「ねぇライル、夏休みの予定は空いてる?」
休み時間、自習をしている俺に隣から声がかけられる
返事をすると碌なことにならない気がしたので無視をして自習を続ける
「本で読んだの。夏にはお祭りや海水浴に行くものなんだって」
無視されているのを意に介さず話し続ける声
「それでね。私、海を見に行くことにしたの。」
嫌な予感がする
「リリウムは忙しそうだから…」
俺に連れて行けとでもいうつもりだろうか…
「一人で行くことにしたわ!」
「ダメに決まってるでしょう!!」
思わず隣に向いてツッコんでしまう
「…?大丈夫よ?鳥さんについていけば迷わないし…」
この人はまためちゃくちゃなことを言う…
「そんなわけないでしょう。行きたいなら先生にでも頼んで付き添いをつけて…」
「随分とライルは先輩に対して過保護なんだな。」
突然の乱入者に続けようとした言葉が途切れる
「先輩思いの後輩でよかったな。アマリリス」
俺の頭に顎を乗せ無駄にデカい胸を背中に押し付けながらそんなことを言う
「セクハラですよ。先生」
冷静にそう言ってやる
「なんだ?この程度スキンシップじゃないか。それとも、私にドキドキしてしたのか?ライル」
この女やっぱり教育者とは思えない
「先生、ライルが海に行くのはダメだって…」
先輩がしょんぼりとした顔で先生に報告している
「一人で行くのがダメだって言ったんです。それに、僕の許可なんて必要ないでしょう?」
まぁ、本当に一人で行くつもりならさすがにこの教師も先輩を止めるだろう
「なんだ、そんなことか。ライルが連れてってやればいいじゃないか。」
「え?ライルも一緒に来てくれるの?」
とんでもなことを言いだしたぞこの女!?
それに、先輩も目を輝かせながらこっちを見てるし…
「嫌ですよ、僕は夏季休暇は家で…」
「残念だったな、アマリリス。後輩君は忙しいから一人で行くしかないそうだ」
「アンタがついていけばいいだろ!なんで僕が!」
「私は妹と過ごすから忙しいんだ。君なら初めて海に行く先輩をしっかりエスコートできると"期待"していたんだがな」
「うん、ライルと一緒に行けないのは少し残念だけれど…一人で行ってくるね」
ぐ…自分の許可はいらないといった手前これ以上止めるのは難しい…ああもう!
「はぁ…わかりましたよ。僕が連れて行ってあげます。」
その言葉に顔を上げる先輩
「本当!楽しみにしてるね?」
「その代わり、僕の指示には従ってもらいます」
放っておくと何をしでかすかわからないのでしっかりと釘を刺しておく
「アマリリス、ライルは君を言いなりにさしたいそうだぞ?」
「…?そうなの?ライル?」
この女…!
その晩
俺は家の倉庫にいた
止まる場所は我が家の別荘があったはず
それといろいろ準備も必要だ
日焼け止め、水筒、虫よけ、etc
あの先輩が自力で用意して来るとは思えない
俺がしっかり準備しなければ
「…ん?これは…」
ふと、あるものが目に入り思わず手に取る
「一応、持っていくか」
そんなこんなで当日
駅前で待ち合わせると先輩が迷子になる可能性もあったので学園前に集合
約束の時間の30分前に到着し先輩を待つ
なんとか魔導列車のチケットもとれたし行先の下調べも完璧だ
予想以上に大荷物になってしまったがこんなものだろう
決して先輩との旅行が楽しみなわけではない。
そんな考え事をしていると不意に後ろから顔を挟まれ目隠しをされる
「ふふっライル。私は誰でしょう?」
こんなくだらないことをするのは一人しかいない
「はぁ、先輩。子供みたいなマネはよしてください」
目隠しする手を退けて振り返るとそこには
「私だ息子よ」
「うわあぁぁ!」
突然目の前に飛び込んできた先輩とは似ても似つかない白い顔に思わず声を上げてしまう
「私の言った通り成功しただろう?」
「すごい…学園長…!」
色白の不審者に尊敬の目を向ける先輩
「なんで!ここにいるんだ!」
「なに、息子が旅行に行くのが心配で見送りに来たまでだ。決して面白がって来たわけではない」
半笑いで言いやがって…!
