注意:この記事には性的な描写やゴア・グロ表現が含まれます。18歳未満の人は読まないようにしてください。
『がらんどう』
「旅人よ、何故この庭園に参られたのですか。」
ほーちゃんは問うた。愛する妻の為、お前を殺し、羽を毟って、薬にしてやる。と答えた。
「そうですか。」と答え、ほーちゃんは、憐憫に満ちた目でわたしを見つめ、避けることもせず、ただ矢を受け入れた。
歓喜とも言えぬ感情に包まれ、私はその羽を毟り始めた。
意気揚々と帰路につき、これからの華やかな生活について夢想した。
そして、扉を叩けば、妻はすでに息を引き取っていた。
灰の中から甦りしほーちゃんが問うた。
「貴方に何が残っていますか。」
何も。と答えた。何も残っていない。ただ、がらんどう。
『おまえのしんぎ』
おお、ローフラッドよ。どうか、私を逆さましては貰えないか。
愛する妻が、死んでしまった。私は苦痛を受け入れられない。
どうか、どうか、逆さまにしておくれ。
もし、受け入れないというならば、首を吊り上げ死んでしまおう。
答えられぬというならば、身を投げ出して溺れてしまおう。
吊るされた男よ、これは事実か。
『麗しい』
忘れてくだされ、ミルティオ様。私は、やっと気がついたのです。私は、私の伴侶を愛していたのではなく、伴侶を愛する己を愛していたのです。自己満足です。ですから、そんなに悲しい顔をしないでくだされ。私は満足しています。死の淵に立つときに、隣に誰かがいるだけで幸せなのです。もう目が見えないですね、貴女様の麗しい顔が見れないことは残念です。口をぱくぱくと動かしてらっしゃるのでしょうが、もう耳も聞こえません。貴女様の手の温かさだけ、わかります。私は十分堪能しました。それでは、さようなら。
イディス聖導院にきて2年目。
最初のうちは慣れなかった勉強と淑女作法の両立も慣れてくる頃。友達もできて私はそれなりに充実した日々を送っていた。
今日はクラスメイトと久々のお茶会。新入生の世話で忙しく、ここ最近は開催することができていなかったのだが――。
「まったく……ツイていないですわね……」
たまたま友人たちの予定が重なってしまい、今日のお茶会は急遽中止になってしまった。
だが今は陽ざしがよく暖かい春の昼下がり……しかも私の好きな白い薔薇が咲いていて、この日を逃してしまうのはもったいなく思う。
「たまには一人でお茶を嗜むのも、悪くはないかもしれないですわね……」私はこうして一人でベランダに出た。
かごからティーセットをテーブルの上に広げると、魔力を込めてお茶を沸かす。火の魔法は私の得意分野だ。
庭の方から薔薇の香りが漂っている。それにしてもあたり一面満開の白い薔薇だ。来週から雨の予報だったため、この花たちも近いうちに散ってしまうだろう。これを見逃すなんて、やっぱりもったいない。一人とはいえ、来てみて正解だったようだ。
ふと、この庭は誰が整備しているのだろうか、と気になった。庭の整備は園芸部が担当していると聞いたことがある。きっと、この薔薇のように清らかで美しい生徒が整えているのだろう。
たまには庭を散策してみるのもいいかもしれない。お茶をするのも悪くはないが、せっかく一人なのだからたまには違うことをしてみたくなった。私はポットにつけた火を消すと、庭の奥に向かって歩き始めた。
イディス聖導院の庭はけっこう広い。花壇の奥には小さな森になっており、一年生の時にはたびたび課外授業で訪れていた。
今は授業の時間ではないので人もいなく閑散としている。整備された森の小道を一人で歩いていると心が落ち着いてくるようだ。森の木陰に土のにおい。道のそばでは小川が流れており、小鳥のさえずりが聞こえてくる。
たまには園芸部のみなさんに、いつも花や自然で学園を彩ってくれていることに感謝すべきだな――。そう思って歩いていると奥の方からなにやら「セイッ!」という掛け声が聞こえてきた。
森を整備してくれている園芸部の人だろう。茶色い長髪の少女は一人で木の枝を伐採していた。
その後ろ姿をみるに、体躯からしておそらく1年生だろうか。1年生なのにもう一人で整備をしていることにも驚いたが――もっと驚いたのはその伐採方法だった。
彼女は鋏を使っていない。彼女は自身の指先に魔力を込め、とがった’爪’で、道にはみだしている枝を切り落としていた。彼女の無駄な動きのない手刀に沿って余分な枝が切り払われていく……そして、小さな腕を振るたびにフサフサでおおきい"尻尾"がゆらゆらと揺れる。
その洗練された動きに思わず、「きれい……」と口に出た。
彼女は学園内でも珍しい、「獣人」だった。
彼女の小さな背中がビクッと震える。こちらに気づいてなかったのだろう。
「あっ!その……」彼女は姿勢を正して言った。
「上級生の方にお見苦しいものをお見せして大変申し訳ありません。淑女にあるまじき仕草を見せてしまいました。
鋏を使わず、手癖の悪いところを……お目汚し、失礼いたしました」彼女はぺこりと頭を下げた。
お目汚しだなんて、とんでもない。
「いえ、大変興味深いものを見させてもらいましたわ……。すごく洗練された動きですのね。あなたは1年生?」
「あっ、えっその……!」彼女は童顔を真っ赤にして目を伏せてしまった。
何か気に障ることを言ってしまっただろうか。もしかしたら目上相手に気を張ってしまっているのかもしれない。
まず最初に仲良くなるために、ここイディス聖導院でやることはひとつだ。
「そうだわ!もしあなたがよかったらだけど……一緒にお茶でもどうかしら?」
ティーポットを温めなおしながら彼女のことについていろいろ聞いた。
聞けば彼女は1年生の身でありながら、自然の知識に詳しいことから特別に一人で整備を任されることがあるとのことだった。体よく使われているだけではないのか?とも思ったがどうやらそうでもないらしい。
「この薔薇は今は春なので水分をたっぷり吸って白い花を咲かせるんですが、
秋になると水の吸い上げが少なくなって濃いピンク色になるんですよ♪」彼女は楽しそうに言った。
私は彼女に聞くまでここの薔薇が1年に2回花を咲かすことも知らなかった。種類によるらしい。
私がお茶を淹れなおしている間にも、今咲いている花の名前……ここの花はどういうふうに水の量を調整して育てているのか…もうすぐどんな植物が実を結ぶのか。
この庭園のことについてとても丁寧に説明してくれた。
「詳しいのね」
「私森育ちなので昔からお母さんの手伝いで植物のお世話をしていたんです……あっこのお茶おいしいですっ!」
「ありがとう。私の好きなローズヒップティーよ。なるほど……それであんなに手際よく枝の剪定ができるのですわね」
そう言ったところで彼女の表情が少し不安を帯びたものになる。
「も、申し訳ありませんっ!私の集落ではあの切り方で教わっていて……はしたないですよね。
部活の先輩には注意されていたんですが……」
私はティーカップを置くと彼女の顔をまじまじと見る。普段の園芸部のやり方はよく知らないが、彼女の手さばきは見事なものだった。
「いいえ!そんなこと……次々と枝を切りそろえていくあの動き、とても見事でしたわ。素人の私が言うのもなんですが……きっと、あなたの先輩は見る目がなかっただけのことですわよ!」
せっかくのあの美しい所作を否定された気分になったからか、ついムキになって言ってしまった。
彼女は一瞬きょとん、とするとふふっと顔をほころばせた。
「何がおかしいですのよ!」
「いえ、すいません……先輩がまるで自分のことを悪く言われたみたいに怒って下さったみたいで」
彼女は白い手袋で口元を抑えて笑った。尻尾がパタパタと振れている。どうやら今回は気分を害してはいないようだ。
これが――私と純真の花少女との出会いだった。
こうして知り合った私と純真の花少女は、たまに放課後を一緒に過ごすようになった。
本を交換しあったり、勉強を教えてあげたり…彼女はお返しに部屋に飾るように花を見繕ってくれたりもしてくれた。良い先輩と後輩の関係、というやつだ。
そうこうしているうちに春の季節は終わり、初夏を過ぎて衣替えの季節となっていた。
「朝顔が咲く季節になりましたね」
紫色の花を眺めながら彼女は言った。
「朝顔って、朝と夕方とで色が変化してるのって知ってましたか?朝は青っぽい色を咲かせている子も夕方になるにつれて赤っぽい色になるんですよ」
私の淹れた紅茶を啜りながら彼女は言った。こうして一緒にベランダでお茶をするとき、庭園に咲いている花についていろいろ教えてくれるのが一環となっていた。
そういえば朝学園に行く時はもっと青っぽかった気がする。日常の小さな発見が得られるようになったのも、こうして彼女と知り合うようになってからだ。
彼女の方を見やると、夏服になって露わになった細腕が目に映る。ティーカップを持つ彼女の白い手袋が目に入った。
「そういえばあなたまだその手袋しているのね。日焼け対策?」
「あっいえ……前にお見せした通り、私の爪は尖ってて危ないので……」そう言って彼女は手袋を外してみせた。
彼女のしなやかな手つきが露わになる。確かに人よりもちょっと爪が長めではあるが、別に危ないほどではなかった。剪定時にだけ魔力で一時的に切れ味を増しているのだろう。
それよりも私が気になったのが、手の甲の肌のカサつきだ。彼女の手を握ってみると少し粉がふいているようだ。
「ちょっと、あなた……ちゃんとお肌のケアはしてる?せっかく綺麗な手してるのに……
ああもう、あなた土いじりしてるんだから、暑くてもちゃんと手のケアはしなきゃダメよ」
私は鞄からハンドクリームを取り出すと、自分の手に広げて彼女の手を覆うように塗ってやる。
ほのかにグレープフルーツの香りがした。
「先輩その……恥ずかしいです……」彼女が少し照れたようにいう。
「ダメよ。せっかく白くてきれいな肌してるんだから……これからはちゃんとケアしてあげること!」
塗り終わって手を開放してあげると、彼女は鼻をスンスンして手のにおいをかいだ。彼女の口元が緩んでいる。
どうやらお気に召したようだった。ちょっとはしたないけど。
「先輩は私の手が怖くないのですか?」
「?別に……どうかしたの?」
「私、先生に注意されたんです。爪が危ないからって……でも私たち獣人はある程度爪が長くないと落ち着かないんです」
彼女は自分の手をもじもじさせた。
「けど先生は認めてくれなくて……仕方がないので普段は手袋をして隠してるんです」
彼女は目を伏し目がちに言った。
私は彼女の手をもう一度取った。
華奢で白い手に整えられた爪先。土いじりのせいで肌は荒れていたが今はハンドクリームを塗ったおかげでツルツルしている。
よくみると、爪の先が植物の繊維で少し緑色になっている。手を握ってみると、手のひらの皮が少し固くなっているのがわかる。庭仕事をしている人の手だ。
「こんなに美しい手をしてるのに……貴方の手は確かにちょっと危ないかもしれないけど、これは働く人の手よ。
毎日真面目に庭のお手入れをしていないとそもそもこの手にはならないはずですもの」後輩のちいさな手をいたわるように揉んでやる。
「私は貴方の手を尊敬してますのよ」
彼女のチョコレートの瞳が揺れたような気がした。
「わたし、この学園に来て、周りの人と違うこの手がコンプレックスだったんです……でも……お姉様にそう言っていただけるなら今はこの手がちょっとだけ誇らしいです」
彼女が私のことをお姉様と呼んだのは、これが初めてのことだった。
夏休みが過ぎ去り、イディス聖導院の後学期がはじまる。
まだ日差しは暑かったが、時々吹く涼しい風が秋の訪れを感じさせた。
外で過ごすには悪くない気候だ。ここらでまた庭の散策をするのも悪くない機会なのだが……
「ツイてないですわね……まさかこんなときに熱を出してしまうだなんて……」
季節の変わり目は風邪をひきやすい。昨日夜遅くまで本を読んでいたのが仇となったか。
今はイディスは連休中なので、幸か不幸か授業に遅れるということはない。せっかくの休日がつぶれるのは癪に障るけども。
「ハァ……だるいしもう寝ようかしら……」
ベッドに寝転ぶと身体がズーンと重くなっているのを感じる。
まだ起きたばかりだったがまともに身体を動かす気にならない。その日は食事を適当に済ませてとっとと眠りについた。
2日経ったがなかなか熱が引かない。困った。せっかくの連休がいよいよパーになってしまった。
一人で部屋にこもっているとやることがない。家事も最低限しかやっていないので色々溜まりつつある。だんだん色々なことが億劫になってきた。
ゲホッゲホッと咳をする。時々窓から風が吹いてくる他には、私以外に動くものはない。部屋はシーンと静まり返っていた。
――確か同級生の友達はこの連休で実家に帰ると言っていた。残念ながら、部屋にお見舞いに来てくれるということもないだろう。
仕方がないのでご飯も食べずに再びベッドにこもることにする。ふと、後輩のあの子の顔が思い浮かんだ。
そういえば夏休みはお互い部活で忙しかったから、この連休中に久しぶりに町に一緒に出掛ける約束をしていたんだっけ。
一応園芸部の知り合いに風邪でいけないことは伝えてあるので心配はいらないはず。あの子が悲しそうに耳を垂らしている様子が目に浮かんだ。
夢を見た。幼いころに熱をだして学校を休んでいた時の記憶だ。
家の掃除をしたり洗濯物を干している母をベッドから眺めていた。
普段は学校に行ってて、あまり見ない姿の母を見てなんとなく、不思議な感覚だったのを覚えている。
あの時、暇そうにしている私を見て、喉に効くハーブティーを淹れてもらったっけ……
ピンポーン
突然ドアの鈴が鳴った。ハッと目を開く。寝巻きが汗でぐっしょり濡れている。時計を見ると昼を過ぎたくらいだった。
一体誰だこんなしんどい時に。休日に誰かが部屋を訪れること自体が珍しい。
仕方なく、重い身体を起こしてベッドから起きて玄関にいく。ドアを開けるとモフモフな栗毛の小さな女の子が立っていた。尻尾が心配そうにピンと立っている。
「もしかして寝ていらっしゃいましたか?」純心の花少女は心配そうにこちらを見ている。
「園芸部の先パイからお姉さまが体調を崩しているとお聞きして……もしよかったらお姉さまのお世話をさせてもらえませんか?」
――心配してお見舞いに来てくれるのはとてもありがたい。だが風邪をうつしてしまう可能性がある。
それに、あまり後輩に弱いところを見せないというのが淑女というものだろう。だが心細かったのも事実だ。
私は返答に窮する。
「いえ……たすかるわ。ちょっと散らかってるけどあがってもらえるかしら?」
あんな夢を見たからだろうか。今はなんとなく、誰かに甘えたい気分だった。私は彼女を部屋に上げた。
部屋に上げるとまず彼女に食欲はあるかと聞かれた。
作る気力はないが食べる元気はある。そう答えると彼女はふふっと笑っておかゆを作ってくれた。お鍋を沸かしている間も、たまっていた洗濯物などをてきぱきとこなしている。
一人暮らしには慣れたつもりだったが1年目の私はこんなに手際よく家事ができた記憶がない。
「なんだか慣れてる?」と聞くと彼女は「よく弟と妹の世話をしていたのでこういうことには慣れっこなんです」とはにかんで答えた。普段からよく親の手伝いをしていたんだろうな。
彼女が作ってくれたおかゆを食べる。
温かいおかゆが喉を通ると、お腹の中だけでなく、なにか目の奥がジーンとなるのを感じた。久しぶりのまともな食事に身体だけでなく心が満たされていくのを感じる。
どうやら自分で思っていたよりも心の方が弱っていたらしい。おかゆを食べている私の姿を彼女は慈しむように見ていた。献身的に世話をしてくれる彼女の存在が、今はとてもありがたかった。
おかゆを食べると今度はハーブティーを淹れてくれた。ありがたくいただくことにする。
飲んでみると、鼻にすーっと通るような香りがした。
「これって……」
「このお茶、前にお姉さまが風邪によく効くっておっしゃってたのを思い出して淹れてみたんです……いかがでしたか?」
「ええ……おいしいわ。でもよくそんなの覚えていたわね」
えへへ、と彼女が照れたように笑った。なぜだろうか。彼女が笑っただけでなんとなく、この部屋全体が明るくなったような気がした。
日も傾きかけた頃、身体を拭いて新しい寝巻きに着替えた後再びベッドに入る。今日はなんだか、久しぶりにぐっすり眠れそうな気がした。 あの後彼女には部屋の掃除までしてもらった。至れり尽くせりだ。今度何かふるまってやらないといけないな。
「それではお姉さま、失礼いたします。今日持ってきたお花はここに置いておきますね」
彼女は帰る支度をし始めた。
その時、なんとなく。
なんとなくだが、心がざわついたのを感じた。
部屋がまた寂しいものになってしまう気がしたのだ。
まって。
そう声をかける前に、気づいた時には私は彼女の服の裾をつかんでいた。
「お姉さま?」
換気中の窓から、風が吹いてきてカーテンが揺れた。窓から差し込んだ夕日で彼女の白い肌が、普段よりもきれいな赤みを帯びて見える。彼女の栗色の髪が風に沿ってまばらになびいていた。
夕日を帯びた彼女の瞳が、私を見つめている。私も彼女を見つめ返す。
今この空間には私と彼女の二人しかいない。
ふと、美人だなと思った。
しばらくの静寂。
お互いに見つめ合った後「お姉さま?どうしたんですか」と、彼女に言われる。
そこでようやくはっと意識を取り戻して手を離した。さっきまで掴んでいた右手は手汗をかいていた。
「ごめんなさい、その……ここ最近一人でいて色々と疲れてたから。今日は本当に来てくれてありがとう。嬉しかったわ」
そういうと、なんだか気恥ずかしくなってきて目を伏せた。
彼女の顔が見れない。彼女に背中を向けるようにして布団にくるまった。
彼女の声が背後から聞こえてくる。
「いつものお姉さまも素敵ですけど……今日のお姉さまは、なんだかちょっと甘えん坊さんですね」
彼女の言うとおり、普段の私らしくない。返答に迷った私は、唸るようにして適当に返事をはぐらかした。
部屋に再び静寂が訪れる。今は風が葉っぱを揺らす音だけが聞こえていた。
「お姉さま」
彼女に再び呼ばれて、布団にくるまったまま振り返る。彼女の顔がすぐ目の前にあった。
彼女は私の額にキスをした。
「弟や妹が小さかったころ、寝むれないときによくこうしておまじないをかけていたんです……
おやすみなさい。お姉さま」
時が止まったような気がした。彼女の顔が真っ赤に見えるのは照れているのか、それとも夕日のせいなのか。
彼女は私の頭を撫でて今度こそ部屋を出ていった。しばらく私は固まったままだった。
彼女に先ほど口づけされたところを手で触ってみる。
頭に上る熱が風邪によるものなのか、それとも別の何かによるものなのかはよく分からなかった。
彼女が去っていった玄関の方を見やると、ドア横の花瓶に一本の赤い薔薇がそえてあった。
それは以前、彼女が好きだと言っていた花だった。
あれからようやく熱も下がった。あの子の看病のおかげでなんとか連休明けには回復できた。
ただ、風邪が治って以来まだあの子には会っていなかった。今会うと緊張してまともにあの子の顔を見ることができないような気がしたのだ。
あの子は、なんで私にあの時キスしたんだろうか。あの子は私のことをどう思っているのだろう。
とはいえ、お見舞いのお礼もしなきゃいけないしどうしよう……と授業合間の休憩時間に考えていると、教室の端の方で固まってる集団からなにかキャーキャーと騒いでいるのが聞こえてくる。
「え!?どこの人!?」 「いや別にそんなんじゃないわよ〜」
「ただちょっと気になってるだけよ、それに相手は女の子だし」
「なあんだ女の子かあ……」
どうやら恋バナに花を咲かせているらしい。
私は、どうなのだろうか。遠巻きに彼女たちの話を聞きながら、頬杖をついて思考を巡らせる。
あの子のことが好きなのだろうか。
実際、好きではあるだろう。しかしそれは友人として、という意味であるはずだ。
だって相手は女の子で、しかも後輩だし。ほかに何があるというのだろうか?
あの子も同じ気持ちであるはずだ。多分、私を純粋に慕ってくれているだけのはずなのだ。
唇に指先をあてて思案する。
お見舞いの時のあの子の顔が思い浮かぶ。結局あの時、彼女はどんな顔していたんだろうか。
自分の気持ちを整理する前に、あの子の真意を知るべきかもしれない。ただ直接聞くというのもさすがに恥ずかしい。
どうしようかと考えていると、一つの案を思いつく。思いついたままに私は図書館に足を運んでいた。
私は図書館をよく利用する方の生徒だった。お茶のお供によく本を借りるためだ。
そのためある程度どこの本棚に何があるかは把握している。目的の本を探すのにそう時間はかからなかった。
「――あ、あった。これなら載ってるかしら。」私が見つけてきたのは、いわゆる異文化交流について載っている本だ。
昔ちらっと読んだ程度だが、たしか歴史や食文化のほかに、その地域特有の挨拶や仕草についても載っているはず。パラパラとめくっていくと、
――あった。大きなケモノ耳を頭から生やした母親と子ども二人がハグをしている写真が載っている。獣人について書かれている項目だ。
適当にページをめくっていく。私たち人間にはあまり考えられないような文化について書かれていた。
例えば、仲のいい友達同士で尻尾を絡ませあうハグの仕方、そのほかには親しいもの同士の挨拶で鼻を互いに軽く押し付ける……いった感じだ。
獣人というのは人間よりも意外と距離感が近いのかもしれない。あの子の初対面の時の様子からは想像つかないけれど。
「あ。」探していたページが見つかった。
『額への口づけ』
どうやら親や目上の家族が、子供に対して親愛を込めたおまじない、ということが書いてある。
親愛、という言葉を頭の中で反芻してみる。
額を手で撫でる。たしかに、あの子に対して親愛の念がないということはないだろう。
私はあの子が好きで、あの子もきっと自分を好きなハズだ。でなきゃあんなことしないはず。
親愛。
悪くない響きだった。好きよりもちょっと上というか。
私たちの間には確かにその言葉がぴったりな関係な気がする。
つまりはこういうことか。
あの子は恐らく、普段の学園での生活ではやらないような、自分の文化でのあいさつを私にしてしまったにすぎない。
あの子はただ単に私との距離感を取り違えたに違いないのだ。
彼女が私に向けている感情がどんなものであるかを知ることが出来て安心した。だが、何となく気落ちしたような気もする。
ん?なぜだろうか。
まあいいか。気持ちの整理がついた今なら、あの子に会っても問題ない気がする。
そういえば夏は暑すぎて外にいられないから久しくお茶会も開いていなかったな。最近涼しくなってきたし、久しぶりに『親愛』なる後輩を誘ってみようかしら。
心のわだかまりがとけてすっきりした。今なら純粋な気持ちであの子に会いに行くことが出来そうだ。
授業が終わって庭の薔薇園の前であの子を待っていた。
最近は暑さもすっかり引いて、私の好きな白い薔薇が満開の季節になっていた。
今日は会う約束はしていないが、今までの経験からして今日はあの子がここで整備をする番のはずだ。
そして待っていると――よし。あの子がやってきた。彼女に手を振る。
「この間はお見舞い来てくれてありがとうね」
いつもは私の顔を見るとあの子は小動物のようにパっと笑顔を見せて近づいてきてくれる。だが今日のところは様子がおかしい。
私に気づくと手に持った庭の手入れ用具が入ったかごで顔を隠してしまった。
「え、ちょっと。どうしたのよ」
「あ、えと……」いつもは明るい彼女だが、声音からしてあんまり元気ではなさそうだ。どうしたのだろうか。
突然、意を決したように彼女がこっちをまっすぐ見てきた。目が少し涙目になっていた。
「その……この間はごめんなさいっ!」
「え」
なぜか謝られた。彼女は涙ながらに続ける。
「私たち獣人はちょっと普通の人よりも距離感が近いみたいで……学校に入ったばかりのときも距離感間違えちゃって友達に避けられちゃって……」
「いやそれは分かっ――」
「あれから癖が出ないように注意してたのにあの時はなんでか間違えちゃって……ここでは人に対してやっちゃダメって分かってたのに……お姉さまに嫌われたいわけじゃないのに……ごめんなさい……ごめんなさい……うわあああん!」
彼女は大きな声をあげて泣き出してしまった。
何とかして泣き止んでもらおうとしてもなかなか聞き入れてくれない。もう気にしていないよといっても、彼女は聞く耳持たずだった。
そんなに入学したての頃の失敗がトラウマだったのか。それとも、そんなに私に嫌われたくなかったのか。
「ああもう、わかってるわよ!もう気にしてないって!」
大きな声を出すと彼女はびっくりしてこっちを見てくる。毛を逆立ててはいるが、少しだけ泣き止んだ。
「ぐすっ……でもあの時私はお姉さまに対して失礼なことを……」
「図書館で調べてきたのよ。あなたたちの文化について」
私は図書館について調べてきたことを説明する。あの時の真意が気になって獣人のしぐさについて調べたこと、獣人の距離感が普通の人とは違うこと、あの行為にどういう意味があるかを知った今ではもう気にしてないことを説明する。
「だから、もうあなたも泣かないの!もう全然気にしてないんだから」
「うう〜お姉さまぁ……」
彼女を落ち着けるために抱きしめてやる。彼女の髪から花のような甘い匂いがした。
「ごめんなさいお姉さま……すごい迷惑かけちゃって……うう……」
「はいはい、もういいから」
頭をなでてやると、ひぐっひぐっと泣いて痙攣していた彼女の身体がだんだん落ち着いてきた。
落ち着いてきたところで身体を離して顔を見てみると、彼女の目元が真っ赤になっていた。
「もうあなた、涙で顔がグチャグチャじゃない……はいハンカチ」
落ち着きを取り戻したら今になって恥ずかしくなってきたのか、うう、と唸りながらも渡されたハンカチで目元を拭きだした。グズグズしながらハンカチで顔をぬぐう仕草がちょっとかわいいと思った。
ハンカチを返してもらう。彼女の方を見やると、目元はまだ充血していた。
落ち着いてはいるが、機嫌をうかがうような目線でじっ、とこちらを見つめている。
もう一度頭を撫でてやったらようやくえへへ、と笑顔になってくれた。機嫌がよくなってきたのか耳をパタパタしている。
一瞬まるでほんとのワンちゃんみたいだなと、不埒な考えが浮かんだ。いけないいけない。
まったく。調子のいい後輩なんだから。
「けど今回はほんとに迷惑かけてごめんなさい。お姉さまに嫌われたらどうしようって思って……」
この様子だとまだ気にしているのかもしれない。もうわたしはいいって言ってるのに。
ふと彼女を見ていたら思いついた。あの本には獣人同士の仲直りのしぐさも載っていたはずだ。
この間の意趣返しもこめてせっかくだし、彼女のやり方に合わせてみようかしら。
「ねえ。」
私は再び彼女に向き合う。
「どうしたんです?お姉さま」
彼女が親しげな表情こちらを見つめてくる。彼女の顎に手を添え軽く頬にキスをした。
「はい。もうほんとに気にしてないんだからね」
一瞬、彼女はきょとんとした表情だった。
が、気づいた瞬間、彼女はバッと後ずさりした。
「な、な、なんですかいきなりお姉さま!?」
「え!?いやその、あなたのやり方にちょっと合わせてみようかなって思っただけじゃないのよ!」
「いや人間同士はキスって恋人同士でしかしないものだと聞いてるんですけど!?」
言われてみたら確かにそうだ。冷静に考えてみたらなんで私は後輩の女の子にキスをしているんだ?あまり深く考えずに身体が動いてしまっていたのか?
