今から話すのはアタシの実体験で、なんていうか……まだ終わっていないか……
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アタシは14歳の獣人で、美食殿というギルドに所属している。
ギルドのメンバーは、ペコリーヌ(17)・コッコロ(11)・ユウキ(35)とアタシの四人。
ユウキはこの春から就職のため一人暮らしを始める予定。
その日も、ギルドハウスで「RAGE Shadowverse 2020 Winter」を見ながらアタシとアホリーヌとコロ助で
ペコリーヌ「ユウキくんの家はどこにしますか?」
コッコロ「あるじ様が一人暮らし…とても心配です」
などとユウキのことで話をしており、ユウキはアタシと同じ部屋の自室で、就職に関する支度をしていた。
ザザ……ザザザザ……
不意にTVにノイズが入った。
すぐにおさまったので、アタシは気にせずTVを見続けながら、「……んでさぁ」と、話しを進めていたんだが、ふたりに目線を移すと、ある異変に気付いた。
アホリーヌとコロ助が口を半開きにして、何かに驚いたように目を全開に見開きTVを見ていた。
「!!……え!?……何!?どうしたのよ!?」
アタシは、今まで見たことのないふたりの顔に動揺しながら聞いた。
2人「…………」
しかし、ふたりはアタシを無視しTVを見続けた。
突然、ふたりの見開いた目だけがアタシを見た。
「!!!!え!!?」
次の瞬間、まるで今までなにもなかったように、
ペコリーヌ「でも自炊とかは厳しいかもしれませんね☆」
コッコロ「やはりわたくしが毎日様子を見にいきましょうか」
と話し出した。
「いや……ちょっ!!ちょっと待って!!今の何!?今のは何!?」
アホリーヌはともかく…コロ助は普段からあまり冗談とかは言わない方で、真面目な性格だった。
だから、冗談でもあんなことをするとは到底思えなかった。
ペコリーヌ「今のってなんですか?」
コッコロ「……??キャル様、具合が悪いのですか?」
キョトンとした顔をしている。
ふたりの性格を知っているアタシは、それが誰かを騙すためのリアクションではなく、素のリアクションであることが解り、同時に違和感を覚えた。
「え……今の……って……」
ふたりは覚えていない……自分たちがあんな顔をしていたことを……
「いや……なんでも……ないわよ」
アタシは口ごもり、下向いた。
ペコリーヌ「ところで、キャルちゃんはいつ死ぬんですか?」
「は?」
コッコロ「そういえば、その話もした方がいいですね。いつにしますか?自殺ですか?事故ですか?」
「は?」
意味がわからなかった。
突然のことの連発にかなり困惑しているアタシは、
「あ……あ?え?アタシが…死……?え?……は?」
と、かなりしどろもどろだった。
しかし、ふたりはまるで当たり前のように話を進めた。
ペコリーヌ「私達も今まで待ってましたからね!そろそろいいと思います☆」
コッコロ「キャル様、わたくしが手伝って差し上げますので。安心してください。ね」
ふたりはなおも淡々と話をしている。
首吊りは汚いとか、睡眠薬がいいとか、飛び降りは途中で気絶すれば痛くないとか、まるで見たことがあるように……
会話の端々では、どこが面白いのかアハハと笑い声も聞こえた……
「ちょっ……ちょっと!!!さっきから何変なこと言ってるのよ!!!」
明らかにいつもと違うふたりに不安と怖さを感じて、アタシは大声で怒鳴った。
ふたりが自分の方に顔を向けた。
「う……!!!」
ふたりの目が左右逆を向いていた。
「ひ!!!!!!」
目は左右逆を向いていたが、顔はしっかり自分の方を向きながら、壊れた人形のように繰り返し連呼していた。
アタシは耐えられなくなり、ユウキの居る部屋に逃げ込んだ。
バン!!
ユウキ「テメーふざけんな!!部屋に入る時はノックしろって言ったろ!!」
ユウキはなぜかスボンを脱ぎ、その手には入浴中のペコリーヌの豊満なポディを写した写真が握られていた。
「や……ヤバいわよ!!アホリーヌとコロ助が!目が逆で……しねって言って……あ!その前にTVにノイズが……!!」
ユウキ「いや、ごめん。何言ってんのかわからん」
自分でも何を言ってるかわからなかった。今のアタシに起こってることが理解出来なかった。
「あの……あの……だから……」
わけがわからなくなり頭を抱えた。
「と……とにかく、アホリーヌとコロ助が変なのよ……!!」
ユウキが口を半開き、目を目一杯見開いていた……
「あ……あぁ」
ふたりがおかしくなって、ユウキまで……
徐々にユウキの目が左右逆を向いていくのを見て、アタシは玄関に走った。
なんなのよ!!なんなのよ!!なんなのよ!!
玄関から外に出る前、チラッと居間が目に入った。
アホリーヌとコロ助がこちらを向いて立っていた。
やはり目は左右逆を向いていた……
全速力で人が通りが多い場所まで走った。
その後、知り合いのママサレンに相談すべく急いでサレンディア救護院に行った。
ママサレンは霊とかお化けが見える人で、普通だったら理解不能なアタシの話を真剣に聞いてくれた。
「そっか……よし、明日知り合いの寺に行ってなんとかしてもらいましょう。今日はまず休んで。貴方ひどく疲れた顔をしてますよ」
その日は救護院に泊まった。一睡もできなかったのは言うまでもない。
次の日の朝六時、救護院からチャリで三十分くらいの寺に連れて行ってもらい、そこの
住職に前夜のことを話した。
「わかりました……大変だったでしょう。憔悴しきっている……」
アタシの顔を見て、住職は心配そうに言って下さった。
その後、「そのままではいけない」と言われ、ママサレンと住職とアタシの三人でギルドハウスに戻ることにした。
ギルドハウスの中は地獄だった。
アホリーヌは両腕、両足から血をダラダラ流しながら、居間と廊下を歩いていた。
居間の隅には、血の付いた包丁が数本捨ててあった。
ペコリーヌ「あと2往復したら、右足の血管を…… あと3往復したら、二の腕の血管を……」
ブツブツと独り言を言っていた。
コロ助は風呂場にいた。
満タンに水のはった浴槽に自らの頭を突っ込んで、出てを繰り返していた。
自らの手で頭を押しながら……
コッコロ「あはは がばっ
あはは がばっ
あはは がば
死ぬ手前!!!死ぬ手前!!!死ぬ手前ぇええええええええええ!!!」
ユウキは机に向かって文字を書いていた。
ただ……手にはカッターを持ち、机の上には鏡があった。
『アストライア大陸 ランドソル王国』
ギルドハウスの住所を体に刻んでいた。
アタシは恐ろしさで泣いた。
その後三人共、なんとか住職さんと応援に呼んだ他の寺の人に助けてもらった。
おかげで今はなんともなく過ごせてる。
ただ、今でもユウキとアホリーヌの体には傷が残っていて、温泉とか行くとかなり鬱になる。
後日談
あの後、住職さんに聞いたんだけど、仲間たちがあのようになってしまった原因は、アタシの行いにあったみたい。
アタシがランクマで暴れすぎたから、黄色くてギョロ目のがっしりした男たちが呪いをかけたらしい。
しかも呪い方も惨くて、ただ殺すのではなく、仲間
が出来てから乗り移り、ゆっくりと時間を掛けて追い詰めていくやり方だと聞かされた。
ただ呪いが強すぎて、住職さんでは完全にはとれず、皆は常に御守りを持ち歩いてる。
……アタシ達にかけられた呪いは、まだ続いている……