「もういいです、先輩行きますよ。」
先輩の手を取り駅へと向かう
「わっ…ふふっライルったらそんなに楽しみなのね」
何やら勘違いをされている気がするが知ったことではない
今すぐこの場を立ち去らねば何を言われるか…
「ところで先輩、その服はどうしたんですか?」
先輩の手を引いて町に入ったところで尋ねる
てっきり普段着など持っていないと思っていたが…
「これはねリリウムにライルが海に連れて行ってくれるって話したら用意してくれたの。ただのお出かけなのにね?」
なるほど、あの会長なら先輩の服なら何でも用意していそうだな
「いいんじゃないですか?似合ってますよ」
女性の服は褒めるべきだと女生徒たちが騒いでいたのを思い出し素直に褒める
実際、淡い青色のワンピースは先輩によく似合っている
「ほんとう?嬉しいな」
そう言って笑顔を向ける先輩から思わず目をそらしてしまう
「…っ!もう行きますよ!」
手を離して速足で駅の方へと歩みを進める
「…?待ってー」(やっぱりライルも海が楽しみなのねあんなに急いで…ふふっ)
先輩がトテトテと追いかけてくるのを立ち止まって待ってやる
「はぁはぁ…もう、置いてかれちゃうかと思った…」
息を切らせながら少し頬を膨らませる先輩
いや、ほんの数メートルだぞどれだけ体力がないんだこの人は
「置いていきませんよ、約束は守ります。それと、今日は暑いですからコレを」
そう言って鞄からあるものを取り出して先輩の頭にのせてやる
「ふぇ…?わぁ…ステキな帽子」
店の窓ガラスに映った自分の姿を見た先輩が喜びの声を上げる
「気に入ってくれたならよかったです。差し上げますよ」
俺にはもう、必要のないものだから
「いいの?なんだかライルにはもらってばっかりだね…」
申し訳なさそうにする先輩の手を引いて再び駅へと歩き出す
「気にしないでください…ほら、列車の時間に遅れます」
「うん。ありがとうライル」
忌々しい太陽が体温を上昇させてくる
あぁ、本当に今日は暑い日だ
駅
「わぁ、おっきぃ…」
「別に、普通でしょ。早く乗りますよ」
恐らく魔導列車を初めて見るであろう先輩が迷子にならないよう手を引いて列車へ向かう
「一人で乗れるよ?本で読んだもの。あそこで切符を買うんでしょ?」
券売所を指さして逆に俺の手を引っ張ってくる
「今回は僕が指定席を用意しましたから必要ありません」
ちゃんと調べては来ていたのか、と思いながらも切符を二枚見せる
この人に任せると何が起こるかわかった物ではない、見ず知らずの地に飛ばされるのは御免だ
「そうなんだ。ありがとうライル。でも、ちょっと残念」
切符を受け取りながら少し顔を伏せる先輩
「ま、まぁ帰りの切符は用意してないから、その時にでも…」
何故か焦ってフォローしようとする俺の視界に嫌なものが映る
「ライルじゃないか?デートは今日だったか。」
「こ、こんにちは。ライル先輩、アマリリスちゃん」
担任の女教師とその妹がこちらに近づいてくる
「デートじゃない!なんでここにいるんだ!」
急いで先輩の手を離し、否定する
「あの…お姉ちゃんが海に連れて行ってくれるんです…ごめんなさい…お二人の邪魔はしませんから…」
たまたま旅行の日程が被ったらしい、こんな偶然ありえるのか…と不良教師に視線を送る
「偶然だよ。ま、たまたま学園長からこの日程の切符を譲ってもらっただけだ」
俺の思考を読んだかのように、ニヤリと笑いながら言ってくる
「はぁ、もういい。行きますよ、せんぱ…」