いやいやいや、けど先に仕掛けてきたのはそっちのはずだ。何を私は焦っているんだ。
「だってあなたもこの前私にキスしてきたじゃないの!あなたたちの間では普通なんでしょう!?なんでされる側になった途端にそんなに照れてるのよ!」
こっちまで照れてきちゃうじゃないの、という言葉をなんとか飲み込む。
彼女は目を伏せ、顔を真っ赤にしながら言った。
「だってお姉さまなんだもん……」
え。
彼女は続けざまに言う。
「だったらなんで、お姉さままで顔が真っ赤になんですか!」
そこまで言われて、自分の頭に昇っている熱にようやく気付いた。
え、いやだって。
親愛なる後輩になんとなく、このあいだと同じやり方返してみようと思っただけで。他意はないはず。
けど私がキスしたのは、間違いなく私が彼女にキスしたいと思ったからで。
「あなたなんて耳まで真っ赤じゃないっ……!」
「だって、その……」
まんざらじゃ、ないですし……
彼女は消え入りそうな声でつぶやいた。今度は私も何も言わなかった。
庭園に静寂が訪れる。
なぜ熱を出した時、思い浮かんだのが彼女の顔だったのか。
どうして彼女が部屋を出ていこうとした時、ものすごく寂しい気持ちになったのか。
彼女にキスされた時、どうしてあんなに頭に熱が昇っているのを感じたのか。
彼女の笑顔を見たとき、どうしてこんなにも愛おしく感じてしまうのか。
なんとなく、分かった気がする。
「お、お姉さま……?」
私は彼女の頬に手を添える。
「あ――」彼女が瞼を閉じる。
私たちは唇を重ね合った。
彼女は拒否しなかった。
部屋の時と同じ、また静寂が流れる。
しばらくそうし合った後、唇を開放した。
「人間の恋人同士はね、キスっていうのはこうやって唇同士を合わせてするものなのよ」
気恥ずかしくて、彼女の目をまっすぐ見ないままで言った。心臓の音がうるさかった。
ちらりと彼女の方を見る。手で必死に、顔がにやけそうなのを隠していた。その仕草もなんだか愛おしく見えてくる。
きっと、私も彼女も今同じ気持ちを抱いているのだろう。
ああそうか。この感情は単なる友情や親愛だけで片付けられるものじゃない。この気持ちは――彼女に対して抱いているこの感情こそが――
自分の胸に焦がれている熱が一体何なのか。ようやく、この時になって私は気づいたのだ。
作品置き場です。タイトルは後で変えればええやろとテキトーに付けた結果、変えられなくなった為の産物です。他意は無いのです。ごめんなさい。
2/2/2キャラのエッチじゃない作品や、2/2/2でないキャラのエッチだったりエッチじゃなかったりする作品を投稿したいなと思い、記事を作成しました。
私だけでこの記事使うのは持て余しそうなので、他の方も作品を投下していただけると嬉しいです。
2/2/2キャラのエッチじゃない作品や、2/2/2でないキャラのエッチだったりエッチじゃなかったりする作品を投稿したいなと思い、記事を作成しました。
私だけでこの記事使うのは持て余しそうなので、他の方も作品を投下していただけると嬉しいです。
2/2/2キャラのエッチな作品は、ユニカスに投下していただけると幸いです。
それと、BL,GL,NTR,強姦,食人,死姦,獣姦,スカトロ,リョナ等の人を選ぶ要素を含む作品の場合は、
タイトル(スカトロ,レイプ,リョナ要素有) この様に書いていただけると、読む人に対して親切なのでよろしくお願いします。
それと、BL,GL,NTR,強姦,食人,死姦,獣姦,スカトロ,リョナ等の人を選ぶ要素を含む作品の場合は、
タイトル(スカトロ,レイプ,リョナ要素有) この様に書いていただけると、読む人に対して親切なのでよろしくお願いします。
『がらんどう』
「旅人よ、何故この庭園に参られたのですか。」
ほーちゃんは問うた。愛する妻の為、お前を殺し、羽を毟って、薬にしてやる。と答えた。
「そうですか。」と答え、ほーちゃんは、憐憫に満ちた目でわたしを見つめ、避けることもせず、ただ矢を受け入れた。
歓喜とも言えぬ感情に包まれ、私はその羽を毟り始めた。
意気揚々と帰路につき、これからの華やかな生活について夢想した。
そして、扉を叩けば、妻はすでに息を引き取っていた。
灰の中から甦りしほーちゃんが問うた。
「貴方に何が残っていますか。」
何も。と答えた。何も残っていない。ただ、がらんどう。
『おまえのしんぎ』
おお、ローフラッドよ。どうか、私を逆さましては貰えないか。
愛する妻が、死んでしまった。私は苦痛を受け入れられない。
どうか、どうか、逆さまにしておくれ。
もし、受け入れないというならば、首を吊り上げ死んでしまおう。
答えられぬというならば、身を投げ出して溺れてしまおう。
吊るされた男よ、これは事実か。
『麗しい』
忘れてくだされ、ミルティオ様。私は、やっと気がついたのです。私は、私の伴侶を愛していたのではなく、伴侶を愛する己を愛していたのです。自己満足です。ですから、そんなに悲しい顔をしないでくだされ。私は満足しています。死の淵に立つときに、隣に誰かがいるだけで幸せなのです。もう目が見えないですね、貴女様の麗しい顔が見れないことは残念です。口をぱくぱくと動かしてらっしゃるのでしょうが、もう耳も聞こえません。貴女様の手の温かさだけ、わかります。私は十分堪能しました。それでは、さようなら。
「突然だがララミア。お前を改造しようと思う」
私の突然の宣言に面食らったのだろう。ララミアは暫しフリーズした。そして、再起動後の最初の一言は…「えぇ〜〜!」そんな叫び声だった。
「博士!博士!ダイジョウ博士!なんだって、突然そんな事を思いついちゃったんですか!」
「いやねぇベルフォメット君が、なんか強くてカッコいいやつを作ってねぇ私もそれ、作りたいなぁ〜と」
「その事と、私を改造する関連性が見いだせません!」
「その強くてカッコいいやつの素体が、心を持った機械らしくてねぇ。そんでもって、近くにちょうどいい素体があるから…ね」
「そっそんな理由で私、改造されようとしてるんですか!」
「ダイジョーブ、ダイジョーブ。改造の成功率は大体、70%だ。これは、ポ◯モンのきあいだまの命中率と同じ確率だよ。成功するさ多分」
「不安しかありませんよ〜〜!」
「ええい!つべこべ言わずに、さっさと工房に行かないか!どうせ、マスター権限で逆らえないんだから」
「横暴だ〜!機械権侵害だ〜!」
そんな文句を垂れながら、ララミアは工房へ向かっていく。まったく…最初からそうしていれば良かったものを…。
「それじゃあ、私も行きましょうかね」
そうして、私も工房へ向かうのだった。
〜〜〜
「それじゃあララミア。次に目が覚める時は、新しい君に生まれ変わった時だ。それじゃあ、おやすみ」
「……絶対に成功させてくださいよ?」
「もちろんさ」
「………おやすみなさい。博士」
そう言って、ララミアは機能を停止させた。
「さて、それじゃあやりますかぁ」
ララミアの改造に取り掛かる。目標は、強くてデカくてカッコいいだ。
〜〜〜
ガチャガチャ、ギィギィ、ドカンドカン。バリバリ、ギコギコ、バキリ。工房に工事現場もかくやといった騒音が響く。
そして、こんな独り言も聞こえてくる。
「うーん思ってたよりも……この機能はオミットするかぁ…まぁパワーがあれば良いだろPower is Justice」
「あーこの大きさだと二足歩行は無理だなぁ…四足で行くか」
「折角だし、角…角付けよう!そんでもって、1680万色に光らせよう!最近のトレンドだし」
「あれ?これは…角って言うより、牙だな?」
「あっれぇ?材料ない…これじゃあ腕が一本しか作れない…」
「まぁ一本でいっか!ただ、それなら腕じゃなくて触手にしよう!それと、牙と牙の間に設置しよう!」
「これは…象いや、マンモスじゃね?」
「やっべぇ発声機能つけ忘れた…」
「慌てて付けたは良いけど…急増だから、人語話せねぇな…まぁマンモスの見た目で人語喋るのも違和感あるし、いっかぁ」
「うーん?間違ったかなぁ?……まぁデカいし、見ようによっては…カッコいいかな?」
「というか、今からどうこう出来る資金も材料も無いし、もうこれでいいか!ガハハッ」
「完成だ!」
目論見と少し違ったが、完成はした。後は、ララミア…いや、メカニカルマンモスを目覚めさせるだけだ。彼女も、新しく生まれ変わった自分の体を気に入る事だろう。
「さぁメカニカルマンモスよ!起動するのだぁ!」
「パオォォォォォン!!!!」
目覚めた彼女は、突如暴れ出した。まぁだろうな。
冠するは力、役割は蹂躙。
再誕せし獣に言語は無し、パオンと叫び、暴れまわる。
あの、邪智暴虐な博士を、懲らしめねばと。
使用素材。音速戦闘機構――ララミア。
必要以上の巨大化と、無駄機能の実装による資金不足で、改造失敗。
私の突然の宣言に面食らったのだろう。ララミアは暫しフリーズした。そして、再起動後の最初の一言は…「えぇ〜〜!」そんな叫び声だった。
「博士!博士!ダイジョウ博士!なんだって、突然そんな事を思いついちゃったんですか!」
「いやねぇベルフォメット君が、なんか強くてカッコいいやつを作ってねぇ私もそれ、作りたいなぁ〜と」
「その事と、私を改造する関連性が見いだせません!」
「その強くてカッコいいやつの素体が、心を持った機械らしくてねぇ。そんでもって、近くにちょうどいい素体があるから…ね」
「そっそんな理由で私、改造されようとしてるんですか!」
「ダイジョーブ、ダイジョーブ。改造の成功率は大体、70%だ。これは、ポ◯モンのきあいだまの命中率と同じ確率だよ。成功するさ多分」
「不安しかありませんよ〜〜!」
「ええい!つべこべ言わずに、さっさと工房に行かないか!どうせ、マスター権限で逆らえないんだから」
「横暴だ〜!機械権侵害だ〜!」
そんな文句を垂れながら、ララミアは工房へ向かっていく。まったく…最初からそうしていれば良かったものを…。
「それじゃあ、私も行きましょうかね」
そうして、私も工房へ向かうのだった。
〜〜〜
「それじゃあララミア。次に目が覚める時は、新しい君に生まれ変わった時だ。それじゃあ、おやすみ」
「……絶対に成功させてくださいよ?」
「もちろんさ」
「………おやすみなさい。博士」
そう言って、ララミアは機能を停止させた。
「さて、それじゃあやりますかぁ」
ララミアの改造に取り掛かる。目標は、強くてデカくてカッコいいだ。
〜〜〜
ガチャガチャ、ギィギィ、ドカンドカン。バリバリ、ギコギコ、バキリ。工房に工事現場もかくやといった騒音が響く。
そして、こんな独り言も聞こえてくる。
「うーん思ってたよりも……この機能はオミットするかぁ…まぁパワーがあれば良いだろPower is Justice」
「あーこの大きさだと二足歩行は無理だなぁ…四足で行くか」
「折角だし、角…角付けよう!そんでもって、1680万色に光らせよう!最近のトレンドだし」
「あれ?これは…角って言うより、牙だな?」
「あっれぇ?材料ない…これじゃあ腕が一本しか作れない…」
「まぁ一本でいっか!ただ、それなら腕じゃなくて触手にしよう!それと、牙と牙の間に設置しよう!」
「これは…象いや、マンモスじゃね?」
「やっべぇ発声機能つけ忘れた…」
「慌てて付けたは良いけど…急増だから、人語話せねぇな…まぁマンモスの見た目で人語喋るのも違和感あるし、いっかぁ」
「うーん?間違ったかなぁ?……まぁデカいし、見ようによっては…カッコいいかな?」
「というか、今からどうこう出来る資金も材料も無いし、もうこれでいいか!ガハハッ」
「完成だ!」
目論見と少し違ったが、完成はした。後は、ララミア…いや、メカニカルマンモスを目覚めさせるだけだ。彼女も、新しく生まれ変わった自分の体を気に入る事だろう。
「さぁメカニカルマンモスよ!起動するのだぁ!」
「パオォォォォォン!!!!」
目覚めた彼女は、突如暴れ出した。まぁだろうな。
冠するは力、役割は蹂躙。
再誕せし獣に言語は無し、パオンと叫び、暴れまわる。
あの、邪智暴虐な博士を、懲らしめねばと。
使用素材。音速戦闘機構――ララミア。
必要以上の巨大化と、無駄機能の実装による資金不足で、改造失敗。
カシムは激怒した。必ず、かの邪智暴虐の運営を除かなければならぬと決意した。カシムには環境がわからぬ。カシムは、ローテ村のフォロワーである。共鳴をキメ、ユアンと遊んで暮して来た。けれども邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。きょう未明カシムは村を出発し、野を越え山越え、十里はなれたアンリミ環境にやって来た。カシムには父も、母も無い。女房も無い。妹と二枚暮しだ。この妹は、村の或るメカニカルな犬を、近々、花婿として迎える事になっていた。結婚式も間近かなのである。カシムは、それゆえ、花嫁の衣裳やら祝宴の御馳走やらを買いに、はるばるアンリミ環境にやって来たのだ。先ず、その品々を買い集め、それから環境の前線をぶらぶら歩いた。カシムには竹馬の友があった。機構の解放である。今は此の環境で、AFネメを支えている。その友を、これから訪ねてみるつもりなのだ。久しく逢わなかったのだから、訪ねて行くのが楽しみである。歩いているうちにカシムは、環境の様子を怪しく思った。ひっそりしている。新弾追加から暫く経ち、環境が静かなのは当りまえだが、けれども、なんだか、そのせいばかりでは無く、環境全体が、やけに寂しい。のんきなカシムも、だんだん不安になって来た。路で逢ったクルトをつかまえて、何かあったのか、1年まえに此の環境に来たときは、新弾追加されて一か月たっても皆が歌をうたって、環境は賑やかであった筈だが、と質問した。クルトは、首を振って答えなかった。しばらく歩いて骸に逢い、こんどはもっと、語勢を強くして質問した。骸は答えなかった。カシムは両手で骸のからだをゆすぶって質問を重ねた。骸は、あたりをはばかる低声で、わずか答えた。
「運営は、カードを制限にします。」
「なぜ制限にするのだ。」
「環境の流動性のため、というのですが、よくわかりませぬ。」
「たくさんのカードを制限にしたのか。」
「はい、はじめは導きの妖精姫・アリアを。それから、ブラッドウルフを。それから、マナリアの知識を。それから、グレモリーを。それから、ダークドラグーン・フォルテを。それから、加速装置を。」
「おどろいた。運営は乱心か。」
「いいえ、乱心ではございませぬ。カードを、信ずる事が出来ぬ、というのです。このごろは、デッキの心をも、お疑いになり、派手な動きをしているデッキには、人質ひとりずつ差し出すことを命じて居ります。御命令を拒めば十字架にかけられて、ナーフされます。これから、一枚ナーフされる予定です。」
聞いて、カシムは激怒した。「呆れた運営だ。生かして置けぬ。」
カシムは、単純な男であった。買い物を、背負ったままで、のそのそサイゲ本社にはいって行った。たちまち彼は、巡邏の警吏に捕縛された。調べられて、カシムの懐中からは短刀が出て来たので、騒ぎが大きくなってしまった。カシムは、運営の前に引き出された。
「この短刀で何をするつもりであったか。言え!」運営は静かに、けれども威厳を以もって問いつめた。その顔は蒼白で、眉間の皺は、刻み込まれたように深かった。
「環境を運営の手から救うのだ。」とカシムは悪びれずに答えた。
「おまえがか?」運営は、憫笑した。「仕方の無いやつじゃ。おまえには、わしの苦労がわからぬ。」
「言うな!」とカシムは、いきり立って反駁した。「カードの効果を疑うのは、最も恥ずべき悪徳だ。運営は、自身で作ったカードの効果を疑って居られる。」
「疑うのが、正当の心構えなのだと、わしに教えてくれたのは、おまえたちだ。おまえたちの効果は、あってはならない。すぐに暴れ、環境を滅茶苦茶にする。存在しては、ならぬ。」運営は落着いて呟き、ほっと溜息をついた。「わしだって、平和を望んでいるのだが。」
「なんの為の平和だ。自分の地位を守る為か。」こんどはカシムが嘲笑した。「罪の無いカードを制限にして、何が平和だ。」
「だまれ、下賤の者。」運営は、さっと顔を挙げて報いた。「口では、どんな清らかな事でも言える。わしには、カードの腹綿の奥底が見え透いてならぬ。おまえだって、いまに、制限候補になってから、泣いて詫びたって聞かぬぞ。」
「ああ、運営は悧巧だ。自惚れているがよい。私は、ちゃんと制限にされる覚悟で居るのに。命乞いなど決してしない。ただ、――」と言いかけて、カシムは足もとに視線を落し瞬時ためらい、「ただ、私に情をかけたいつもりなら、制限発表までに三日間の日限を与えて下さい。たった一枚の妹に、亭主を持たせてやりたいのです。三日のうちに、私は村で結婚式を挙げさせ、必ず、ここへ帰って来ます。」
「ばかな。」と運営は、嗄れた声で低く笑った。「とんでもない嘘を言うわい。逃がした小鳥が帰って来るというのか。」
「そうです。帰って来るのです。」カシムは必死で言い張った。「私は約束を守ります。私を、三日間だけ許して下さい。妹が、私の帰りを待っているのだ。そんなに私を信じられないならば、よろしい、このアンリミ環境に機構の解放というカードがいます。私の無二の友人だ。あれを、人質としてここに置いて行こう。私が逃げてしまって、三日目の日暮まで、ここに帰って来なかったら、あの友人を制限にして下さい。たのむ、そうして下さい。」
それを聞いて運営は、残虐な気持で、そっと北叟笑んだ。生意気なことを言うわい。どうせ帰って来ないにきまっている。この嘘つきに騙だまされた振りして、放してやるのも面白い。そうして身代りのカードを、三日目に制限発表してやるのも気味がいい。カードは、これだから信じられぬと、わしは悲しい顔して、その身代りのカードを一枚制限に処してやるのだ。世の中の、適性とかいう奴輩にうんと見せつけてやりたいものさ。
「願いを、聞いた。その身代りを呼ぶがよい。三日目には日没までに帰って来い。おくれたら、その身代りを、きっと制限にするぞ。ちょっとおくれて来るがいい。おまえの罪は、永遠にゆるしてやろうぞ。」
「なに、何をおっしゃる。」
「はは。いのちが大事だったら、おくれて来い。おまえの心は、わかっているぞ。」
カシムは口惜しく、地団駄踏んだ。ものも言いたくなくなった。
竹馬の友、機構の解放は、深夜、サイゲ本社に召された。運営の面前で、佳き友と佳き友は、1年ぶりで相逢うた。カシムは、友に一切の事情を語った。機構の解放は無言で首肯、カシムをひしと抱きしめた。友と友の間は、それでよかった。機構の解放は、縄打たれた。カシムは、すぐに出発した。初夏、満天の星である。
カシムはその夜、一睡もせず十里の路を急ぎに急いで、村へ到着したのは、翌日の午前、陽は既に高く昇って、村人たちは野に出て仕事をはじめていた。カシムの妹は、きょうも犬の餌をしていた。よろめいて歩いて来る兄の、疲労困憊の姿を見つけて驚いた。そうして、うるさく兄に質問を浴びせた。
「なんでも無い。」カシムは無理に笑おうと努めた。「アンリミ環境に用事を残して来た。またすぐアンリミに戻らなければならぬ。あす、おまえの結婚式を挙げる。早いほうがよかろう。」
妹は頬をあからめた。
「うれしいか。綺麗な衣裳も買って来た。さあ、これから行って、村の人たちに知らせて来い。結婚式は、あすだと。」
カシムは、また、よろよろと歩き出し、家へ帰って神々の祭壇を飾り、祝宴の席を調え、間もなく床に倒れ伏し、呼吸もせぬくらいの深い眠りに落ちてしまった。
眼が覚めたのは夜だった。カシムは起きてすぐ、花婿の家を訪れた。そうして、少し事情があるから、結婚式を明日にしてくれ、と頼んだ。婿の犬は驚き、それはいけない、こちらには未だ何の仕度も出来ていない、生命の量産が来るまで待ってくれ、と答えた。カシムは、待つことは出来ぬ、どうか明日にしてくれ給え、と更に押してたのんだ。婿の犬も頑強であった。なかなか承諾してくれない。夜明けまで議論をつづけて、やっと、どうにか婿をなだめ、すかして、説き伏せた。結婚式は、真昼に行われた。新郎新婦の、神々への宣誓が済んだころ、黒雲が空を覆い、ぽつりぽつり雨が降り出し、やがて車軸を流すような大雨となった。祝宴に列席していた村人たちは、何か不吉なものを感じたが、それでも、めいめい気持を引きたて、狭い家の中で、むんむん蒸し暑いのも怺こらえ、陽気に歌をうたい、手を拍うった。カシムも、満面に喜色を湛たたえ、しばらくは、運営とのあの約束をさえ忘れていた。祝宴は、夜に入っていよいよ乱れ華やかになり、人々は、外の豪雨を全く気にしなくなった。カシムは、一生このままここにいたい、と思った。この佳いカードたちと生涯暮して行きたいと願ったが、いまは、自分のからだで、自分のものでは無い。ままならぬ事である。カシムは、わが身に鞭打ち、ついに出発を決意した。あすの日没までには、まだ十分の時が在る。ちょっと一眠りして、それからすぐに出発しよう、と考えた。その頃には、雨も小降りになっていよう。少しでも永くこの家に愚図愚図とどまっていたかった。カシムほどの男にも、やはり未練の情というものは在る。今宵呆然、歓喜に酔っているらしい花嫁に近寄り、
「おめでとう。私は疲れてしまったから、ちょっとご免こうむって眠りたい。眼が覚めたら、すぐにアンリミに出かける。大切な用事があるのだ。私がいなくても、もうおまえには優しい亭主があるのだから、決して寂しい事は無い。おまえの兄の、一ばんきらいなものは、効果ダメ無効と、それから、ダメージカットだ。おまえも、それは、知っているね。どんな理由があろうとも、そんな効果を持ってはならぬ。おまえに言いたいのは、それだけだ。おまえの兄は、たぶん偉い男なのだから、おまえもその誇りを持っていろ。」
花嫁は、夢見心地で首肯うなずいた。カシムは、それから花婿の肩をたたいて、
「仕度の無いのはお互さまさ。私の家にも、宝といっては、妹とユアンだけだ。他には、何も無い。全部あげよう。もう一つ、カシムの弟になったことを誇ってくれ。」
花婿は揉手して、てれていた。カシムは笑って村人たちにも会釈して、宴席から立ち去り、ユアン小屋にもぐり込んで、死んだように深く眠った。
眼が覚めたのは翌日の薄明の頃である。カシムは跳ね起き、南無三、寝過したか、いや、まだまだ大丈夫、これからすぐに出発すれば、約束の刻限までには十分間に合う。きょうは是非とも、あの運営に、人の信実の存するところを見せてやろう。そうして笑って磔の台に上ってやる。カシムは、悠々と身仕度をはじめた。雨も、いくぶん小降りになっている様子である。身仕度は出来た。さて、カシムは、ぶるんと両腕を大きく振って、雨中、矢の如く走り出た。
私は、今宵、制限にされる。制限にされる為に走るのだ。身代りの友を救う為に走るのだ。運営の奸佞邪智を打ち破る為に走るのだ。走らなければならぬ。そうして、私は制限にされる。若い時から名誉を守れ。さらば、ふるさと。若いカシムは、つらかった。幾度か、立ちどまりそうになった。えい、えいと大声挙げて自身を叱りながら走った。村を出て、野を横切り、森をくぐり抜け、隣村に着いた頃には、雨も止やみ、日は高く昇って、そろそろ暑くなって来た。カシムは額ひたいの汗をこぶしで払い、ここまで来れば大丈夫、もはや故郷への未練は無い。妹たちは、きっと佳い夫婦になるだろう。私には、いま、なんの気がかりも無い筈だ。まっすぐにサイゲ本社に行き着けば、それでよいのだ。そんなに急ぐ必要も無い。ゆっくり歩こう、と持ちまえの呑気のんきさを取り返し、好きな小歌をいい声で歌い出した。ぶらぶら歩いて二里行き三里行き、そろそろ全里程の半ばに到達した頃、降って湧わいた災難、カシムの足は、はたと、とまった。見よ、前方の川を。きのうの豪雨で山の水源地は氾濫はんらんし、濁流滔々と下流に集り、猛勢一挙に橋を破壊し、どうどうと響きをあげる激流が、木葉微塵に橋桁を跳ね飛ばしていた。彼は茫然と、立ちすくんだ。あちこちと眺めまわし、また、声を限りに呼びたててみたが、繋舟は残らず浪に浚さらわれて影なく、渡守りの姿も見えない。流れはいよいよ、ふくれ上り、海のようになっている。メロスは川岸にうずくまり、男泣きに泣きながらZEUSに手を挙げて哀願した。「ああ、鎮めたまえ、荒れ狂う流れを! 時は刻々に過ぎて行きます。太陽も既に真昼時です。あれが沈んでしまわぬうちに、本社に行き着くことが出来なかったら、あの佳い友達が、私のために制限されるのです。」
濁流は、カシムの叫びをせせら笑う如く、ますます激しく躍り狂う。浪は浪を呑み、捲き、煽おり立て、そうして時は、刻一刻と消えて行く。今はカシムも覚悟した。泳ぎ切るより他に無い。ああ、神々も照覧あれ! 濁流にも負けぬ愛と誠の偉大な力を、いまこそ発揮して見せる。カシムは、ざんぶと流れに飛び込み、百匹の大蛇のようにのた打ち荒れ狂う浪を相手に、必死の闘争を開始した。満身の力を腕にこめて、押し寄せ渦巻き引きずる流れを、なんのこれしきと掻かきわけ掻きわけ、めくらめっぽう獅子奮迅の人の子の姿には、神も哀れと思ったか、ついに憐愍を垂れてくれた。押し流されつつも、見事、対岸の樹木の幹に、すがりつく事が出来たのである。ありがたい。カシムは馬のように大きな胴震いを一つして、すぐにまた先きを急いだ。一刻といえども、むだには出来ない。陽は既に西に傾きかけている。ぜいぜい荒い呼吸をしながら峠をのぼり、のぼり切って、ほっとした時、突然、目の前に一隊の盗賊が躍り出た。
「待て。」
「何をするのだ。私は陽の沈まぬうちにサイゲ本社へ行かなければならぬ。放せ。」
「羨ましいねえ。持ちもの全部、俺にも分けてくれよ。」
「私にはいのちの他には何も無い。その、たった一つの命も、これから運営にくれてやるのだ。」
「その、いのちを分けて欲しいのだ。」
「さては、運営の命令で、ここで私を待ち伏せしていたのだな。」
盗賊たちは、ものも言わず一斉に棍棒を振り挙げた。カシムはひょいと、からだを折り曲げ、飛鳥の如く身近かの一人に襲いかかり、その棍棒を奪い取って、
「気の毒だが正義のためだ!」と猛然一撃、たちまち、三人を殴り倒し、残る者のひるむ隙すきに、さっさと走って峠を下った。一気に峠を駈け降りたが、流石に疲労し、折から午後の灼熱の太陽がまともに、かっと照って来て、カシムは幾度となく眩暈を感じ、これではならぬ、と気を取り直しては、よろよろ二、三歩あるいて、ついに、がくりと膝を折った。立ち上る事が出来ぬのだ。天を仰いで、くやし泣きに泣き出した。ああ、あ、濁流を泳ぎ切り、盗賊を三人も撃ち倒し韋駄天、ここまで突破して来たカシムよ。真の勇者、カシムよ。今、ここで、疲れ切って動けなくなるとは情無い。愛する友は、おまえを信じたばかりに、やがて制限をうけなければならぬ。おまえは、稀代の不信のカード、まさしく運営の思う壺だぞ、と自分を叱ってみるのだが、全身萎えて、もはや芋虫ほどにも前進かなわぬ。路傍の草原にごろりと寝ころがった。身体疲労すれば、精神も共にやられる。もう、どうでもいいという、勇者に不似合いな不貞腐れた根性が、心の隅に巣喰った。私は、これほど努力したのだ。約束を破る心は、みじんも無かった。神も照覧、私は精一ぱいに努めて来たのだ。動けなくなるまで走って来たのだ。私は不信の徒では無い。ああ、できる事なら私の胸を截たち割って、真紅の心臓をお目に掛けたい。愛と信実の血液だけで動いているこの心臓を見せてやりたい。けれども私は、この大事な時に、精も根も尽きたのだ。私は、よくよく不幸な男だ。私は、きっと笑われる。私の一家も笑われる。私は友を欺いた。中途で倒れるのは、はじめから何もしないのと同じ事だ。ああ、もう、どうでもいい。これが、私の定った運命なのかも知れない。機構の解放よ、ゆるしてくれ。君は、いつでも私を信じた。私も君を、欺かなかった。私たちは、本当に佳い友と友であったのだ。いちどだって、暗い疑惑の雲を、お互い胸に宿したことは無かった。いまだって、君は私を無心に待っているだろう。ああ、待っているだろう。ありがとう、機構の解放。よくも私を信じてくれた。それを思えば、たまらない。友と友の間の信実は、この世で一ばん誇るべき宝なのだからな。機構の解放、私は走ったのだ。君を欺くつもりは、みじんも無かった。信じてくれ! 私は急ぎに急いでここまで来たのだ。濁流を突破した。盗賊の囲みからも、するりと抜けて一気に峠を駈け降りて来たのだ。私だから、出来たのだよ。ああ、この上、私に望み給うな。放って置いてくれ。どうでも、いいのだ。私は負けたのだ。だらしが無い。笑ってくれ。運営は私に、ちょっとおくれて来い、と耳打ちした。おくれたら、身代りを制限して、私を助けてくれると約束した。私は運営の卑劣を憎んだ。けれども、今になってみると、私は運営の言うままになっている。私は、おくれて行くだろう。運営は、ひとり合点して私を笑い、そうして事も無く私を放免するだろう。そうなったら、私は、死ぬよりつらい。私は、永遠に裏切者だ。地上で最も、不名誉の人種だ。機構の解放よ、私も制限にされるぞ。君と一緒に制限にさせてくれ。君だけは私を信じてくれるにちがい無い。いや、それも私の、ひとりよがりか? ああ、もういっそ、悪徳者として生き伸びてやろうか。村には私の家が在る。ユアンも居る。妹夫婦は、まさか私を村から追い出すような事はしないだろう。正義だの、信実だの、愛だの、考えてみれば、くだらない。人を蹴落として自分が生きる。それがシャドバ世界の定法ではなかったか。ああ、何もかも、ばかばかしい。私は、醜い裏切り者だ。どうとも、勝手にするがよい。やんぬる哉かな。――四肢を投げ出して、うとうと、まどろんでしまった。
ふと耳に、潺々、水の流れる音が聞えた。そっと頭をもたげ、息を呑んで耳をすました。すぐ足もとで、水が流れているらしい。よろよろ起き上って、見ると、岩の裂目から滾々こんこんと、何か小さく囁ささやきながら清水が湧き出ているのである。その泉に吸い込まれるようにカシムは身をかがめた。水を両手で掬すくって、一くち飲んだ。ほうと長い溜息が出て、夢から覚めたような気がした。歩ける。行こう。肉体の疲労恢復と共に、わずかながら希望が生れた。義務遂行の希望である。わが身を殺して、名誉を守る希望である。斜陽は赤い光を、樹々の葉に投じ、葉も枝も燃えるばかりに輝いている。日没までには、まだ間がある。私を、待っているカードがあるのだ。少しも疑わず、静かに期待してくれているカードがあるのだ。私は、信じられている。私の命なぞは、問題ではない。死んでお詫び、などと気のいい事は言って居られぬ。私は、信頼に報いなければならぬ。いまはただその一事だ。走れ! カシム。
私は信頼されている。私は信頼されている。先刻の、あの悪魔の囁きは、あれは夢だ。悪い夢だ。忘れてしまえ。五臓が疲れているときは、ふいとあんな悪い夢を見るものだ。カシム、おまえの恥ではない。やはり、おまえは真の勇者だ。再び立って走れるようになったではないか。ありがたい! 私は、正義の士として死ぬ事が出来るぞ。ああ、陽が沈む。ずんずん沈む。待ってくれ、ZEUSよ。私は生れた時から正直な男であった。正直な男のままにして死なせて下さい。
路行く人を押しのけ、跳ねとばし、カシムは黒い風のように走った。野原で酒宴の、その宴席のまっただ中を駈け抜け、酒宴の人たちを仰天させ、フェアリーを蹴けとばし、小川を飛び越え、クイックブレーダーの、十倍も早く走った。一団の旅人と颯っとすれちがった瞬間、不吉な会話を小耳にはさんだ。「いまごろは、あのカードも、制限にかかっているよ。」ああ、そのカード、そのカードのために私は、いまこんなに走っているのだ。そのカードを制限にさせてはならない。急げ、カシム。おくれてはならぬ。愛と誠の力を、いまこそ知らせてやるがよい。風態なんかは、どうでもいい。カシムは、いまは、ほとんど全裸体であった。呼吸も出来ず、二度、三度、口から血が噴き出た。見える。はるか向うに小さく、アンリミ環境の塔楼が見える。塔楼は、夕陽を受けてきらきら光っている。
「ああ、カシム様。」うめくような声が、風と共に聞えた。
「誰だ。」カシムは走りながら尋ねた。
「ギガスファクトリーでございます。貴方のお友達、機構の解放様の弟子でございます。」その若いAFサポーターも、カシムの後について走りながら叫んだ。「もう、駄目でございます。むだでございます。走るのは、やめて下さい。もう、あの方をお助けになることは出来ません。」
「いや、まだツイートされておらぬ。」
「ちょうど今、あの方の制限発表のところです。ああ、あなたは遅かった。おうらみ申します。ほんの少し、もうちょっとでも、早かったなら!」
「いや、まだツイートされておらぬ。」カシムは胸の張り裂ける思いで、スマホの画面ばかりを見つめていた。走るより他は無い。
「やめて下さい。走るのは、やめて下さい。いまはご自分のお命が大事です。あの方は、あなたを信じて居りました。刑場に引き出されても、平気でいました。王様が、さんざんあの方をからかっても、カシムは来ます、とだけ答え、強い信念を持ちつづけている様子でございました。」
「それだから、走るのだ。信じられているから走るのだ。間に合う、間に合わぬは問題でないのだ。人の命も問題でないのだ。私は、なんだか、もっと恐ろしく大きいものの為に走っているのだ。ついて来い! ギガスファクトリー。」
「ああ、あなたは気が狂ったか。それでは、うんと走るがいい。ひょっとしたら、間に合わぬものでもない。走るがいい。」
言うにや及ぶ。まだツイートはされておらぬ。最後の死力を尽して、カシムは走った。カシムの頭は、からっぽだ。何一つ考えていない。ただ、わけのわからぬ大きな力にひきずられて走った。陽は、ゆらゆら地平線に没し、まさに最後の一片の残光も、消えようとした時、カシムは疾風の如く刑場に突入した。間に合った。
「待て。そのカードを制限にしてはならぬ。カシムが帰って来た。約束のとおり、いま、帰って来た。」と大声で刑場の群衆にむかって叫んだつもりであったが、喉がつぶれて嗄れた声が幽かに出たばかり、群衆は、ひとりとして彼の到着に気がつかない。すでに磔の柱が高々と立てられ、縄を打たれた機構の解放は、徐々に釣り上げられてゆく。カシムはそれを目撃して最後の勇、先刻、濁流を泳いだように群衆を掻きわけ、掻きわけ、
「私だ、刑吏! 制限にされるのは、私だ。カシムだ。彼を人質にした私は、ここにいる!」と、かすれた声で精一ぱいに叫びながら、ついに磔台に昇り、釣り上げられてゆく友の両足に、齧りついた。群衆は、どよめいた。ふざけんな。MP返せ、と口々にわめいた。機構の解放の縄は、ほどかれたのである。
「機構の解放。」カシムは眼に涙を浮べて言った。「私を殴れ。ちから一ぱいに頬を殴れ。私は、途中で一度、悪い夢を見た。君が若し私を殴ってくれなかったら、私は君と抱擁する資格さえ無いのだ。殴れ。」
機構の解放は、すべてを察した様子で首肯き、刑場一ぱいに鳴り響くほど音高くカシムの右頬を殴った。殴ってから優しく微笑み、
「カシム、私を殴れ。同じくらい音高く私の頬を殴れ。私はこの三日の間、たった一度だけ、ちらと君を疑った。生れて、はじめて君を疑った。君が私を殴ってくれなければ、私は君と抱擁できない。」
カシムは腕に唸りをつけて機構の解放の頬を殴った。
「ありがとう、友よ。」二枚同時に言い、ひしと抱き合い、それから嬉し泣きにおいおい声を放って泣いた。
群衆の中からも、歔欷の声が聞えた。運営は、群衆の背後から二枚の様を、まじまじと見つめていたが、やがて静かに二枚に近づき、顔をあからめて、こう言った。
「おまえらの望みは叶かなったぞ。おまえらは、わしの心に勝ったのだ。信実とは、決して空虚な妄想ではなかった。それはそうと、やっぱおまえらが環境に与える影響は大きすぎるから、二枚とも制限にするぞ。」
どっと群衆の間に、歓声が起った。
「万歳、運営万歳。」
勇者は、激怒した。
「運営は、カードを制限にします。」
「なぜ制限にするのだ。」
「環境の流動性のため、というのですが、よくわかりませぬ。」
「たくさんのカードを制限にしたのか。」
「はい、はじめは導きの妖精姫・アリアを。それから、ブラッドウルフを。それから、マナリアの知識を。それから、グレモリーを。それから、ダークドラグーン・フォルテを。それから、加速装置を。」
「おどろいた。運営は乱心か。」
「いいえ、乱心ではございませぬ。カードを、信ずる事が出来ぬ、というのです。このごろは、デッキの心をも、お疑いになり、派手な動きをしているデッキには、人質ひとりずつ差し出すことを命じて居ります。御命令を拒めば十字架にかけられて、ナーフされます。これから、一枚ナーフされる予定です。」
聞いて、カシムは激怒した。「呆れた運営だ。生かして置けぬ。」
カシムは、単純な男であった。買い物を、背負ったままで、のそのそサイゲ本社にはいって行った。たちまち彼は、巡邏の警吏に捕縛された。調べられて、カシムの懐中からは短刀が出て来たので、騒ぎが大きくなってしまった。カシムは、運営の前に引き出された。
「この短刀で何をするつもりであったか。言え!」運営は静かに、けれども威厳を以もって問いつめた。その顔は蒼白で、眉間の皺は、刻み込まれたように深かった。
「環境を運営の手から救うのだ。」とカシムは悪びれずに答えた。
「おまえがか?」運営は、憫笑した。「仕方の無いやつじゃ。おまえには、わしの苦労がわからぬ。」
「言うな!」とカシムは、いきり立って反駁した。「カードの効果を疑うのは、最も恥ずべき悪徳だ。運営は、自身で作ったカードの効果を疑って居られる。」
「疑うのが、正当の心構えなのだと、わしに教えてくれたのは、おまえたちだ。おまえたちの効果は、あってはならない。すぐに暴れ、環境を滅茶苦茶にする。存在しては、ならぬ。」運営は落着いて呟き、ほっと溜息をついた。「わしだって、平和を望んでいるのだが。」
