、か。わか、った。やっ、と。
ぼくは、まだ……やだ……。
死ね、ない……死にた、くない……!
だが、イツルギは虫の息で生きていた。*16
混乱も収まり、何かを理解したような様子を見せているが…?
サイゲはかわいそうじゃないと抜けないのか