振り返るとそこに先輩の姿がない
「アマリリスならさっきあっちの方に歩いて行ったぞ?」
クソ教師が人ごみの方を指さす
「止めろよ!教師!ああもう!」
「今日はオフだからな。それに束縛の強い男は嫌われるぜ?」
何やら言っているが無視して先輩を探すためにそちらへ駆け出す
「あっちこっちどっちですぅー」
「危ないよぉ」「行きましょう」
「新しい冒険が始まるのね!」
人ごみの中は様々な声にあふれて先輩の姿は全く見当たらない
(…くそっ一旦さっきの場所に戻るか…)
一度さっきまでいた場所に戻るとそこには…
「あっライル。どこ行ってたの?もしかして迷子?」
ちょこんとベンチに座っている先輩がいた
「違う!勝手に消えたアンタを探してたんだ!」
思わず声を荒げてしまい、先輩の肩がビクッと震える
「…びっくり。」
そんな先輩の隣にドカリと先生が座り肩に手を回す
「アマリリス、ライルは君の事が心配だったんだよ。『大事な』先輩だからな。」
またむかつく顔でこっちを見てくる
「そうなの?ライル?」
「いやっ、そんなつもりは…ともかく!勝手にウロチョロされると迷惑です。ほら」
先輩の方に手を差し出し逃げるように列車へと向かう
走ったせいだろう心臓の鼓動が早い、
列車の中は冷房の魔道具が効いているはずなのに頭に上った熱は引いてくれない
「やっぱり。ライルの手おっきいね」
手の大きさを確かめるように握り返してくる先輩
こんな旅行、面倒なだけだ海なんて行きたくない
そう思っていたはずなのに…。
やがて、指定された席に着き窓側へ先輩を案内する
自分も隣に座り旅の予定を思いだしていく。
そこで、あることに気が付く
「すいません先輩、弁当を買い損ねました。次の駅まで我慢してください」
俺がそう言うと隣で先輩が手荷物からガサガサと袋を取り出す
「大丈夫。今日はライルに貰ってばっかりだったから。さっき、お弁当さん買ってきたの。」
先輩の膝の上には
『ほっぺをぶち落とすカレー弁当』(吹き出しで「おいしいですぅ」と書かれている)
『女将の手作り和風弁当』(狸のキャラクターが描かれている)
がおかれていて
「ライル、どっちにする?」
どうやら選ばせてくれるらしい
『ほっぺをぶち落とすカレー弁当』
ふたを開けると強烈なカレーの匂いが周囲に広がる
「先輩、窓を開けてください」
換気のために先輩に窓を開けてもらう
「とってもおいしそうだね。私も…きゃっ」
窓から突如、小さな竜が飛び込んできて先輩の弁当を掴んで飛び去ってしまう
「あ…」
「これ、食べてください。もとは先輩が買ったものですから」
落ち込む先輩に弁当を差し出す
「でも、ライルの分が…」
「来る前に、食べてきましたから、しばらく問題ありません」
無理矢理、先輩の膝の上に弁当を乗せて通路側に顔をそらす
本当は朝から何も食べてはいないが次の駅で買えば問題ない
「そう?じゃあいただきます。あむっ。おいしい。」
窓からの風に乗ってスパイスの香りが鼻腔をくすぐる
俺の腹が空腹を訴えるようにぐぅと音を立てて鳴く
「…違います」
「何も言ってないよ?」
先輩が無言でスプーンを差し出してくる
「あーん。」
『女将の手作り和風弁当』
ふたを開けると豪勢な料理が色とりどりに目に飛び込む
「これ、高かったんじゃないですか?」
見るからに高級そうな内容に思わず尋ねてしまう
「…?他のお弁当と同じぐらいだったとおもうけど。」
企業努力というヤツだろうか?