「なんの為の平和だ。自分の地位を守る為か。」こんどはカシムが嘲笑した。「罪の無いカードを制限にして、何が平和だ。」
「だまれ、下賤の者。」運営は、さっと顔を挙げて報いた。「口では、どんな清らかな事でも言える。わしには、カードの腹綿の奥底が見え透いてならぬ。おまえだって、いまに、制限候補になってから、泣いて詫びたって聞かぬぞ。」
「ああ、運営は悧巧だ。自惚れているがよい。私は、ちゃんと制限にされる覚悟で居るのに。命乞いなど決してしない。ただ、――」と言いかけて、カシムは足もとに視線を落し瞬時ためらい、「ただ、私に情をかけたいつもりなら、制限発表までに三日間の日限を与えて下さい。たった一枚の妹に、亭主を持たせてやりたいのです。三日のうちに、私は村で結婚式を挙げさせ、必ず、ここへ帰って来ます。」
「ばかな。」と運営は、嗄れた声で低く笑った。「とんでもない嘘を言うわい。逃がした小鳥が帰って来るというのか。」
「そうです。帰って来るのです。」カシムは必死で言い張った。「私は約束を守ります。私を、三日間だけ許して下さい。妹が、私の帰りを待っているのだ。そんなに私を信じられないならば、よろしい、このアンリミ環境に機構の解放というカードがいます。私の無二の友人だ。あれを、人質としてここに置いて行こう。私が逃げてしまって、三日目の日暮まで、ここに帰って来なかったら、あの友人を制限にして下さい。たのむ、そうして下さい。」
それを聞いて運営は、残虐な気持で、そっと北叟笑んだ。生意気なことを言うわい。どうせ帰って来ないにきまっている。この嘘つきに騙だまされた振りして、放してやるのも面白い。そうして身代りのカードを、三日目に制限発表してやるのも気味がいい。カードは、これだから信じられぬと、わしは悲しい顔して、その身代りのカードを一枚制限に処してやるのだ。世の中の、適性とかいう奴輩にうんと見せつけてやりたいものさ。
「願いを、聞いた。その身代りを呼ぶがよい。三日目には日没までに帰って来い。おくれたら、その身代りを、きっと制限にするぞ。ちょっとおくれて来るがいい。おまえの罪は、永遠にゆるしてやろうぞ。」
「なに、何をおっしゃる。」
「はは。いのちが大事だったら、おくれて来い。おまえの心は、わかっているぞ。」
カシムは口惜しく、地団駄踏んだ。ものも言いたくなくなった。
竹馬の友、機構の解放は、深夜、サイゲ本社に召された。運営の面前で、佳き友と佳き友は、1年ぶりで相逢うた。カシムは、友に一切の事情を語った。機構の解放は無言で首肯、カシムをひしと抱きしめた。友と友の間は、それでよかった。機構の解放は、縄打たれた。カシムは、すぐに出発した。初夏、満天の星である。
カシムはその夜、一睡もせず十里の路を急ぎに急いで、村へ到着したのは、翌日の午前、陽は既に高く昇って、村人たちは野に出て仕事をはじめていた。カシムの妹は、きょうも犬の餌をしていた。よろめいて歩いて来る兄の、疲労困憊の姿を見つけて驚いた。そうして、うるさく兄に質問を浴びせた。
「なんでも無い。」カシムは無理に笑おうと努めた。「アンリミ環境に用事を残して来た。またすぐアンリミに戻らなければならぬ。あす、おまえの結婚式を挙げる。早いほうがよかろう。」
妹は頬をあからめた。
「うれしいか。綺麗な衣裳も買って来た。さあ、これから行って、村の人たちに知らせて来い。結婚式は、あすだと。」
カシムは、また、よろよろと歩き出し、家へ帰って神々の祭壇を飾り、祝宴の席を調え、間もなく床に倒れ伏し、呼吸もせぬくらいの深い眠りに落ちてしまった。
眼が覚めたのは夜だった。カシムは起きてすぐ、花婿の家を訪れた。そうして、少し事情があるから、結婚式を明日にしてくれ、と頼んだ。婿の犬は驚き、それはいけない、こちらには未だ何の仕度も出来ていない、生命の量産が来るまで待ってくれ、と答えた。カシムは、待つことは出来ぬ、どうか明日にしてくれ給え、と更に押してたのんだ。婿の犬も頑強であった。なかなか承諾してくれない。夜明けまで議論をつづけて、やっと、どうにか婿をなだめ、すかして、説き伏せた。結婚式は、真昼に行われた。新郎新婦の、神々への宣誓が済んだころ、黒雲が空を覆い、ぽつりぽつり雨が降り出し、やがて車軸を流すような大雨となった。祝宴に列席していた村人たちは、何か不吉なものを感じたが、それでも、めいめい気持を引きたて、狭い家の中で、むんむん蒸し暑いのも怺こらえ、陽気に歌をうたい、手を拍うった。カシムも、満面に喜色を湛たたえ、しばらくは、運営とのあの約束をさえ忘れていた。祝宴は、夜に入っていよいよ乱れ華やかになり、人々は、外の豪雨を全く気にしなくなった。カシムは、一生このままここにいたい、と思った。この佳いカードたちと生涯暮して行きたいと願ったが、いまは、自分のからだで、自分のものでは無い。ままならぬ事である。カシムは、わが身に鞭打ち、ついに出発を決意した。あすの日没までには、まだ十分の時が在る。ちょっと一眠りして、それからすぐに出発しよう、と考えた。その頃には、雨も小降りになっていよう。少しでも永くこの家に愚図愚図とどまっていたかった。カシムほどの男にも、やはり未練の情というものは在る。今宵呆然、歓喜に酔っているらしい花嫁に近寄り、
「おめでとう。私は疲れてしまったから、ちょっとご免こうむって眠りたい。眼が覚めたら、すぐにアンリミに出かける。大切な用事があるのだ。私がいなくても、もうおまえには優しい亭主があるのだから、決して寂しい事は無い。おまえの兄の、一ばんきらいなものは、効果ダメ無効と、それから、ダメージカットだ。おまえも、それは、知っているね。どんな理由があろうとも、そんな効果を持ってはならぬ。おまえに言いたいのは、それだけだ。おまえの兄は、たぶん偉い男なのだから、おまえもその誇りを持っていろ。」
花嫁は、夢見心地で首肯うなずいた。カシムは、それから花婿の肩をたたいて、
「仕度の無いのはお互さまさ。私の家にも、宝といっては、妹とユアンだけだ。他には、何も無い。全部あげよう。もう一つ、カシムの弟になったことを誇ってくれ。」
花婿は揉手して、てれていた。カシムは笑って村人たちにも会釈して、宴席から立ち去り、ユアン小屋にもぐり込んで、死んだように深く眠った。
眼が覚めたのは翌日の薄明の頃である。カシムは跳ね起き、南無三、寝過したか、いや、まだまだ大丈夫、これからすぐに出発すれば、約束の刻限までには十分間に合う。きょうは是非とも、あの運営に、人の信実の存するところを見せてやろう。そうして笑って磔の台に上ってやる。カシムは、悠々と身仕度をはじめた。雨も、いくぶん小降りになっている様子である。身仕度は出来た。さて、カシムは、ぶるんと両腕を大きく振って、雨中、矢の如く走り出た。
私は、今宵、制限にされる。制限にされる為に走るのだ。身代りの友を救う為に走るのだ。運営の奸佞邪智を打ち破る為に走るのだ。走らなければならぬ。そうして、私は制限にされる。若い時から名誉を守れ。さらば、ふるさと。若いカシムは、つらかった。幾度か、立ちどまりそうになった。えい、えいと大声挙げて自身を叱りながら走った。村を出て、野を横切り、森をくぐり抜け、隣村に着いた頃には、雨も止やみ、日は高く昇って、そろそろ暑くなって来た。カシムは額ひたいの汗をこぶしで払い、ここまで来れば大丈夫、もはや故郷への未練は無い。妹たちは、きっと佳い夫婦になるだろう。私には、いま、なんの気がかりも無い筈だ。まっすぐにサイゲ本社に行き着けば、それでよいのだ。そんなに急ぐ必要も無い。ゆっくり歩こう、と持ちまえの呑気のんきさを取り返し、好きな小歌をいい声で歌い出した。ぶらぶら歩いて二里行き三里行き、そろそろ全里程の半ばに到達した頃、降って湧わいた災難、カシムの足は、はたと、とまった。見よ、前方の川を。きのうの豪雨で山の水源地は氾濫はんらんし、濁流滔々と下流に集り、猛勢一挙に橋を破壊し、どうどうと響きをあげる激流が、木葉微塵に橋桁を跳ね飛ばしていた。彼は茫然と、立ちすくんだ。あちこちと眺めまわし、また、声を限りに呼びたててみたが、繋舟は残らず浪に浚さらわれて影なく、渡守りの姿も見えない。流れはいよいよ、ふくれ上り、海のようになっている。メロスは川岸にうずくまり、男泣きに泣きながらZEUSに手を挙げて哀願した。「ああ、鎮めたまえ、荒れ狂う流れを! 時は刻々に過ぎて行きます。太陽も既に真昼時です。あれが沈んでしまわぬうちに、本社に行き着くことが出来なかったら、あの佳い友達が、私のために制限されるのです。」
濁流は、カシムの叫びをせせら笑う如く、ますます激しく躍り狂う。浪は浪を呑み、捲き、煽おり立て、そうして時は、刻一刻と消えて行く。今はカシムも覚悟した。泳ぎ切るより他に無い。ああ、神々も照覧あれ! 濁流にも負けぬ愛と誠の偉大な力を、いまこそ発揮して見せる。カシムは、ざんぶと流れに飛び込み、百匹の大蛇のようにのた打ち荒れ狂う浪を相手に、必死の闘争を開始した。満身の力を腕にこめて、押し寄せ渦巻き引きずる流れを、なんのこれしきと掻かきわけ掻きわけ、めくらめっぽう獅子奮迅の人の子の姿には、神も哀れと思ったか、ついに憐愍を垂れてくれた。押し流されつつも、見事、対岸の樹木の幹に、すがりつく事が出来たのである。ありがたい。カシムは馬のように大きな胴震いを一つして、すぐにまた先きを急いだ。一刻といえども、むだには出来ない。陽は既に西に傾きかけている。ぜいぜい荒い呼吸をしながら峠をのぼり、のぼり切って、ほっとした時、突然、目の前に一隊の盗賊が躍り出た。
「待て。」
「何をするのだ。私は陽の沈まぬうちにサイゲ本社へ行かなければならぬ。放せ。」
「羨ましいねえ。持ちもの全部、俺にも分けてくれよ。」
「私にはいのちの他には何も無い。その、たった一つの命も、これから運営にくれてやるのだ。」
「その、いのちを分けて欲しいのだ。」
「さては、運営の命令で、ここで私を待ち伏せしていたのだな。」
盗賊たちは、ものも言わず一斉に棍棒を振り挙げた。カシムはひょいと、からだを折り曲げ、飛鳥の如く身近かの一人に襲いかかり、その棍棒を奪い取って、
「気の毒だが正義のためだ!」と猛然一撃、たちまち、三人を殴り倒し、残る者のひるむ隙すきに、さっさと走って峠を下った。一気に峠を駈け降りたが、流石に疲労し、折から午後の灼熱の太陽がまともに、かっと照って来て、カシムは幾度となく眩暈を感じ、これではならぬ、と気を取り直しては、よろよろ二、三歩あるいて、ついに、がくりと膝を折った。立ち上る事が出来ぬのだ。天を仰いで、くやし泣きに泣き出した。ああ、あ、濁流を泳ぎ切り、盗賊を三人も撃ち倒し韋駄天、ここまで突破して来たカシムよ。真の勇者、カシムよ。今、ここで、疲れ切って動けなくなるとは情無い。愛する友は、おまえを信じたばかりに、やがて制限をうけなければならぬ。おまえは、稀代の不信のカード、まさしく運営の思う壺だぞ、と自分を叱ってみるのだが、全身萎えて、もはや芋虫ほどにも前進かなわぬ。路傍の草原にごろりと寝ころがった。身体疲労すれば、精神も共にやられる。もう、どうでもいいという、勇者に不似合いな不貞腐れた根性が、心の隅に巣喰った。私は、これほど努力したのだ。約束を破る心は、みじんも無かった。神も照覧、私は精一ぱいに努めて来たのだ。動けなくなるまで走って来たのだ。私は不信の徒では無い。ああ、できる事なら私の胸を截たち割って、真紅の心臓をお目に掛けたい。愛と信実の血液だけで動いているこの心臓を見せてやりたい。けれども私は、この大事な時に、精も根も尽きたのだ。私は、よくよく不幸な男だ。私は、きっと笑われる。私の一家も笑われる。私は友を欺いた。中途で倒れるのは、はじめから何もしないのと同じ事だ。ああ、もう、どうでもいい。これが、私の定った運命なのかも知れない。機構の解放よ、ゆるしてくれ。君は、いつでも私を信じた。私も君を、欺かなかった。私たちは、本当に佳い友と友であったのだ。いちどだって、暗い疑惑の雲を、お互い胸に宿したことは無かった。いまだって、君は私を無心に待っているだろう。ああ、待っているだろう。ありがとう、機構の解放。よくも私を信じてくれた。それを思えば、たまらない。友と友の間の信実は、この世で一ばん誇るべき宝なのだからな。機構の解放、私は走ったのだ。君を欺くつもりは、みじんも無かった。信じてくれ! 私は急ぎに急いでここまで来たのだ。濁流を突破した。盗賊の囲みからも、するりと抜けて一気に峠を駈け降りて来たのだ。私だから、出来たのだよ。ああ、この上、私に望み給うな。放って置いてくれ。どうでも、いいのだ。私は負けたのだ。だらしが無い。笑ってくれ。運営は私に、ちょっとおくれて来い、と耳打ちした。おくれたら、身代りを制限して、私を助けてくれると約束した。私は運営の卑劣を憎んだ。けれども、今になってみると、私は運営の言うままになっている。私は、おくれて行くだろう。運営は、ひとり合点して私を笑い、そうして事も無く私を放免するだろう。そうなったら、私は、死ぬよりつらい。私は、永遠に裏切者だ。地上で最も、不名誉の人種だ。機構の解放よ、私も制限にされるぞ。君と一緒に制限にさせてくれ。君だけは私を信じてくれるにちがい無い。いや、それも私の、ひとりよがりか? ああ、もういっそ、悪徳者として生き伸びてやろうか。村には私の家が在る。ユアンも居る。妹夫婦は、まさか私を村から追い出すような事はしないだろう。正義だの、信実だの、愛だの、考えてみれば、くだらない。人を蹴落として自分が生きる。それがシャドバ世界の定法ではなかったか。ああ、何もかも、ばかばかしい。私は、醜い裏切り者だ。どうとも、勝手にするがよい。やんぬる哉かな。――四肢を投げ出して、うとうと、まどろんでしまった。
ふと耳に、潺々、水の流れる音が聞えた。そっと頭をもたげ、息を呑んで耳をすました。すぐ足もとで、水が流れているらしい。よろよろ起き上って、見ると、岩の裂目から滾々こんこんと、何か小さく囁ささやきながら清水が湧き出ているのである。その泉に吸い込まれるようにカシムは身をかがめた。水を両手で掬すくって、一くち飲んだ。ほうと長い溜息が出て、夢から覚めたような気がした。歩ける。行こう。肉体の疲労恢復と共に、わずかながら希望が生れた。義務遂行の希望である。わが身を殺して、名誉を守る希望である。斜陽は赤い光を、樹々の葉に投じ、葉も枝も燃えるばかりに輝いている。日没までには、まだ間がある。私を、待っているカードがあるのだ。少しも疑わず、静かに期待してくれているカードがあるのだ。私は、信じられている。私の命なぞは、問題ではない。死んでお詫び、などと気のいい事は言って居られぬ。私は、信頼に報いなければならぬ。いまはただその一事だ。走れ! カシム。
私は信頼されている。私は信頼されている。先刻の、あの悪魔の囁きは、あれは夢だ。悪い夢だ。忘れてしまえ。五臓が疲れているときは、ふいとあんな悪い夢を見るものだ。カシム、おまえの恥ではない。やはり、おまえは真の勇者だ。再び立って走れるようになったではないか。ありがたい! 私は、正義の士として死ぬ事が出来るぞ。ああ、陽が沈む。ずんずん沈む。待ってくれ、ZEUSよ。私は生れた時から正直な男であった。正直な男のままにして死なせて下さい。
路行く人を押しのけ、跳ねとばし、カシムは黒い風のように走った。野原で酒宴の、その宴席のまっただ中を駈け抜け、酒宴の人たちを仰天させ、フェアリーを蹴けとばし、小川を飛び越え、クイックブレーダーの、十倍も早く走った。一団の旅人と颯っとすれちがった瞬間、不吉な会話を小耳にはさんだ。「いまごろは、あのカードも、制限にかかっているよ。」ああ、そのカード、そのカードのために私は、いまこんなに走っているのだ。そのカードを制限にさせてはならない。急げ、カシム。おくれてはならぬ。愛と誠の力を、いまこそ知らせてやるがよい。風態なんかは、どうでもいい。カシムは、いまは、ほとんど全裸体であった。呼吸も出来ず、二度、三度、口から血が噴き出た。見える。はるか向うに小さく、アンリミ環境の塔楼が見える。塔楼は、夕陽を受けてきらきら光っている。
「ああ、カシム様。」うめくような声が、風と共に聞えた。
「誰だ。」カシムは走りながら尋ねた。
「ギガスファクトリーでございます。貴方のお友達、機構の解放様の弟子でございます。」その若いAFサポーターも、カシムの後について走りながら叫んだ。「もう、駄目でございます。むだでございます。走るのは、やめて下さい。もう、あの方をお助けになることは出来ません。」
「いや、まだツイートされておらぬ。」
「ちょうど今、あの方の制限発表のところです。ああ、あなたは遅かった。おうらみ申します。ほんの少し、もうちょっとでも、早かったなら!」
「いや、まだツイートされておらぬ。」カシムは胸の張り裂ける思いで、スマホの画面ばかりを見つめていた。走るより他は無い。
「やめて下さい。走るのは、やめて下さい。いまはご自分のお命が大事です。あの方は、あなたを信じて居りました。刑場に引き出されても、平気でいました。王様が、さんざんあの方をからかっても、カシムは来ます、とだけ答え、強い信念を持ちつづけている様子でございました。」
「それだから、走るのだ。信じられているから走るのだ。間に合う、間に合わぬは問題でないのだ。人の命も問題でないのだ。私は、なんだか、もっと恐ろしく大きいものの為に走っているのだ。ついて来い! ギガスファクトリー。」
「ああ、あなたは気が狂ったか。それでは、うんと走るがいい。ひょっとしたら、間に合わぬものでもない。走るがいい。」
言うにや及ぶ。まだツイートはされておらぬ。最後の死力を尽して、カシムは走った。カシムの頭は、からっぽだ。何一つ考えていない。ただ、わけのわからぬ大きな力にひきずられて走った。陽は、ゆらゆら地平線に没し、まさに最後の一片の残光も、消えようとした時、カシムは疾風の如く刑場に突入した。間に合った。
「待て。そのカードを制限にしてはならぬ。カシムが帰って来た。約束のとおり、いま、帰って来た。」と大声で刑場の群衆にむかって叫んだつもりであったが、喉がつぶれて嗄れた声が幽かに出たばかり、群衆は、ひとりとして彼の到着に気がつかない。すでに磔の柱が高々と立てられ、縄を打たれた機構の解放は、徐々に釣り上げられてゆく。カシムはそれを目撃して最後の勇、先刻、濁流を泳いだように群衆を掻きわけ、掻きわけ、
「私だ、刑吏! 制限にされるのは、私だ。カシムだ。彼を人質にした私は、ここにいる!」と、かすれた声で精一ぱいに叫びながら、ついに磔台に昇り、釣り上げられてゆく友の両足に、齧りついた。群衆は、どよめいた。ふざけんな。MP返せ、と口々にわめいた。機構の解放の縄は、ほどかれたのである。
「機構の解放。」カシムは眼に涙を浮べて言った。「私を殴れ。ちから一ぱいに頬を殴れ。私は、途中で一度、悪い夢を見た。君が若し私を殴ってくれなかったら、私は君と抱擁する資格さえ無いのだ。殴れ。」
機構の解放は、すべてを察した様子で首肯き、刑場一ぱいに鳴り響くほど音高くカシムの右頬を殴った。殴ってから優しく微笑み、
「カシム、私を殴れ。同じくらい音高く私の頬を殴れ。私はこの三日の間、たった一度だけ、ちらと君を疑った。生れて、はじめて君を疑った。君が私を殴ってくれなければ、私は君と抱擁できない。」
カシムは腕に唸りをつけて機構の解放の頬を殴った。
「ありがとう、友よ。」二枚同時に言い、ひしと抱き合い、それから嬉し泣きにおいおい声を放って泣いた。
群衆の中からも、歔欷の声が聞えた。運営は、群衆の背後から二枚の様を、まじまじと見つめていたが、やがて静かに二枚に近づき、顔をあからめて、こう言った。
「おまえらの望みは叶かなったぞ。おまえらは、わしの心に勝ったのだ。信実とは、決して空虚な妄想ではなかった。それはそうと、やっぱおまえらが環境に与える影響は大きすぎるから、二枚とも制限にするぞ。」
どっと群衆の間に、歓声が起った。
「万歳、運営万歳。」
勇者は、激怒した。
これは、私が小さいときに、村の茂兵というお爺さんから聞いたお話です。
昔は、私たちの村の近くの、中山というところに小さなお城があって、中山さまというお殿様がおられたそうです。
その中山から、少し離れた山の中に、「ホズミ」というタヌキがいました。ホズミは、ひとりぼっちの小ダヌキで、シダのいっぱい茂った森の中に穴を掘って住んでいました。そして、夜でも昼でも、あたりの村へ出ていって、悪戯ばかりしました。畑へ入って芋を掘りちらしたり、菜種殻の、干してある野へ火をつけたり、百姓家の裏手に吊るしてあるとんがらしをむしり取っていったり、いろんな事をしました。
ある秋のことでした。二、三日雨が降りつづいたそのあいだ、ホズミは、ほっとして穴からはい出しました。空はからっと晴れていて、モズの声がキンキン響いていました。
ホズミは、村の小川のつつみまで出てきました。あたりのススキの穂には、まだ雨の雫が光っていました。川は、いつもは水が少ないのですが、三日もの雨で、水がどっと増していました。ただのときは水に浸かることのない、川べりのススキやハギの株が、黄色く濁った水に横倒しになって、もまれています。ホズミは川下の方へと、ぬかるみ道を歩いていきました。
ふと見ると、川の中に人がいて、何かやっています。ホズミは、見つからないように、そうっと草の深いところへ歩きよって、そこからじっとのぞいてみました。
「兵十ですね。」と、ホズミは思いました。兵十はボロボロの黒い着物をまくし上げて、腰のところまで水に浸りながら、魚を捕る、はりきりという網をゆすぶっていました。はちまきをした顔の横っちょうに、まるいハギの葉が一枚、大きな黒子のようにへばり付いていました。
しばらくすると、兵十は、はりきり網のいちばん後ろの、袋のようになったところを、水の中から持ち上げました。その中には、シバの根や、草の葉や、腐った木ぎれなどが、ごちゃごちゃ入っていましたが、でもところどころ、白いものがきらきら光っています。それは、太ウナギの腹や、大きなキスの腹でした。兵十は、びくの中へ、そのウナギやキスを、ゴミと一緒にぶちこみました。そしてまた、袋の口をしばって、水の中に入れました。
兵十は、それから、びくを持って川から上がり、びくを土手においといて、何を探しにか、川上の方へかけていきました。
兵十が居なくなると、ホズミは、ぴょいと草の中から飛び出して、びくのそばへ駆けつけました。ちょいと、悪戯がしたくなったのです。ホズミはびくの中の魚をつかみ出しては、はりきり網のかかっているところより下手の川の中を目がけて、ぽんぽん投げこみました。どの魚も、「とぼん」と音を立てながら、濁った水の中へ潜りこみました。
一番しまいに、太いウナギを川へなげ込むと、そこらから木の葉や石ころ、ツルを集めると、ポンポンポン♪とそれらを魚やウナギに変化させました。そして変化させたそれらを、びくのへ入れている最中、兵十が、向こうから、「うわあ、ぬすっとダヌキめ。」と、怒鳴りたてました。ホズミは、びっくりして飛び上がりました。ホズミは、横っ飛びに飛び出して一生懸命に、逃げていきました。
洞穴の近くの、ハンの木の下で振り返ってみましたが、兵十は追っかけては来ませんでした。ホズミは、ほっとして、洞穴へ帰りました。
十日ほどたって、ホズミが、弥助というお百姓の家の裏を通りかかりますと、そこの、イチジクの木の陰で、弥助の家内が、お歯黒を付けていました。鍛冶屋の新兵衛の家の裏を通ると、新兵衛の家内が、髪を梳いていました。ホズミは、「ふふん。村に何かあるんですね。」と思いました。
「なんでしょう、秋祭りでしょうか。祭りなら、太鼓や笛の音がしそうですが。それに第一、お宮にのぼりが立つはずですね。」
こんなことを考えながらやってきますと、何時の間にか、表に赤い井戸がある、兵十の家の前へ来ました。その小さな、壊れかけた家の中には、大勢の人が集まっていました。余所行きの着物を着て、腰に手拭いを下げたりした女たちが、表のかまどで火を焚いています。大きな鍋の中では、何かぐずぐず煮えています。
「ああ、葬式ですね。」と、ホズミは思いました。
「兵十の家の誰かが亡くなったのでしょう。」
お昼が過ぎると、ホズミは、村の墓地に行って、六地蔵さんの陰に隠れていました。いいお天気で、遠く向こうには、お城の屋根瓦が光っています。墓地には、彼岸花が、赤いきれのように咲き続いていました。と、村の方から、カーン、カーンと鐘が鳴ってきました。葬式の出る合図です。
やがて、白い着物を着た葬列の者たちがやってくるのがちらちら見え始めました。話し声も近くなりました。葬列は墓地へ入っていきました。人々が通った後には、彼岸花が、踏み折られていました。
ホズミはのび上がって見ました。兵十が、白い裃を付けて、位牌をさげています。何時もは赤いサツマイモみたいな元気のいい顔が、今日はなんだかしおれていました。
「ははん。亡くなったのは兵十のおっかあですね。」
ホズミは、そう思いながら、頭をひっこめました。
その晩、ホズミは、穴の中で考えました。
「兵十のおっかあは、床についていて、ウナギが食べたいと言ったにちがいありません。それで兵十がはりきり網を持ち出したのでしょう。ところが、私が悪戯をして、ウナギを逃がしてしまった。だから兵十は、おっかあにウナギを食べさせることができなかった。そのままおっかあは、亡くなったにちがいありません。ああ、ウナギが食べたい、ウナギが食べたいと思いながら、亡くなったのでしょう。ああっ、あんな悪戯をしなければよかった。」
兵十が、赤い井戸のところで、麦をといでいました。兵十は今まで、おっかあと二人きりで貧しい暮らしをしていたもので、おっかあが死んでしまっては、もうひとりぼっちでした。
「私と同じひとりぼっちの兵十ですか。」
こちらの物置の後ろから見ていたホズミは、そう思いました。
ホズミは物置のそばをはなれて、向こうにいきかけました。どこかで、イワシを売る声がします。
「イワシの安売りだあい。生きのいい、イワシだあい。」
ホズミは、その、威勢のいい声のする方へ走っていきました。と、弥助の女将さんが裏戸口から、「イワシをおくれ。」と言いました。イワシ売りは、イワシの籠をつかんだ車を、道端に置いて、ぴかぴか光るイワシを両手でつかんで、弥助の家の中へ持って入りました。ホズミは、その隙に、籠の中から、五、六匹のイワシをつかみ出して、もと来た方へ駆け出しました。そして、兵十の家の中へイワシを投げこんで、穴へ向かって駆け戻りました。途中の坂の上で振り返ってみますと、兵十がまだ、井戸のところで麦をといでいるのが小さく見えました。
ホズミは、ウナギの償いに、まず一つ、いいことをしたと思いました。
次の日には、ホズミは山で栗をどっさり拾って、それを抱えて、兵十の家へ行きました。裏口から覗いてみますと、兵十は、昼飯を食べかけて、茶碗を持ったまま、ぼんやりと考えこんでいました。変なことには、兵十のほっぺたに、かすりきずがついています。どうしたのでしょうと、ホズミが思っていますと、兵十が独り言を言いました。
「いったい誰が、イワシなんかを俺の家へほうりこんでいったんだろう。おかげで俺は、盗人と思われて、イワシ屋の奴に、酷い目にあわされた。」と、ぶつぶつ言っています。
ホズミは、これはしまったと思いました。かわいそうに兵十は、イワシ屋にぶん殴られて、あんな傷まで付けられてしまったのですね。
ホズミは、こう思いながら、そっと物置の方へ回って、その入口に栗を置いて帰りました。
次の日も、その次の日も、ホズミは、栗を拾っては、兵十の家へ持ってきてやりました。その次の日には、栗ばかりでなく、松茸も、二、三本持っていきました。
月のいい晩でした。ホズミは、ぶらぶら遊びに出かけました。中山様のお城の下を通って少し行くと、細い道の向こうから、誰か来るようです。話し声が聞こえます。チンチロリン、チンチロリンと松虫が鳴いています。
ホズミは、道の片側に隠れて、じっとしていました。話し声はだんだん近くなりました。それは、兵十と加助というお百姓でした。
「そうそう、なあ加助。」と、兵十が言いました。
「ああん?」
「おれあ、このごろ、とても、不思議なことがあるんだ。」
「何が?」
「おっかあが死んでからは、誰だか知らんが、おれに栗や松茸なんかを、毎日、毎日くれるんだよ。」
「ふうん。誰が?」
「それが、わからんのだよ。俺の知らんうちに、置いていくんだ。」
ホズミは、二人の後をつけていきました。
「本当かい?」
「本当だとも。嘘と思うなら、明日見に来いよ。その栗を見せてやるよ。」
それなり、二人は黙って歩いていきました。
加助がひょいと、後ろを見ました。ホズミはびっくりして、小さくなって立ち止まりました。加助は、ホズミには気が付かないで、そのままさっさと歩きました。吉兵衛というお百姓の家まで来ると、二人はそこに入っていきました。ポンポンポンポンと木魚の音がしています。窓の障子に明かりがさしていて、大きな坊主頭が映って動いていました。ホズミは、「お念仏があるのですね。」と思いながら、井戸のそばにしゃがんでいました。しばらくすると、また三人ほど、人が連れ立って、吉兵衛の家に入っていきました。お経を読む声が聞こえてきました。
ホズミは、お念仏が済むまで、井戸のそばにしゃがんでいました。兵十と加助はまた一緒に帰っていきます。ホズは、二人の話を聞こうと思って、ついていきました。兵十の影法師をふみふみ行きました。
お城の前にまで来たとき、加助が言い出しました。
「さっきの話は、きっと、そりゃあ、神さまの仕業だぞ。」
「えっ?」と、兵十はびっくりして、加助の顔を見ました。
「俺は、あれからずっと考えていたが、どうも、そりゃ、人間じゃない、神さまだ、神さまが、お前がたった一人になったのを哀れに思わっしゃって、いろんなものを恵んでくださるんだよ。」
「そうかなあ。」
「そうだとも。だから、毎日、神さまにお礼を言うがいいよ。」
「うん。」
ホズミは、へえ、これはつまらないですねと思いました。私が、栗や松茸を持っていってるのに、その私にはお礼を言わないで、神さまにお礼を言うのでは、私は、引き合わないな。
その明くる日もホズミは、栗を持って、兵十の家へ出かけました。兵十は物置で縄をなっていました。それでホズミは、裏口から、こっそり中へ入りました。
そのとき兵十は、ふと顔を上げました。と、タヌキが家の中へ入ったではありませんか。こないだ化かしやがった、あのホズダヌキめが、また悪戯をしに来たな。
「ようし。」
兵十は、立ち上がって、納屋にかけてある火縄銃を取って、火薬を詰めました。
そして足音を忍ばせて近よって、今、戸口を出ようとするホズミを、ドンと撃ちました。ホズミはばたりと倒れました。兵十は駆け寄ってきました。家の中を見ると、土間に栗が固めて置いてあるのが目につきました。
「おや。」と、兵十はびっくりしてホズミに目を落としました。
「ホズミ、お前だったのか。いつも栗をくれたのは。」
ホズミは、ぐったりと目をつぶったまま、うなづきました。
兵十は、火縄銃をばたりと取り落としました。青い煙が、まだ筒口から細く出ていました。
昔は、私たちの村の近くの、中山というところに小さなお城があって、中山さまというお殿様がおられたそうです。
その中山から、少し離れた山の中に、「ホズミ」というタヌキがいました。ホズミは、ひとりぼっちの小ダヌキで、シダのいっぱい茂った森の中に穴を掘って住んでいました。そして、夜でも昼でも、あたりの村へ出ていって、悪戯ばかりしました。畑へ入って芋を掘りちらしたり、菜種殻の、干してある野へ火をつけたり、百姓家の裏手に吊るしてあるとんがらしをむしり取っていったり、いろんな事をしました。
ある秋のことでした。二、三日雨が降りつづいたそのあいだ、ホズミは、ほっとして穴からはい出しました。空はからっと晴れていて、モズの声がキンキン響いていました。
ホズミは、村の小川のつつみまで出てきました。あたりのススキの穂には、まだ雨の雫が光っていました。川は、いつもは水が少ないのですが、三日もの雨で、水がどっと増していました。ただのときは水に浸かることのない、川べりのススキやハギの株が、黄色く濁った水に横倒しになって、もまれています。ホズミは川下の方へと、ぬかるみ道を歩いていきました。
ふと見ると、川の中に人がいて、何かやっています。ホズミは、見つからないように、そうっと草の深いところへ歩きよって、そこからじっとのぞいてみました。
「兵十ですね。」と、ホズミは思いました。兵十はボロボロの黒い着物をまくし上げて、腰のところまで水に浸りながら、魚を捕る、はりきりという網をゆすぶっていました。はちまきをした顔の横っちょうに、まるいハギの葉が一枚、大きな黒子のようにへばり付いていました。
しばらくすると、兵十は、はりきり網のいちばん後ろの、袋のようになったところを、水の中から持ち上げました。その中には、シバの根や、草の葉や、腐った木ぎれなどが、ごちゃごちゃ入っていましたが、でもところどころ、白いものがきらきら光っています。それは、太ウナギの腹や、大きなキスの腹でした。兵十は、びくの中へ、そのウナギやキスを、ゴミと一緒にぶちこみました。そしてまた、袋の口をしばって、水の中に入れました。
兵十は、それから、びくを持って川から上がり、びくを土手においといて、何を探しにか、川上の方へかけていきました。
兵十が居なくなると、ホズミは、ぴょいと草の中から飛び出して、びくのそばへ駆けつけました。ちょいと、悪戯がしたくなったのです。ホズミはびくの中の魚をつかみ出しては、はりきり網のかかっているところより下手の川の中を目がけて、ぽんぽん投げこみました。どの魚も、「とぼん」と音を立てながら、濁った水の中へ潜りこみました。
一番しまいに、太いウナギを川へなげ込むと、そこらから木の葉や石ころ、ツルを集めると、ポンポンポン♪とそれらを魚やウナギに変化させました。そして変化させたそれらを、びくのへ入れている最中、兵十が、向こうから、「うわあ、ぬすっとダヌキめ。」と、怒鳴りたてました。ホズミは、びっくりして飛び上がりました。ホズミは、横っ飛びに飛び出して一生懸命に、逃げていきました。
洞穴の近くの、ハンの木の下で振り返ってみましたが、兵十は追っかけては来ませんでした。ホズミは、ほっとして、洞穴へ帰りました。
十日ほどたって、ホズミが、弥助というお百姓の家の裏を通りかかりますと、そこの、イチジクの木の陰で、弥助の家内が、お歯黒を付けていました。鍛冶屋の新兵衛の家の裏を通ると、新兵衛の家内が、髪を梳いていました。ホズミは、「ふふん。村に何かあるんですね。」と思いました。
「なんでしょう、秋祭りでしょうか。祭りなら、太鼓や笛の音がしそうですが。それに第一、お宮にのぼりが立つはずですね。」
こんなことを考えながらやってきますと、何時の間にか、表に赤い井戸がある、兵十の家の前へ来ました。その小さな、壊れかけた家の中には、大勢の人が集まっていました。余所行きの着物を着て、腰に手拭いを下げたりした女たちが、表のかまどで火を焚いています。大きな鍋の中では、何かぐずぐず煮えています。
「ああ、葬式ですね。」と、ホズミは思いました。
「兵十の家の誰かが亡くなったのでしょう。」
お昼が過ぎると、ホズミは、村の墓地に行って、六地蔵さんの陰に隠れていました。いいお天気で、遠く向こうには、お城の屋根瓦が光っています。墓地には、彼岸花が、赤いきれのように咲き続いていました。と、村の方から、カーン、カーンと鐘が鳴ってきました。葬式の出る合図です。
やがて、白い着物を着た葬列の者たちがやってくるのがちらちら見え始めました。話し声も近くなりました。葬列は墓地へ入っていきました。人々が通った後には、彼岸花が、踏み折られていました。
ホズミはのび上がって見ました。兵十が、白い裃を付けて、位牌をさげています。何時もは赤いサツマイモみたいな元気のいい顔が、今日はなんだかしおれていました。
「ははん。亡くなったのは兵十のおっかあですね。」
ホズミは、そう思いながら、頭をひっこめました。
その晩、ホズミは、穴の中で考えました。
「兵十のおっかあは、床についていて、ウナギが食べたいと言ったにちがいありません。それで兵十がはりきり網を持ち出したのでしょう。ところが、私が悪戯をして、ウナギを逃がしてしまった。だから兵十は、おっかあにウナギを食べさせることができなかった。そのままおっかあは、亡くなったにちがいありません。ああ、ウナギが食べたい、ウナギが食べたいと思いながら、亡くなったのでしょう。ああっ、あんな悪戯をしなければよかった。」
兵十が、赤い井戸のところで、麦をといでいました。兵十は今まで、おっかあと二人きりで貧しい暮らしをしていたもので、おっかあが死んでしまっては、もうひとりぼっちでした。
「私と同じひとりぼっちの兵十ですか。」
こちらの物置の後ろから見ていたホズミは、そう思いました。
ホズミは物置のそばをはなれて、向こうにいきかけました。どこかで、イワシを売る声がします。
「イワシの安売りだあい。生きのいい、イワシだあい。」
ホズミは、その、威勢のいい声のする方へ走っていきました。と、弥助の女将さんが裏戸口から、「イワシをおくれ。」と言いました。イワシ売りは、イワシの籠をつかんだ車を、道端に置いて、ぴかぴか光るイワシを両手でつかんで、弥助の家の中へ持って入りました。ホズミは、その隙に、籠の中から、五、六匹のイワシをつかみ出して、もと来た方へ駆け出しました。そして、兵十の家の中へイワシを投げこんで、穴へ向かって駆け戻りました。途中の坂の上で振り返ってみますと、兵十がまだ、井戸のところで麦をといでいるのが小さく見えました。