まぁ、まずはこの魚の切り身からいただくとしよう
「ガリッ」
・・・・
味を楽しむ余裕などなかった昼食を終える
先輩は窓の外の景色に興味津々らしい
俺は朝が早かったので少し仮眠をとるかと思い、座席を倒していいか確認しようと後ろの席を見る
「よぉ、ライル。また会ったな、ゲームでもどうだ?」
「ど、どうも。ライル先輩」
気のせいだ見なかったことにしよう
そう思って座りなおそうとしたところで、俺と先輩の座っている座席が回転する
「びっくり。先生はこんな魔法も使えるのね。」
いや、ただ席を動かしただけだろ
「もう、お姉ちゃん。邪魔しちゃったら迷惑だよ…」
「ん?そうなのかライル、アマリリス。」
ゲームの箱をひらひらさせながら言ってきやがる
「いえ、ちょうど退屈していましたから。迷惑ではありませんよ」
「みんなでゲームなんて…とっても素敵。」
この先輩は順応が早すぎる…
「ま、勝つのは僕ですけどね」
〜10分後〜
「海の妖婆を使って呪いを全員に配るぞ。これで呪いの山が枯れたのでゲームセットだ」
この女…!大人げなさすぎる!初心者に対して好き勝手しやがって…!
「あ、私の方がお姉ちゃんより点が多い…やった」
「しまった。カウントを間違えたようだ」
「負けちゃった。」
「もう一回だ!今度こそ勝つ!」
結局、俺が一位になることはなかった
そんなこんなで目的地の海に到着
潮風が頬をなでる、波の音が耳に心地いい
先輩もさぞ感動して…いなかった
「う…」
電車の中ではしゃぎすぎたのか顔が真っ青だ
例の姉妹は「野暮用だ」とかなんとか言ってどこかへ消えた
「先輩、大丈夫ですか?飲み物買ってきますね」
先輩を木陰のベンチに座らせやる
「うん…ごめんね。ライル」
「気にしないでください。」
近くに店で「ささっググっとどうぞ」と勧めてくる店員を無視して水を購入する
急いで先輩の元に戻ると・・・
「うぇーい!君一人系?」
(大丈夫?一人?)
「てか、顔色悪くね?あっちで俺らとお茶しない?マジ奢るからさっ」
(気分も悪そうだし涼しいお店で水分補給して休んだほうがいいよ)
「それ天才!危ないから連れてってあげんべ!」
(熱中症とかシャレにならないからおいで)
「えっと…」
「その人に何か用ですか?」
困惑してる先輩の前に割ってはいる
「男連れかよ、行こうぜ!」
(よかった知り合いがいたなら俺らの出る幕じゃないな)
男たちはどこかへと去っていく
「大丈夫でしたか?これ、水です。」
先輩に水の口を開けて差し出す
先輩は両手でそれを受け取りコクコクと飲むとこちらへ差し出してくる
「ありがとう。ライル。はい。」
走って喉が渇いていたので、差し出された水を受け取ってそのまま飲む
…ん?これってもしかして間接…
いや、子供じゃあるまいしそんなことを気にするなんてバカバカしい
大体、間接…だからって何だっていうんだあくまで俺は水を飲んだだけd
「…?どうしたのライル?顔が赤いよ、隣に座る?」
「いえ、結構です!断じて気になんてしてませんから!」
「?ふふっ変なの。」
先輩の体調が回復したので荷物は宿に預け、浜辺へと向かう
石造りの階段をのぼると広大な海が目に飛び込んでくる
「すごい…」
初めて見る海に目を輝かせる先輩を横目で見ながら無事到着できたことに安堵する
「本で読んだよりもずっと大きくて青いのね。それに砂もこんなにたくさん…。ねぇライル」
期待するようなまなざしをこちらに向けてくる
「わかってますよ。行きましょうか。砂浜は足元が悪いですから気を付け…「きゃっ。」」