ホズミは、ウナギの償いに、まず一つ、いいことをしたと思いました。
次の日には、ホズミは山で栗をどっさり拾って、それを抱えて、兵十の家へ行きました。裏口から覗いてみますと、兵十は、昼飯を食べかけて、茶碗を持ったまま、ぼんやりと考えこんでいました。変なことには、兵十のほっぺたに、かすりきずがついています。どうしたのでしょうと、ホズミが思っていますと、兵十が独り言を言いました。
「いったい誰が、イワシなんかを俺の家へほうりこんでいったんだろう。おかげで俺は、盗人と思われて、イワシ屋の奴に、酷い目にあわされた。」と、ぶつぶつ言っています。
ホズミは、これはしまったと思いました。かわいそうに兵十は、イワシ屋にぶん殴られて、あんな傷まで付けられてしまったのですね。
ホズミは、こう思いながら、そっと物置の方へ回って、その入口に栗を置いて帰りました。
次の日も、その次の日も、ホズミは、栗を拾っては、兵十の家へ持ってきてやりました。その次の日には、栗ばかりでなく、松茸も、二、三本持っていきました。
月のいい晩でした。ホズミは、ぶらぶら遊びに出かけました。中山様のお城の下を通って少し行くと、細い道の向こうから、誰か来るようです。話し声が聞こえます。チンチロリン、チンチロリンと松虫が鳴いています。
ホズミは、道の片側に隠れて、じっとしていました。話し声はだんだん近くなりました。それは、兵十と加助というお百姓でした。
「そうそう、なあ加助。」と、兵十が言いました。
「ああん?」
「おれあ、このごろ、とても、不思議なことがあるんだ。」
「何が?」
「おっかあが死んでからは、誰だか知らんが、おれに栗や松茸なんかを、毎日、毎日くれるんだよ。」
「ふうん。誰が?」
「それが、わからんのだよ。俺の知らんうちに、置いていくんだ。」
ホズミは、二人の後をつけていきました。
「本当かい?」
「本当だとも。嘘と思うなら、明日見に来いよ。その栗を見せてやるよ。」
それなり、二人は黙って歩いていきました。
加助がひょいと、後ろを見ました。ホズミはびっくりして、小さくなって立ち止まりました。加助は、ホズミには気が付かないで、そのままさっさと歩きました。吉兵衛というお百姓の家まで来ると、二人はそこに入っていきました。ポンポンポンポンと木魚の音がしています。窓の障子に明かりがさしていて、大きな坊主頭が映って動いていました。ホズミは、「お念仏があるのですね。」と思いながら、井戸のそばにしゃがんでいました。しばらくすると、また三人ほど、人が連れ立って、吉兵衛の家に入っていきました。お経を読む声が聞こえてきました。
ホズミは、お念仏が済むまで、井戸のそばにしゃがんでいました。兵十と加助はまた一緒に帰っていきます。ホズは、二人の話を聞こうと思って、ついていきました。兵十の影法師をふみふみ行きました。
お城の前にまで来たとき、加助が言い出しました。
「さっきの話は、きっと、そりゃあ、神さまの仕業だぞ。」
「えっ?」と、兵十はびっくりして、加助の顔を見ました。
「俺は、あれからずっと考えていたが、どうも、そりゃ、人間じゃない、神さまだ、神さまが、お前がたった一人になったのを哀れに思わっしゃって、いろんなものを恵んでくださるんだよ。」
「そうかなあ。」
「そうだとも。だから、毎日、神さまにお礼を言うがいいよ。」
「うん。」
ホズミは、へえ、これはつまらないですねと思いました。私が、栗や松茸を持っていってるのに、その私にはお礼を言わないで、神さまにお礼を言うのでは、私は、引き合わないな。
その明くる日もホズミは、栗を持って、兵十の家へ出かけました。兵十は物置で縄をなっていました。それでホズミは、裏口から、こっそり中へ入りました。
そのとき兵十は、ふと顔を上げました。と、タヌキが家の中へ入ったではありませんか。こないだ化かしやがった、あのホズダヌキめが、また悪戯をしに来たな。
「ようし。」
兵十は、立ち上がって、納屋にかけてある火縄銃を取って、火薬を詰めました。
そして足音を忍ばせて近よって、今、戸口を出ようとするホズミを、ドンと撃ちました。ホズミはばたりと倒れました。兵十は駆け寄ってきました。家の中を見ると、土間に栗が固めて置いてあるのが目につきました。
「おや。」と、兵十はびっくりしてホズミに目を落としました。
「ホズミ、お前だったのか。いつも栗をくれたのは。」
ホズミは、ぐったりと目をつぶったまま、うなづきました。
兵十は、火縄銃をばたりと取り落としました。青い煙が、まだ筒口から細く出ていました。
庭園の前にほーちゃんが座っていた。庭園の所にローテからドラジがやってきて、コストを下げさせてくれと頼んだ。
しかしほーちゃんは言う。「下げてやるわけにはいきませーん!」ドラジはよく考えてから、訪ねた。じゃあ、後で下げてくれるのかい。
「ええ、進化ターンが来ましたらね。今はダメです。」庭園はいつも絢爛豪華で、その前にほーちゃんが座りこけている。
そこでドラジは近付いて、庭園をじっくりと観察しようとした。そのことに気づいたほーちゃんが笑い、こう言った。
「そんなに見惚れたのなら、下げてみたらどうですか。私は下げてあげる訳にはいかないといっただけですからね。。ですが忘れないでください。ここはアンリミ、おまけに、今対峙しているのは一番弱いデッキにすぎません。アンリミには番人が居て、庭園を無理に置こうとすれば強い番人に当たります。
私だって、一番強い番人に遭遇したらひどい目に合うんですから。」こんな大変なことになるとはドラジには思いもしなかった。
庭園はいつでも置かれているべきだ、と思ったが、絢爛豪華なほーちゃんをうっとりと眺め、ドラジは決心した。
いや、待とう。進化ターンが来るまで。ほーちゃんに託宣を進められ、庭園の隣に座らせた。そこに幾日も何年も座り続けていた。
コストを下げてくれと色々試み、しつこく頼んでほーちゃんをうんざりさせた。ほーちゃんは時々、怒った口調でローテのことなどを質問した。
しかし質問はローテ落ちしたものがするものにすぎず、いつも終わりにほーちゃんはドラジにこう言うのだった。
「頭がたかーい!」と。アンリミの為にドラジは予め沢山のエーテルやオーブを用意してきたが、ほーちゃんを買収するために全て使い尽くしてしまった。
ほーちゃんはどれも受け取ったが、受け取りながらこう言い添えた。「受け取りますけど、それは、貴方の為にです。やり残しがあったと思わないように。特別に、『ほーちゃん』と呼ぶ権利は与えましょう!」
七年もの間、ドラジは殆ど休みなく、ほーちゃんから目を離さなかった。そのうちドラジは他にも番人が居ることも忘れ、最初のこのデッキこそが、庭園へと至るための唯一の障害だというふうに思えてきた。
ドラジはこの不幸を嘆き、初めの数年はなりふり構わず大声で呪ったが、年老いると、独りでだらだらとぼやくだけとなった。
スレ民っぽくなったドラジは、長年の庭園ドラ研究の暁に、ほーちゃんの脇に住むピュートーンの一匹まで見つけることすらできたので、助けてくれないか、ほーちゃんの気持ちを変えさせたいんだよと、ピュートーンにまで頼み込んだ。
遂にはドラジの視力も衰えてきて、ドラジは本当に暗いのか、ただ目の錯覚なのかが、わからなくなった。
だがしかし、暗闇の中、庭園から消えることなく差し込み、漏れてくる光が、ドラジには今はっきりと見えた。
ドラジの命もこれまでだった。引退を目前にして、ドラジの頭の中で今までのエロメンコ全ての経験が収束して、一つの問いへとなった。
ドラジはほーちゃんに、手を振って知らせた。身体が固まり、自力で起き上がることができなかった。。
ほーちゃんはドラジのほうに屈んでやった。「今更いったい何を知りたいんですか。」ほーちゃんが言う。「もっと敬うべきですが!?」
「皆、庭園を求めているはずなのに」とドラジが言った。「どういうわけで、何年たっても、ここではわたし以外に誰も庭園ドラを使わなかったんだ。」
ほーちゃんはドラジが既に引退しかかっていることに気付いて、微かな聴覚でも聞こえるよう、ほーちゃんはドラジに大声で怒鳴った。
「ここでは、他の誰も使用を許されませんでした。この庭園はただあなた専用のものだったからです。私はもう行きます、だから庭園を閉じますよ。」
しかしほーちゃんは言う。「下げてやるわけにはいきませーん!」ドラジはよく考えてから、訪ねた。じゃあ、後で下げてくれるのかい。
「ええ、進化ターンが来ましたらね。今はダメです。」庭園はいつも絢爛豪華で、その前にほーちゃんが座りこけている。
そこでドラジは近付いて、庭園をじっくりと観察しようとした。そのことに気づいたほーちゃんが笑い、こう言った。
「そんなに見惚れたのなら、下げてみたらどうですか。私は下げてあげる訳にはいかないといっただけですからね。。ですが忘れないでください。ここはアンリミ、おまけに、今対峙しているのは一番弱いデッキにすぎません。アンリミには番人が居て、庭園を無理に置こうとすれば強い番人に当たります。
私だって、一番強い番人に遭遇したらひどい目に合うんですから。」こんな大変なことになるとはドラジには思いもしなかった。
庭園はいつでも置かれているべきだ、と思ったが、絢爛豪華なほーちゃんをうっとりと眺め、ドラジは決心した。
いや、待とう。進化ターンが来るまで。ほーちゃんに託宣を進められ、庭園の隣に座らせた。そこに幾日も何年も座り続けていた。
コストを下げてくれと色々試み、しつこく頼んでほーちゃんをうんざりさせた。ほーちゃんは時々、怒った口調でローテのことなどを質問した。
しかし質問はローテ落ちしたものがするものにすぎず、いつも終わりにほーちゃんはドラジにこう言うのだった。
「頭がたかーい!」と。アンリミの為にドラジは予め沢山のエーテルやオーブを用意してきたが、ほーちゃんを買収するために全て使い尽くしてしまった。
ほーちゃんはどれも受け取ったが、受け取りながらこう言い添えた。「受け取りますけど、それは、貴方の為にです。やり残しがあったと思わないように。特別に、『ほーちゃん』と呼ぶ権利は与えましょう!」
七年もの間、ドラジは殆ど休みなく、ほーちゃんから目を離さなかった。そのうちドラジは他にも番人が居ることも忘れ、最初のこのデッキこそが、庭園へと至るための唯一の障害だというふうに思えてきた。
ドラジはこの不幸を嘆き、初めの数年はなりふり構わず大声で呪ったが、年老いると、独りでだらだらとぼやくだけとなった。
スレ民っぽくなったドラジは、長年の庭園ドラ研究の暁に、ほーちゃんの脇に住むピュートーンの一匹まで見つけることすらできたので、助けてくれないか、ほーちゃんの気持ちを変えさせたいんだよと、ピュートーンにまで頼み込んだ。
遂にはドラジの視力も衰えてきて、ドラジは本当に暗いのか、ただ目の錯覚なのかが、わからなくなった。
だがしかし、暗闇の中、庭園から消えることなく差し込み、漏れてくる光が、ドラジには今はっきりと見えた。
ドラジの命もこれまでだった。引退を目前にして、ドラジの頭の中で今までのエロメンコ全ての経験が収束して、一つの問いへとなった。
ドラジはほーちゃんに、手を振って知らせた。身体が固まり、自力で起き上がることができなかった。。
ほーちゃんはドラジのほうに屈んでやった。「今更いったい何を知りたいんですか。」ほーちゃんが言う。「もっと敬うべきですが!?」
「皆、庭園を求めているはずなのに」とドラジが言った。「どういうわけで、何年たっても、ここではわたし以外に誰も庭園ドラを使わなかったんだ。」
ほーちゃんはドラジが既に引退しかかっていることに気付いて、微かな聴覚でも聞こえるよう、ほーちゃんはドラジに大声で怒鳴った。
「ここでは、他の誰も使用を許されませんでした。この庭園はただあなた専用のものだったからです。私はもう行きます、だから庭園を閉じますよ。」
イディス聖導院にきて2年目。
最初のうちは慣れなかった勉強と淑女作法の両立も慣れてくる頃。友達もできて私はそれなりに充実した日々を送っていた。
今日はクラスメイトと久々のお茶会。新入生の世話で忙しく、ここ最近は開催することができていなかったのだが――。
「まったく……ツイていないですわね……」
たまたま友人たちの予定が重なってしまい、今日のお茶会は急遽中止になってしまった。
だが今は陽ざしがよく暖かい春の昼下がり……しかも私の好きな白い薔薇が咲いていて、この日を逃してしまうのはもったいなく思う。
「たまには一人でお茶を嗜むのも、悪くはないかもしれないですわね……」私はこうして一人でベランダに出た。
かごからティーセットをテーブルの上に広げると、魔力を込めてお茶を沸かす。火の魔法は私の得意分野だ。
庭の方から薔薇の香りが漂っている。それにしてもあたり一面満開の白い薔薇だ。来週から雨の予報だったため、この花たちも近いうちに散ってしまうだろう。これを見逃すなんて、やっぱりもったいない。一人とはいえ、来てみて正解だったようだ。
ふと、この庭は誰が整備しているのだろうか、と気になった。庭の整備は園芸部が担当していると聞いたことがある。きっと、この薔薇のように清らかで美しい生徒が整えているのだろう。
たまには庭を散策してみるのもいいかもしれない。お茶をするのも悪くはないが、せっかく一人なのだからたまには違うことをしてみたくなった。私はポットにつけた火を消すと、庭の奥に向かって歩き始めた。
イディス聖導院の庭はけっこう広い。花壇の奥には小さな森になっており、一年生の時にはたびたび課外授業で訪れていた。
今は授業の時間ではないので人もいなく閑散としている。整備された森の小道を一人で歩いていると心が落ち着いてくるようだ。森の木陰に土のにおい。道のそばでは小川が流れており、小鳥のさえずりが聞こえてくる。
たまには園芸部のみなさんに、いつも花や自然で学園を彩ってくれていることに感謝すべきだな――。そう思って歩いていると奥の方からなにやら「セイッ!」という掛け声が聞こえてきた。
森を整備してくれている園芸部の人だろう。茶色い長髪の少女は一人で木の枝を伐採していた。
その後ろ姿をみるに、体躯からしておそらく1年生だろうか。1年生なのにもう一人で整備をしていることにも驚いたが――もっと驚いたのはその伐採方法だった。
彼女は鋏を使っていない。彼女は自身の指先に魔力を込め、とがった’爪’で、道にはみだしている枝を切り落としていた。彼女の無駄な動きのない手刀に沿って余分な枝が切り払われていく……そして、小さな腕を振るたびにフサフサでおおきい"尻尾"がゆらゆらと揺れる。
その洗練された動きに思わず、「きれい……」と口に出た。
彼女は学園内でも珍しい、「獣人」だった。
彼女の小さな背中がビクッと震える。こちらに気づいてなかったのだろう。
「あっ!その……」彼女は姿勢を正して言った。
「上級生の方にお見苦しいものをお見せして大変申し訳ありません。淑女にあるまじき仕草を見せてしまいました。
鋏を使わず、手癖の悪いところを……お目汚し、失礼いたしました」彼女はぺこりと頭を下げた。
お目汚しだなんて、とんでもない。
「いえ、大変興味深いものを見させてもらいましたわ……。すごく洗練された動きですのね。あなたは1年生?」
「あっ、えっその……!」彼女は童顔を真っ赤にして目を伏せてしまった。
何か気に障ることを言ってしまっただろうか。もしかしたら目上相手に気を張ってしまっているのかもしれない。
まず最初に仲良くなるために、ここイディス聖導院でやることはひとつだ。
「そうだわ!もしあなたがよかったらだけど……一緒にお茶でもどうかしら?」
ティーポットを温めなおしながら彼女のことについていろいろ聞いた。
聞けば彼女は1年生の身でありながら、自然の知識に詳しいことから特別に一人で整備を任されることがあるとのことだった。体よく使われているだけではないのか?とも思ったがどうやらそうでもないらしい。
「この薔薇は今は春なので水分をたっぷり吸って白い花を咲かせるんですが、
秋になると水の吸い上げが少なくなって濃いピンク色になるんですよ♪」彼女は楽しそうに言った。
私は彼女に聞くまでここの薔薇が1年に2回花を咲かすことも知らなかった。種類によるらしい。
私がお茶を淹れなおしている間にも、今咲いている花の名前……ここの花はどういうふうに水の量を調整して育てているのか…もうすぐどんな植物が実を結ぶのか。
この庭園のことについてとても丁寧に説明してくれた。
「詳しいのね」
「私森育ちなので昔からお母さんの手伝いで植物のお世話をしていたんです……あっこのお茶おいしいですっ!」
「ありがとう。私の好きなローズヒップティーよ。なるほど……それであんなに手際よく枝の剪定ができるのですわね」
そう言ったところで彼女の表情が少し不安を帯びたものになる。
「も、申し訳ありませんっ!私の集落ではあの切り方で教わっていて……はしたないですよね。
部活の先輩には注意されていたんですが……」
私はティーカップを置くと彼女の顔をまじまじと見る。普段の園芸部のやり方はよく知らないが、彼女の手さばきは見事なものだった。
「いいえ!そんなこと……次々と枝を切りそろえていくあの動き、とても見事でしたわ。素人の私が言うのもなんですが……きっと、あなたの先輩は見る目がなかっただけのことですわよ!」
せっかくのあの美しい所作を否定された気分になったからか、ついムキになって言ってしまった。
彼女は一瞬きょとん、とするとふふっと顔をほころばせた。
「何がおかしいですのよ!」
「いえ、すいません……先輩がまるで自分のことを悪く言われたみたいに怒って下さったみたいで」
彼女は白い手袋で口元を抑えて笑った。尻尾がパタパタと振れている。どうやら今回は気分を害してはいないようだ。
これが――私と純真の花少女との出会いだった。
こうして知り合った私と純真の花少女は、たまに放課後を一緒に過ごすようになった。
本を交換しあったり、勉強を教えてあげたり…彼女はお返しに部屋に飾るように花を見繕ってくれたりもしてくれた。良い先輩と後輩の関係、というやつだ。
そうこうしているうちに春の季節は終わり、初夏を過ぎて衣替えの季節となっていた。
「朝顔が咲く季節になりましたね」
紫色の花を眺めながら彼女は言った。
「朝顔って、朝と夕方とで色が変化してるのって知ってましたか?朝は青っぽい色を咲かせている子も夕方になるにつれて赤っぽい色になるんですよ」
私の淹れた紅茶を啜りながら彼女は言った。こうして一緒にベランダでお茶をするとき、庭園に咲いている花についていろいろ教えてくれるのが一環となっていた。
そういえば朝学園に行く時はもっと青っぽかった気がする。日常の小さな発見が得られるようになったのも、こうして彼女と知り合うようになってからだ。
彼女の方を見やると、夏服になって露わになった細腕が目に映る。ティーカップを持つ彼女の白い手袋が目に入った。
「そういえばあなたまだその手袋しているのね。日焼け対策?」
「あっいえ……前にお見せした通り、私の爪は尖ってて危ないので……」そう言って彼女は手袋を外してみせた。
彼女のしなやかな手つきが露わになる。確かに人よりもちょっと爪が長めではあるが、別に危ないほどではなかった。剪定時にだけ魔力で一時的に切れ味を増しているのだろう。
それよりも私が気になったのが、手の甲の肌のカサつきだ。彼女の手を握ってみると少し粉がふいているようだ。
「ちょっと、あなた……ちゃんとお肌のケアはしてる?せっかく綺麗な手してるのに……
ああもう、あなた土いじりしてるんだから、暑くてもちゃんと手のケアはしなきゃダメよ」
私は鞄からハンドクリームを取り出すと、自分の手に広げて彼女の手を覆うように塗ってやる。
ほのかにグレープフルーツの香りがした。
「先輩その……恥ずかしいです……」彼女が少し照れたようにいう。
「ダメよ。せっかく白くてきれいな肌してるんだから……これからはちゃんとケアしてあげること!」
塗り終わって手を開放してあげると、彼女は鼻をスンスンして手のにおいをかいだ。彼女の口元が緩んでいる。
どうやらお気に召したようだった。ちょっとはしたないけど。
「先輩は私の手が怖くないのですか?」
「?別に……どうかしたの?」
「私、先生に注意されたんです。爪が危ないからって……でも私たち獣人はある程度爪が長くないと落ち着かないんです」
彼女は自分の手をもじもじさせた。
「けど先生は認めてくれなくて……仕方がないので普段は手袋をして隠してるんです」
彼女は目を伏し目がちに言った。
私は彼女の手をもう一度取った。
華奢で白い手に整えられた爪先。土いじりのせいで肌は荒れていたが今はハンドクリームを塗ったおかげでツルツルしている。
よくみると、爪の先が植物の繊維で少し緑色になっている。手を握ってみると、手のひらの皮が少し固くなっているのがわかる。庭仕事をしている人の手だ。
「こんなに美しい手をしてるのに……貴方の手は確かにちょっと危ないかもしれないけど、これは働く人の手よ。
毎日真面目に庭のお手入れをしていないとそもそもこの手にはならないはずですもの」後輩のちいさな手をいたわるように揉んでやる。
「私は貴方の手を尊敬してますのよ」
彼女のチョコレートの瞳が揺れたような気がした。
「わたし、この学園に来て、周りの人と違うこの手がコンプレックスだったんです……でも……お姉様にそう言っていただけるなら今はこの手がちょっとだけ誇らしいです」
彼女が私のことをお姉様と呼んだのは、これが初めてのことだった。
夏休みが過ぎ去り、イディス聖導院の後学期がはじまる。
まだ日差しは暑かったが、時々吹く涼しい風が秋の訪れを感じさせた。
外で過ごすには悪くない気候だ。ここらでまた庭の散策をするのも悪くない機会なのだが……
「ツイてないですわね……まさかこんなときに熱を出してしまうだなんて……」
季節の変わり目は風邪をひきやすい。昨日夜遅くまで本を読んでいたのが仇となったか。
今はイディスは連休中なので、幸か不幸か授業に遅れるということはない。せっかくの休日がつぶれるのは癪に障るけども。
「ハァ……だるいしもう寝ようかしら……」
ベッドに寝転ぶと身体がズーンと重くなっているのを感じる。
まだ起きたばかりだったがまともに身体を動かす気にならない。その日は食事を適当に済ませてとっとと眠りについた。
2日経ったがなかなか熱が引かない。困った。せっかくの連休がいよいよパーになってしまった。
一人で部屋にこもっているとやることがない。家事も最低限しかやっていないので色々溜まりつつある。だんだん色々なことが億劫になってきた。
ゲホッゲホッと咳をする。時々窓から風が吹いてくる他には、私以外に動くものはない。部屋はシーンと静まり返っていた。
――確か同級生の友達はこの連休で実家に帰ると言っていた。残念ながら、部屋にお見舞いに来てくれるということもないだろう。
仕方がないのでご飯も食べずに再びベッドにこもることにする。ふと、後輩のあの子の顔が思い浮かんだ。
そういえば夏休みはお互い部活で忙しかったから、この連休中に久しぶりに町に一緒に出掛ける約束をしていたんだっけ。
一応園芸部の知り合いに風邪でいけないことは伝えてあるので心配はいらないはず。あの子が悲しそうに耳を垂らしている様子が目に浮かんだ。
夢を見た。幼いころに熱をだして学校を休んでいた時の記憶だ。
家の掃除をしたり洗濯物を干している母をベッドから眺めていた。
普段は学校に行ってて、あまり見ない姿の母を見てなんとなく、不思議な感覚だったのを覚えている。
あの時、暇そうにしている私を見て、喉に効くハーブティーを淹れてもらったっけ……
ピンポーン
突然ドアの鈴が鳴った。ハッと目を開く。寝巻きが汗でぐっしょり濡れている。時計を見ると昼を過ぎたくらいだった。
一体誰だこんなしんどい時に。休日に誰かが部屋を訪れること自体が珍しい。
仕方なく、重い身体を起こしてベッドから起きて玄関にいく。ドアを開けるとモフモフな栗毛の小さな女の子が立っていた。尻尾が心配そうにピンと立っている。
「もしかして寝ていらっしゃいましたか?」純心の花少女は心配そうにこちらを見ている。
「園芸部の先パイからお姉さまが体調を崩しているとお聞きして……もしよかったらお姉さまのお世話をさせてもらえませんか?」
――心配してお見舞いに来てくれるのはとてもありがたい。だが風邪をうつしてしまう可能性がある。
それに、あまり後輩に弱いところを見せないというのが淑女というものだろう。だが心細かったのも事実だ。
私は返答に窮する。
「いえ……たすかるわ。ちょっと散らかってるけどあがってもらえるかしら?」
あんな夢を見たからだろうか。今はなんとなく、誰かに甘えたい気分だった。私は彼女を部屋に上げた。
部屋に上げるとまず彼女に食欲はあるかと聞かれた。
作る気力はないが食べる元気はある。そう答えると彼女はふふっと笑っておかゆを作ってくれた。お鍋を沸かしている間も、たまっていた洗濯物などをてきぱきとこなしている。
一人暮らしには慣れたつもりだったが1年目の私はこんなに手際よく家事ができた記憶がない。
「なんだか慣れてる?」と聞くと彼女は「よく弟と妹の世話をしていたのでこういうことには慣れっこなんです」とはにかんで答えた。普段からよく親の手伝いをしていたんだろうな。
彼女が作ってくれたおかゆを食べる。
温かいおかゆが喉を通ると、お腹の中だけでなく、なにか目の奥がジーンとなるのを感じた。久しぶりのまともな食事に身体だけでなく心が満たされていくのを感じる。
どうやら自分で思っていたよりも心の方が弱っていたらしい。おかゆを食べている私の姿を彼女は慈しむように見ていた。献身的に世話をしてくれる彼女の存在が、今はとてもありがたかった。
おかゆを食べると今度はハーブティーを淹れてくれた。ありがたくいただくことにする。
飲んでみると、鼻にすーっと通るような香りがした。
「これって……」
「このお茶、前にお姉さまが風邪によく効くっておっしゃってたのを思い出して淹れてみたんです……いかがでしたか?」
「ええ……おいしいわ。でもよくそんなの覚えていたわね」
えへへ、と彼女が照れたように笑った。なぜだろうか。彼女が笑っただけでなんとなく、この部屋全体が明るくなったような気がした。
日も傾きかけた頃、身体を拭いて新しい寝巻きに着替えた後再びベッドに入る。今日はなんだか、久しぶりにぐっすり眠れそうな気がした。 あの後彼女には部屋の掃除までしてもらった。至れり尽くせりだ。今度何かふるまってやらないといけないな。
「それではお姉さま、失礼いたします。今日持ってきたお花はここに置いておきますね」
彼女は帰る支度をし始めた。
その時、なんとなく。
なんとなくだが、心がざわついたのを感じた。
部屋がまた寂しいものになってしまう気がしたのだ。
まって。
そう声をかける前に、気づいた時には私は彼女の服の裾をつかんでいた。
「お姉さま?」
換気中の窓から、風が吹いてきてカーテンが揺れた。窓から差し込んだ夕日で彼女の白い肌が、普段よりもきれいな赤みを帯びて見える。彼女の栗色の髪が風に沿ってまばらになびいていた。
夕日を帯びた彼女の瞳が、私を見つめている。私も彼女を見つめ返す。
今この空間には私と彼女の二人しかいない。
ふと、美人だなと思った。
しばらくの静寂。
お互いに見つめ合った後「お姉さま?どうしたんですか」と、彼女に言われる。
そこでようやくはっと意識を取り戻して手を離した。さっきまで掴んでいた右手は手汗をかいていた。
「ごめんなさい、その……ここ最近一人でいて色々と疲れてたから。今日は本当に来てくれてありがとう。嬉しかったわ」
そういうと、なんだか気恥ずかしくなってきて目を伏せた。
彼女の顔が見れない。彼女に背中を向けるようにして布団にくるまった。
彼女の声が背後から聞こえてくる。
「いつものお姉さまも素敵ですけど……今日のお姉さまは、なんだかちょっと甘えん坊さんですね」
彼女の言うとおり、普段の私らしくない。返答に迷った私は、唸るようにして適当に返事をはぐらかした。
部屋に再び静寂が訪れる。今は風が葉っぱを揺らす音だけが聞こえていた。
「お姉さま」
彼女に再び呼ばれて、布団にくるまったまま振り返る。彼女の顔がすぐ目の前にあった。
彼女は私の額にキスをした。
「弟や妹が小さかったころ、寝むれないときによくこうしておまじないをかけていたんです……
おやすみなさい。お姉さま」
時が止まったような気がした。彼女の顔が真っ赤に見えるのは照れているのか、それとも夕日のせいなのか。
彼女は私の頭を撫でて今度こそ部屋を出ていった。しばらく私は固まったままだった。
彼女に先ほど口づけされたところを手で触ってみる。
頭に上る熱が風邪によるものなのか、それとも別の何かによるものなのかはよく分からなかった。
彼女が去っていった玄関の方を見やると、ドア横の花瓶に一本の赤い薔薇がそえてあった。
それは以前、彼女が好きだと言っていた花だった。
あれからようやく熱も下がった。あの子の看病のおかげでなんとか連休明けには回復できた。
ただ、風邪が治って以来まだあの子には会っていなかった。今会うと緊張してまともにあの子の顔を見ることができないような気がしたのだ。
あの子は、なんで私にあの時キスしたんだろうか。あの子は私のことをどう思っているのだろう。
とはいえ、お見舞いのお礼もしなきゃいけないしどうしよう……と授業合間の休憩時間に考えていると、教室の端の方で固まってる集団からなにかキャーキャーと騒いでいるのが聞こえてくる。
「え!?どこの人!?」 「いや別にそんなんじゃないわよ〜」
「ただちょっと気になってるだけよ、それに相手は女の子だし」
「なあんだ女の子かあ……」
どうやら恋バナに花を咲かせているらしい。
私は、どうなのだろうか。遠巻きに彼女たちの話を聞きながら、頬杖をついて思考を巡らせる。
あの子のことが好きなのだろうか。
実際、好きではあるだろう。しかしそれは友人として、という意味であるはずだ。
だって相手は女の子で、しかも後輩だし。ほかに何があるというのだろうか?
あの子も同じ気持ちであるはずだ。多分、私を純粋に慕ってくれているだけのはずなのだ。
唇に指先をあてて思案する。
お見舞いの時のあの子の顔が思い浮かぶ。結局あの時、彼女はどんな顔していたんだろうか。
自分の気持ちを整理する前に、あの子の真意を知るべきかもしれない。ただ直接聞くというのもさすがに恥ずかしい。
どうしようかと考えていると、一つの案を思いつく。思いついたままに私は図書館に足を運んでいた。
私は図書館をよく利用する方の生徒だった。お茶のお供によく本を借りるためだ。
そのためある程度どこの本棚に何があるかは把握している。目的の本を探すのにそう時間はかからなかった。
「――あ、あった。これなら載ってるかしら。」私が見つけてきたのは、いわゆる異文化交流について載っている本だ。
昔ちらっと読んだ程度だが、たしか歴史や食文化のほかに、その地域特有の挨拶や仕草についても載っているはず。パラパラとめくっていくと、
――あった。大きなケモノ耳を頭から生やした母親と子ども二人がハグをしている写真が載っている。獣人について書かれている項目だ。
適当にページをめくっていく。私たち人間にはあまり考えられないような文化について書かれていた。
例えば、仲のいい友達同士で尻尾を絡ませあうハグの仕方、そのほかには親しいもの同士の挨拶で鼻を互いに軽く押し付ける……いった感じだ。
獣人というのは人間よりも意外と距離感が近いのかもしれない。あの子の初対面の時の様子からは想像つかないけれど。
「あ。」探していたページが見つかった。
『額への口づけ』
どうやら親や目上の家族が、子供に対して親愛を込めたおまじない、ということが書いてある。
親愛、という言葉を頭の中で反芻してみる。
額を手で撫でる。たしかに、あの子に対して親愛の念がないということはないだろう。
私はあの子が好きで、あの子もきっと自分を好きなハズだ。でなきゃあんなことしないはず。
親愛。
悪くない響きだった。好きよりもちょっと上というか。
私たちの間には確かにその言葉がぴったりな関係な気がする。
つまりはこういうことか。
あの子は恐らく、普段の学園での生活ではやらないような、自分の文化でのあいさつを私にしてしまったにすぎない。
あの子はただ単に私との距離感を取り違えたに違いないのだ。
彼女が私に向けている感情がどんなものであるかを知ることが出来て安心した。だが、何となく気落ちしたような気もする。
ん?なぜだろうか。
まあいいか。気持ちの整理がついた今なら、あの子に会っても問題ない気がする。
そういえば夏は暑すぎて外にいられないから久しくお茶会も開いていなかったな。最近涼しくなってきたし、久しぶりに『親愛』なる後輩を誘ってみようかしら。
心のわだかまりがとけてすっきりした。今なら純粋な気持ちであの子に会いに行くことが出来そうだ。
授業が終わって庭の薔薇園の前であの子を待っていた。
最近は暑さもすっかり引いて、私の好きな白い薔薇が満開の季節になっていた。
今日は会う約束はしていないが、今までの経験からして今日はあの子がここで整備をする番のはずだ。
そして待っていると――よし。あの子がやってきた。彼女に手を振る。
「この間はお見舞い来てくれてありがとうね」
いつもは私の顔を見るとあの子は小動物のようにパっと笑顔を見せて近づいてきてくれる。だが今日のところは様子がおかしい。
私に気づくと手に持った庭の手入れ用具が入ったかごで顔を隠してしまった。
「え、ちょっと。どうしたのよ」
「あ、えと……」いつもは明るい彼女だが、声音からしてあんまり元気ではなさそうだ。どうしたのだろうか。
突然、意を決したように彼女がこっちをまっすぐ見てきた。目が少し涙目になっていた。
「その……この間はごめんなさいっ!」
「え」
なぜか謝られた。彼女は涙ながらに続ける。
「私たち獣人はちょっと普通の人よりも距離感が近いみたいで……学校に入ったばかりのときも距離感間違えちゃって友達に避けられちゃって……」
「いやそれは分かっ――」
「あれから癖が出ないように注意してたのにあの時はなんでか間違えちゃって……ここでは人に対してやっちゃダメって分かってたのに……お姉さまに嫌われたいわけじゃないのに……ごめんなさい……ごめんなさい……うわあああん!」
彼女は大きな声をあげて泣き出してしまった。
何とかして泣き止んでもらおうとしてもなかなか聞き入れてくれない。もう気にしていないよといっても、彼女は聞く耳持たずだった。
そんなに入学したての頃の失敗がトラウマだったのか。それとも、そんなに私に嫌われたくなかったのか。
「ああもう、わかってるわよ!もう気にしてないって!」
大きな声を出すと彼女はびっくりしてこっちを見てくる。毛を逆立ててはいるが、少しだけ泣き止んだ。
「ぐすっ……でもあの時私はお姉さまに対して失礼なことを……」
「図書館で調べてきたのよ。あなたたちの文化について」
私は図書館について調べてきたことを説明する。あの時の真意が気になって獣人のしぐさについて調べたこと、獣人の距離感が普通の人とは違うこと、あの行為にどういう意味があるかを知った今ではもう気にしてないことを説明する。
「だから、もうあなたも泣かないの!もう全然気にしてないんだから」
「うう〜お姉さまぁ……」
彼女を落ち着けるために抱きしめてやる。彼女の髪から花のような甘い匂いがした。
「ごめんなさいお姉さま……すごい迷惑かけちゃって……うう……」
「はいはい、もういいから」
頭をなでてやると、ひぐっひぐっと泣いて痙攣していた彼女の身体がだんだん落ち着いてきた。
落ち着いてきたところで身体を離して顔を見てみると、彼女の目元が真っ赤になっていた。
「もうあなた、涙で顔がグチャグチャじゃない……はいハンカチ」
落ち着きを取り戻したら今になって恥ずかしくなってきたのか、うう、と唸りながらも渡されたハンカチで目元を拭きだした。グズグズしながらハンカチで顔をぬぐう仕草がちょっとかわいいと思った。
ハンカチを返してもらう。彼女の方を見やると、目元はまだ充血していた。
落ち着いてはいるが、機嫌をうかがうような目線でじっ、とこちらを見つめている。
もう一度頭を撫でてやったらようやくえへへ、と笑顔になってくれた。機嫌がよくなってきたのか耳をパタパタしている。
一瞬まるでほんとのワンちゃんみたいだなと、不埒な考えが浮かんだ。いけないいけない。
まったく。調子のいい後輩なんだから。
「けど今回はほんとに迷惑かけてごめんなさい。お姉さまに嫌われたらどうしようって思って……」
この様子だとまだ気にしているのかもしれない。もうわたしはいいって言ってるのに。
ふと彼女を見ていたら思いついた。あの本には獣人同士の仲直りのしぐさも載っていたはずだ。
この間の意趣返しもこめてせっかくだし、彼女のやり方に合わせてみようかしら。
「ねえ。」
私は再び彼女に向き合う。
「どうしたんです?お姉さま」
彼女が親しげな表情こちらを見つめてくる。彼女の顎に手を添え軽く頬にキスをした。
「はい。もうほんとに気にしてないんだからね」
一瞬、彼女はきょとんとした表情だった。
が、気づいた瞬間、彼女はバッと後ずさりした。
「な、な、なんですかいきなりお姉さま!?」
「え!?いやその、あなたのやり方にちょっと合わせてみようかなって思っただけじゃないのよ!」
「いや人間同士はキスって恋人同士でしかしないものだと聞いてるんですけど!?」
言われてみたら確かにそうだ。冷静に考えてみたらなんで私は後輩の女の子にキスをしているんだ?あまり深く考えずに身体が動いてしまっていたのか?