言いかけたところで先輩が砂に足を取られてこちらに倒れ込んでくる
とっさに体で受け止めようとして俺もバランスを崩す
「あがっ!?」
倒れた衝撃で砂があたりに飛び散り、口の中まで入ってくる
「ふふっ、ライル砂まみれ。」
見上げると俺を押し倒すような形で両手をついた先輩の楽しそうに笑う顔
その服の隙間から白い肌がチラリと覗きまた顔が熱くなる
(誰のせいだと思ってるんだ!くそっ)
「先輩、どいてください。」
文句をグッと飲み込んで顔をそらす
「あ。うん、ごめんね。ライル大丈夫?」
先輩が立ち上がって手を差し伸べてくる
「大丈夫です。心配ありません。それより先輩は?」
その手を取らずに自力で立ち上がり服についた砂を払い落す
「…うん。ライルが受け止めてくれたから…大丈夫。」
自分の手を見ながら少し元気のない声でそう言ってくる
「はい」
そんな先輩から目をそらしながら手を差し出す
「…?」
「また転ぶと危ないですから。僕につかまってください」
「うん!ありがとう。ライル。」
嬉しそうな声出しやがって…調子狂うんだよ
先輩の手を引きながら波打ち際まで歩を進める
途中先輩が「あっちに長老みたいな亀さんが…」とか「踊ってる蟹さんもいるわ」
とかなんとか言っていたが気のせいだろう
波打ち際に到着すると、先輩は靴を脱いで裸足になると
手でスカートをつまんで少し持ち上げて、恐る恐るといった感じで足を踏み出す
スカートから覗く白い脚にちょっとドキリとしてしまう
「きゃっ。冷たい。」
波が先輩の足に触れ、驚きの声を上げた先輩がピョンっと後ろに跳びのく
「そんなことしていると、せっかくの服が濡れますよ」
呆れたようにそう言ってやる
「これが…海。そして…波。本で読んだのと全然違う。…この海はどこまで続いてるんだろう。」
俺の言葉も聞こえないようで、ジッと海を見つめている先輩
その横顔はとても綺麗で…でも、なんだか…そのまま海に吸い込まれて消えてしまいそうで…
そんな先輩を見て俺は…
一緒に海を眺めた
俺も海の方に目を向け広い世界に思いを馳せる
(この広い海の向こうにはどんな世界が広がってるのか…か。そんなこと考える余裕もなったな…)
(学園を卒業したら先輩はどうするんだろう…きっと俺の事は忘れて広い世界を見に…)
ビシャッ!
突然、顔に水がかけられ、思考が途切れる
「うわっ!?何するんだ!」
思わず素が出てしまう
「海ではお友達とこうするってリリウムが言ってたの。先手必勝だって。ふふっ」
誇らしげな顔の先輩が偉そうに笑っている
「………」
「あれ?ライル?私、間違ったのかしら…。」
肩を震わせ髪から水を滴らせた俺に首をかしげる先輩その無防備な顔に
「お返しだ!」
思いっきり水を浴びせてやる。
「わっ!」
驚いた先輩が尻もちをつく、しまったやりすぎたか。
その手を掴んだ
思わず、繋ぎとめるように先輩の手を掴む
「…?ライル。どうしたの?」
海から視線を外しこちらを不思議そうに見つめてくる
「こ、これは、その、放っておいたら先輩が消えてしまいそうで…」
衝動的な行動に後悔して手を放そうとする
「私はどこかに行ったりしないよ?」
が、俺の手を先輩の手がしっかり握り返してくる
「大丈夫。私はライルを置いて行ったりしない。私は先生やライルがいる『今』が大好きだもの。」
そう言って笑顔を向けてくる、胸に暖かいものが広がる
太陽のせいだろう握られた手が熱い
ドドドと心臓の鼓動が大きくなっていく
俺は何かを言おうと口を開く心臓が大きくなりすぎて波の音も聞こえない程…
ドドドドドドドドド!