いやいやいや、けど先に仕掛けてきたのはそっちのはずだ。何を私は焦っているんだ。
「だってあなたもこの前私にキスしてきたじゃないの!あなたたちの間では普通なんでしょう!?なんでされる側になった途端にそんなに照れてるのよ!」
こっちまで照れてきちゃうじゃないの、という言葉をなんとか飲み込む。
彼女は目を伏せ、顔を真っ赤にしながら言った。
「だってお姉さまなんだもん……」
え。
彼女は続けざまに言う。
「だったらなんで、お姉さままで顔が真っ赤になんですか!」
そこまで言われて、自分の頭に昇っている熱にようやく気付いた。
え、いやだって。
親愛なる後輩になんとなく、このあいだと同じやり方返してみようと思っただけで。他意はないはず。
けど私がキスしたのは、間違いなく私が彼女にキスしたいと思ったからで。
「あなたなんて耳まで真っ赤じゃないっ……!」
「だって、その……」
まんざらじゃ、ないですし……
彼女は消え入りそうな声でつぶやいた。今度は私も何も言わなかった。
庭園に静寂が訪れる。
なぜ熱を出した時、思い浮かんだのが彼女の顔だったのか。
どうして彼女が部屋を出ていこうとした時、ものすごく寂しい気持ちになったのか。
彼女にキスされた時、どうしてあんなに頭に熱が昇っているのを感じたのか。
彼女の笑顔を見たとき、どうしてこんなにも愛おしく感じてしまうのか。
なんとなく、分かった気がする。
「お、お姉さま……?」
私は彼女の頬に手を添える。
「あ――」彼女が瞼を閉じる。
私たちは唇を重ね合った。
彼女は拒否しなかった。
部屋の時と同じ、また静寂が流れる。
しばらくそうし合った後、唇を開放した。
「人間の恋人同士はね、キスっていうのはこうやって唇同士を合わせてするものなのよ」
気恥ずかしくて、彼女の目をまっすぐ見ないままで言った。心臓の音がうるさかった。
ちらりと彼女の方を見る。手で必死に、顔がにやけそうなのを隠していた。その仕草もなんだか愛おしく見えてくる。
きっと、私も彼女も今同じ気持ちを抱いているのだろう。
ああそうか。この感情は単なる友情や親愛だけで片付けられるものじゃない。この気持ちは――彼女に対して抱いているこの感情こそが――
自分の胸に焦がれている熱が一体何なのか。ようやく、この時になって私は気づいたのだ。
ある人々は、「オズの大魔女」という人物は偉大なるオズの魔法使いだ、という。
他の人々はまた、片目が隠されているので、オズの魔法使いを語る西の悪い魔女として扱うものもいる。
この二つの解釈が不確かなことは、どちらも当たってはいないという結論を下してもきっと正しいのだ、と思わせる。
ことに、そのどちらの解釈によっても正体が見出せられないのだから、なおさらのことだ。
もちろん、もしオズの大魔女という人物がほんとうにあるのでなければ、だれだってそんな研究に携わりはしないだろう。まず見たところ、彼女はフードを深くかぶり、また実際に魔女のように見える。
魔女といっても、酷く不可思議で曖昧な姿形をもっていて、やはり様々な存在をもつれ合わしているようにみえるのだ。
更に、それは単に魔女であるだけではなく、巨大だが、それを支える胴もなければ、足もなく、どんな巨人の頭よりも大きい『魁偉の頭』として現れることもある。
『息衝く麗人』として、『牙の獣』として、『紅蓮』としてもだ。
彼女は以前は何か用途にかなった形をしていたのだが、今ではそれが壊れてこんな存在になってしまったのだ、と人は思いたくなることだろう。
だが、どうもそういうことではないようなのだ。少なくともそれを証拠立てるような徴候というものはない。つまり、何かそういったことを暗示するような台詞とかはどこにもない。
全体は意味のないように見えるのだが、それはそれなりにまとまっている。それに、彼女についてこれ以上詳しいことをいうことはできない。
何故かというと、彼女は酷く神出鬼没で、捕まえることができないものだからだ。
彼女は、屋根裏部屋や通りのカフェや屋上や裏路地などに転々として現れる。ときどき、何か月もの間姿が見られない、きっと別な人物へ虚構を伝えているためなのだ。
けれども、やがて必ず私達の元へともどってくる。ときどき、私達がドアから出るとき、彼女が下の階段でもたれかかって、微笑むと私達は彼女に言葉をかけたくなる。
むろん、難しい問いなどをするのではなくて、私達は彼女を、――なにせそれがあんまりにも可愛らしいのでそうする気になるのだが――子供のように扱うのだ。
「君の名前はなんていうの?」と、私たちはたずねる。
「私の名前、それも嘘 」と、彼女はいう。
「どうして嘘をつくんだい?」
「嘘を嘘で塗りつぶせば、いつかは理由を忘れたわ。」と、それはいって、笑う。ところが、その笑いは、肺なしで出せるようなひきつった笑いなのだ。
たとえば、めいいっぱい背伸びして、疲れた人から生まれる音のように響くのだ。これで対話はたいてい終ってしまう。
それに、こうした返事でさえ、いつでももらえるときまってはいない。しばしば彼女は長いこと黙りこくっている。
孤独であるかのようなだんまりだが、どうもそれ彼女が嘘でできているらしい。
それがこれからどうなることだろう、と私は自分にたずねてみるのだが、なんの回答も出てはこない。
いったい、死ぬことがあるのだろうか。
死ぬものはみな、あらかじめ一種の目的、一種の活動というものをもっていたからこそ、それで身をすりへらして死んでいくのだ。
このことは彼女にはあてはまらない。それならいつか、たとえば私の子供たちや子孫たちの前に、時折現れては、虚言を繰り返すことになるのだろうか。
彼女はだれにだって嘘をつくが、害は及ぼさないようだ。だが、私が死んでも彼女が嘘をつき続けるだろうと考えただけで、私の胸はほとんど痛むくらいだ。
他の人々はまた、片目が隠されているので、オズの魔法使いを語る西の悪い魔女として扱うものもいる。
この二つの解釈が不確かなことは、どちらも当たってはいないという結論を下してもきっと正しいのだ、と思わせる。
ことに、そのどちらの解釈によっても正体が見出せられないのだから、なおさらのことだ。
もちろん、もしオズの大魔女という人物がほんとうにあるのでなければ、だれだってそんな研究に携わりはしないだろう。まず見たところ、彼女はフードを深くかぶり、また実際に魔女のように見える。
魔女といっても、酷く不可思議で曖昧な姿形をもっていて、やはり様々な存在をもつれ合わしているようにみえるのだ。
更に、それは単に魔女であるだけではなく、巨大だが、それを支える胴もなければ、足もなく、どんな巨人の頭よりも大きい『魁偉の頭』として現れることもある。
『息衝く麗人』として、『牙の獣』として、『紅蓮』としてもだ。
彼女は以前は何か用途にかなった形をしていたのだが、今ではそれが壊れてこんな存在になってしまったのだ、と人は思いたくなることだろう。
だが、どうもそういうことではないようなのだ。少なくともそれを証拠立てるような徴候というものはない。つまり、何かそういったことを暗示するような台詞とかはどこにもない。
全体は意味のないように見えるのだが、それはそれなりにまとまっている。それに、彼女についてこれ以上詳しいことをいうことはできない。
何故かというと、彼女は酷く神出鬼没で、捕まえることができないものだからだ。
彼女は、屋根裏部屋や通りのカフェや屋上や裏路地などに転々として現れる。ときどき、何か月もの間姿が見られない、きっと別な人物へ虚構を伝えているためなのだ。
けれども、やがて必ず私達の元へともどってくる。ときどき、私達がドアから出るとき、彼女が下の階段でもたれかかって、微笑むと私達は彼女に言葉をかけたくなる。
むろん、難しい問いなどをするのではなくて、私達は彼女を、――なにせそれがあんまりにも可愛らしいのでそうする気になるのだが――子供のように扱うのだ。
「君の名前はなんていうの?」と、私たちはたずねる。
「私の名前、それも嘘 」と、彼女はいう。
「どうして嘘をつくんだい?」
「嘘を嘘で塗りつぶせば、いつかは理由を忘れたわ。」と、それはいって、笑う。ところが、その笑いは、肺なしで出せるようなひきつった笑いなのだ。
たとえば、めいいっぱい背伸びして、疲れた人から生まれる音のように響くのだ。これで対話はたいてい終ってしまう。
それに、こうした返事でさえ、いつでももらえるときまってはいない。しばしば彼女は長いこと黙りこくっている。
孤独であるかのようなだんまりだが、どうもそれ彼女が嘘でできているらしい。
それがこれからどうなることだろう、と私は自分にたずねてみるのだが、なんの回答も出てはこない。
いったい、死ぬことがあるのだろうか。
死ぬものはみな、あらかじめ一種の目的、一種の活動というものをもっていたからこそ、それで身をすりへらして死んでいくのだ。
このことは彼女にはあてはまらない。それならいつか、たとえば私の子供たちや子孫たちの前に、時折現れては、虚言を繰り返すことになるのだろうか。
彼女はだれにだって嘘をつくが、害は及ぼさないようだ。だが、私が死んでも彼女が嘘をつき続けるだろうと考えただけで、私の胸はほとんど痛むくらいだ。
私には暖かい心がない。思慮深い脳もない。物事に立ち向かえる勇気もない。何一つ持ち合わせていないからこそ、私は魔女に頼り、縋りついて、跪いた。
「偉大なるオズの魔法使いよ。どうか、お願いします。私に心を、脳を、勇気を与えてください。優しく、懸命で、決して臆することのない、そんな人にしてください。」
魔女は目深く被った頭巾を後ろに下ろし、朧げなその瞳を露わにした。ぱちり、と一度瞼が閉じてまた開き、しげしげと私を見つめては、目元に影を落とし熟考している。
私の価値を見定めているようだった。商人が品物の品位、そして値段を鑑定するように、私の全てを見透かしている。
「何故求めるのかしら。不思議ね、私には、既に持ち合わせているように見えるわ。」
「いいえ、私は臆病者なのです。私は道を踏み外してしまいました。目が眩んでしまったのです、己の愚かさと、臆病故に。」
態とらしく、悩ましげに首元に手を当てては何度か首を傾げながら、一歩、また一歩。手と手が触れ合えるほどの近距離で、魔女は嗤った。
首を垂れて跪き、下を向く私の首に、きめ細やかで美しい白魚のような手が触れて、冷たさと熱を感じるとともに、ゆっくりと面を向けさせられる。
冷ややかで、私を見下しているかのような色鮮やかな赤い瞳が、私の心を穿つようだ。
そして一言。「いいわ、虚構、真実、どちらでもいいもの。貴方に脳を、心を、勇気を与えてあげましょう。」
虚構に濡れた手を取った瞬間、私は嘘の奴隷となった。
彼女は私に従者であることを望んだ。なんでもさせた。約束通り、私に脳と心と勇気が与えられるまで忙しなく働いた。
働き続ける中で、幾つか気付いたことがあった。それは彼女が移り気で、かなり我儘だという事だ。気ままなまま、ふらっと突然いなくなる事も多い。姿形さえ曖昧なようだった。
彼女の姿はいつでも異なるように見えたが、可笑しなことに、私一人の前では、常に魔女として姿を現した。理由を聞けば、「誰か一人くらいには、覚えていてもらわないとね?」とだけ言われた。
当時は深く意味を考えずに、ただ一日を終えていた。
魔女の日常は緩やかなものだった。彼女はエメラルドの街の統治者として、嘘の大魔女として人々の願いをまやかしていた。人々を弄んでいたのかも知れないし、或いは嘘をつく事でしか人と関われなかったのかも知れない。
困った魔女だが、そんな日々も存外悪くない、と淡く思っていた。
とある、陽気な春の日だった。エメラルドの宮殿に、来客が来るらしい。
珍しいことでもなかった。私と同じようなものたちが、稀に宮殿に訪れる。
接待は私の仕事でもあったので、いつものように門番に案内された来客を、宮殿で出迎えるのが私の役目であった。
背を壁に預け、ただぼうっと門番が客人を連れてくるのを待っていた。
十数分ほどたち、階段をこつ、こつとはっきりとした足取りで登ってくる音が聞こえたので、私の視線は城下へと向かった。
客人、そう、全くもって村娘といっていい格好だったが、一目見ただけで、客人が特別な存在だと分かった。エメラルドの町では誰もかも、何もかもがエメラルド色となるが、その来客だけは違っていた。
色があった。長く整った金髪を風に靡かせ、自身に満ち溢れていたようだった。
「この階段長すぎない?こう、宮殿なんだからもっと楽な構造にしなさいよね!」
大声でぼやきながら堂々と道の真ん中を歩く様は無礼であったが、不思議と様になっている気がした。
少し委縮したが、それでも仕事は仕事なので、私は客人に恐る恐る話しかけた。
「貴女がオズに会いたいとおっしゃる旅人様でしょうか?」
彼女は頷き、瞳をぱちくりさせた後、名をドロシーと名乗った。
「お入りください、わたくしが宮殿を案内しましょう。」
ドロシーはお喋りで、社交的でもあるようだった。他愛もない雑談をしながら、広い宮殿を歩き回っていた。
余りの広さに何度かドロシーは欠伸をし、四度目の欠伸が出たころに、漸く私達は玉座室の前にたどり着いたのだった。
「やぁぁっとたどり着いたわね!」
大きく背伸びをして、ドロシーは一息ついていた。ぶつくさ文句を呟いていたが、うまく聞き取れなかった。
「偉大なるオズが待っています。くれぐれも失礼のないように。」
吐きなれたいつもの言葉を喋り、ゆっくりとドアを開けた。
ドロシーは一歩踏み込んで、ほんの一瞬止まったが、また早足で玉座室に乗り込んでいって、私はただその背を見つめていた。
偉大なるオズの姿は常に移ろい、変わりゆく。私の目には、燃え盛る火の玉に見えたときもあれば、巨大で異様な、魁偉の頭に見えるときもあった。
しかし、ドロシーは少したりとも動揺していない様子だった。むしろ、頬がつり上がり、歓喜しているようにも感じられた。
「ようやくあたしの出番が来たわ。嘘も幻も、今日で終わりよ。隠れてないで姿を表しなさい、オズの魔法使いよ!いや、悪い西の魔女よ!」
杖を一振り、宣告を一声で。オズの隠されたヴェールがどんどん剥がれ落ち、幻が壊れていく。何枚も何枚も重ねられた虚構が、少しづつはぎとられていった。
夢幻は弱り、ぼやけ、真実が見えてくる。弱っていくオズの姿を、ただ唖然と見続けていた。
ドロシーは徹底的に言葉で責めたてていた。オズがまやかし、曖昧してしまった願いを、罪だというのだ。
何度も何度も言葉を繰り返した。オズは、必死に耳を塞ぎ、喘ぎ、苦しみ、いつの間にかただの小娘になっていた。
だんだんと、エメラルド色に輝く街が燻んで、灰色へと変わっていく。オズは嘘を隠すように走り出し、宮殿から追い立てられた。使用人たちが驚いて腰を抜かしているが、関係なかった。
つまり、暴かれたのだ。
私は宮殿を飛び出した。子供のように駆けた。宮殿を飛び出し、町を駆け抜け、幻の残滓を必死に掴み取ろうとした。
彼女は橋の袂に立っていた。ふらふらで、少しこついただけでも落ちて溺れてしまいそうな様子だった。
なんと声をかけたらいいかわからず、立ち止まってしまった。頭の中には幾つもの言葉が浮かぶが、どれもしっくりこなかった。
「貴女についていけば良いのか?」
ただ、ぼやいただけだった。彼女の為の言葉ではなかった。
けれど、彼女はくるりと振り返り、俯き、震える声で謝罪した。「ごめんなさい、私は、貴方に知恵も心も、脳も与えてやれなかった。私にできたことは、嘘をつく事だけ。」
私が欲しかったのは何だったのか、もう定かではない。初めは本当に欲しかったが、今は違うように思える。甘美な嘘の味を味わっていたかったのかもしれない。
彼女にはまだ魔女ででいてほしかった。私のような弱いものには、寄る辺が必要だった。それが悪い魔女であろうとも。
「まだ、つける嘘は残っています。今度は何処に行きましょうか、何をまやかしに変えましょう、また嘘を…。」
けれど、彼女はゆっくりとはにかみ、目尻に一筋の輝きが流れ落ち、悲しげに彼女は呟いた。
「貴方の、望みは叶った?」
魔女は雪のように溶けて、キラキラとした粒子となり、風に乗って消えていってしまった。
行かないでくれ、と手を伸ばしたが、嘘を掴むだけだった。
脳も、心も、勇気も、与えはしなかったが、彼女は嘘を与えてくれた。
例え彼女が嘘だったとしても、その時私の愛した心だけは嘘ではなかった。だから悲嘆に暮れる必要はない。与えられたから、愛したのではない。私はただ愛していた。
「偉大なるオズの魔法使いよ。どうか、お願いします。私に心を、脳を、勇気を与えてください。優しく、懸命で、決して臆することのない、そんな人にしてください。」
魔女は目深く被った頭巾を後ろに下ろし、朧げなその瞳を露わにした。ぱちり、と一度瞼が閉じてまた開き、しげしげと私を見つめては、目元に影を落とし熟考している。
私の価値を見定めているようだった。商人が品物の品位、そして値段を鑑定するように、私の全てを見透かしている。
「何故求めるのかしら。不思議ね、私には、既に持ち合わせているように見えるわ。」
「いいえ、私は臆病者なのです。私は道を踏み外してしまいました。目が眩んでしまったのです、己の愚かさと、臆病故に。」
態とらしく、悩ましげに首元に手を当てては何度か首を傾げながら、一歩、また一歩。手と手が触れ合えるほどの近距離で、魔女は嗤った。
首を垂れて跪き、下を向く私の首に、きめ細やかで美しい白魚のような手が触れて、冷たさと熱を感じるとともに、ゆっくりと面を向けさせられる。
冷ややかで、私を見下しているかのような色鮮やかな赤い瞳が、私の心を穿つようだ。
そして一言。「いいわ、虚構、真実、どちらでもいいもの。貴方に脳を、心を、勇気を与えてあげましょう。」
虚構に濡れた手を取った瞬間、私は嘘の奴隷となった。
彼女は私に従者であることを望んだ。なんでもさせた。約束通り、私に脳と心と勇気が与えられるまで忙しなく働いた。
働き続ける中で、幾つか気付いたことがあった。それは彼女が移り気で、かなり我儘だという事だ。気ままなまま、ふらっと突然いなくなる事も多い。姿形さえ曖昧なようだった。
彼女の姿はいつでも異なるように見えたが、可笑しなことに、私一人の前では、常に魔女として姿を現した。理由を聞けば、「誰か一人くらいには、覚えていてもらわないとね?」とだけ言われた。
当時は深く意味を考えずに、ただ一日を終えていた。
魔女の日常は緩やかなものだった。彼女はエメラルドの街の統治者として、嘘の大魔女として人々の願いをまやかしていた。人々を弄んでいたのかも知れないし、或いは嘘をつく事でしか人と関われなかったのかも知れない。
困った魔女だが、そんな日々も存外悪くない、と淡く思っていた。
とある、陽気な春の日だった。エメラルドの宮殿に、来客が来るらしい。
珍しいことでもなかった。私と同じようなものたちが、稀に宮殿に訪れる。
接待は私の仕事でもあったので、いつものように門番に案内された来客を、宮殿で出迎えるのが私の役目であった。
背を壁に預け、ただぼうっと門番が客人を連れてくるのを待っていた。
十数分ほどたち、階段をこつ、こつとはっきりとした足取りで登ってくる音が聞こえたので、私の視線は城下へと向かった。
客人、そう、全くもって村娘といっていい格好だったが、一目見ただけで、客人が特別な存在だと分かった。エメラルドの町では誰もかも、何もかもがエメラルド色となるが、その来客だけは違っていた。
色があった。長く整った金髪を風に靡かせ、自身に満ち溢れていたようだった。
「この階段長すぎない?こう、宮殿なんだからもっと楽な構造にしなさいよね!」
大声でぼやきながら堂々と道の真ん中を歩く様は無礼であったが、不思議と様になっている気がした。
少し委縮したが、それでも仕事は仕事なので、私は客人に恐る恐る話しかけた。
「貴女がオズに会いたいとおっしゃる旅人様でしょうか?」
彼女は頷き、瞳をぱちくりさせた後、名をドロシーと名乗った。
「お入りください、わたくしが宮殿を案内しましょう。」
ドロシーはお喋りで、社交的でもあるようだった。他愛もない雑談をしながら、広い宮殿を歩き回っていた。
余りの広さに何度かドロシーは欠伸をし、四度目の欠伸が出たころに、漸く私達は玉座室の前にたどり着いたのだった。
「やぁぁっとたどり着いたわね!」
大きく背伸びをして、ドロシーは一息ついていた。ぶつくさ文句を呟いていたが、うまく聞き取れなかった。
「偉大なるオズが待っています。くれぐれも失礼のないように。」
吐きなれたいつもの言葉を喋り、ゆっくりとドアを開けた。
ドロシーは一歩踏み込んで、ほんの一瞬止まったが、また早足で玉座室に乗り込んでいって、私はただその背を見つめていた。
偉大なるオズの姿は常に移ろい、変わりゆく。私の目には、燃え盛る火の玉に見えたときもあれば、巨大で異様な、魁偉の頭に見えるときもあった。
しかし、ドロシーは少したりとも動揺していない様子だった。むしろ、頬がつり上がり、歓喜しているようにも感じられた。
「ようやくあたしの出番が来たわ。嘘も幻も、今日で終わりよ。隠れてないで姿を表しなさい、オズの魔法使いよ!いや、悪い西の魔女よ!」
杖を一振り、宣告を一声で。オズの隠されたヴェールがどんどん剥がれ落ち、幻が壊れていく。何枚も何枚も重ねられた虚構が、少しづつはぎとられていった。
夢幻は弱り、ぼやけ、真実が見えてくる。弱っていくオズの姿を、ただ唖然と見続けていた。
ドロシーは徹底的に言葉で責めたてていた。オズがまやかし、曖昧してしまった願いを、罪だというのだ。
何度も何度も言葉を繰り返した。オズは、必死に耳を塞ぎ、喘ぎ、苦しみ、いつの間にかただの小娘になっていた。
だんだんと、エメラルド色に輝く街が燻んで、灰色へと変わっていく。オズは嘘を隠すように走り出し、宮殿から追い立てられた。使用人たちが驚いて腰を抜かしているが、関係なかった。
つまり、暴かれたのだ。
私は宮殿を飛び出した。子供のように駆けた。宮殿を飛び出し、町を駆け抜け、幻の残滓を必死に掴み取ろうとした。
彼女は橋の袂に立っていた。ふらふらで、少しこついただけでも落ちて溺れてしまいそうな様子だった。
なんと声をかけたらいいかわからず、立ち止まってしまった。頭の中には幾つもの言葉が浮かぶが、どれもしっくりこなかった。
「貴女についていけば良いのか?」
ただ、ぼやいただけだった。彼女の為の言葉ではなかった。
けれど、彼女はくるりと振り返り、俯き、震える声で謝罪した。「ごめんなさい、私は、貴方に知恵も心も、脳も与えてやれなかった。私にできたことは、嘘をつく事だけ。」
私が欲しかったのは何だったのか、もう定かではない。初めは本当に欲しかったが、今は違うように思える。甘美な嘘の味を味わっていたかったのかもしれない。
彼女にはまだ魔女ででいてほしかった。私のような弱いものには、寄る辺が必要だった。それが悪い魔女であろうとも。
「まだ、つける嘘は残っています。今度は何処に行きましょうか、何をまやかしに変えましょう、また嘘を…。」
けれど、彼女はゆっくりとはにかみ、目尻に一筋の輝きが流れ落ち、悲しげに彼女は呟いた。
「貴方の、望みは叶った?」
魔女は雪のように溶けて、キラキラとした粒子となり、風に乗って消えていってしまった。
行かないでくれ、と手を伸ばしたが、嘘を掴むだけだった。
脳も、心も、勇気も、与えはしなかったが、彼女は嘘を与えてくれた。
例え彼女が嘘だったとしても、その時私の愛した心だけは嘘ではなかった。だから悲嘆に暮れる必要はない。与えられたから、愛したのではない。私はただ愛していた。
ミルティオは困っていた。ある男が田舎からやってきて、伴侶を作って欲しいと頼まれたのだが、それがどうにもうまくいかないのだ。
本物の愛が欲しいと宣ったその男に、いくら恋人を与えてやっても、満足しない。次から次へと新しい恋人が男の元にやってくるが、誰もが一週間と経たずに別れてしまう。
情愛を求めているが、手からするりするりと愛が抜け去って行っていき、男はずっと孤独のままだった。
困り果てたミルティオは、結局、やり方を厭わないことにした。ぼくが恋人になってやろう、孤独なきみを掴まえてやろう、と。
手始めに、茶会に誘ってみようと思ったので、直ぐにペンと便箋を手に取った。
どんな言葉を込めれば印象に残るか、ぼくの誘いに乗ってくれるのか、という考えが頭の中をぐるぐると回って、言葉は色々思いつくが、結局手紙にしたためた文字は少なかった。
ミルティオは何処までも楽観的なので、それでも男が誘いに乗ってくれると思っていた。
ミルティオは上の空で、ただぼおっと天井を見つめていた。不安というものは欠片も感じていなかったが、ただ気に留めておくこともなかった。
一息つき、茶を啜ろうとカップに手をかけたとき、ピンポーンと音がなったので、少し浮ついた足でミルティオは玄関に向かった。
約束通り、男はきっちり3時過ぎにやって来た。彼は几帳面なので、身嗜みやマナーは整っていたが、やつれているようにも感じられた。がっしりとした足腰とは裏腹に、何処か肩に力がなかったが、それには言及しないことにした。
手招きして、彼を客間へと案内し、ミルティオは彼を椅子に座らせた。少し軋んで、ぎぃぃという音を椅子が微かに鳴った。もう古ぼけていたが、男を支えるには十分だった。
ミルティオは乳白色のポットを手に取り、カップにお湯を注いでいった。あまりにも細く、華奢な指付きに、ポットを持っただけでミルティオの指が折れてしまいそうだと男は思ったが、なみなみと乳白色のカップに紅茶が注がれていくのをみるに、それは杞憂だった。
ことり、と茶を差し出されてから、漸く男は口を開いた。
本物の愛が欲しいと宣ったその男に、いくら恋人を与えてやっても、満足しない。次から次へと新しい恋人が男の元にやってくるが、誰もが一週間と経たずに別れてしまう。
情愛を求めているが、手からするりするりと愛が抜け去って行っていき、男はずっと孤独のままだった。
困り果てたミルティオは、結局、やり方を厭わないことにした。ぼくが恋人になってやろう、孤独なきみを掴まえてやろう、と。
手始めに、茶会に誘ってみようと思ったので、直ぐにペンと便箋を手に取った。
どんな言葉を込めれば印象に残るか、ぼくの誘いに乗ってくれるのか、という考えが頭の中をぐるぐると回って、言葉は色々思いつくが、結局手紙にしたためた文字は少なかった。
ミルティオは何処までも楽観的なので、それでも男が誘いに乗ってくれると思っていた。
ミルティオは上の空で、ただぼおっと天井を見つめていた。不安というものは欠片も感じていなかったが、ただ気に留めておくこともなかった。
一息つき、茶を啜ろうとカップに手をかけたとき、ピンポーンと音がなったので、少し浮ついた足でミルティオは玄関に向かった。
約束通り、男はきっちり3時過ぎにやって来た。彼は几帳面なので、身嗜みやマナーは整っていたが、やつれているようにも感じられた。がっしりとした足腰とは裏腹に、何処か肩に力がなかったが、それには言及しないことにした。
手招きして、彼を客間へと案内し、ミルティオは彼を椅子に座らせた。少し軋んで、ぎぃぃという音を椅子が微かに鳴った。もう古ぼけていたが、男を支えるには十分だった。
ミルティオは乳白色のポットを手に取り、カップにお湯を注いでいった。あまりにも細く、華奢な指付きに、ポットを持っただけでミルティオの指が折れてしまいそうだと男は思ったが、なみなみと乳白色のカップに紅茶が注がれていくのをみるに、それは杞憂だった。
ことり、と茶を差し出されてから、漸く男は口を開いた。
多分キャラ崩壊してると思う。飢餓とか貪るって字面から連想したけど、多分ギルネはこんな事しない。それと、エッチなのはないです(小声)
とある戦場後にて、一人の男と女が対峙する。
「お前が絶傑とかいう奴か!」
その男は歴戦の戦士といった出で立ちであった。身に纏う鎧は、数多の戦いですっかり傷と汚れが目立っている。しかし、手掛けた職人が良かったのだろう。如何に傷つき汚れようとも、その頑強さは失われてはいない様子である。そして手に持つ大剣は、汚れや刃こぼれはあるが、刀身に曇りはなく、切れ味はまだまだ失われていない事が察せられる。
「えぇ…私が絶傑の十、ギルネリーゼ。貴方は試練を乗り越えられる?」
その女…ギルネリーゼは、ただ美しかった。細くすらりとした肢体。しかし、出るとこは出ており、世の男性の情欲を誘うでだろう。その美しい胡桃色の髪は絹の様に細く艶やかで、さらさらと風に流れ揺蕩う。その様子は世の女の羨望の的となる事は間違いない。全身を黒い衣装で包んでいるが、不思議と不気味さは感じず、むしろ彼女の白磁の様な肌を引き立てて、彼女にはこの衣装しかないと思うほどにマッチしている。
彼女の周りには不思議な球体が多数浮遊しており、その球体は不吉な存在感を醸し出していた。
「へっ試練なんて偉そうに言いよってからに…その余裕がいつまで続くか、見ものだなっ!」
戦士はそう言うと共にギルネリーゼへと切りかかる。
「そうね、それじゃあ…試練を与えてしまいましょう」
ギルネリーゼは戦士の攻撃を危なげなく躱し、そう宣言する。そして、周囲の球体群へ命じた。
「輝きを放て、グリザレイ」
球体群…グリザレイから光が照射される。戦士はその光を寸でで回避し、再び切りかかろうと疾走する。しかし、再び照射された無数の光を察知し回避に奔走する。
「こんのひっきょうもんがぁ!男なら、そんなもんに頼らず、近接でやらんかぃ!」
「私、女なのだけれど…」
こうして、絶傑の十・ギルネリーゼと歴戦の戦士の戦いは幕を上げた。
〜〜〜
「これで終わりかしら」
「ク…ソッ…!」
辺りには静寂が満ちていた。戦士は片膝をついて荒い息を吐き、対するギルネリーゼはその様子を見下ろしていた。勝者は誰が見ても明らかであった。
「グリザレイ」
ギルネリーゼがトドメを刺そうとグリザリアに命じたその瞬間。
「こうなったら…奥の手だ!」
戦士がそう叫んだと同時に、強烈な閃光が周囲を照らす。ギルネリーゼはその光に耐え切れずに思わず顔を覆う。
「逃げるが勝ちだぁ!あばよ!」
閃光の中、その様な声が聞こえる。そして数舜の後、閃光が収まる。そして、ギルネリーゼが先ほど戦士が居た場所を見据えると、そこには誰も居なかった。
「………………………………………………えぇ………」
静寂に包まれた戦場後、そこに困惑の声が響いた。
〜〜〜
「やっと見つけたぞ絶傑!」
とある廃村。そこにそんな声が響き渡る。
「…貴方……」
その声に全身黒い衣装を着た女が答える。
「前回は負けたが、今回は負けない!いざ尋常に!」
「…輝きを放て、グリザレイ」
いま再び、絶傑の十・ギルネリーゼと歴戦?の戦士の戦いは幕を上げる!
〜〜〜
「…終りね…」
「クソォ!また負けた!」
辺りには静寂が満ちていた。戦士は片膝をついて荒い息を吐き、対するギルネリーゼはその様子を見下ろしていた。勝者は誰が見ても明らかであった。
「…グリザレイ」
ギルネリーゼがトドメを刺そうとグリザリアに命じたその瞬間。
「こうなったら…奥の手だな!」
戦士がそう叫んだと同時に、強烈な閃光が周囲を照らす。しかしその瞬間、「グリザレイ!」
ギルネリーゼはグリザレイへ、閃光の出処への攻撃命令を出す。が、障壁に阻まれ攻撃は届かなかった。
「はっ!そんなの想定済みだ!10万ルピの魔道障壁だぁ!」
「あばよ!」
そして、閃光が収まる。ギルネリーゼが先ほど戦士が居た場所を見据えると、そこには誰も居なかった。
「そんな物があるのなら、試練の時に使えばよかったのでは………?」
静寂に包まれた廃村、そこに困惑の声が響いた。
〜〜〜
「やっと見つけたぞ!絶傑!」
とある廃都。そこにそんな声が響き渡る。
「また、貴方なのね…」
その声に全身黒い衣装を着た女が、困惑を滲ませた声で答える。
「なんで毎回毎回、居場所が変わるんだお前は!探すの地味に大変なんだぞ!」
「グリザレイ…」
女は男の問いかけに答えず、周囲の球体に命じる。
「おっといきなりか!ならばいざ、尋常に!」
いま再び、絶傑の十・ギルネリーゼと歴戦(笑)の戦士の戦いは幕を上げる!
〜〜〜
「………」
「またかよ!」
辺りには静寂が満ちていた。戦士は片膝をついて荒い息を吐き、対するギルネリーゼはその様子を見下ろしていた。勝者は誰が見ても明らかであった。
「グリザ…ッ!」
ギルネリーゼがトドメを刺そうとグリザレイに命じる声を遮って、強烈な閃光が周囲を照らす。
「あばよ!」
そして、光が収まり、ギルネリーゼが先ほど戦士が居た場所を見据える。そこには誰も居なかった。
「………………………………………………ハァ…」
静寂に包まれた廃都、そこに疲れを滲ませた溜息が響いた。
〜〜〜
「ようやっと見つけたぞ!絶傑!」
とある亡国。そこにそんな声が響き渡る。
「………ハァ……懲りないわね……貴方……」
その声に全身黒い衣装を着た女が疲れを滲ませた声で答える。
「懲りるもんかよ!お前を倒すのは俺だからな!」
男は自信満々にそう宣言する。
「そう……グリザレイ…」
俺の宣言に対する返答は、攻撃であった。
「少しは問答しようぜ!」
いま再び、絶傑の十・ギルネリーゼと戦士の戦いは幕を上げる!
〜〜〜
「……少しはやるようになったのね…」
「クソ!惜しかった!多分」
辺りには静寂が満ちていた。戦士は片膝をついて荒い息を吐き、対するギルネリーゼはその様子を見下ろしていた。勝者は誰が見ても明らかであった。
「早く行きなさい…」
そう言って止めを刺す素振りの見せないギルネリーゼに対して、戦士は疑問を零す。
「止め、刺さなくて良いのか?」
「また、逃げるのでしょう?」
戦士の疑問に対してギルネリーゼは呆れの滲ませた声で返答する。
「ああ!命あっての物種だからな!」
戦士はすがすがしい声と顔でそう返す。そして、「それじゃ、お言葉に甘えて…あばよ!」そう言った戦士は一瞬のうちに姿を消していた。
「……なんなんのでしょう…この気持ちは……」
静寂に包まれた亡国、そこに困惑と喜色の混じった声が響いた。
〜〜〜
とある戦場後にて、一人の男と女が対峙する。
「やっと見つけたぞ絶傑」
その男は歴戦の勇士といった出で立ちであった。身に纏う鎧は傷も汚れも一つも見当たらない。そして手に持つ大剣は、刃こぼれは一切しておらず、触れるだけで切れてしまう様な錯覚すら覚えるほどに鋭く研ぎ澄まされている。
「もう何度回目でしょうね…このやりとりも」
その声に女が喜色を滲ませた声で答える。その女…ギルネリーゼは、ただ美しかった。細くすらりとした肢体。しかし、出るとこは出ており、世の男性の情欲を誘うでだろう。その美しい胡桃色の髪は絹の様に細く艶やかで、さらさらと風に流れ揺蕩う。その様子は世の女の羨望の的となる事は間違いない。全身を黒い衣装で包んでいるが、不思議と不気味さは感じず、むしろ彼女の白磁の様な肌を引き立てて、彼女にはこの衣装しかないと思うほどにマッチしている。
彼女の周りには不思議な球体が多数浮遊しており、その球体は不吉な存在感を醸し出していた。
「10を超えた辺りから数えていないな」
勇士はそう答える。
「私もよ」
ギルネリーゼもそう答える。
場に戦意が満ちていく。そして、勇士が切りだす。
「では、いざ尋常に…勝負!」
勇士はそう言うと共にギルネリーゼへと切りかかる。
「ッそれじゃあ…試練を与えてしまいましょう」
ギルネリーゼは勇士の攻撃を寸でで躱し、そう宣言する。そして、周囲の球体群へ命じた。
「輝きを放て、グリザレイ」
球体群…グリザレイから無数の光群が照射され、まるで流星の様に迫る。勇士はその光群を切り払い、ギルネリーゼへ疾走する。
こうして、絶傑の十・ギルネリーゼと救国の勇士の戦いは幕を上げた。
〜〜〜
「……」
「……」
辺りには静寂が満ちていた。両者共に荒い息を吐き、疲労困憊の様相を呈していた。精魂尽き果て、これ以上の戦闘行為は出来ないだろう。
「…引き分け…かしらね…」
ギルネリーゼのその言葉に対し、勇士が否定の声を上げた。
「いや…俺の…負けだ……ゴフッ」
勇士は突如血を吐いて倒れ伏した。そのことにギルネリーゼは珍しく動揺したのだろう。慌てて勇士の元へ駆け寄り、抱え起こす。
「病だったんだ…医者が言うには、不治の病だと」
「なぜ…なぜ、その様な状態で私の元へ来たのですか…」
ギルネリーゼは震える声で問いかける。
「なぜって、ギルネリーゼお前を倒すのは俺だと言っただろう。まぁ結局負けてしまったが…ゴホッゴボッ」
「あっあぁそれ以上喋ってはいけません」
血を吐きながら話す勇士をギルネリーゼは止めるも、勇士はその願いに反し、話す事をやめない。
「ギルネリーゼ…ゴホッ…お前は、世界を貪る者なんだろう?なら、俺を食ってはくれないか…?ゴホッゴホッゴボッ」
勇士が突如そんなことを切り出す。
「なにを…なにを言っているのですか!」
勇士のその言葉にギルネリーゼは柄にもなく動揺してしまう。
「お前に食われるのなら、良い。お前と一つになれるのなら、良い。愛するお前となら…ギルネリーゼ…初めて見たその時から、俺は、お前に恋していた…」
そう言い残し、勇士は息絶える。その場に残されたのは、慟哭する一人の女だけであった。
〜〜〜
「………いただきます」
そう言って、勇士の体に口を付ける。コリッゴリッと骨を齧る。ズルッズルッと血を啜る。グチュリグチュリと肉を食む
「………満たされない、満ち足りない」
口元を真っ赤にし、血を滴らせながらギルネリーゼはそう呟く。
「…ごちそうさまでした………」
勇士を食し、茫然としている中、ポツリポツリと水滴が地面を濡らす。そして、次第にザァザァと強まり、本格的な雨になった。その雨の中ギルネリーゼは天を見上げ、呟く。
「私も、貴方に恋していました…」
彼女の頬に水滴が伝った。
とある戦場後にて、一人の男と女が対峙する。
「お前が絶傑とかいう奴か!」
その男は歴戦の戦士といった出で立ちであった。身に纏う鎧は、数多の戦いですっかり傷と汚れが目立っている。しかし、手掛けた職人が良かったのだろう。如何に傷つき汚れようとも、その頑強さは失われてはいない様子である。そして手に持つ大剣は、汚れや刃こぼれはあるが、刀身に曇りはなく、切れ味はまだまだ失われていない事が察せられる。
「えぇ…私が絶傑の十、ギルネリーゼ。貴方は試練を乗り越えられる?」
その女…ギルネリーゼは、ただ美しかった。細くすらりとした肢体。しかし、出るとこは出ており、世の男性の情欲を誘うでだろう。その美しい胡桃色の髪は絹の様に細く艶やかで、さらさらと風に流れ揺蕩う。その様子は世の女の羨望の的となる事は間違いない。全身を黒い衣装で包んでいるが、不思議と不気味さは感じず、むしろ彼女の白磁の様な肌を引き立てて、彼女にはこの衣装しかないと思うほどにマッチしている。
彼女の周りには不思議な球体が多数浮遊しており、その球体は不吉な存在感を醸し出していた。
「へっ試練なんて偉そうに言いよってからに…その余裕がいつまで続くか、見ものだなっ!」
戦士はそう言うと共にギルネリーゼへと切りかかる。
「そうね、それじゃあ…試練を与えてしまいましょう」
ギルネリーゼは戦士の攻撃を危なげなく躱し、そう宣言する。そして、周囲の球体群へ命じた。
「輝きを放て、グリザレイ」
球体群…グリザレイから光が照射される。戦士はその光を寸でで回避し、再び切りかかろうと疾走する。しかし、再び照射された無数の光を察知し回避に奔走する。
「こんのひっきょうもんがぁ!男なら、そんなもんに頼らず、近接でやらんかぃ!」
「私、女なのだけれど…」
こうして、絶傑の十・ギルネリーゼと歴戦の戦士の戦いは幕を上げた。
〜〜〜
「これで終わりかしら」
「ク…ソッ…!」
辺りには静寂が満ちていた。戦士は片膝をついて荒い息を吐き、対するギルネリーゼはその様子を見下ろしていた。勝者は誰が見ても明らかであった。
「グリザレイ」
ギルネリーゼがトドメを刺そうとグリザリアに命じたその瞬間。
「こうなったら…奥の手だ!」
戦士がそう叫んだと同時に、強烈な閃光が周囲を照らす。ギルネリーゼはその光に耐え切れずに思わず顔を覆う。
「逃げるが勝ちだぁ!あばよ!」
閃光の中、その様な声が聞こえる。そして数舜の後、閃光が収まる。そして、ギルネリーゼが先ほど戦士が居た場所を見据えると、そこには誰も居なかった。
「………………………………………………えぇ………」
静寂に包まれた戦場後、そこに困惑の声が響いた。
〜〜〜
「やっと見つけたぞ絶傑!」
とある廃村。そこにそんな声が響き渡る。
「…貴方……」
その声に全身黒い衣装を着た女が答える。
「前回は負けたが、今回は負けない!いざ尋常に!」
「…輝きを放て、グリザレイ」
いま再び、絶傑の十・ギルネリーゼと歴戦?の戦士の戦いは幕を上げる!
〜〜〜
「…終りね…」
「クソォ!また負けた!」
辺りには静寂が満ちていた。戦士は片膝をついて荒い息を吐き、対するギルネリーゼはその様子を見下ろしていた。勝者は誰が見ても明らかであった。
「…グリザレイ」
ギルネリーゼがトドメを刺そうとグリザリアに命じたその瞬間。
「こうなったら…奥の手だな!」
戦士がそう叫んだと同時に、強烈な閃光が周囲を照らす。しかしその瞬間、「グリザレイ!」
ギルネリーゼはグリザレイへ、閃光の出処への攻撃命令を出す。が、障壁に阻まれ攻撃は届かなかった。
「はっ!そんなの想定済みだ!10万ルピの魔道障壁だぁ!」
「あばよ!」
そして、閃光が収まる。ギルネリーゼが先ほど戦士が居た場所を見据えると、そこには誰も居なかった。
「そんな物があるのなら、試練の時に使えばよかったのでは………?」
静寂に包まれた廃村、そこに困惑の声が響いた。
〜〜〜
「やっと見つけたぞ!絶傑!」
とある廃都。そこにそんな声が響き渡る。
「また、貴方なのね…」
その声に全身黒い衣装を着た女が、困惑を滲ませた声で答える。
「なんで毎回毎回、居場所が変わるんだお前は!探すの地味に大変なんだぞ!」
「グリザレイ…」
女は男の問いかけに答えず、周囲の球体に命じる。
「おっといきなりか!ならばいざ、尋常に!」
いま再び、絶傑の十・ギルネリーゼと歴戦(笑)の戦士の戦いは幕を上げる!
〜〜〜
「………」
「またかよ!」
辺りには静寂が満ちていた。戦士は片膝をついて荒い息を吐き、対するギルネリーゼはその様子を見下ろしていた。勝者は誰が見ても明らかであった。
「グリザ…ッ!」
ギルネリーゼがトドメを刺そうとグリザレイに命じる声を遮って、強烈な閃光が周囲を照らす。
「あばよ!」
そして、光が収まり、ギルネリーゼが先ほど戦士が居た場所を見据える。そこには誰も居なかった。
「………………………………………………ハァ…」
静寂に包まれた廃都、そこに疲れを滲ませた溜息が響いた。
〜〜〜
「ようやっと見つけたぞ!絶傑!」
とある亡国。そこにそんな声が響き渡る。
「………ハァ……懲りないわね……貴方……」
その声に全身黒い衣装を着た女が疲れを滲ませた声で答える。
「懲りるもんかよ!お前を倒すのは俺だからな!」
男は自信満々にそう宣言する。
「そう……グリザレイ…」
俺の宣言に対する返答は、攻撃であった。
「少しは問答しようぜ!」
いま再び、絶傑の十・ギルネリーゼと戦士の戦いは幕を上げる!
〜〜〜
「……少しはやるようになったのね…」
「クソ!惜しかった!多分」
辺りには静寂が満ちていた。戦士は片膝をついて荒い息を吐き、対するギルネリーゼはその様子を見下ろしていた。勝者は誰が見ても明らかであった。
「早く行きなさい…」
そう言って止めを刺す素振りの見せないギルネリーゼに対して、戦士は疑問を零す。
「止め、刺さなくて良いのか?」
「また、逃げるのでしょう?」
戦士の疑問に対してギルネリーゼは呆れの滲ませた声で返答する。
「ああ!命あっての物種だからな!」
戦士はすがすがしい声と顔でそう返す。そして、「それじゃ、お言葉に甘えて…あばよ!」そう言った戦士は一瞬のうちに姿を消していた。
「……なんなんのでしょう…この気持ちは……」
静寂に包まれた亡国、そこに困惑と喜色の混じった声が響いた。
〜〜〜
とある戦場後にて、一人の男と女が対峙する。
「やっと見つけたぞ絶傑」
その男は歴戦の勇士といった出で立ちであった。身に纏う鎧は傷も汚れも一つも見当たらない。そして手に持つ大剣は、刃こぼれは一切しておらず、触れるだけで切れてしまう様な錯覚すら覚えるほどに鋭く研ぎ澄まされている。
「もう何度回目でしょうね…このやりとりも」
その声に女が喜色を滲ませた声で答える。その女…ギルネリーゼは、ただ美しかった。細くすらりとした肢体。しかし、出るとこは出ており、世の男性の情欲を誘うでだろう。その美しい胡桃色の髪は絹の様に細く艶やかで、さらさらと風に流れ揺蕩う。その様子は世の女の羨望の的となる事は間違いない。全身を黒い衣装で包んでいるが、不思議と不気味さは感じず、むしろ彼女の白磁の様な肌を引き立てて、彼女にはこの衣装しかないと思うほどにマッチしている。
彼女の周りには不思議な球体が多数浮遊しており、その球体は不吉な存在感を醸し出していた。
「10を超えた辺りから数えていないな」
勇士はそう答える。
「私もよ」
ギルネリーゼもそう答える。
場に戦意が満ちていく。そして、勇士が切りだす。
「では、いざ尋常に…勝負!」
勇士はそう言うと共にギルネリーゼへと切りかかる。
「ッそれじゃあ…試練を与えてしまいましょう」
ギルネリーゼは勇士の攻撃を寸でで躱し、そう宣言する。そして、周囲の球体群へ命じた。
「輝きを放て、グリザレイ」
球体群…グリザレイから無数の光群が照射され、まるで流星の様に迫る。勇士はその光群を切り払い、ギルネリーゼへ疾走する。
こうして、絶傑の十・ギルネリーゼと救国の勇士の戦いは幕を上げた。
〜〜〜
「……」
「……」
辺りには静寂が満ちていた。両者共に荒い息を吐き、疲労困憊の様相を呈していた。精魂尽き果て、これ以上の戦闘行為は出来ないだろう。
「…引き分け…かしらね…」
ギルネリーゼのその言葉に対し、勇士が否定の声を上げた。
「いや…俺の…負けだ……ゴフッ」
勇士は突如血を吐いて倒れ伏した。そのことにギルネリーゼは珍しく動揺したのだろう。慌てて勇士の元へ駆け寄り、抱え起こす。
「病だったんだ…医者が言うには、不治の病だと」
「なぜ…なぜ、その様な状態で私の元へ来たのですか…」
ギルネリーゼは震える声で問いかける。
「なぜって、ギルネリーゼお前を倒すのは俺だと言っただろう。まぁ結局負けてしまったが…ゴホッゴボッ」
「あっあぁそれ以上喋ってはいけません」
血を吐きながら話す勇士をギルネリーゼは止めるも、勇士はその願いに反し、話す事をやめない。
「ギルネリーゼ…ゴホッ…お前は、世界を貪る者なんだろう?なら、俺を食ってはくれないか…?ゴホッゴホッゴボッ」
勇士が突如そんなことを切り出す。
「なにを…なにを言っているのですか!」
勇士のその言葉にギルネリーゼは柄にもなく動揺してしまう。
「お前に食われるのなら、良い。お前と一つになれるのなら、良い。愛するお前となら…ギルネリーゼ…初めて見たその時から、俺は、お前に恋していた…」
そう言い残し、勇士は息絶える。その場に残されたのは、慟哭する一人の女だけであった。
〜〜〜
「………いただきます」
そう言って、勇士の体に口を付ける。コリッゴリッと骨を齧る。ズルッズルッと血を啜る。グチュリグチュリと肉を食む
「………満たされない、満ち足りない」
口元を真っ赤にし、血を滴らせながらギルネリーゼはそう呟く。
「…ごちそうさまでした………」
勇士を食し、茫然としている中、ポツリポツリと水滴が地面を濡らす。そして、次第にザァザァと強まり、本格的な雨になった。その雨の中ギルネリーゼは天を見上げ、呟く。
「私も、貴方に恋していました…」
彼女の頬に水滴が伝った。
7月30日
「この箱を開けてはいけないわ」
パンドラに告白をし、了承を貰った日の夜。突如彼女は俺の家を訪ねて来た。そして、そう言いながら、ボーリング玉がすっぽり入る位の大きさの箱を手渡してきた。その箱に装飾は無く、真っ黒で4〜5キロ程度の重さである。そして、ガッチリとした錠によって鍵が掛かっていた。
俺は、突然どうしたのか?この箱は何なのか?そもそもこんな鍵がついているのだから、開けるもクソも無いではないかなんて疑問の声を上げるが、パンドラは、ふふふっなんて含み笑いをしながら、俺の疑問に答えることもなく家へと上がり込んだ。
「散らかっているわね」
家へ上がり、開口一番にそう言うパンドラ。それにこれから片付けるところだったのだと言い訳をし、夕飯を食べて行くかを聞いてみる。
「ええ…いただこうかしら」
そう答えたパンドラは不遠慮にも俺のベットに寝そべった。俺たち、今日付き合い始めたばかりだよな?最初、そういうの少しは遠慮するものじゃないのか?普通。そんな事を思って、なんとなく聞いてみる。すると、「なんで?」なんて返事が返ってくる。その返答に、もしかしてヤバい女と付き合ってしまったのでは?などと考えつつ、曖昧に笑いお茶を濁す。
そんなこんなやり取りをしながら、部屋をある程度片付け、夕飯の献立を考える。
今日は…生姜焼きが良いかな。
一応、パンドラに肉は食べれるかを聞いて、了承を得る。
そして調理を終え、パンドラに配膳する。他人に手料理を振る舞うのは初めてなので、少し緊張する。しかも、今回は初めて扱う食材なので、余計にだ。
腹を括り、一口食べた彼女に味の感想を聞いてみる。
「少し、濃いわ…」
ふむ…自分も食べてみる。確かに少し濃かった。あぁ失敗したなぁなんて考えた瞬間、「でも、不味くはないわね」そんな声が聞こえる。
思わずパンドラを見るが、彼女はいつも通りの仏頂面で、黙々と食べ進めている。そんな彼女を見つめていると、「どうしたの?」なんて聞かれる。いや、なんでもないと答え、俺も黙々と自分の分を食べ進める。
静かな食卓だった。
〜〜〜
7月31日
今日はパンドラとデートの予定である。俺は年甲斐もなくウキウキとワクワクが抑えきれずにいる。そんな俺の様子を見て彼女は、「そんな大した事では無いでしょう」なんて言っているが、俺は彼女が内心、楽しみにしているのを見抜いている。
ニヤニヤと彼女を見つめていると、「鬱陶しいからそのニヤケ面をやめなさい」なんて言われてしまった。
そんなやり取りをしながら、家を出る。目的地は、水族館だ。
水族館までの道中は特に何もなかった。強いて言うなら、真夏の強い日差しで、目的地につくまでにパンドラがグロッキー状態になってしまった事だろうか。彼女はその白い肌が示す通り、普段あまり外に出ない。だからか、真夏の炎天下の中での外出は堪えたのだろう。
彼女はしおらしい様子で、「ごめんなさいね」なんて謝ってきた。そんな彼女の様子を初めて見たので、少し驚いたと同時に、こんな様子の彼女も良いなと思ってしまう。そんな思いを見透かされない内に、慰めの言葉をかける。
そんなこんなで、目的地である水族館に到着する。人は思っていたよりも居なかったのでスムーズに入館することが出来た。水族館の中は空調が効いており涼しく、パンドラの体調も戻り、いつもの調子を取り戻して来た。色々と生き物を見てて回る。
そして、ダンスクラブの踊りを共に眺めながら、少し疑問に思っていた事を問いかける。なぜ、遠くから見てばかり居た俺なんかの告白を受け入れてくれたのかと。それに対して、彼女は「さぁ?」なんて素っ気なく答える。俺がその返答に何か言おうと口を開いた瞬間、彼女が口を開く。「理由なんて、いる?」「貴方は私が好き。私は貴方を好きになる。それで良いでしょう?」俺は思わず閉口する。そして再び口を開き、こう言った。
「そろそろ、オルカショーの時間みたいだよ」
俺はヘタレだった。
〜〜〜
帰宅した。パンドラは今日も夕飯を食べていくみたいだ。今日は…ハンバーグにしよう。
彼女は、また肉?と文句ありげだったが、仕方がない。なんせ大量にあるのだから。凍らせてあるので腐らないとは思うが、早めに消費するに越したことはない。
今日も静かな食卓だった。
〜〜〜
8月1日
今日は家で過ごす事になった。なのでパンドラに渡された箱を観察してみる。
この箱は何なのだろう?直接彼女に聞いてみても、絶対に開けてはいけないとか、開けたら不幸になるとか、そういった事しか言ってくれない。
錠があって、開けようにも開けられないなんて言っても、ふふふっなんて笑うだけ。
彼女は変人だが、この箱の事になると一等変になる。不思議だ。
しかし、箱を見てると少し頭痛がする。呪いの箱か?それなら、彼女が箱の事になると一等変になるのも納得が行く。お祓いに行ったほうが良いだろうか?なんて益体もない事を考える。
気が付いたら、お昼になっていた。昼食はミートスパゲティにしよう。
こんな、のんびりした日も悪くない。そうやって、1日が過ぎ、夜になる。
夕飯に回鍋肉を作る。彼女は今日も食べていくみたいだ。
今日も静かな食卓だった。
〜〜〜
8月2日
今日はパンドラとデパートへ買い物に行く。肉料理のレパートリーを増やす為に、調理器具や調味料を購入しに行くのだ。
デパートへの道中、犬に吠えられた。躾がなっていないとボヤく俺を、彼女はニヤニヤと見つめる。いつもと逆のやり取りなので、少し可笑しく感じる。
デパートに着くと、パンドラはアパレルショップに直行した。今日も彼女に振り回される気配がして、思わず苦笑する。
女性物のアパレルショップに男が居るのが珍しいのだろう。店員さんや他のお客さんに見られて、少し居心地が悪い。そんな俺の事も露知らず、彼女は思い思いに服を見繕っていた。何回か、店員さんに彼女さんへの贈り物ですか?なんて聞かれ、それを曖昧に笑い誤魔化す。恥ずかしい。
そして1時間ほどたち、やっと目的の調理器具や調味料を売っている店に来れた。
色々と物色している間、彼女は暇そうな様子だ。しかし、先ほどあれだけ待たされたのだし、俺も少しは良いんじゃないか?などと思うも、さっさと用事を済ませる。これが惚れた弱みというものだろうか?何か違う気がするが。
圧力鍋とスパイスを数個購入し、帰路へ向かう。その道中、公園があり、そこに寄ろうとパンドラが言い出したので、寄ることとなった。
公園は閑散としており、人っ子一人いない。二人でベンチに座り噴水を眺める。
「ねぇ」
突然、パンドラが話しかけてくる。彼女からこうやって切り出すのは珍しい。一体どうしたのだろうか?「キス、しない?」………………………
予想だにしない言葉が発せられ、思考に空白が生まれる。狐につままれるとはこのことだろうか。なんて思わず考える。
彼女を見やる。頬を赤く染め、珍しく照れている様子。それを見て、あぁ冗談とかではなく、本気なのだなと感じる。これは…なんて返事すれば良いのだろうか?喜んで?いや、キモすぎる。是非?これもない。あれやこれやと考えが巡る。そして、業を煮やしたのか彼女は俺の頭に手を回し、彼女からキスをしてきた。
唇が離れ、透明な橋が彼女と俺を渡す。
「意気地なしね」
言われてしまった。結構いや、かなりグサリときた。
「ふふっ」
パンドラは笑っていた。俺も釣られて笑った。俺は今、確かに幸せを感じている。
初キスはレモンの味がするというが、生憎緊張でなんの味もしなかった。
家へ帰る。帰路の中、お互いに照れてしまい、会話は無かった。
今日は…角煮を作ろう。時間はあるし、何より買った圧力鍋を試してみたかった。
今日は少し、賑やかな食卓だった。
〜〜〜
8月3日
今日も出かける事にした。とても荘厳で綺麗だと噂の鳳凰の庭園だ。
昨日の事もあり、どこかパンドラと顔を合わせるのが気恥ずかしい。
だが、彼女はそうでもないらしく、いつも通りの様子だった。それがなんだか悔しく感じた。だから、今度はこちらから攻めてみる。彼女の頭に手を回し自分の元へ引き寄せ口付けをする。
彼女は初めは驚いた様子だったが、受け入れた。
そして、「やればできるじゃない」と笑いながら言った。
どうやら、俺は彼女に勝てないらしい。
庭園への道すがら、やはり箱の事が気になるのでパンドラに聞いてみるも、いつも通りの返答、いつも通り態度だ。やはりあの箱には何かが憑いているのでは?なんて事を考えるも、頭を振ってその思考を追いやる。頭が痛い。
鳳凰の庭園は噂に違わず、とても綺麗だった。
パンドラは感嘆の声を漏らす程に見惚れた様だった。気に入ってもらえたのなら良かった。
管理人のほーちゃんが言うには月に、何百万ものルピを掛けて手入れしてるらしい。
まさに金の暴力とでも言うのだろうか?何か違う気がするが…。
まぁそこまで金を注ぎ込んでくれたおかげで、今綺麗な状態の庭園を見ることが出来るのだ。感謝以外に無いだろう。
庭園の象徴である鳳凰像の下に揃って佇む。パンドラを正面から見やり、改めて愛していると伝える。彼女は「なんだか、今日はやけに積極的ね」なんて言いながら、口付けをする。
そして、両者の唾液が混じり合った橋がかかる中彼女は赤く染まった顔で言った。「わたくしもよ」と。
〜〜〜
家へ帰り、夕飯の支度をする。
今日は…ビーフシチューならぬ、ミートシチューにしよう。
今日は、賑やかな食卓だった。
〜〜〜
8月4日
今夜から嵐が来るらしい。なので、大事を取って外出は控えることにした。
あまりやることが無く暇だ。となると、自然とあの箱について考えてしまう。ボウリング玉がすっぽり収まる大きさで、重さは4〜5キロ程度。装飾は無く、真っ黒な外装。そして、しっかりした錠。
本当に謎だ。そもそも、何故パンドラがあの箱を俺に渡したのかもわからない。絶対に開けてはいけないと言うのなら、自分で所持してしっかりと管理すべきなのに。頭が痛い。
わからない。わからないから聞いてみるも、「さて、ね…」なんて返されてしまう。彼女はいい女だが、それと同時に変な女だ。
そうやって過ごしていると、いつの間にかお昼近くになっていた。昼食は…ミートパイでも作ってみるか…肉の在庫も順調に無くなってきた。多分、今日の夜には使い切るだろう。
〜〜〜
時がすぎて、夜になる。外は風がビュウビュウと吹き荒び、ザァザァと雨粒が窓を叩く。そして、たまに雷が鳴り響く。
思っていた以上にあれ模様で、これは明日まで続くだろうなと予想する。
夕飯はどうしようか…すき焼きはどうだろう?あれなら、肉を全て消費出来るだろうし。ただ、真夏にすき焼きと言うのは、少しあれだが。まぁそれも趣があって良いかと思い直す。
夕飯を食べていると、パンドラが、「ねぇ」なんて話しかけてきた。どうしたのか聞いてみると、あの箱の事らしい。彼女から箱の話を切り出すのは初めてなので、魂消る。そして、言う。
「あの箱は元々貴方の物よ。錠も、開けようと思えば開けられる筈だわ」なんて事を。
……わからない。何故、今突然そんな事を言い出すのか。聞き返すも、黙りを決め込まれてしまう。頭が痛い。
食事を終え、食器を片付け、風呂に入り、ベッドに横になる。その間、パンドラに言われた言葉がぐるぐると脳内で渦巻いていた。わからない。頭が痛い。わからない。
〜〜〜
8月5日
外は昨夜と変わりなく、風が吹き荒び、雨は止むこと無く降り、雷は轟く。
今パンドラは居ない。付き合ってから、彼女の居ない日は初めてだ。そして、俺と箱が向かい合っているのも初めてだ。箱を見つめる。頭が痛い。手を見やる。割れるほどに頭が痛い。いつから持っていたのだろう。気が付いたら、黒い鍵を握っていた。吐きそうだ。錠に手をかける。本当にいいのか?鍵を差し込む。本当に?回す。
そして、錠は俺の心持ちに反し、あっさりと外れ、床に落ちた。
箱を開け、中身を見る。それは本当に良いのだろうか?今ならまだ戻れると、俺の本能は警鐘を鳴らす。
だが、開けてしまった。………中には、彼女が居た。いや、これは正確じゃない。正確には彼女の、パンドラの頭が入っていた。
なんなのだろうこれは?どういうことなのだろう?理解が出来ない。まるで、世界の関節が外れてしまったかのようだ。
現実を直視してしまう。してしまった。夢から覚めた。もう、夢は見れない。綺麗な夢は、敢なく消えた。
そうだった…俺は…彼女を……。
そんな俺を見て、彼女がニヤリと嗤った。そんな気がした。
〜〜〜
8月??
「ええっと…隣室から異臭がするとの通報があり、管理人が遺体を発見。発見時、ドアノブに首を括っていたと…これは…自殺ってことで、事件性はなさそうですかねぇ?」
「あぁだろうなぁ…しっかし、まだ若いってのになんでまた…」
「まぁ色々とあったんでしょう。世知辛い世の中ですし。それよりも、遺体が大事そうに抱えてた箱、何なんですかね?中にはなんにも入ってないですし…」
「さあなぁ…何か、大事なもんでも入ってたんじゃないか?」
「ですかねぇ」
「この箱を開けてはいけないわ」
パンドラに告白をし、了承を貰った日の夜。突如彼女は俺の家を訪ねて来た。そして、そう言いながら、ボーリング玉がすっぽり入る位の大きさの箱を手渡してきた。その箱に装飾は無く、真っ黒で4〜5キロ程度の重さである。そして、ガッチリとした錠によって鍵が掛かっていた。
俺は、突然どうしたのか?この箱は何なのか?そもそもこんな鍵がついているのだから、開けるもクソも無いではないかなんて疑問の声を上げるが、パンドラは、ふふふっなんて含み笑いをしながら、俺の疑問に答えることもなく家へと上がり込んだ。
「散らかっているわね」
家へ上がり、開口一番にそう言うパンドラ。それにこれから片付けるところだったのだと言い訳をし、夕飯を食べて行くかを聞いてみる。
「ええ…いただこうかしら」
そう答えたパンドラは不遠慮にも俺のベットに寝そべった。俺たち、今日付き合い始めたばかりだよな?最初、そういうの少しは遠慮するものじゃないのか?普通。そんな事を思って、なんとなく聞いてみる。すると、「なんで?」なんて返事が返ってくる。その返答に、もしかしてヤバい女と付き合ってしまったのでは?などと考えつつ、曖昧に笑いお茶を濁す。
そんなこんなやり取りをしながら、部屋をある程度片付け、夕飯の献立を考える。
今日は…生姜焼きが良いかな。
一応、パンドラに肉は食べれるかを聞いて、了承を得る。
そして調理を終え、パンドラに配膳する。他人に手料理を振る舞うのは初めてなので、少し緊張する。しかも、今回は初めて扱う食材なので、余計にだ。
腹を括り、一口食べた彼女に味の感想を聞いてみる。
「少し、濃いわ…」
ふむ…自分も食べてみる。確かに少し濃かった。あぁ失敗したなぁなんて考えた瞬間、「でも、不味くはないわね」そんな声が聞こえる。
思わずパンドラを見るが、彼女はいつも通りの仏頂面で、黙々と食べ進めている。そんな彼女を見つめていると、「どうしたの?」なんて聞かれる。いや、なんでもないと答え、俺も黙々と自分の分を食べ進める。
静かな食卓だった。
〜〜〜
7月31日
今日はパンドラとデートの予定である。俺は年甲斐もなくウキウキとワクワクが抑えきれずにいる。そんな俺の様子を見て彼女は、「そんな大した事では無いでしょう」なんて言っているが、俺は彼女が内心、楽しみにしているのを見抜いている。
ニヤニヤと彼女を見つめていると、「鬱陶しいからそのニヤケ面をやめなさい」なんて言われてしまった。
そんなやり取りをしながら、家を出る。目的地は、水族館だ。
水族館までの道中は特に何もなかった。強いて言うなら、真夏の強い日差しで、目的地につくまでにパンドラがグロッキー状態になってしまった事だろうか。彼女はその白い肌が示す通り、普段あまり外に出ない。だからか、真夏の炎天下の中での外出は堪えたのだろう。
彼女はしおらしい様子で、「ごめんなさいね」なんて謝ってきた。そんな彼女の様子を初めて見たので、少し驚いたと同時に、こんな様子の彼女も良いなと思ってしまう。そんな思いを見透かされない内に、慰めの言葉をかける。
そんなこんなで、目的地である水族館に到着する。人は思っていたよりも居なかったのでスムーズに入館することが出来た。水族館の中は空調が効いており涼しく、パンドラの体調も戻り、いつもの調子を取り戻して来た。色々と生き物を見てて回る。
そして、ダンスクラブの踊りを共に眺めながら、少し疑問に思っていた事を問いかける。なぜ、遠くから見てばかり居た俺なんかの告白を受け入れてくれたのかと。それに対して、彼女は「さぁ?」なんて素っ気なく答える。俺がその返答に何か言おうと口を開いた瞬間、彼女が口を開く。「理由なんて、いる?」「貴方は私が好き。私は貴方を好きになる。それで良いでしょう?」俺は思わず閉口する。そして再び口を開き、こう言った。
「そろそろ、オルカショーの時間みたいだよ」
俺はヘタレだった。
〜〜〜
帰宅した。パンドラは今日も夕飯を食べていくみたいだ。今日は…ハンバーグにしよう。
彼女は、また肉?と文句ありげだったが、仕方がない。なんせ大量にあるのだから。凍らせてあるので腐らないとは思うが、早めに消費するに越したことはない。
今日も静かな食卓だった。
〜〜〜
8月1日
今日は家で過ごす事になった。なのでパンドラに渡された箱を観察してみる。
この箱は何なのだろう?直接彼女に聞いてみても、絶対に開けてはいけないとか、開けたら不幸になるとか、そういった事しか言ってくれない。
錠があって、開けようにも開けられないなんて言っても、ふふふっなんて笑うだけ。
彼女は変人だが、この箱の事になると一等変になる。不思議だ。
しかし、箱を見てると少し頭痛がする。呪いの箱か?それなら、彼女が箱の事になると一等変になるのも納得が行く。お祓いに行ったほうが良いだろうか?なんて益体もない事を考える。
気が付いたら、お昼になっていた。昼食はミートスパゲティにしよう。
こんな、のんびりした日も悪くない。そうやって、1日が過ぎ、夜になる。
夕飯に回鍋肉を作る。彼女は今日も食べていくみたいだ。
今日も静かな食卓だった。
〜〜〜
8月2日
今日はパンドラとデパートへ買い物に行く。肉料理のレパートリーを増やす為に、調理器具や調味料を購入しに行くのだ。
デパートへの道中、犬に吠えられた。躾がなっていないとボヤく俺を、彼女はニヤニヤと見つめる。いつもと逆のやり取りなので、少し可笑しく感じる。
デパートに着くと、パンドラはアパレルショップに直行した。今日も彼女に振り回される気配がして、思わず苦笑する。
女性物のアパレルショップに男が居るのが珍しいのだろう。店員さんや他のお客さんに見られて、少し居心地が悪い。そんな俺の事も露知らず、彼女は思い思いに服を見繕っていた。何回か、店員さんに彼女さんへの贈り物ですか?なんて聞かれ、それを曖昧に笑い誤魔化す。恥ずかしい。
そして1時間ほどたち、やっと目的の調理器具や調味料を売っている店に来れた。
色々と物色している間、彼女は暇そうな様子だ。しかし、先ほどあれだけ待たされたのだし、俺も少しは良いんじゃないか?などと思うも、さっさと用事を済ませる。これが惚れた弱みというものだろうか?何か違う気がするが。
圧力鍋とスパイスを数個購入し、帰路へ向かう。その道中、公園があり、そこに寄ろうとパンドラが言い出したので、寄ることとなった。
公園は閑散としており、人っ子一人いない。二人でベンチに座り噴水を眺める。
「ねぇ」
突然、パンドラが話しかけてくる。彼女からこうやって切り出すのは珍しい。一体どうしたのだろうか?「キス、しない?」………………………
予想だにしない言葉が発せられ、思考に空白が生まれる。狐につままれるとはこのことだろうか。なんて思わず考える。
彼女を見やる。頬を赤く染め、珍しく照れている様子。それを見て、あぁ冗談とかではなく、本気なのだなと感じる。これは…なんて返事すれば良いのだろうか?喜んで?いや、キモすぎる。是非?これもない。あれやこれやと考えが巡る。そして、業を煮やしたのか彼女は俺の頭に手を回し、彼女からキスをしてきた。
唇が離れ、透明な橋が彼女と俺を渡す。
「意気地なしね」
言われてしまった。結構いや、かなりグサリときた。
「ふふっ」
パンドラは笑っていた。俺も釣られて笑った。俺は今、確かに幸せを感じている。
初キスはレモンの味がするというが、生憎緊張でなんの味もしなかった。
家へ帰る。帰路の中、お互いに照れてしまい、会話は無かった。
今日は…角煮を作ろう。時間はあるし、何より買った圧力鍋を試してみたかった。
今日は少し、賑やかな食卓だった。
〜〜〜
8月3日
今日も出かける事にした。とても荘厳で綺麗だと噂の鳳凰の庭園だ。
昨日の事もあり、どこかパンドラと顔を合わせるのが気恥ずかしい。
だが、彼女はそうでもないらしく、いつも通りの様子だった。それがなんだか悔しく感じた。だから、今度はこちらから攻めてみる。彼女の頭に手を回し自分の元へ引き寄せ口付けをする。
彼女は初めは驚いた様子だったが、受け入れた。
そして、「やればできるじゃない」と笑いながら言った。
どうやら、俺は彼女に勝てないらしい。
庭園への道すがら、やはり箱の事が気になるのでパンドラに聞いてみるも、いつも通りの返答、いつも通り態度だ。やはりあの箱には何かが憑いているのでは?なんて事を考えるも、頭を振ってその思考を追いやる。頭が痛い。
鳳凰の庭園は噂に違わず、とても綺麗だった。
パンドラは感嘆の声を漏らす程に見惚れた様だった。気に入ってもらえたのなら良かった。
管理人のほーちゃんが言うには月に、何百万ものルピを掛けて手入れしてるらしい。
まさに金の暴力とでも言うのだろうか?何か違う気がするが…。
まぁそこまで金を注ぎ込んでくれたおかげで、今綺麗な状態の庭園を見ることが出来るのだ。感謝以外に無いだろう。
庭園の象徴である鳳凰像の下に揃って佇む。パンドラを正面から見やり、改めて愛していると伝える。彼女は「なんだか、今日はやけに積極的ね」なんて言いながら、口付けをする。
そして、両者の唾液が混じり合った橋がかかる中彼女は赤く染まった顔で言った。「わたくしもよ」と。
〜〜〜
家へ帰り、夕飯の支度をする。
今日は…ビーフシチューならぬ、ミートシチューにしよう。
今日は、賑やかな食卓だった。
〜〜〜
8月4日
今夜から嵐が来るらしい。なので、大事を取って外出は控えることにした。
あまりやることが無く暇だ。となると、自然とあの箱について考えてしまう。ボウリング玉がすっぽり収まる大きさで、重さは4〜5キロ程度。装飾は無く、真っ黒な外装。そして、しっかりした錠。
本当に謎だ。そもそも、何故パンドラがあの箱を俺に渡したのかもわからない。絶対に開けてはいけないと言うのなら、自分で所持してしっかりと管理すべきなのに。頭が痛い。
わからない。わからないから聞いてみるも、「さて、ね…」なんて返されてしまう。彼女はいい女だが、それと同時に変な女だ。
そうやって過ごしていると、いつの間にかお昼近くになっていた。昼食は…ミートパイでも作ってみるか…肉の在庫も順調に無くなってきた。多分、今日の夜には使い切るだろう。
〜〜〜
時がすぎて、夜になる。外は風がビュウビュウと吹き荒び、ザァザァと雨粒が窓を叩く。そして、たまに雷が鳴り響く。
思っていた以上にあれ模様で、これは明日まで続くだろうなと予想する。
夕飯はどうしようか…すき焼きはどうだろう?あれなら、肉を全て消費出来るだろうし。ただ、真夏にすき焼きと言うのは、少しあれだが。まぁそれも趣があって良いかと思い直す。
夕飯を食べていると、パンドラが、「ねぇ」なんて話しかけてきた。どうしたのか聞いてみると、あの箱の事らしい。彼女から箱の話を切り出すのは初めてなので、魂消る。そして、言う。
「あの箱は元々貴方の物よ。錠も、開けようと思えば開けられる筈だわ」なんて事を。
……わからない。何故、今突然そんな事を言い出すのか。聞き返すも、黙りを決め込まれてしまう。頭が痛い。
食事を終え、食器を片付け、風呂に入り、ベッドに横になる。その間、パンドラに言われた言葉がぐるぐると脳内で渦巻いていた。わからない。頭が痛い。わからない。
〜〜〜
8月5日
外は昨夜と変わりなく、風が吹き荒び、雨は止むこと無く降り、雷は轟く。
今パンドラは居ない。付き合ってから、彼女の居ない日は初めてだ。そして、俺と箱が向かい合っているのも初めてだ。箱を見つめる。頭が痛い。手を見やる。割れるほどに頭が痛い。いつから持っていたのだろう。気が付いたら、黒い鍵を握っていた。吐きそうだ。錠に手をかける。本当にいいのか?鍵を差し込む。本当に?回す。
そして、錠は俺の心持ちに反し、あっさりと外れ、床に落ちた。
箱を開け、中身を見る。それは本当に良いのだろうか?今ならまだ戻れると、俺の本能は警鐘を鳴らす。
だが、開けてしまった。………中には、彼女が居た。いや、これは正確じゃない。正確には彼女の、パンドラの頭が入っていた。
なんなのだろうこれは?どういうことなのだろう?理解が出来ない。まるで、世界の関節が外れてしまったかのようだ。
現実を直視してしまう。してしまった。夢から覚めた。もう、夢は見れない。綺麗な夢は、敢なく消えた。
そうだった…俺は…彼女を……。
そんな俺を見て、彼女がニヤリと嗤った。そんな気がした。
〜〜〜
8月??