「波も俺も荒れてくぜぇ!」「大海原を突き穿つ!」
後ろに小舟を繋いだ小型の魔導ボートが飛沫を上げながら俺たちの前を通り過ぎていく
「うわっ!?」「きゃっ」
二人そろって頭から水をかぶり声を上げる
「なんなんだあれは!常識がないのか!」
走り去っていくボートを睨みつける
「しょっぱい。これが海の味…。」
「先輩、大丈夫で…」
茶化した
「こんなもの、珍しくもない。大体、海を見たことがないなんてありえないでしょう」
こちらを無視されたことが気に入らなくて、心にもない言葉が口をついて出てくる
「ライルは、来たくなかった?」
聞こえていたらしい、不安そうにこちらに顔を向けてくる
「先輩が言わなきゃ、絶対に来なかったでしょうね。海なんて」
素直に伝えるのは癪なのでつい突き放すように言ってしまう
「そう、なんだ…ごめんね。」
うっ……しまった。別のことを言えばよかったな……
「ライル、言いすぎだぞ。」
何処からか現れた担任が先輩の肩をそっと抱きながらにらんでくる
「先輩…酷いです…」
「アマリリス、私達と一緒にいこう。」
「うん、先生。ごめんね…ライル、無理に付き合わせて…。」
そのまま先輩は先生に連れられどこかへと消えていく…
ジリリリリリ
ハッ!夢か……今日は先輩と海に行く日。早く待ち合わせ場所に向かわなければ。
バッドエンド1 素直になれなくて
先輩の姿に言葉を失う。
濡れた服が体に張り付き、そのボディラインを浮かび上がらせ
胸元が透けてうっすら…
「えい。」
「うわっ!?」
先輩が勢いよく水を顔に浴びせてくる
冷静になって急いで先輩に背を向ける
(何考えてるんだ俺は…あんな…女性の身体をまじまじと…怒られて当然じゃないか!)
「ふふっ。水かけっこは私の勝ちだね。」
先輩の勝ち誇ったような声が後ろから聞こえてくる
俺は首を大きく振って雑念と一緒に水を払い、上着を脱いで後ろに差し出す
「と、とりあえず。一旦、これを羽織ってください!」
「…?……あっ」
先輩が何かに気付いたのか急いで上着を受け取ってくる
「すいません。嫌でしたよね…」
胡麻化すのも不誠実だと思い、見てしまったことを素直に謝る
「ううん。…ライルは嫌じゃないよ。でも…知らない人に見られるのは嫌だなぁって。」
恥ずかしそうに手をモジモジとさせながら頬を染める先輩を直視できず手で顔を覆う
「ライルの服おっきいね。」
俺の服を羽織りながら、無邪気な声を上げる先輩に邪な考えがよぎった自分が嫌になる
「ヒューヒュー。お熱いねお二人さん。」
そんな俺達の間に突如、担任教師が現れ肩を組んでくる
「わっ。」「何を!?ふぐぅ!」
無駄にデカい胸が俺の顔を圧迫する
「アレか!アベックってやつだ!」
よく見ると顔は赤らんでおり手には酒の瓶が握られていた
「お姉ちゃん…古いよ…今はカップルっていうんだよ…」
その後ろから遠慮がちにカステルも現れる
「あ〜?二人ともびしょ濡れじゃないか!あっちで水着の貸し出しやってるからカステル連れて行ってやれ」
二人の格好を見ると
カステルは薄緑色のフリルのあしらわれたかわいらしい水着を着用しており
ベルディリアの方は黒いビキニタイプの水着で腰には麻色のパレオが巻き付けられている
「わかった。お姉ちゃんお酒はほどほどにね。」
先輩を連れ立ってトテトテと二人で建物のほうへ歩いていく
正直、助かったと思いながら、組まれている肩を振りほどく
「妹の相手で忙しいんじゃなかったのか?」
「ん〜?海ってのはみんなで遊んだ方が楽しいんだぜ?」
「ふん、どうだか。俺も水着に着替えてきます。」
そう言って歩き出す背中に声がかけられる
「ライル、よくやっているよ君は。」
「ーーーっ!うるさい!頼まれたからには完璧にする。それだけだ!」
こんな酔っ払いに褒められてもうれしくとも何ともない
「――だが、減点1だ。」
速足でその場を後にしようとした足を止め振り返る
「何を――」
そこには水着姿の悔しいが、スタイルだけはいい担任教師が真剣な顔でこちらを見つめていた
その雰囲気に気圧されて口を噤んでしまう、そして担任、ベルディリアがこちらに歩いてくる
そして俺の前までたどり着くと、その口を開く
「異性の水着は褒めなくちゃだめなんだぜ?…それとも、私の水着に見惚れて言葉を失ったか?」
「はあ?何を言い出すかと思えば、別にいいでしょう、僕の言葉なんて。」
緊張してして損した。そんな言葉、言われなれてるだろうに
「まったく。何を言われるかじゃなくて誰に言われるかが重要なんだ。私は君の言葉を期待しているんだよ。」
ほら、言ってみろ。と自信満々に言ってくる
一体、何なんだこの人は…どいつもこいつも調子が狂う
「ま、まぁ、アンタにしては似合ってる…と思う。」
絞り出すようにそう呟く
「今日はこのぐらいで勘弁してやろう。だが、"先輩"にはちゃんと言うんだぞ」
そんなこと…
「わかってますよ。女性の服装は褒めるべきだと聞き及んでますから」
そのまま速足でその場を後にする
後ろから「おい!ちょっと待て!それはどういう意味だ!」なんて騒ぐ声が聞こえるが知ったことか
水着を貸し出しているという施設に到着する
そこは簡素な藁屋根の施設で、入口の上に大きく『海の家 はちごく』と書いた看板が見える
何か怪しいな、と思いながら足を踏み入れる
屋内は冷房の魔道具が効いているのかかなり涼しい、
水着の貸し出しはどこでできるのかと周囲意を見渡すと、カウンターでけだるそうに頬杖つく水色の髪の少年と目が合う
「お兄さんいらっしゃい。ご飯、水着の貸し出し、ミニボート、どれがご入用?」
よく見るとカウンターの奥は食堂になっているらしい、鉄板で何かを焼く音が聞こえる
「水着の貸し出しをお願いします。」
少年にそう言うと、少年はすっと料金表を取り出してくる
「女物なら500ルピ、男物なら300ルピだよ」
懐から財布を取り出し300ルピを支払うと奥の更衣室に案内される
「右が男子更衣室、左が女子更衣室だ。さて、僕は見回りに行こうかな」
少年はそういって左の方へ消えていく
…確か右が男子更衣室のはずだ、説明を間違えたのかと思い、左に入ろうとしたところで
俺の肩がいきなりものすごい力でつかまれ引き戻される
「あたしらのシマで堂々とのぞきたぁ、なかなか肝が座ってるじゃないか。」
振り返ると煙管を咥えた妙齢の女性が立っていた
その手は、俺の肩にのせているだけのように見えるのに、ビクともしない
「すみません。少年がこちらに入ってい行ったものですか…」
急いで頭を下げる
「少年…?あぁ…もしかして、ぶふっ」
俺の言葉に最初は怪訝そうな顔をしていた女性だが、
カウンターの方を見て何かに思い当たったのか突然噴き出す
「アイツ、見回りとか言ってサボったね…まったく…」
呆れたようにため息をつくと笑って続ける
「男子更衣室はこっちだよ。安心しな、アイツはこっちでシめとくから」
そう言って反対の通路を指さす
「…わかりました。」
少し疑問に思いながらも素直に更衣室の方へ向かう
手早く水着に着替えた俺は外で先輩を待つことにした
「遅いな…」
壁にもたれかかりながら、欠伸を噛み殺す
(拙いな…朝早かったから眠気が…)
なんだろう…懐かしい感じがする
潮の香りと、どこか懐かしい、嗅ぎなれた香りがする
…これは…本の匂いだ…紙とインクの落ち着く香り…
頭が優しく撫でられる
「母…上…?」
ゆっくりと目を開く
「あ、起きた。」
眼前に俺の顔を覗き込む先輩の顔
その透き通る瞳が俺を見つめている
「…大丈夫?お水のむ?」
飲み物の容器を俺の口元まで運んでくる
ハッキリとしない頭で、差し出されたそれに思わず口をつける
冷たい水がのどを潤し、思考をクリアにしていく
(待て、何だこの状況は…俺は確か…)
そして、自分の置かれている状況を理解する、理解してしまう
どうやら、先輩を待っているうちに眠ってしまったらしい
それで先輩たちが心配して運んでくれたのだろう
それはいい、(厳密にはよくはないが)それよりも問題なのは…
「…お水、おいしい?」
この何も考えてなさそうな先輩に膝枕され、剰え水を飲ませてもらっているという状況
(こんな姿を誰かに見られたら…!)