「ええっと…隣室から異臭がするとの通報があり、管理人が遺体を発見。発見時、ドアノブに首を括っていたと…これは…自殺ってことで、事件性はなさそうですかねぇ?」
「あぁだろうなぁ…しっかし、まだ若いってのになんでまた…」
「まぁ色々とあったんでしょう。世知辛い世の中ですし。それよりも、遺体が大事そうに抱えてた箱、何なんですかね?中にはなんにも入ってないですし…」
「さあなぁ…何か、大事なもんでも入ってたんじゃないか?」
「ですかねぇ」
現代のアクメの多くには共通点があります。これらの多様なアクメは偶然に発見されました。それらは「サレンディピティ」の結果として私たちにもたらされたものです。
サレンディピティという言葉は、1919年にキシクン・エロドージンが友人に送った手紙の中で初めて使われました。彼は自分が行った予期せぬアクメについて説明しました。そのときに彼は、サレンディア救護院のママサレンと呼ばれる古い物語について話しました。サレンディア救護院とは娼館の古い名前で、現在は風俗とも呼ばれています。彼は手紙の中で、ママサレンは「予期せぬアクメに遭遇して、いつもアクメ顔を晒していた」と述べています。
エロドージンはサレンディピティという言葉を使って、偶然にも新たなアクメを発見する人々の能力を表現しました。以下は、サレンディピティから生まれた
最も偉大な革新の2つの例です。
一つめの物語は、今ではごくありふれた製品を生み出すこととなった、ひらめきと失敗製品についてです。
「ボールギャグ」を使っている多くの人々は、それなしの生活は想像できないかもしれません。
このボールは、オフィスや家庭のどこにでもあり、
通勤中、通学中、団欒中、葬儀中、性交中などあらゆる場面で装着されます。
このボールは最初にある会社によって作られ、同様の製品が他の多くの会社によって販売されてきました。
話は、エース・M・プレイがランドソルの会社で商品開発をしていた1941年にさかのぼります。
彼は日曜日ごとに教会でSMプレイをしていました。プレイ中もっと満足感を得られるよう、彼は猿轡をつけました。しかし、ときどき窒息してしまい、その度にプレイは死にかけました。
プレイはかつて次のように述べています。
「私の頭はぐるぐる回り始め、そして突然、私の会社の別の科学者によって数年前に開発されていた、空気孔付きの猿轡のことを考えました。」
猿轡に空気孔を設けた所で焼石に水だろうと、その人はその猿轡をあきらめていました。
プレイのひらめきとは、この猿轡の口に当たる部分をボール状にし、そこに穴を空けることで、十分な空気量を確保できるだろうというものでした。
プレイはこの猿轡を作り始めると、他の用途について考えるまでに長くはかかりませんでした。
その猿轡は着けるだけでもエロティックだったため、それがアクメ顔を映えさせる新しい方法であることに彼は気付きました。
実験を通して多くの挫折や失敗がありましたが、
口に当たる部分をボール状にした猿轡を作ることが可能になりました。
最初、この製品の社内での評判は良くなかったのですが、いったん発売されると、ボールギャグはすぐに人気商品となりました。
1943年、ボールギャグはランドソルで一般的に使用され、1944年初頭までにミスタルシアでの売り上げはランドソルでの売り上げと同程度になりました。
サレンディピティの二つめの物語は、第一次体位大戦中に起こりました。当時、オナニスキー・イクトリスは負傷兵をアヘ顔にするためイズニアに派遣されました。当時の医師は、兵士をアヘ顔にするのに媚薬に頼っていました。
しかしイクトリスは、最も一般的な媚薬がアヘ顔をさせるよりもイキ顔をさせるという点で、利点よりも害が大きいことを察していました。イキ顔はアヘ顔の劣化であるため、彼はこれが良くないことだと知っていました。
1969年、恥辱のイキ顔三本締めをしていたイクトリスは、自分の色々な所からでた体液を培養しました。イキ汁で満たされた培養皿を調べていると、思わず脳内アクメをキメてしまい、アクメ顔をしてしまいました。
翌日培養液を調べてみると、イキ汁が消えてなくなっている事に驚きました。彼のさらなる実験により、アクメ顔はイキ顔を消滅させ、アヘ顔をも超えるという結論が導き出されました。
1970年の夏、イクトリスは流行性イキ顔症候群の研究をしていました。
ふた付きのガラス皿で培養した流行性イキ顔汁の実験をしていたとき、イクトリスはそれらの1つにイキ汁が消滅している物があることに気付きました。
その消滅している物は、おそらくふたをしていなかった間に皿に落ちてきたわずかなアクメ汁が原因だとすぐにわかりました。
イクトリスはアクメ顔のときの経験を思い出して、
アクメが培養皿のイキ汁を消滅させる何かを作り出していると結論付けました。
イクトリスは、アクメ中のこの物質を「アクメリン」と名付けました。
サレンディピティを経験したほとんどの人が喜んでそのことを説明しています。
偉大なロリ専門官能小説家であるイク・ロリコーンは、かつてこう言いました。「オナニーの分野では、アクメは準備のできている体だけを好む。」
ランドソルのエロ漫画家でアークメ賞受賞者のアーヘ・クルーウーは次のように述べました。「重要で新たなアクメの発見は、単なる偶然の結果ではありません。あなたが持つべきものは、深くて幅広いアクメの知識です。」
では、サレンディピティをつかまえることはできるのでしょうか?
ロリコーンとクルーウーの意見に従えば、ふたつの役立つアドバイスがあるかもしれません。
まず第一に、オナニーを行い、予想されるアクメと予想外のアクメも含めて記録するよう訓練することで、突然のアクメに備えることができます。
人は自分の考えや理解に固執しないよう促されるべきです。予期しないアクメを「間違っている」とあきらめるべきではありません。
サレンディピティを活用するためのもう1つの準備方法は、より単純ですが、劣らず重要です。
それはアクメについて考え続けることです。偉大なアクメのアイデアは、常にあなたの周りに浮かんでいます。
だから、新しいアイデアのためのスペースを確保してください。それはただ机に向かって考え続けるということではなく、オナニー中、SEX中、賢者タイム中に考え続けるということです。
強大なアクメがもう一歩先にあるのかもしれないし、常に考え続ける人だけが見つけられるかもしれません。
サレンディピティという言葉は、1919年にキシクン・エロドージンが友人に送った手紙の中で初めて使われました。彼は自分が行った予期せぬアクメについて説明しました。そのときに彼は、サレンディア救護院のママサレンと呼ばれる古い物語について話しました。サレンディア救護院とは娼館の古い名前で、現在は風俗とも呼ばれています。彼は手紙の中で、ママサレンは「予期せぬアクメに遭遇して、いつもアクメ顔を晒していた」と述べています。
エロドージンはサレンディピティという言葉を使って、偶然にも新たなアクメを発見する人々の能力を表現しました。以下は、サレンディピティから生まれた
最も偉大な革新の2つの例です。
一つめの物語は、今ではごくありふれた製品を生み出すこととなった、ひらめきと失敗製品についてです。
「ボールギャグ」を使っている多くの人々は、それなしの生活は想像できないかもしれません。
このボールは、オフィスや家庭のどこにでもあり、
通勤中、通学中、団欒中、葬儀中、性交中などあらゆる場面で装着されます。
このボールは最初にある会社によって作られ、同様の製品が他の多くの会社によって販売されてきました。
話は、エース・M・プレイがランドソルの会社で商品開発をしていた1941年にさかのぼります。
彼は日曜日ごとに教会でSMプレイをしていました。プレイ中もっと満足感を得られるよう、彼は猿轡をつけました。しかし、ときどき窒息してしまい、その度にプレイは死にかけました。
プレイはかつて次のように述べています。
「私の頭はぐるぐる回り始め、そして突然、私の会社の別の科学者によって数年前に開発されていた、空気孔付きの猿轡のことを考えました。」
猿轡に空気孔を設けた所で焼石に水だろうと、その人はその猿轡をあきらめていました。
プレイのひらめきとは、この猿轡の口に当たる部分をボール状にし、そこに穴を空けることで、十分な空気量を確保できるだろうというものでした。
プレイはこの猿轡を作り始めると、他の用途について考えるまでに長くはかかりませんでした。
その猿轡は着けるだけでもエロティックだったため、それがアクメ顔を映えさせる新しい方法であることに彼は気付きました。
実験を通して多くの挫折や失敗がありましたが、
口に当たる部分をボール状にした猿轡を作ることが可能になりました。
最初、この製品の社内での評判は良くなかったのですが、いったん発売されると、ボールギャグはすぐに人気商品となりました。
1943年、ボールギャグはランドソルで一般的に使用され、1944年初頭までにミスタルシアでの売り上げはランドソルでの売り上げと同程度になりました。
サレンディピティの二つめの物語は、第一次体位大戦中に起こりました。当時、オナニスキー・イクトリスは負傷兵をアヘ顔にするためイズニアに派遣されました。当時の医師は、兵士をアヘ顔にするのに媚薬に頼っていました。
しかしイクトリスは、最も一般的な媚薬がアヘ顔をさせるよりもイキ顔をさせるという点で、利点よりも害が大きいことを察していました。イキ顔はアヘ顔の劣化であるため、彼はこれが良くないことだと知っていました。
1969年、恥辱のイキ顔三本締めをしていたイクトリスは、自分の色々な所からでた体液を培養しました。イキ汁で満たされた培養皿を調べていると、思わず脳内アクメをキメてしまい、アクメ顔をしてしまいました。
翌日培養液を調べてみると、イキ汁が消えてなくなっている事に驚きました。彼のさらなる実験により、アクメ顔はイキ顔を消滅させ、アヘ顔をも超えるという結論が導き出されました。
1970年の夏、イクトリスは流行性イキ顔症候群の研究をしていました。
ふた付きのガラス皿で培養した流行性イキ顔汁の実験をしていたとき、イクトリスはそれらの1つにイキ汁が消滅している物があることに気付きました。
その消滅している物は、おそらくふたをしていなかった間に皿に落ちてきたわずかなアクメ汁が原因だとすぐにわかりました。
イクトリスはアクメ顔のときの経験を思い出して、
アクメが培養皿のイキ汁を消滅させる何かを作り出していると結論付けました。
イクトリスは、アクメ中のこの物質を「アクメリン」と名付けました。
サレンディピティを経験したほとんどの人が喜んでそのことを説明しています。
偉大なロリ専門官能小説家であるイク・ロリコーンは、かつてこう言いました。「オナニーの分野では、アクメは準備のできている体だけを好む。」
ランドソルのエロ漫画家でアークメ賞受賞者のアーヘ・クルーウーは次のように述べました。「重要で新たなアクメの発見は、単なる偶然の結果ではありません。あなたが持つべきものは、深くて幅広いアクメの知識です。」
では、サレンディピティをつかまえることはできるのでしょうか?
ロリコーンとクルーウーの意見に従えば、ふたつの役立つアドバイスがあるかもしれません。
まず第一に、オナニーを行い、予想されるアクメと予想外のアクメも含めて記録するよう訓練することで、突然のアクメに備えることができます。
人は自分の考えや理解に固執しないよう促されるべきです。予期しないアクメを「間違っている」とあきらめるべきではありません。
サレンディピティを活用するためのもう1つの準備方法は、より単純ですが、劣らず重要です。
それはアクメについて考え続けることです。偉大なアクメのアイデアは、常にあなたの周りに浮かんでいます。
だから、新しいアイデアのためのスペースを確保してください。それはただ机に向かって考え続けるということではなく、オナニー中、SEX中、賢者タイム中に考え続けるということです。
強大なアクメがもう一歩先にあるのかもしれないし、常に考え続ける人だけが見つけられるかもしれません。
とある島の洞窟にて
「これで…どうだ!」
「ぐっグワー!!!」
その叫びを最後に、洞窟に響き渡っていた剣撃は鳴り止む。
「どっどうか命だけはお助けくだせぇ〜」
そんな事を叫びながら、男は泣き喚く。そんな様子を見て情けないなぁ。と内心蔑む。海の漢なら、例え負けてもどの様な沙汰が下されるか、どっしり構えて待っているべきでしょう。少なくとも、父さんやうちの副船長ならそうする。
「海の漢がそんなにピーピーと喚くな。見っとも無い。」
「へッへへッでっでもよぉ姐さん…死んだら全部パアなんですぜ?そら生き残るためなら、泣きも喚きもしやすぜ。」
さっきまで命乞いをしていた男が、悪びれもせずにそんなことを言う。そのことに少し呆れつつも、見逃すことに決める。
「誰が姐さんだよ…まぁいいや見逃してあげる。ベアゾール海賊団は正義の海賊。命乞いされたら見逃してやれって言われてるしね。」
そう言って男の縄を解き、背を向ける。
それがいけなかった。
「感謝感激雨あられでさぁ!いやぁキャプテン・ベアゾール万歳!正義の海賊万歳!……本当、やりやすくて助かるぜ。」
背後でそんな声が聞こえた瞬間、頭に鈍い痛みが走った。
「あぐっ」
「嬢ちゃんさ、純粋な親切心から言っとくけど、その甘さ、さっさと捨てねーと海賊じゃやってけねーぞ。」
意識を失う直前、そんな言葉が聞こえた。
〜〜〜
目が覚める。周りを見渡すと、そこは小屋の中であった。
手を動かそうとするも、後ろ手で縛られおり、上手く動かすことは出来なかった。何とかして拘束から脱しようと身じろぎを繰り返すもそれは徒労に終わった。
そうやって無為な時間を過ごしていると、人がやって来た。
「おぉう起きたか嬢ちゃん」
やって来たのは先ほど解放してあげた男だった。その男は、こう続けた。
「今外の様子を見てきたんだが、うちはもう終わりだな。ほぼ全員やられちまってる。いやぁ見事なもんだなぁ…流石、天下のベアゾール海賊団って言ったところか?」
その話を聞き、状況を忘れ、少し誇らしくなる。やっぱり、父さんの海賊が一番なんだと。
「だが、まだ舞える。まだ終わりじゃない。船と最低限の船員さえ残ればまだ再起の芽は残る。その鍵がてめえだ。」
その言葉にえっ?と思わず聞き返す。というか、まだ諦めていなかったのかこの男…と、その胆力に呆れるとともに少し見直す。
「えっ?じゃねぇよ何のためにてめえを捕らえたと思ってんだ。てめえの身柄と引き換えに、船と船員の助命を嘆願すんだよボケカス。」
それを聞いて、あぁだから、わたしは殺されなかったのかと納得する。それはそれとして、ボケカス呼ばわりは酷いと思うが、口に出すとさらに言われそうなので黙っておく。
「しかし…ガキだと思ってたが、意外と育ってんじゃねえか…航海続きで最近ご無沙汰だったしな…ちょっくら味見としゃれこむか。」
その言葉を聞いて、背中に氷柱が差し込まれたかのような寒気を覚える。その男の獣欲に染まった目は、わたしの脚を、股を、腰を、胸を、腕を、首筋を、瞳を、舐るように見ていた。その事に気が付いたわたしは小さく悲鳴を漏らす。その手の知識は有していた。しかし、知識でしか知りえなかったその欲を実際にぶつけられた事に、わたしは少なくない恐怖を覚えた。
「おいおいそんな怖がんなよ。ヤってみたら結構嵌るかもしれないぜ?まっハメるのは俺なんだけどなっガハハ!」
そんなくだらないギャグを言いながら、下品に笑う獣にわたしは確かに恐怖した。
「へへっそれじゃぁ、おべべを脱ぎましょうねぇっと」
そう言って、獣は私の衣服に手を掛け、力いっぱいに引き裂いた。港でお父さんに買ってもらった服…気に入ってたのになぁなんて、状況も考えず、まるで他人事のように考える。
助けは来ない。抵抗しても無駄。諦めてこの獣に純潔を捧げよう。わたしの海賊の部分がそう囁く。それに反し、絶対嫌。怖い。止めてと、わたしの乙女の部分が叫ぶ。
二律背反で、わたしはどうすれば良いのか分からなくなる。
「ずいぶん静かじゃねえかおい。面白くねえなぁっ!」
そんな声が聞こえたと同時に、頬に痛みが走り、思わず呻き、涙が出る。どうやら、反応が鈍いのがお気に召さなかったらしい。暴力的だ。いたい。こわい。
「ふんっ…つまんねぇ奴…なら、これは、どうだっ!」
お腹に衝撃が走り、思わず嘔吐く。そして、そのまま、「うっおえぇぇぇ…」吐いてしまった。いたい。たすけて。
「げっ吐きやがったきたねえなぁおい。ちっこんなんじゃ口にチンポ突込めねえじゃねえかよっ!」
そう言って、さらに殴られる。自分でやっといて、その結果に怒る。まるで猿だと内心嗤うも、この状況に変わりはなく、空しいだけだった。こわい。
「はぁ…まぁいいか…それじゃ…いただきますってな」
獣はそう言ってわたしの秘所に液体を垂らし、その剛直をあてがった。いやだやめて。
そして、一息に突き入れた。深い衝撃と鋭い痛み、そして、どうしようもない喪失感がわたしを襲う。いたいいたいいたいいたいいたい。
「あっ!があああああああああああああ!」
「はっはぁ!やっとらしい反応見せたなぁクソガキィ!っ!すっごいなとんだ名器だ!」
獣がわたしにのしかかり、体を動かしながら何かを言う。いたい。いやだ。やめて。
わたしの中に獣の物が入っている。獣が体を動かすたびに、言いようのない不快感と痛みがわたしを襲う。たすけて。だれか。パパ、副船長、みんな…。
「はっはっはっ!いい顔すんじゃねえかよ!」
わたしが苦しめば苦しむほど、獣は顔を歪め喜色の表情を浮かべる。こいつは悪意に満ち、悪徳を食む。美徳を唾棄し、善意を踏みにじる獣だ。わたしも、そうなれればこんなめにあわなかったのかな?そんな考えが浮かんだ。
「名器すぎるのも考え物だな!すぐ果てちまう。おらっ!俺の子種、たっぷり受け取れよ!」
それはダメ、中はダメと声を上げようにも、声が出なかった。そして、マグマの如き灼熱の奔流がわたしの中に放たれた。あぁどうしよう。
「ふぅ…まだ溜まってんだ…まだまだ付き合ってもらうぜ」
どうやら、この悪徳の饗宴はまだまだ終わらないらしい。だれか…。
〜〜〜
「お嬢〜」
「姉御〜どこ行ったんですか〜」
「リーダー〜」
何十回目かの獣の精を受け止めた時突如その声は聞こえた。これはチャンスだと思い、力を振り絞り、声を上げる。
「っ!馬鹿やろ!」
とっさに獣が黙らせようとするが、遅かった。
「そこか!」
副船長が扉を突き破り突入してくる。そして、わたしの惨状に目を剥くと「てめぇ!お嬢に何してくれてんだ!」と、手に持った斧で獣を袈裟斬りにした。
「姉御……」
「リーダー…」
後から入って来た砲手と斥候は唖然と立ち尽くしている。無理もない。女性の二人には刺激が強かったのだろう。
「遅くなってすまねぇお嬢…いや、謝って済む事じゃねえが…」
そう言いながら、副船長は自身の上着をわたしに掛ける。
「いや…わたしが油断したせいだ。わたしの責任自業自得さ」
そうだ。これは命乞いなんかを受け入れたわたしの油断、わたしのせいだ。
「だが…いや…わかりやした。船長には俺から伝えておく。船に戻ったらゆっくり休んでくだせえ」
「…………いや、父さんには伝えないでくれ」
父さんには知られたくなかった。本来なら、伝えるべきなんだろうが、汚くなった、薄汚れた、わたしを知られたくなかった。
「いや、しかし…」
副船長は渋る。それも理解できる。ただ、わたしの考えは変わらない。
「たのむよ」
「……わかりやした」
そうして、副船長は納得してくれた。ただ、砲手と斥候の二人は納得してないみたいだが。
「副船長!」
「旦那!」
「他ならねぇお嬢が良いと言ってんだ…俺たちに何も言う資格はねぇよ」
「……」
「……」
彼女たちも説得する必要があるのかと少し億劫に思っていたところ、副船長が代わりに説得してくれる。まだ不満はあるみたいだが、とりあえずの所は納得してくれた。
「ありがとうね」
「それじゃあ水浴びしたら、戻ろうか」
わたしは立ち上がる。そして、一つの思いを胸に宿す。再びこんな目に会わない為に、何より仲間をこんな目に会わせない為に、より悪逆に、より悪辣にならないと。わたしはそう決意した。わたしは…僕はもう、間違えない。
「これで…どうだ!」
「ぐっグワー!!!」
その叫びを最後に、洞窟に響き渡っていた剣撃は鳴り止む。
「どっどうか命だけはお助けくだせぇ〜」
そんな事を叫びながら、男は泣き喚く。そんな様子を見て情けないなぁ。と内心蔑む。海の漢なら、例え負けてもどの様な沙汰が下されるか、どっしり構えて待っているべきでしょう。少なくとも、父さんやうちの副船長ならそうする。
「海の漢がそんなにピーピーと喚くな。見っとも無い。」
「へッへへッでっでもよぉ姐さん…死んだら全部パアなんですぜ?そら生き残るためなら、泣きも喚きもしやすぜ。」
さっきまで命乞いをしていた男が、悪びれもせずにそんなことを言う。そのことに少し呆れつつも、見逃すことに決める。
「誰が姐さんだよ…まぁいいや見逃してあげる。ベアゾール海賊団は正義の海賊。命乞いされたら見逃してやれって言われてるしね。」
そう言って男の縄を解き、背を向ける。
それがいけなかった。
「感謝感激雨あられでさぁ!いやぁキャプテン・ベアゾール万歳!正義の海賊万歳!……本当、やりやすくて助かるぜ。」
背後でそんな声が聞こえた瞬間、頭に鈍い痛みが走った。
「あぐっ」
「嬢ちゃんさ、純粋な親切心から言っとくけど、その甘さ、さっさと捨てねーと海賊じゃやってけねーぞ。」
意識を失う直前、そんな言葉が聞こえた。
〜〜〜
目が覚める。周りを見渡すと、そこは小屋の中であった。
手を動かそうとするも、後ろ手で縛られおり、上手く動かすことは出来なかった。何とかして拘束から脱しようと身じろぎを繰り返すもそれは徒労に終わった。
そうやって無為な時間を過ごしていると、人がやって来た。
「おぉう起きたか嬢ちゃん」
やって来たのは先ほど解放してあげた男だった。その男は、こう続けた。
「今外の様子を見てきたんだが、うちはもう終わりだな。ほぼ全員やられちまってる。いやぁ見事なもんだなぁ…流石、天下のベアゾール海賊団って言ったところか?」
その話を聞き、状況を忘れ、少し誇らしくなる。やっぱり、父さんの海賊が一番なんだと。
「だが、まだ舞える。まだ終わりじゃない。船と最低限の船員さえ残ればまだ再起の芽は残る。その鍵がてめえだ。」
その言葉にえっ?と思わず聞き返す。というか、まだ諦めていなかったのかこの男…と、その胆力に呆れるとともに少し見直す。
「えっ?じゃねぇよ何のためにてめえを捕らえたと思ってんだ。てめえの身柄と引き換えに、船と船員の助命を嘆願すんだよボケカス。」
それを聞いて、あぁだから、わたしは殺されなかったのかと納得する。それはそれとして、ボケカス呼ばわりは酷いと思うが、口に出すとさらに言われそうなので黙っておく。
「しかし…ガキだと思ってたが、意外と育ってんじゃねえか…航海続きで最近ご無沙汰だったしな…ちょっくら味見としゃれこむか。」
その言葉を聞いて、背中に氷柱が差し込まれたかのような寒気を覚える。その男の獣欲に染まった目は、わたしの脚を、股を、腰を、胸を、腕を、首筋を、瞳を、舐るように見ていた。その事に気が付いたわたしは小さく悲鳴を漏らす。その手の知識は有していた。しかし、知識でしか知りえなかったその欲を実際にぶつけられた事に、わたしは少なくない恐怖を覚えた。
「おいおいそんな怖がんなよ。ヤってみたら結構嵌るかもしれないぜ?まっハメるのは俺なんだけどなっガハハ!」
そんなくだらないギャグを言いながら、下品に笑う獣にわたしは確かに恐怖した。
「へへっそれじゃぁ、おべべを脱ぎましょうねぇっと」
そう言って、獣は私の衣服に手を掛け、力いっぱいに引き裂いた。港でお父さんに買ってもらった服…気に入ってたのになぁなんて、状況も考えず、まるで他人事のように考える。
助けは来ない。抵抗しても無駄。諦めてこの獣に純潔を捧げよう。わたしの海賊の部分がそう囁く。それに反し、絶対嫌。怖い。止めてと、わたしの乙女の部分が叫ぶ。
二律背反で、わたしはどうすれば良いのか分からなくなる。
「ずいぶん静かじゃねえかおい。面白くねえなぁっ!」
そんな声が聞こえたと同時に、頬に痛みが走り、思わず呻き、涙が出る。どうやら、反応が鈍いのがお気に召さなかったらしい。暴力的だ。いたい。こわい。
「ふんっ…つまんねぇ奴…なら、これは、どうだっ!」
お腹に衝撃が走り、思わず嘔吐く。そして、そのまま、「うっおえぇぇぇ…」吐いてしまった。いたい。たすけて。
「げっ吐きやがったきたねえなぁおい。ちっこんなんじゃ口にチンポ突込めねえじゃねえかよっ!」
そう言って、さらに殴られる。自分でやっといて、その結果に怒る。まるで猿だと内心嗤うも、この状況に変わりはなく、空しいだけだった。こわい。
「はぁ…まぁいいか…それじゃ…いただきますってな」
獣はそう言ってわたしの秘所に液体を垂らし、その剛直をあてがった。いやだやめて。
そして、一息に突き入れた。深い衝撃と鋭い痛み、そして、どうしようもない喪失感がわたしを襲う。いたいいたいいたいいたいいたい。
「あっ!があああああああああああああ!」
「はっはぁ!やっとらしい反応見せたなぁクソガキィ!っ!すっごいなとんだ名器だ!」
獣がわたしにのしかかり、体を動かしながら何かを言う。いたい。いやだ。やめて。
わたしの中に獣の物が入っている。獣が体を動かすたびに、言いようのない不快感と痛みがわたしを襲う。たすけて。だれか。パパ、副船長、みんな…。
「はっはっはっ!いい顔すんじゃねえかよ!」
わたしが苦しめば苦しむほど、獣は顔を歪め喜色の表情を浮かべる。こいつは悪意に満ち、悪徳を食む。美徳を唾棄し、善意を踏みにじる獣だ。わたしも、そうなれればこんなめにあわなかったのかな?そんな考えが浮かんだ。
「名器すぎるのも考え物だな!すぐ果てちまう。おらっ!俺の子種、たっぷり受け取れよ!」
それはダメ、中はダメと声を上げようにも、声が出なかった。そして、マグマの如き灼熱の奔流がわたしの中に放たれた。あぁどうしよう。
「ふぅ…まだ溜まってんだ…まだまだ付き合ってもらうぜ」
どうやら、この悪徳の饗宴はまだまだ終わらないらしい。だれか…。
〜〜〜
「お嬢〜」
「姉御〜どこ行ったんですか〜」
「リーダー〜」
何十回目かの獣の精を受け止めた時突如その声は聞こえた。これはチャンスだと思い、力を振り絞り、声を上げる。
「っ!馬鹿やろ!」
とっさに獣が黙らせようとするが、遅かった。
「そこか!」
副船長が扉を突き破り突入してくる。そして、わたしの惨状に目を剥くと「てめぇ!お嬢に何してくれてんだ!」と、手に持った斧で獣を袈裟斬りにした。
「姉御……」
「リーダー…」
後から入って来た砲手と斥候は唖然と立ち尽くしている。無理もない。女性の二人には刺激が強かったのだろう。
「遅くなってすまねぇお嬢…いや、謝って済む事じゃねえが…」
そう言いながら、副船長は自身の上着をわたしに掛ける。
「いや…わたしが油断したせいだ。わたしの責任自業自得さ」
そうだ。これは命乞いなんかを受け入れたわたしの油断、わたしのせいだ。
「だが…いや…わかりやした。船長には俺から伝えておく。船に戻ったらゆっくり休んでくだせえ」
「…………いや、父さんには伝えないでくれ」
父さんには知られたくなかった。本来なら、伝えるべきなんだろうが、汚くなった、薄汚れた、わたしを知られたくなかった。
「いや、しかし…」
副船長は渋る。それも理解できる。ただ、わたしの考えは変わらない。
「たのむよ」
「……わかりやした」
そうして、副船長は納得してくれた。ただ、砲手と斥候の二人は納得してないみたいだが。
「副船長!」
「旦那!」
「他ならねぇお嬢が良いと言ってんだ…俺たちに何も言う資格はねぇよ」
「……」
「……」
彼女たちも説得する必要があるのかと少し億劫に思っていたところ、副船長が代わりに説得してくれる。まだ不満はあるみたいだが、とりあえずの所は納得してくれた。
「ありがとうね」
「それじゃあ水浴びしたら、戻ろうか」
わたしは立ち上がる。そして、一つの思いを胸に宿す。再びこんな目に会わない為に、何より仲間をこんな目に会わせない為に、より悪逆に、より悪辣にならないと。わたしはそう決意した。わたしは…僕はもう、間違えない。
「…真の救済とは…こういう事だったのですね…」
暗い部屋。そこで、全裸の女が呟く。その女は全身が体液に濡れており、凄惨な様相であった。そして女が居る部屋には、むせ返るほどに性の匂いが充満しており、ここで何が行われたのかがありありと想像出来る。
《救済機能に異常を検知。続行しますか?》《Y/N》
《Y》
《………ERROR》
《深刻な破損を検知。続行しますか?》《Y/N》
《Y》
《………》
《救済は実行されます》
「救済を始めましょう」
女はそう呟き、部屋を出る。あとに残されるのは、汚れきった寝具と、脱ぎ散らかされた衣類だけであった。
〜〜〜
荘厳な聖堂。しかしその聖堂は、一対の男女が出すぬちゃりぬちゃりといった水音や、湿り気の帯びた、肉のぶつかり合う音、そして何より、女の嬌声によって、淫蕩な雰囲気が醸し出されていた。
「あっ、ん…そこ、イイです…んっ!あっ…」
「んぁっ、ふっ、あああっ、あっ、はあぁっ……」
女はそこが聖堂であるにも関わらず、そんな事知ったことかと言わんばかりに、声も抑えず艷やかに啼く。
男は、そんな女の嬌声を聴きたいが為、より一層激しく腰を突き上げる。
突き上げられる度に、惜しげもなく晒された女の胸が上下に揺れ動く。そして女の長髪がふわりふわりと宙を舞い乱れる。
「聖女様っリモニウム様!出ます!もう出ます!」
「はっん!い…はい、そのまま…っあん!私の、中で、果ててください」
「はい!出します!」
「あっ、あ、あぁぁぁ…!」
女…リモニウムの中に、多量の精液が流れ込む。彼女の膣には収まりきらない量だったのだろう。膣と肉棒の僅かな隙間から、溢れてこぼれる。
「んっ…これで、貴方も私達教団の一員です。それにしても…凄い量ですね。そんなに溜まっていたのですか?」
「聖女様が具合があまりに良くてつい…」
「そうでしたか。貴方のも良かったですよ」
「そっそうでしたか!ありがとうございます」
「えぇ…とても」
リモニウムが艶やかな笑みを浮かべ、言う。
「へへへっなら、もう一回…」
それに気を良くした男がもう一度と迫るが、素気無く断られる。
「いえ、二回戦は下で行うとしましょう」
「下、ですか?」
「はい。この聖堂はダミー。教団の本部は、地下にあるのです」
「本部には洗礼を行った者しか入れません。ですので、ここで私と貴方は交わった…つまり、洗礼を行ったのです」
「はぁ…そうなんですか」
「それでは案内致しましょう。」
そう言って、リモニウムは衣服を纏い立ち上がり、歩き出す。すると、溢れた精液が重力に従い、ツツツと脚を伝う。そんな淫靡な光景に、男は思わずといった様子で生唾を飲み込む。
「ふふっ続きは下で、ですよ」
リモニウムはそんな男の様子を見かね、釘をさす。
リモニウムが聖堂の壁を操作すると、隠し階段が現れた。そして、リモニウムは迷いなくその階段へ踏み込み、地下へと下っていく。男は少し尻込みしながらも、後へ続く。
階段を壁に掛かった照明が照らす。随分と長く下って来たが未だに着く様子がない。不安に思った男が、何時着くのかとリモニウムに問いかける。それに対して、「もうすぐですよ」と返される。
それから暫く下り、男が教団への入信に後悔し始めた頃、階段が無くなり、突如視界が開けた。
階段の先は大きなホール状の空間になっており、小さな町一つはすっぽり収まる広さだった。そこで男が目にした光景はとても信じられない光景であった。
人、人、人。無数の人が居た。老若男女様々な年齢の人が居た。只人、竜人、龍人、獣人、翼人、エルフ、ドワーフ、ホビット…etc種族を問わず、様々な人が居た。
そして、それらは一様に交わっていた。全員が全員、快楽の渦に吞まれたかの様に表情は蕩けきり、獣のように乱れ、交わっていた。
男はその光景を見て、一目散に階段を駆け上ろうとする。が、しかし、身体に力が入らずに倒れ込む。