「ぶふぅっ!!ゲホッゲホ!」
理解した瞬間、口に含んでいた水を吹き出し、咽こんでしまう
「わっ…ライル、急に起き上がったら危ないよ?」
先輩が起き上がった俺の背中をさすってくる
「ゲホッ…すいません先輩、また濡らして…」
そこまで言いかけて、改めて先輩の姿に言葉を失う
小首をかしげてきょとんとするその装いは
普段は制服で隠されている細く白い腕や脚を惜しげもなく晒している
上下一体型のその水着は先輩によく似合っていて、俺は思わず息をのんで見つめてしまう
「…?どうしたの、ライル?」
その言葉にハッとして急いで立ち上がる
「ちょっと…頭を冷やしてきます…!」
先輩の返事も聞かず、波打ち際まで走る
(まさか、あの格好で膝枕を…!?ダメだ!考えるな!)
「ちょっと…頭を冷やしてきます…!」
そう言ってライルは走って行ってしまう
「…行っちゃった。」
顔が赤かったけど…もしかして、怒らせちゃったのかな…?
一緒に遊びたかったのだけれど…
胸がチクリと痛む、学校にいた時とは違う痛み
「全く、ライルは後で説教だな。」
後ろから声がして振り返ると先生が立っていた
「先生、おかえりなさい」
「ああ、ただいま。アマリリス」
先生の両手には飲み物が握られている、カステルちゃんと飲むのかな?
そうだ、ライルが買ってきてくれたお水、なくなちゃった…後で買いに行かなきゃ
「私がここで見ているから、ライルの所へ行っておいで。」
やっぱり先生はすごい、私の心が読めちゃうみたい
「別にライルは怒って行ってしまったわけじゃないよ。」
「そうなの?」
私がそう言うと先生はニヤリと笑って耳打ちをしてくる
先生は私の知らないことをたくさん教えてくれる
「ありがとう、先生。」
教えてもらったことを実践する為に、ライルの元へ向かう
「ああ、後輩を可愛がってやれ」
続かない
一体どんな悪知恵を仕込まれちゃったんでしょうねぇ
夏が終わってしまう前に書き上げたい
でも、本家の関係性のアマライも書きたい
てか、書き直すか真剣に悩んだ
書きたい展開と解釈違いの狭間で永遠に悩んでスランプ気味でもある
この後
砂浜にライル君が埋められたリ
でっかい砂のお城建てたり
宿の部屋がミスで一部屋しか空いてなかったり
夜空の星の物語を先輩から聞かせてもらったり
帰りの列車で疲れて寝ちゃった先輩が肩によりかかってきたり
次の夏祭りの約束を取り付けられたり
いろいろお約束イベントがあったりするんじゃないですかね?
知らんけど
だれか書いて♡
この物語はフィクションです電車内とか公共交通機関で匂いの強いものを食べるのはやめようね
ゲームで遊ぶのもいいけど騒ぎすぎて周りに迷惑かけないようにね。
アマリリスの水着…
誰か描いて♡