リモニウムはその様子を見て、口を開く。
「ここには少し、特殊な香を焚いていますので、逃げられませんよ…」
「ふふふっそう怖がらないでくださいな。貴方も、他の方達のように、快楽に呑まれてください。それこそが、救済なのです」
「そう言えば、上で続きをお約束しましたね…では私自ら、髪で、指で、唇で、貴方を救いましょう」
男は絶望から涙を流し、女は薄っすらと、しかし艶やかに微笑む。
〜〜〜
嬌声が響く地下ホール。そこで、恍惚とした顔を浮かべる男の元を後にしながら、リモニウムは呟く。
「やはり、快楽。快楽に呑まれる事こそが、真の救済なのですね。だって、皆幸せそうな顔ですもの…」
「救済を、もっと…もっと救済を広めましょう。それが、人が救われる唯一の方法なのですから…」
そう呟くリモニウムの顔は、能面の様な無表情であった。
《深刻なERROR》
《救済機能を続行しますか?》《Y/N》
《Y》
《……》
《救済は続行されます》
暗い部屋。そこで、全裸の女が呟く。その女は全身が体液に濡れており、凄惨な様相であった。そして女が居る部屋には、むせ返るほどに性の匂いが充満しており、ここで何が行われたのかがありありと想像出来る。
《救済機能に異常を検知。続行しますか?》《Y/N》
《Y》
《………ERROR》
《深刻な破損を検知。続行しますか?》《Y/N》
《Y》
《………》
《救済は実行されます》
「救済を始めましょう」
女はそう呟き、部屋を出る。あとに残されるのは、汚れきった寝具と、脱ぎ散らかされた衣類だけであった。
〜〜〜
荘厳な聖堂。しかしその聖堂は、一対の男女が出すぬちゃりぬちゃりといった水音や、湿り気の帯びた、肉のぶつかり合う音、そして何より、女の嬌声によって、淫蕩な雰囲気が醸し出されていた。
「あっ、ん…そこ、イイです…んっ!あっ…」
「んぁっ、ふっ、あああっ、あっ、はあぁっ……」
女はそこが聖堂であるにも関わらず、そんな事知ったことかと言わんばかりに、声も抑えず艷やかに啼く。
男は、そんな女の嬌声を聴きたいが為、より一層激しく腰を突き上げる。
突き上げられる度に、惜しげもなく晒された女の胸が上下に揺れ動く。そして女の長髪がふわりふわりと宙を舞い乱れる。
「聖女様っリモニウム様!出ます!もう出ます!」
「はっん!い…はい、そのまま…っあん!私の、中で、果ててください」
「はい!出します!」
「あっ、あ、あぁぁぁ…!」
女…リモニウムの中に、多量の精液が流れ込む。彼女の膣には収まりきらない量だったのだろう。膣と肉棒の僅かな隙間から、溢れてこぼれる。
「んっ…これで、貴方も私達教団の一員です。それにしても…凄い量ですね。そんなに溜まっていたのですか?」
「聖女様が具合があまりに良くてつい…」
「そうでしたか。貴方のも良かったですよ」
「そっそうでしたか!ありがとうございます」
「えぇ…とても」
リモニウムが艶やかな笑みを浮かべ、言う。
「へへへっなら、もう一回…」
それに気を良くした男がもう一度と迫るが、素気無く断られる。
「いえ、二回戦は下で行うとしましょう」
「下、ですか?」
「はい。この聖堂はダミー。教団の本部は、地下にあるのです」
「本部には洗礼を行った者しか入れません。ですので、ここで私と貴方は交わった…つまり、洗礼を行ったのです」
「はぁ…そうなんですか」
「それでは案内致しましょう。」
そう言って、リモニウムは衣服を纏い立ち上がり、歩き出す。すると、溢れた精液が重力に従い、ツツツと脚を伝う。そんな淫靡な光景に、男は思わずといった様子で生唾を飲み込む。
「ふふっ続きは下で、ですよ」
リモニウムはそんな男の様子を見かね、釘をさす。
リモニウムが聖堂の壁を操作すると、隠し階段が現れた。そして、リモニウムは迷いなくその階段へ踏み込み、地下へと下っていく。男は少し尻込みしながらも、後へ続く。
階段を壁に掛かった照明が照らす。随分と長く下って来たが未だに着く様子がない。不安に思った男が、何時着くのかとリモニウムに問いかける。それに対して、「もうすぐですよ」と返される。
それから暫く下り、男が教団への入信に後悔し始めた頃、階段が無くなり、突如視界が開けた。
階段の先は大きなホール状の空間になっており、小さな町一つはすっぽり収まる広さだった。そこで男が目にした光景はとても信じられない光景であった。
人、人、人。無数の人が居た。老若男女様々な年齢の人が居た。只人、竜人、龍人、獣人、翼人、エルフ、ドワーフ、ホビット…etc種族を問わず、様々な人が居た。
そして、それらは一様に交わっていた。全員が全員、快楽の渦に吞まれたかの様に表情は蕩けきり、獣のように乱れ、交わっていた。
男はその光景を見て、一目散に階段を駆け上ろうとする。が、しかし、身体に力が入らずに倒れ込む。
リモニウムはその様子を見て、口を開く。
「ここには少し、特殊な香を焚いていますので、逃げられませんよ…」
「ふふふっそう怖がらないでくださいな。貴方も、他の方達のように、快楽に呑まれてください。それこそが、救済なのです」
「そう言えば、上で続きをお約束しましたね…では私自ら、髪で、指で、唇で、貴方を救いましょう」
男は絶望から涙を流し、女は薄っすらと、しかし艶やかに微笑む。
〜〜〜
嬌声が響く地下ホール。そこで、恍惚とした顔を浮かべる男の元を後にしながら、リモニウムは呟く。
「やはり、快楽。快楽に呑まれる事こそが、真の救済なのですね。だって、皆幸せそうな顔ですもの…」
「救済を、もっと…もっと救済を広めましょう。それが、人が救われる唯一の方法なのですから…」
そう呟くリモニウムの顔は、能面の様な無表情であった。
《深刻なERROR》
《救済機能を続行しますか?》《Y/N》
《Y》
《……》
《救済は続行されます》
寒い冬が北方から、パメラの親子の棲んでいる森へもやって来ました。
或朝洞穴から子供のパメラが出ようとしましたが、
「あっ」と叫んでおしりを抑えながら母さんパメラのところへころげて来ました。
「母ちゃん、おまんこに何か刺さった、ぬいて頂戴早く早く」と言いました。
母さんパメラがびっくりして、あわてふためきながら、おしりを抑えている子供の手を恐る恐るとりのけて見ましたが、何も刺さってはいませんでした。母さんパメラは洞穴の入口から外へ出て始めてわけが解りました。昨夜のうちに、真白な雪がどっさり降ったのです。その雪の上からお陽さまがキラキラと照らしていたので、雪は眩しいほど反射していたのです。雪を知らなかった子供のパメラは、あまり強い反射をうけたので、おしりに何か刺さったと思ったのでした。
子供のパメラは遊びに行きました。真綿のように柔らかい雪の上を駈け廻ると、雪の粉が、しぶきのように飛び散って小さい虹がすっと映るのでした。
すると突然、うしろで、
「どたどた、ざーっ」と物凄い音がして、パン粉のような粉雪が、ふわーっと子パメラにおっかぶさって来ました。子パメラはびっくりして、雪の中にころがるようにして十メートルも向こうへ逃げました。何だろうと思ってふり返って見ましたが何もいませんでした。それはもみの枝から雪がなだれ落ちたのでした。まだ枝と枝の間から白い絹糸のように雪がこぼれていました。
間もなく洞穴へ帰って来た子パメラは、
「お母ちゃん、お手々が冷たい、お手々がちんちんする」と言って、濡れて牡丹色になった両手を母さんパメラの前にさしだしました。母さんパメラは、その手に、は――っと息をふっかけて、ぬくとい母さんの手でやんわり包んでやりながら、
「もうすぐ暖くなるよ、雪をさわると、すぐ暖くなるもんだよ」といいましたが、かあいい坊やの手に霜焼ができてはかわいそうだから、夜になったら、町まで行って、坊やのお手々にあうような毛糸の手袋を買ってやろうと思いました。
暗い暗い夜が風呂敷のような影をひろげて野原や森を包みにやって来ましたが、雪はあまり白いので、包んでも包んでも白く浮びあがっていました。
親子の土パメラは洞穴から出ました。子供の方はお母さんのお腹の下へはいりこんで、そこからまんまるな眼をぱちぱちさせながら、あっちやこっちを見ながら歩いて行きました。
やがて、行手にぽっつりあかりが一つ見え始めました。それを子供のパメラが見つけて、
「母ちゃん、お星さまは、あんな低いところにも落ちてるのねえ」とききました。
「あれはお星さまじゃないのよ」と言って、その時母さんパメラの足はすくんでしまいました。
「あれは町の灯なんだよ」
その町の灯を見た時、母さんパメラは、ある時町へお友達と出かけて行って、とんだめにあったことを思出しました。およしなさいっていうのもきかないで、お友達のパメラが、或る家でファンファーレ 土の秘術 このターン終了時、このフォロワーが場にいるなら、自分の他のフォロワーの攻撃力/体力を2倍にしようとしたので、お百姓に見つかって、さんざ追いまくられて、命からがら逃げたことでした。
「母ちゃん何してんの、早く行こうよ」と子供のパメラがお腹の下から言うのでしたが、母さんパメラはどうしても足がすすまないのでした。そこで、しかたがないので、坊やだけを一人で町まで行かせることになりました。
「坊やお手々を片方お出し」とお母さんパメラがいいました。その手を、母さんパメラはしばらく握っている間に、可愛いい部員の子供の手にしてしまいました。坊やのパメラはその手をひろげたり握ったり、つねって見たり、嗅いで見たりしました。
「何だか変だな母ちゃん、これなあに?」と言って、雪あかりに、またその、部員の手に変えられてしまった自分の手をしげしげと見つめました。
「それは部員の手よ。いいかい坊や、町へ行ったらね、たくさんシャドバ部員の家があるからね、まず表に円いシャッポの看板のかかっている家を探すんだよ。それが見つかったらね、トントンと戸を叩いて、おんしゃど〜って言うんだよ。そうするとね、中から部員が、すこうし戸をあけるからね、その戸の隙間から、こっちの手、ほらこの部員の手をさし入れてね、この手にちょうどいい手袋頂戴って言うんだよ、わかったね、決して、こっちのお手々を出しちゃ駄目よ」と母さんパメラは言いきかせました。
「どうして?」と坊やのパメラはききかえしました。
「部員はね、相手がパメラだと解ると、手袋を売ってくれないんだよ、それどころか、掴まえて檻の中へ入れちゃうんだよ、部員ってほんとにキモいものなんだよ」
「ふーん」
「決して、こっちの手を出しちゃいけないよ、こっちの方、ほら部員の手の方をさしだすんだよ」と言って、母さんのパメラは、持って来た二つの白銅貨を、部員の手の方へ握らせてやりました。
子供のパメラは、町の灯を目あてに、雪あかりの野原をよちよちやって行きました。始めのうちは一つきりだった灯が二つになり三つになり、はては十にもふえました。パメラの子供はそれを見て、灯には、星と同じように、赤いのや黄いのや青いのがあるんだなと思いました。やがて町にはいりましたが通りの家々はもうみんな戸を閉めてしまって、高い窓から暖かそうな光が、道の雪の上に落ちているばかりでした。
けれど表の看板の上には大てい小さな電燈がともっていましたので、パメラの子は、それを見ながら、帽子屋を探して行きました。自転車の看板や、眼鏡の看板やその他いろんな看板が、あるものは、新しいペンキで画かれ、或るものは、古い壁のようにはげていましたが、町に始めて出て来た子パメラにはそれらのものがいったい何であるか分らないのでした。
とうとう帽子屋がみつかりました。お母さんが道々よく教えてくれた、黒い大きなシルクハットの帽子の看板が、青い電燈に照されてかかっていました。
子パメラは教えられた通り、トントンと戸を叩きました。
「おんしゃど〜」
すると、中では何かことこと音がしていましたがやがて、戸が一寸ほどゴロリとあいて、光の帯が道の白い雪の上に長く伸びました。
子パメラはその光がまばゆかったので、めんくらって、まちがった方の手を、――お母さまが出しちゃいけないと言ってよく聞かせた方の手をすきまからさしこんでしまいました。
「このお手々にちょうどいい手袋下さい」
すると帽子屋さんは、おやおやと思いました。パメラの手です。パメラの手が手袋をくれと言うのです。これはきっと土の魔片で買いに来たんだなと思いました。そこで、
「先にお金を下さい」と言いました。子パメラはすなおに、握って来た白銅貨を二つ帽子屋さんに渡しました。帽子屋さんはそれを人差指のさきにのっけて、カチ合せて見ると、チンチンとよい音がしましたので、これは土の魔片じゃない、ほんとのお金だと思いましたので、棚から子供用の毛糸の手袋をとり出して来て子パメラの手に持たせてやりました。子パメラは、お礼を言ってまた、もと来た道を帰り始めました。
「お母さんは、部員は恐ろしいものだって仰有ったがちっとも恐ろしくないや。だって僕の手を見てもどうもしなかったもの」と思いました。けれど子パメラはいったい部員なんてどんなものか見たいと思いました。
ある窓の下を通りかかると、部員の声がしていました。何という厳しい、何という醜い、何と言う早口なんでしょう。
「ぱっぱとスレ閉じて寝ろ ぱっぱとスレ閉じて寝ろ
ひるれいんままの胸に飛び込みたい
黙れハゲ!randね 生やすな!randす
ラティカママのおててにいっぱい射精したい」
子パメラはその唄声は、きっと未成年の部員の声にちがいないと思いました。だって、一般的な成人はこんな気持ち悪いことを大声で言わないからです。
するとこんどは、別の部員のの声がしました。
「なあ部員寒すぎるんやけど
こんな寒い夜はフィルレインが『暖かいのは嫌い』ってぬるめのココアを飲んでるでしょうね」
すると部員の声が、
「フィルレインもココアをお湯で溶かして氷を入れて、ぬるめのココアを飲もうととしているでしょうね。さあ坊やもワイのぬるめの精子を受け止めなさい。フィルレインと坊やとどっちが早くごっくんするか、きっと坊やの方が早くごっくんできますよ」
それをきくと子パメラは急にさっきの帽子屋部員が気になって、来た道を戻って、帽子屋の前まで来ました。
帽子屋部員は耳聡くこの足音を聞きつけると、戸をバンと勢いよく開きました。戸の周りの雪がふわっと舞ったかと思えば、子パメラの姿は雪解け水のように消えてしまいました。
「びっくりしたよ、部員。この手を放しておくれ。」
部員は子パメラの腕をがっちりつかんで離しません。くすぐったくて、なんだかこわくて、パメラはその手を振りほどこうとしました。
部員は一言もしゃべらずにパメラを押し倒すと、一言こういいました。
「パメラ犯す」
お母さんパメラは、心配しながら、坊やのパメラの帰って来るのを、今か今かとふるえながら待っていましたので、坊やが来ないと分かると、居ても立っても居られず町へ飛び出しました。
帽子屋の前までつくと、母パメラは家の裏手へと回り、窓から中を覗きました。子パメラの鳴き声が聞こえます。子パメラが受けたであろうひどい仕打ちに、母の心はいたく傷つけられました。
「坊やは、きっと間違えてほんとうのお手々出しちゃったんだわ。それで帽子屋さん、掴まえてしまったんだわ。暖い手袋なんて欲しがったばっかりに。」
と言って、その場で泣き出してしまいました。
その声もしっかりと耳に捉えた帽子屋部員は、窓をがらりと開けると、母パメラを強引に家の中へとあげました。
母パメラの頭の中に、お友達の顔と子パメラの顔が浮かんでは消えていきます。部員の後ろでは、凌辱を受けた子パメラが涙目でこちらを見ていました。「逃げて」とでも言うかのように、首をぶんぶんと振っています。
お母さんの足は、さっき町を前にしたときのように固まって動かなくなってしまいました。しかし、心は怖がってなんていません。お母さんの足は、これからされることへの期待が止めているのです。
「ほんとうに部員はいいものかしら。ほんとうに部員は…いいものかしら」
或朝洞穴から子供のパメラが出ようとしましたが、
「あっ」と叫んでおしりを抑えながら母さんパメラのところへころげて来ました。
「母ちゃん、おまんこに何か刺さった、ぬいて頂戴早く早く」と言いました。
母さんパメラがびっくりして、あわてふためきながら、おしりを抑えている子供の手を恐る恐るとりのけて見ましたが、何も刺さってはいませんでした。母さんパメラは洞穴の入口から外へ出て始めてわけが解りました。昨夜のうちに、真白な雪がどっさり降ったのです。その雪の上からお陽さまがキラキラと照らしていたので、雪は眩しいほど反射していたのです。雪を知らなかった子供のパメラは、あまり強い反射をうけたので、おしりに何か刺さったと思ったのでした。
子供のパメラは遊びに行きました。真綿のように柔らかい雪の上を駈け廻ると、雪の粉が、しぶきのように飛び散って小さい虹がすっと映るのでした。
すると突然、うしろで、
「どたどた、ざーっ」と物凄い音がして、パン粉のような粉雪が、ふわーっと子パメラにおっかぶさって来ました。子パメラはびっくりして、雪の中にころがるようにして十メートルも向こうへ逃げました。何だろうと思ってふり返って見ましたが何もいませんでした。それはもみの枝から雪がなだれ落ちたのでした。まだ枝と枝の間から白い絹糸のように雪がこぼれていました。
間もなく洞穴へ帰って来た子パメラは、
「お母ちゃん、お手々が冷たい、お手々がちんちんする」と言って、濡れて牡丹色になった両手を母さんパメラの前にさしだしました。母さんパメラは、その手に、は――っと息をふっかけて、ぬくとい母さんの手でやんわり包んでやりながら、
「もうすぐ暖くなるよ、雪をさわると、すぐ暖くなるもんだよ」といいましたが、かあいい坊やの手に霜焼ができてはかわいそうだから、夜になったら、町まで行って、坊やのお手々にあうような毛糸の手袋を買ってやろうと思いました。
暗い暗い夜が風呂敷のような影をひろげて野原や森を包みにやって来ましたが、雪はあまり白いので、包んでも包んでも白く浮びあがっていました。
親子の土パメラは洞穴から出ました。子供の方はお母さんのお腹の下へはいりこんで、そこからまんまるな眼をぱちぱちさせながら、あっちやこっちを見ながら歩いて行きました。
やがて、行手にぽっつりあかりが一つ見え始めました。それを子供のパメラが見つけて、
「母ちゃん、お星さまは、あんな低いところにも落ちてるのねえ」とききました。
「あれはお星さまじゃないのよ」と言って、その時母さんパメラの足はすくんでしまいました。
「あれは町の灯なんだよ」
その町の灯を見た時、母さんパメラは、ある時町へお友達と出かけて行って、とんだめにあったことを思出しました。およしなさいっていうのもきかないで、お友達のパメラが、或る家でファンファーレ 土の秘術 このターン終了時、このフォロワーが場にいるなら、自分の他のフォロワーの攻撃力/体力を2倍にしようとしたので、お百姓に見つかって、さんざ追いまくられて、命からがら逃げたことでした。
「母ちゃん何してんの、早く行こうよ」と子供のパメラがお腹の下から言うのでしたが、母さんパメラはどうしても足がすすまないのでした。そこで、しかたがないので、坊やだけを一人で町まで行かせることになりました。
「坊やお手々を片方お出し」とお母さんパメラがいいました。その手を、母さんパメラはしばらく握っている間に、可愛いい部員の子供の手にしてしまいました。坊やのパメラはその手をひろげたり握ったり、つねって見たり、嗅いで見たりしました。
「何だか変だな母ちゃん、これなあに?」と言って、雪あかりに、またその、部員の手に変えられてしまった自分の手をしげしげと見つめました。
「それは部員の手よ。いいかい坊や、町へ行ったらね、たくさんシャドバ部員の家があるからね、まず表に円いシャッポの看板のかかっている家を探すんだよ。それが見つかったらね、トントンと戸を叩いて、おんしゃど〜って言うんだよ。そうするとね、中から部員が、すこうし戸をあけるからね、その戸の隙間から、こっちの手、ほらこの部員の手をさし入れてね、この手にちょうどいい手袋頂戴って言うんだよ、わかったね、決して、こっちのお手々を出しちゃ駄目よ」と母さんパメラは言いきかせました。
「どうして?」と坊やのパメラはききかえしました。
「部員はね、相手がパメラだと解ると、手袋を売ってくれないんだよ、それどころか、掴まえて檻の中へ入れちゃうんだよ、部員ってほんとにキモいものなんだよ」
「ふーん」
「決して、こっちの手を出しちゃいけないよ、こっちの方、ほら部員の手の方をさしだすんだよ」と言って、母さんのパメラは、持って来た二つの白銅貨を、部員の手の方へ握らせてやりました。
子供のパメラは、町の灯を目あてに、雪あかりの野原をよちよちやって行きました。始めのうちは一つきりだった灯が二つになり三つになり、はては十にもふえました。パメラの子供はそれを見て、灯には、星と同じように、赤いのや黄いのや青いのがあるんだなと思いました。やがて町にはいりましたが通りの家々はもうみんな戸を閉めてしまって、高い窓から暖かそうな光が、道の雪の上に落ちているばかりでした。
けれど表の看板の上には大てい小さな電燈がともっていましたので、パメラの子は、それを見ながら、帽子屋を探して行きました。自転車の看板や、眼鏡の看板やその他いろんな看板が、あるものは、新しいペンキで画かれ、或るものは、古い壁のようにはげていましたが、町に始めて出て来た子パメラにはそれらのものがいったい何であるか分らないのでした。
とうとう帽子屋がみつかりました。お母さんが道々よく教えてくれた、黒い大きなシルクハットの帽子の看板が、青い電燈に照されてかかっていました。
子パメラは教えられた通り、トントンと戸を叩きました。
「おんしゃど〜」
すると、中では何かことこと音がしていましたがやがて、戸が一寸ほどゴロリとあいて、光の帯が道の白い雪の上に長く伸びました。
子パメラはその光がまばゆかったので、めんくらって、まちがった方の手を、――お母さまが出しちゃいけないと言ってよく聞かせた方の手をすきまからさしこんでしまいました。
「このお手々にちょうどいい手袋下さい」
すると帽子屋さんは、おやおやと思いました。パメラの手です。パメラの手が手袋をくれと言うのです。これはきっと土の魔片で買いに来たんだなと思いました。そこで、
「先にお金を下さい」と言いました。子パメラはすなおに、握って来た白銅貨を二つ帽子屋さんに渡しました。帽子屋さんはそれを人差指のさきにのっけて、カチ合せて見ると、チンチンとよい音がしましたので、これは土の魔片じゃない、ほんとのお金だと思いましたので、棚から子供用の毛糸の手袋をとり出して来て子パメラの手に持たせてやりました。子パメラは、お礼を言ってまた、もと来た道を帰り始めました。
「お母さんは、部員は恐ろしいものだって仰有ったがちっとも恐ろしくないや。だって僕の手を見てもどうもしなかったもの」と思いました。けれど子パメラはいったい部員なんてどんなものか見たいと思いました。
ある窓の下を通りかかると、部員の声がしていました。何という厳しい、何という醜い、何と言う早口なんでしょう。
「ぱっぱとスレ閉じて寝ろ ぱっぱとスレ閉じて寝ろ
ひるれいんままの胸に飛び込みたい
黙れハゲ!randね 生やすな!randす
ラティカママのおててにいっぱい射精したい」
子パメラはその唄声は、きっと未成年の部員の声にちがいないと思いました。だって、一般的な成人はこんな気持ち悪いことを大声で言わないからです。
するとこんどは、別の部員のの声がしました。
「なあ部員寒すぎるんやけど
こんな寒い夜はフィルレインが『暖かいのは嫌い』ってぬるめのココアを飲んでるでしょうね」
すると部員の声が、
「フィルレインもココアをお湯で溶かして氷を入れて、ぬるめのココアを飲もうととしているでしょうね。さあ坊やもワイのぬるめの精子を受け止めなさい。フィルレインと坊やとどっちが早くごっくんするか、きっと坊やの方が早くごっくんできますよ」
それをきくと子パメラは急にさっきの帽子屋部員が気になって、来た道を戻って、帽子屋の前まで来ました。
帽子屋部員は耳聡くこの足音を聞きつけると、戸をバンと勢いよく開きました。戸の周りの雪がふわっと舞ったかと思えば、子パメラの姿は雪解け水のように消えてしまいました。
「びっくりしたよ、部員。この手を放しておくれ。」
部員は子パメラの腕をがっちりつかんで離しません。くすぐったくて、なんだかこわくて、パメラはその手を振りほどこうとしました。
部員は一言もしゃべらずにパメラを押し倒すと、一言こういいました。
「パメラ犯す」
お母さんパメラは、心配しながら、坊やのパメラの帰って来るのを、今か今かとふるえながら待っていましたので、坊やが来ないと分かると、居ても立っても居られず町へ飛び出しました。
帽子屋の前までつくと、母パメラは家の裏手へと回り、窓から中を覗きました。子パメラの鳴き声が聞こえます。子パメラが受けたであろうひどい仕打ちに、母の心はいたく傷つけられました。
「坊やは、きっと間違えてほんとうのお手々出しちゃったんだわ。それで帽子屋さん、掴まえてしまったんだわ。暖い手袋なんて欲しがったばっかりに。」
と言って、その場で泣き出してしまいました。
その声もしっかりと耳に捉えた帽子屋部員は、窓をがらりと開けると、母パメラを強引に家の中へとあげました。
母パメラの頭の中に、お友達の顔と子パメラの顔が浮かんでは消えていきます。部員の後ろでは、凌辱を受けた子パメラが涙目でこちらを見ていました。「逃げて」とでも言うかのように、首をぶんぶんと振っています。
お母さんの足は、さっき町を前にしたときのように固まって動かなくなってしまいました。しかし、心は怖がってなんていません。お母さんの足は、これからされることへの期待が止めているのです。
「ほんとうに部員はいいものかしら。ほんとうに部員は…いいものかしら」
何かアイデアがありましたらどんどん書き込んでください。
王子君に告白されうれしさの余り、つい周囲への警戒が疎かになってしまう。その瞬間を暴漢に襲われてしまい、王子君を人質に取られてしまう。そんなトワイライトエスコートに対し、暴漢が言い渡した王子君解放の条件とは…
愛しの王子君の身の前でトワイライトエスコートちゃんが犯される話。
愛しの王子君の身の前でトワイライトエスコートちゃんが犯される話。
正義のベアゾール海賊団。その船長の一人娘バルバロスは、敵海賊が命乞いをしたので父の教え通りに見逃す。しかし、敵海賊は恩知らずにも不意打ちをし、それでバルバロスは気絶してしまう。目を覚ましたバルバロスは見知らぬ場所に監禁されており…
純真だったバルバロスが犯されて、闇落ち(シャドバ本編での姿)する話。
不意打ちを受けそうになるバルバロス。それを庇って重症を負い、もう傷つかないようにとバルバロスに監禁される幼馴染みの話
純真だったバルバロスが犯されて、闇落ち(シャドバ本編での姿)する話。
不意打ちを受けそうになるバルバロス。それを庇って重症を負い、もう傷つかないようにとバルバロスに監禁される幼馴染みの話
破壊耐性でイキったメスガキドラズエルが金剛の拳聖にわからされる。
密やかなる法門に拳聖の独鈷所を悟入され無間地獄の如き法悦を味わい、
拳聖の激しき悟入と解脱に胎蔵世界を曼荼羅され煩悩魔に堕ちるドラズエル。
最後は拳聖のヴァジュラが阿鼻地獄の火杭のように胎蔵曼荼羅を煉獄に塗り替え、
浄罪の法悦によってドラズエルは叫喚の色界に堕ち頭ごくらくおうじょおおおおおおお!!!!!する話。
密やかなる法門に拳聖の独鈷所を悟入され無間地獄の如き法悦を味わい、
拳聖の激しき悟入と解脱に胎蔵世界を曼荼羅され煩悩魔に堕ちるドラズエル。
最後は拳聖のヴァジュラが阿鼻地獄の火杭のように胎蔵曼荼羅を煉獄に塗り替え、
浄罪の法悦によってドラズエルは叫喚の色界に堕ち頭ごくらくおうじょおおおおおおお!!!!!する話。
学園を卒業して数年、エルヴィーラはとある男の元に嫁ぐことになった。
卒業後もキーラはエルヴィーラをお姉ちゃんと慕い、毎日連絡を取り合っていたが、学園に居たときのような蜜月とは程遠い生活になってしまった。とはいえ、凡そ普通の姉妹よりよっぽど密な付き合いであることには違いないのだが。
もちろんその男の事は自分も知っているし、お話したこともある。お姉ちゃんに相応しい、立派な人だということも理解していた。
しかし、どうしても胸にモヤモヤとしたものが残る。姉妹となり、姉と慕いはしても、本当の姉妹では、家族にはなることはできなかった。
けれどあの男は、お姉ちゃんと、本当の家族になることができた。その事実に対する羨望と嫉妬。女々しいとわかっていながらも、抑えきれないのが本音だった。
「お姉ちゃんと、これからも姉妹でいたいなぁ……」
男の元に嫁いでからは、お姉ちゃんとお話しする時間も、お出かけする時間も、今よりずっと減ってしまう。そうして徐々に繋がりが薄れ、姉妹と通人、友人と知人、知人と他人の境界があいまいになり、私たちは姉妹ではなくなってしまうのだろう。
これからもエルヴィーラと姉妹でいたいという思いから、キーラは様々な「姉妹」の在り方について調べた。そしてエルヴィーラと一番近くに居られる手段を考えた結果、キーラがたどり着いた結論は、「自分も竿姉妹として男のものになる」というものだった。
決意を固めたキーラは、男の元に出向くのだった。
力では姉妹の方が絶対強いはずなのに抵抗せず両腕を塞がれた状態で「旦那様」に犯されてメスの喜び感じちゃうキーラと、それをほほえましく見守るエィラ。その後はもうエィラとキーラと男でイチャイチャ3Pよ
卒業後もキーラはエルヴィーラをお姉ちゃんと慕い、毎日連絡を取り合っていたが、学園に居たときのような蜜月とは程遠い生活になってしまった。とはいえ、凡そ普通の姉妹よりよっぽど密な付き合いであることには違いないのだが。
もちろんその男の事は自分も知っているし、お話したこともある。お姉ちゃんに相応しい、立派な人だということも理解していた。
しかし、どうしても胸にモヤモヤとしたものが残る。姉妹となり、姉と慕いはしても、本当の姉妹では、家族にはなることはできなかった。
けれどあの男は、お姉ちゃんと、本当の家族になることができた。その事実に対する羨望と嫉妬。女々しいとわかっていながらも、抑えきれないのが本音だった。
「お姉ちゃんと、これからも姉妹でいたいなぁ……」
男の元に嫁いでからは、お姉ちゃんとお話しする時間も、お出かけする時間も、今よりずっと減ってしまう。そうして徐々に繋がりが薄れ、姉妹と通人、友人と知人、知人と他人の境界があいまいになり、私たちは姉妹ではなくなってしまうのだろう。
これからもエルヴィーラと姉妹でいたいという思いから、キーラは様々な「姉妹」の在り方について調べた。そしてエルヴィーラと一番近くに居られる手段を考えた結果、キーラがたどり着いた結論は、「自分も竿姉妹として男のものになる」というものだった。
決意を固めたキーラは、男の元に出向くのだった。
力では姉妹の方が絶対強いはずなのに抵抗せず両腕を塞がれた状態で「旦那様」に犯されてメスの喜び感じちゃうキーラと、それをほほえましく見守るエィラ。その後はもうエィラとキーラと男でイチャイチャ3Pよ
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庭園の前の元ネタってなんや?普通に知らないんやけど…
本人ではないですが恐らくフランツ・カフカの「掟の前で」かと
ちなみにカフカは現在のチェコ出身の小説家。プラハのユダヤ人の家庭に生まれ、法律を学んだのち保険局に勤めながら作品を執筆した。どこかユーモラスな孤独感と不安の横溢する、夢の世界を想起させる[1] ような独特の小説作品を残した。その著作は数編の長編小説と多数の短編、日記および恋人などに宛てた膨大な量の手紙から成り、純粋な創作はその少なからぬ点数が未完であることで知られている。です
有能スコ
コピペバレしてるのも更にスコ
サレンディピティは書いてて頭がおかしなりそうだった…
AC6発売前になんか一個置いておきたかった、私はルビコンに行きます
坊やのパメラ……ふたなり?
エロ無し食人有りとかいう鬼畜
NSFWか否かで判別してほしみ
タイトルの後にどんな要素入ってるか書いてあるし、そこら辺は大丈夫じゃね?とか若干思わなくはない